No.459161

とある科学の自由選択《Freedom Selects》 第 四 話 追憶と甦る約束

第四話

2012-07-25 17:19:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1358   閲覧ユーザー数:1303

 

 

第 四 話 追憶と甦る約束

 

 

七年前、此処は学園都市のとある研究所のある一室。

 

薄暗くじめじめとしたその部屋には多くの子供達がいた。彼らの顔からは生気というものがほとんどと言ってもいい程感じられない。彼らはある実験の被験者だった。しかし彼らは望んで実験に参加している訳ではない。彼らは『置き去り(チャイルドエラー)』だった。

 

『置き去り』———入学した生徒が都市内に住居を持つ事となる学園都市の制度を利用し、入学費のみ払って子供を寮に入れその後に行方を眩ます行為、またはその子供の事を指す。

 

ここではよくあることだった。

 

定期的に呼び出される彼らが次にこの部屋に戻ってくる時、その人数は明らかに変化している。しかし、それでもこの部屋から子供が居なくなることはない、絶対に。

 

この部屋には防音機能が施されているのか外部の音が入ってくることも、内部の音が漏れることもない。そんな中でも何か悲鳴のような声が聞こえるような気がする、聞こえるはずがないのに。

 

 

此処には死が溢れている。呼び出され部屋を出て通路を歩いている時、大きな袋を……そう丁度此処にいる子供達くらいの人間が入れそうなくらいの大きな袋が運ばれているのをよく見かける。その袋にはよく見ると赤いシミが付着していたり、生臭いような臭いがする。中を確認する必要はない。どうせ死が詰まっているだけだ。

 

そんな場所で生きている彼らの瞳の中には希望の文字はなかった。

 

「私達……此処で死んで行くの?」

 

茶色の長い髪を持った、いつも物静かな少女が言った。やはりその少女の瞳にも輝きはなく濡れている。

 

それに対し少年の眼にはやる気や気迫の様なものは感じられない………しかし何処となく野望に満ち、少なくとも絶望に埋め尽くされている様には見えない。そんな瞳で彼は彼女を見返す。

 

「もう二度と外に出られないのかな?」

 

出ることは出来ない。

そんなことは有り得ない。

いずれ死ぬ、その時が来たら死ぬのだ。

 

少年は答えた。

 

「そうだろうな。このままだとここにいる全員殺される」

 

少女は彼の瞳を見つめながらもう一度少年に呟いた。

 

「……怖くないの?」

 

「………」

 

少年は少し考え込むように間を空けてから言った。

 

「そりゃ怖いさ。だけどそう思っていても何も始まらない。ここで死にたくなければ、何か行動を起こすしかない」

 

「死ななくても済む方法があるの?」

 

少女は呟く。

 

「分からない。だがこんな所で死にたくはない、死んでたまるか。俺はここを脱出する。脱出して……それから奴らを、この町を出し抜く」

 

少年は自分の手を見つめてそう言った。

その言葉に少女は驚き頬を垂れていた液体を拭うと、ほんの少し希望を取り戻したかのようにその瞳を見開き少年に問う。

 

「もし……もしそんな時が来たら、私も……連れて行ってくれる?」

 

そんな少女の問いに少年は「もちろんだ」と、そう答えた。

 

「だから、そんなに泣くんじゃねぇ。後これからはもう死ぬとかそういうことを言うのは無しだ。言っただろ?死ぬつもりはないって。だからお前も生きる努力をしろ。そうすればここから出してやる、絶対にだ」

 

「うん、分かった」

 

少女は到底元気などとは言えないが、それでも希望には満ちた声で返事を返した。

 

 

 

七年前、ある少年と少女が交わした遠い昔の約束。

 

 

 

そんな約束を交わしたわずか数日後、この研究所は突如としてその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園都市第六位の超能力者である神命 選は、第十八学区にある彼の学生寮に帰ってきた。

 

彼も一応は学園都市からは学生と言う扱いを受けており、書類上だけだがこの第十八学区存在する長点上機学園という学校に在籍していることになっている。

 

長点上機学園とは能力開発において学園都市ナンバーワンを誇る高校であり、学園都市の「五本指」の一つに数えられる超エリート校だ。またこの学校の学生寮は学生寮とは思えないほどの広さと高級感を兼ね備えセキュリティー等も万全である。

 

神命はそんな学生寮の3階に位置する自分の部屋の前にやって来た。そして彼は鍵を取り出すこともなく自身の能力を使い部屋に入る。しかし、自分の他にも誰かがこの部屋にいることに気がついた。

 

彼はその能力故に開ける為の用途しか持たない鍵は持ち歩かない。正直このドアもコンクリートで塗り固めてしまった方がより安全なんじゃないか、そもそもドアなんて必要ないんじゃないか等と考えてしまうほどだ。よって彼はこの部屋の鍵をある少女に渡している。(強引に奪われたと言っても過言ではない)

 

そして案の定、彼の予想は的中する。

 

「選、遅かったじゃない」

 

部屋の奥から少女の声が聞こえてきた。

 

彼女の名前は月極 高嶺(つきぎめ たかね)、長点上機学園と同じく五本指に数えられる霧ヶ丘女学院に通っている。

 

「何処へ行ってたのよ?探したのよ」

 

「それはこっちの台詞だ。ここにいるなら連絡の一つでも入れるだろ普通」

 

「だって携帯に繋がらなかったんだもん」

 

「って言うかいくら鍵を渡しているからってそう何度も入って来られるとなぁ。お前は霧ヶ丘女学院の生徒だろ。いくら俺が許可してるからって少しは遠慮したらどうなんだ?」

 

「いいじゃん別に。此処のほうが広くて過ごしやすいだから」

 

彼女とは二年ほど前からの付き合いだ。(断じて付き合っていると言う意味ではない)七年ほど前とある研究所で出会い五年ほど離別していたが二年前に再開したのだった。彼女に鍵を預けっぱなしであるためこの部屋には入り放題で半自宅状態である。また彼女が在籍する霧ヶ丘女学院は長点上機学園と同じく第十八学区に存在するためここからでも余裕で通えたりする。

 

「まぁいいけど。じゃあ俺疲れてるから寝るわ、おやすみ。帰るんだったら帰るで戸締りはきちんとしていけよ」

 

そう言って神命はベッドに横たわる。

 

「ちょっと、女の子が部屋にいるのにその態度は何?何かこうもっと気を使いなさいよ」

 

しかしそんな言葉は気にせず夢の世界に旅立つ神命。

 

仕方なく彼女は彼の布団を綺麗に掛け直しぶつぶつ呟きながらベッドに腰掛けそのまま横になってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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