第四十話 ちなみに名刀村正は徳川家を呪ったこともあるという言い伝えがあるそうです。
十二月二十三日。クリスマスイブ前夜。
管理外世界第八十六世界。地球のある世界から少し離れた無人で荒野だけが広がる世界で俺はクロノとの模擬戦に勤しんでいた。
「ブレイズキャノン!」
ズドォオオオンッ!
「ぐぅっ!」
俺はクロノとリンディさんに頼んで管理局に協力すると伝えてからすぐにこの世界で訓練をしていた。
もちろんこれは自分のレベルアップ。そして、俺自身の魔力を餌とした罠。
闇の書の騎士達。そして、アサキムを誘い込むための罠でもある。…まあ、
闇の書の騎士が現れたら即、俺とクロノが対応して援軍が来るまで彼等と交戦。
アサキムが来たらアルカンシェルとかいう星をも吹き飛ばせる兵器で俺達のいる訓練場と化したこの世界の星ごと吹き飛ばすため。もちろん、俺達が引き下がった後にだ。最悪の場合は闇の書の騎士達にも言える。
残酷すぎるかもしれないが幾つもの世界を滅ぼす危険性がある闇の書とその騎士達。
意思の疎通は可能でもあちらがこちらの話に耳を傾けてくれなかった場合…。
いや、やめておこう。あちらにはあちらの事情があって行動しているんだから。彼等に同情して任務失敗。世界消滅。なんてことになったら笑えない。いや、狂ってしまって笑うかもしれない。
「スティンガーシュート!」
「しゃらくさい!ブンブンスパナ!」
ガガガガガッ。
三本のスパナを自分の魔力で出来た鉄線で連結。それを鎖鎌のように振り回しながらガンレオンのアクセルをふかせながらクロノの放つ幾つもの青い光弾を叩き落とす。
ガキンッ!
クロノにスパナで出来たヌンチャクが当たる射程に入った瞬間、青い光輪がガンレオンを着込んだ俺の四肢を拘束していた。
「バインドッ!でも、こんなもの力尽くで…」
ガンレオンの特筆すべき点はその分厚い装甲からなる防御力とその鈍重な体を動かすパワー。
俺の思い通りにガンレオンはバインドを力技で振りぬくが、その一瞬の間にクロノは俺との距離を詰めて、その手に持った烏の翼をあしらったかのような機械じみた杖を刺突する槍のように、ガンレオンの右腕。肘にあたる関節部分に突きいれた。
「ここだ!」
『ブレイズキャノン・マキシマムシュート』
ズガァアアアアアアアアアアンッッッ!!
クロノと俺との間にこれまでの中で最大の大爆発が巻き起こった。
「…これならいくら防御力が高かろうとも。…ただじゃすまないだろう」
爆炎が収まりながらもクロノは肩で息をして俺の安否を確認した。
それが間違いだ。
「…ああ、ただじゃ済まない、な。こりゃ…」
「なっ!?」
クロノは俺の容態に驚きながらも杖を引こうとしたが俺はそれを
確かにいくらガンレオンの装甲とはいえ、俺の右腕はさっきの攻撃で動かなくなった。だけど、さすがガンレオン。スーパーロボットをモデルにしたバリアジャケット。
「おらあああああ!」
「…くっ」
俺はクロノを杖ごと背負い投げするかのように地面に叩き付けようとした。が、クロノはそれを感じ取ったのか自分の持つ杖。デバイスを手放して俺から離れた所に投げ飛ばされる形で地面に降り立つ。
「杖を無くした魔導師にガンレオンは負けない!」
俺は地面に降り立ったクロノに向かって突撃を開始する。
空を飛ぶ前にチェインデカッターを左手に持ち、それでクロノを叩き斬る。もちろんこれは非殺傷効果付きで。
「…そうだ。
キィンッ。
「そんなんありか!」
水が凍てついたかのような音がすると同時にクロノの手には青の色が混じった銀色の槍。いや、杖が握られていた。
俺はそんな物をクロノが持っているなんて知らされてないぞ!?
「ありさ!凍てつけ!エターナルコフィン!」
ズガガガガガガガガガ。
と、まるでクロノを中心に樹氷が出現するかのように、巨大な氷の蛇が俺に襲い掛かってくる。
もうライアットジャレンチに持ち替えている時間は無い。
左腕一本のチェインデカッターの破壊力とガンレオンの突進力に賭ける!
「「おおおおおおおおおおお!」」
そして、
黄色と黒の獅子と樹氷はお互いを食いつぶさんばかりにぶつかり合った。
「…ちくしょー。二本持ちとかとかずるいだろ、クロノ」
結果俺が負けた。
ガンレオンであの樹氷の蛇をぶち破る頃にはクロノはスティンガーブレードなんたら。ようは魔力で出来た無数の剣をガンレオンの破損した右腕を集中砲火。更には空中に退避していたので、ガンレオンの攻撃範囲外からのちくちく攻撃で俺の動きは鈍り、お互いに設定し合ったダメージ量をくらった俺は判定負けした。
ちなみにクロノが序盤で俺に近接戦闘を挑んだのは何処にでもいいからガンレオンに風穴を開けるのが目的で、それが完了したら遠距離からチクチクと攻める算段だったらしい。
つまり、ガンレオンの右腕が動かなくなった時点で俺は敗北していたという訳だ。
「それは…。まあ、悪かった。しかし、君だってアリシア抜きで僕とここまで戦い合うんだぞ。陸戦だけでやっていたら僕が負けるに決まっているじゃないか」
「…まあ、そうだけどよ。俺が強くなればそれに比例してガンレオンも強くなるんじゃないかなと思うんだが」
アリシアとユニゾンするとガンレオンの性能は飛躍的に向上する。数字にすると1.5倍くらいかな?
だが、それ以前にスフィアに頼らずに戦いたい。
アリシア本人に苦痛を味わってほしくないという事。
そして、『傷だらけの獅子』の進行を早まらせない為という理由もあった。
「…今日はゆっくり休め。明日はクリスマスパーティーとやらをやるんだろ?」
「そうさせてもらう。右腕も今日は動かないからな」
「だから悪かったと謝っているだろう…。ユーノも今日の遅くには到着するだろうが君自身にも回復魔法は使えるんだろう?」
「…スフィアの力を使っているかもしれないんだが?」
「…悪かった。ユーノが来たらいの一番で君の所に向かうように伝える」
スフィアを使うとアサキムがやってくるかもしれない。
それはクロウにも伝えている。が、ここのデバイス担当のマリーさんいわく確かにクロウはブラスタに搭載された『揺れる天秤』のスフィアに関係する武装SPIGOTにリミッターはつけているものの、かなり緩いものらしい。
まあ、かくいう俺もそのリミッターは緩い。
切札はいつでも切れるから切札。
いざという時になって使えませんでした。じゃ、死んでも死にきれない。…いや、アサキムの場合だと死ぬか。
そんなことを考えながら俺は一度アースラを経由してから地球へと戻った。
「――と、いうわけで明日ははやてにサプライズを起こすわよ!」
「「おー♪」」
アリサの声に同調するかのようになのはとすずかが反応する。
帰り道の放課後。
教室から出ようとした高志の襟首をアリサが抑え、なのはがクロウを携帯電話で呼び出し、教室の隅っこで私達は話し合いをしていた結果、すずかの友達のはやてのお見舞いとサプライズをしようという事になった。
「お、おー」
「おう、思いっきりはやてを驚かせてやろうぜ」
私も控えめながらに二人を真似て手を上げる。そして、クロウもなのは達に賛成した。
そんな中…。
「…OH。なんで、俺まで」
イントネーションが何か違うように聞こえたのは気のせいかな?
「なによ沢。あんた文句でもあるわけ?というか何か用事でもあるの?」
「あるといえばある。無いと言ってもある」
どっちなのかな?
「まあ、それでもあんたは強制
あれ?また何か独特なイントネーションが聞こえたような…。
日本語は難しいな。
「なんという横暴」
「アリシアも一緒に来るんだからあんたも来るのよ」
アリシアは私が母さんたちの所でお泊りした一件以来、よく翠屋に訪れてケーキを食べながらか、アースラで私となのはが来るのをまだかまだかと待っていた。
翠屋で母さんと一緒に私を待っていた時にアリサ達と知り合うことになった。
その時にはやてとも知り合いだという事も知った。
正直、アリシアのクローンの私は最初、アリシアのことをよく思ってはいなかった。
プレシア・テスタロッサ。私の母さんがアリシアの代わりに生み出した人形。それが私。
だけど…。
母さんは私が泊まりに来た日、小さな声で。だけど、確かに「ごめんなさい」と私に謝った。
その声は震えていて後悔にまみれてそれでいてとても辛そうな言葉だった。
私はその言葉を聞いた瞬間に涙があふれた。そんな私を見てアリシアも泣きながら私を抱きしめた。
それからはアリシアと母さんの三人で一緒に眠った。
母さんが作ってくれた朝ご飯を食べて私は初めてリンディさんにわがままを言った。
今日の訓練は無しにしてください。
と、
そんな私の言葉を聞いたリンディさんは少しだけ驚いたような顔をしたけどすぐに笑顔になって、
今日の訓練は無いわよ?フェイトさんの今日は完全オフだから気にしなくてもいいわ。
と、言ってくれた。
とても申し訳なかった。だけどそれ以上に嬉しかった。
闇の書事件はとても緊急性。そして危険性を持っている。それは十分に理解している。それなのにリンディさんは許可してくれた。
エイミィと高志はアースラで待機していた。
エイミィはいつもの通りだから気にしなくてもいいよ。と言ってくれた。
高志も「十二分に甘えてこい」と言って、私とアルフをアリシアと母さんに押し付けてアースラに向かっていった。
その日は闇の書の騎士の反応を捉えることが無かったので緊急出動もなく一日を終えた。
アルフは母さんを睨みつけるが母さんはそれを粛々と受け止めていた。そんな態度にアルフも戸惑いながらも終始母さんを睨みつける。
逆にアリシアは私を構いたがっていた。
自分のケーキを涎を垂らしながらも私に渡そうとしたり、私が食べるケーキを喉を鳴らしながら見ていたが決して自分から食べようとせずに私を優先しようとしていた。
私を本当の
リンディさんが許してくれたのならいつでも遊びに来るように言ってくれた。
ただ、そんな中。
高志の私を見る目がとても優しかったのを覚えている。
だけどそれは、寂しそうな羨ましそうな目だった。
「…ト。フェイト」
「え。あ、うん。なにかな?アリサ?」
アリサが声をかけてきたことに気が付いた私は慌てて返事をする。
「あんた、大丈夫?さっきからぼーっとして風邪でも引いた?」
私のおでこにアリサが少しだけひんやりとした手のひらをつけてきた。
あ、ちょっと気持ちいい。
「う、うん。大丈夫だよ。少しぼーっとしただけ」
「そう?ならいいけど。今日はこれからはやてにクリスマスプレゼントをみんなで買いに行くけど大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「フェイトちゃん、無理しないでね」
「大丈夫だよ、すずか。それじゃあ、行こうか」
それから私達は私達は商店街に買い物に出かけた。
母さんの事。アリシアの事。高志の事。
いろいろあるけれどこれからやることはただ一つ。
闇の書事件解決。
考えることは山ほどあるけれどやることは一つだけだ。
まずはそれから。
アリサやすずかやなのは。
リンディさんやクロノ、エイミィにユーノにマリー。他にもアースラのスタッフの皆。
母さんやアリシア。
ずっと一緒だったアルフ。
そして、これからはきっと私達家族を守ってくれる高志。
「それじゃあ、皆で行くの♪」
「当然男の
(…ち、こいつもフラグを立てやがったか。いつの間にはやてと知り合ったんだ?アリシア絡みか?)
「…だろうよ」
(…ああ、どうか。これ以上クロウの
「じゃないとアンタたちを誘わないわよ♪」
クロウは高志を何やら嫌そうな顔をしながら高志にそう話しかける。
アリサが冗談交じりに高志がアリサに半眼で睨みながらに言う。
「いい度胸だ。味サバ。表に出ろ。五月の節句に飾る刀の形をした飴。村正ブレードで三枚おろしにしてやる」
「…なんであんたそんな物を持っているの?」
「昨日商店街で偶然見つけた。
あれ?また変なイントネーションが…。
「はやてちゃんは男の子でもなければ、徳川家の末裔でもないよ」
「よくこの
「どういうこと?!というか、高志君の中での私の評価ってどれくらいなの?」
「…高町なのはさんの株が上場廃止の危機を脱しました」
「…どういうことなの?」
「気にするな」
なのはが首を捻るが高志はあえてそれに答えないでいた。
「…連続ストップ安だったんだ。なのはちゃんの評価」
そうすずかが呟くのを私は聞いた。
それから皆でプレゼントが被らないように相談しながらなのはがアリサから高志の言った上場廃止の危機を脱したの意味を聞かされた時、涙目ながらに高志を叱りつけた。
それから高志がなのはに謝り、そのお詫びとして『高町』ではなく『なのは』と呼ぶように言われた。
高志は頬を掻きながらもクロウの方を見ながらしぶしぶ了承した。
その様子にクロウは顔には出さないものの雰囲気でなぜか嫌がっているのを私は感じた。
ちなみに名刀村正は徳川家を呪ったこともあるという言い伝えがあるそうです。
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