No.459100 戦う技術屋さん 八件目 初日gomadareさん 2012-07-25 15:04:37 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:2049 閲覧ユーザー数:1931 |
ゴンッと何かが頭にぶつかる衝撃で、カズヤの目を覚める。とは言え意識はしっかりと覚醒した訳ではなく、虚ろな視線が右往左往していると、再びカズヤの頭に何かがぶつかる。
ぶつけた個所を手で擦りつつ、ぶつかった物の正体を手に取ってみれば、それは年期の入った本であり、表紙には『サルでも分かるデバイス基礎知識入門編〜これで分からない者はサル未満〜』と、読む者に喧嘩を売っているとしか思えないタイトルが、本を抱える様にして持つサルの絵と共に描いてある。
以前の自分はサル未満だったなぁと昔を懐かしむ一方で、寝ぼけた頭が自身の身に降りかかった事態を少しずつ導いてきた。
先日の掃除。捨てられない紙媒体の書籍。収納スペースの圧迫。最後は確か――
「奇跡的な積み上げ方で机の上に――やべぇ!」
何かに気がついたカズヤであったが時既に遅く。
ドザァァァァア!
「ギャー!?」
隣近所まで響いたカズヤの悲鳴。近隣住民はいつものことで済ましたという。
***
「おはようカズヤ……どうしたの?」
108部隊の捜査部にて、時間ぎりぎりにやって来たカズヤへ一言物申そうと捜査部のオフィス入口にてカズヤを待っていたギンガ。一応の挨拶をすませ、いざ言おうとすれば、何故かボロボロになっていたカズヤへ、思わずどうしたのかと尋ねていた。
「雪崩に巻き込まれまして」
「は?」
山間の春先ならいざ知らず、こんな町中に雪崩も無いだろうに。全く訳が分からず、暫し悩んでからギンガは以前妹から聞いた話を思い出し、合点が行った。それからあきれた視線をカズヤへ向ける。
「掃除した方がいいわよ?」
「ですよねー」
とりあえず、数日かけて掃除する羽目になった自室を思い出し、カズヤは溜息を一つついた。
本人としても一応の自覚はしているのだ。スバルやティアナが部屋に来るたびに怒られるから。だが部屋の七割を占める新旧大小様々なデバイスパーツはカズヤのコレクションであり実用品。今朝カズヤに降りかかって来た、残り三割のうちの一割を占める紙媒体の書籍類は、カズヤが色々メモ書きをしているせいで、古本屋に売ることすらできない始末。
というより、電子書籍全盛期のミッドチルダに置いて、古本屋という物がそもそもあるのかも怪しい。少なくともカズヤは知らない。これまで手に入れた紙媒体の書籍は殆ど通販、時々書店で買った物で全て新品なのだ。
「まあ、典型的な物を捨てられない人なので。今度本棚でも作ろうと思います」
「組み立てるじゃなくて?」
「趣味は物作り全般ですから。それこそ日曜大工から編み物まで」
何でもやりますよと胸を張るカズヤ。それらの道具や完成品がカズヤの部屋の残り二割を占めており、散らかる要因になのだが。本棚やテーブルなどはともかく、管理局員として制服で居る方が多いのだから、自作のマフラーやセーターなんてさっさと仕舞ってしまえばいいという事実に、果たして本人は気が付いているのだろうか。
……多分気が付いていないのだろう。現に、カズヤの頭の中は、完全に本棚を作る事にシフトしている。
「なので考査試験が終わったら、休みをください」
「却下。漸く仕事出来るようになった直後に休みを取るのよ。おかしいでしょうが。資格を取ったら、正式に仕事を色々教えたり、手伝って貰ったりしないといけないんだから、休みなんて当分取らせません」
「……うぇーい」
それなら俺は何時自室に入れるようになるんだろうかと部屋の惨状を思い出しながら、カズヤ本棚を作る事を頭の隅へ押しやり、カバンからテキストを取り出した。
「分からなかった部分、幾つか聞いても大丈夫ですか?」
「ええ。どこかしら?」
***
さてカズヤがギンガに教わりながら、黙々と机に向かっている一方で。此方は機動六課。そこの野外演習場ではつい数時間前に部隊長挨拶と共に活動を開始した機動六課での初訓練が行われていた。今回の内容は機動六課フォワード部隊としてぶつかるであろう敵機動兵器の確認と現状でのフォワード新人達の実力確認が目的の模擬戦闘。仮想戦場はミッドチルダ北部にある廃棄都市地区。目標は同型の敵機八体。円柱型であるそれはガジェットドローンⅠ型、通称ガジェットと呼ばれている。
訓練始めに、ターゲットであるガジェット八機は散開。四機ずつの小隊に分かれた。そしてその小隊の一つを、ギンガのローラーと何処か異なるモーター音を響かせながら追いかけているのは、役職が陸士386部隊災害担当部フォワードトップから機動六課スターズ分隊フロントアタッカーに変わった、コールサイン:スターズ03であるスバル。
「すばしっこい、けど!的は大きいよね!」
少なくとも普段自分が中距離攻撃の的として使っていたカズヤの使うD-03β――防御サポートの自律行動型の飛行円盤に比べれば、ガジェットは大きすぎる。この距離から移動しながらでも中距離の一撃を叩き込める程に。
だからこその一発。自分以外のフォワード三人へ判断材料を与えられるように、カートリッジを一発消費しての牽制打。弓のように腕を振り絞ってからの――
「リボルバー……シュート!」
魔力を載せた飛ぶ拳圧を放つ。先読みに先読みを重ねたその一撃は、スバルの狙い通りにガジェットの一体を捉える。だが、リボルバーシュートはガジェットに当たる寸前にレジスト、無力化されてしまった。
それを見て、スバルはすかさず足を止め、自分の相棒へ連絡を取る。
「防御系?……ティア!」
念話を併用して自身の相棒に声をかけると、念話のみで『見てたわ』と返ってきた。
『一応こっちでも試してみる』
『OK!とりあえず追うね』
再び走りだすスバル。その一方で念話を打ち切り、とあるビルの屋上から下を見つめるのはスターズ分隊センターガード、コールサイン:スターズ04であるティアナ。アンカーガンをガジェットへ向け、弾丸を生成しながら、傍らにいる機動六課ライトニング分隊フルバック、コールサイン:ライトニング04であるキャロ・ル・ルシエへ声をかけた。
「ちびっこ。威力強化、お願いできる?」
「はい」
返事と共に、キャロのはめたグローブ型ブーストデバイス「ケリュケイオン」の本体である宝石部が輝く。魔法陣の元、キャロが腕を一閃し、強化が完了。強化されたティアナは真っ直ぐ銃口をガジェットへ向け、三発ほど放つ。デフォルトである簡易誘導の末、全弾ガジェットへヒットしそうになるも、打ち消された。
「バリア?」
「違います。フィールド系?」
後衛となっているティアナとキャロがそれぞれの見解を呟く中、正解に辿り着いたのはスバル。
「魔力が打ち消された?」
とはいえ、起きた現象の正解に辿り着いても何が起きたのかは理解出来ず。フォワード4名が首を傾げる中で、ガジェットドローンの性質。
それを聞きながら、逃走を続けるガジェットに対し、スバルはウイングロードを発動。どういう構造理念なのか、道を遮るように建てられているビルを乗り越える為にウイングロードを駆ける。そんな中、擬似再現されているAMFを六課の通信主任兼メカニックであるシャーリーことシャリオ・フィニーノが全開にすると、それにより魔力の足場であったウイングロードが打ち消され、足場として安定しなくなってしまった。
「うわっ、とっと」
動体制御をおこない、ぎりぎりでバランスを整えてからウイングロードが消えるぎりぎりの所でジャンプ。屋上へ着地し、ビルから飛び降りて、ガジェットをそのまま追走する。
それを見て、感心したのはシャーリーであった。
「凄いですね、今の。あの状態から」
「ウイングロードの自動発動を搭載できなかった代わりに、動体制御には拘っているらしいからね。あれ位なら当然と言えば当然」
「え?あのデバイスってスバルの自作じゃ?」
「元々はね。でも今スバルが使ってるのは別の人が彼女の為だけに考えて。考え抜いた末の現状出来うる最高傑作。まだまだ発展途上らしいけど」
「……」
事前に預かりデータ収集用のデータチップを搭載したシャーリーだからこそ、スバルのローラー、ティアナのアンカーガンの出来の良さは確かに知っている。最終的にデータチップを搭載するスペースすら見つからず、元々搭載してあった物を流用している程の完成系。なのにあれを発展途上という。
「何者なんです?そのデバイサーの人」
「……昔会った時は『陸戦Dランク魔導師。ただそれだけだよ』って言ってた。だから多分、今でもそうかな」
「魔導師って。デバイサーじゃないんですか?」
「隠してはいるけど、資格としてはSS級デバイスマイスターらしいね」
「SS!?」
視線をモニターのスバルとティアナへ戻す。スバルは相変わらずガジェットを追走。ティアナはキャロと共にポジションを確保する為、ビルの屋上から屋上へと移動中。そんな二人の足と手。それぞれに輝くデバイスが、よもやSS級のデバイスだという。今後あのデバイスも担当するシャーリーとしては、信じられないし、あまり信じたくもなかった。
「で、でも、SS級にしては所々に粗がありません?」
「発展途上って言ったでしょ?それに、あのデバイスはその魔導師によって手作業で組まれた物なんだから」
「手作業って……」
「それだけ想いが詰まってるんだよ。さて、シャーリー。今聞くのもあれかもしれないけど、これを聞いた上で、あの二機を含めた新人たちの四機。シャーリーはちゃんと担当できる?」
なのはの言葉は、デバイスマイスターだからこそ、シャーリーにはその重みが分かる。手作業であれなのだ。よほどの想いや根気が無ければ出来ないだろう。年単位で何度も改修を繰り返してきたのかもしれない事も、容易に想像がついた。
そんな風に、愛されてきたデバイス達を、今度は自分が担当する。荷が重いことは確かに自覚している。だが、シャリオ・フィニーノはデバイスマイスターなのだ。
「当然です!四機ともいい子に仕上げますよ!」
想いは継ぐ。想いは継ぐが、それ以上にシャーリーにもプライドがある。相手が顔も知らない高ランクのデバイスマイスターと言えど負けたくないのだ。あれ以上の品を四機、必ず仕上げる。決意を新たに、シャーリーは本腰を入れてデータ収集を再開した。
その様子を見て嬉しそうに笑いながら、念話で『レイジングハートも手伝ってあげてね』と告げれば、なのはの愛機、レイジングハートは『All light』と念話で返す。その答えに満足そうに頷きながらなのはが新人たちに目線を戻せば、四人に動きがあった。
最初は機動六課ライトニング分隊ガードウイング。コールサイン:ライトニング03であるエリオ・モンディアル。
「いくよ!ストラーダ!」
『explosion』
愛機である突撃槍から吐き出されたカートリッジは一発。足元にフェイトと同色の魔力光を持ったベルカ式の魔法陣が展開され、魔力変換気質「電気」を生かされた斬撃を、自らの立つ陸橋へと叩き込んで落とし、進撃してきた四機のガジェットのうち二機をそのまま潰す。
しかしそれを回避、上空へ逃げようとした残り二機のうちの一機に向かい、スバルが跳ぶ。
「潰れてろ!!」
咆哮と共に拳の一撃。AMFが消せるのはあくまで魔力のみ。故に魔力は消されても拳の衝撃までは消せず。殴り飛ばされたガジェットはそのまま地に落ちて爆散。着地したスバルは威力に不満そうにしながら拳を見つめ、それから即座に機動。先ほど逃がし、地に降りた自身の背後を取ろうとしていたもう一機を足で捕まえつつ、地面に叩き付け、マウントポジションを取るとそのまま拳を振るう。やはり魔力は消されるも背後は地面。ガジェットは拳の威力を逃がせず、スバルの拳はガジェットへと叩き付けられた。外装を突き抜けた拳を引き抜き、バチバチとスパークしたガジェットの上から退いて、爆散するガジェットを置いてスバルは移動を開始。
前衛二名が二機ずつ四機を潰したのだから残りは四機。スバルとしては後衛組がどう動くか分からない以上、動いておいた方がいざという時の連携にちょうどいいだろうという判断だったが、それは功を奏した。
『スバル。そのままガジェットを追って。ここで決着をつけるわよ』
ティアナからの念話の指示にすかさず反応。つかず離れず。逃がさぬ距離で残りの四機を追う中、その内の二機の行く手を遮るように火弾が地面に当たり炸裂。辺りを火の海にした。
「うわぁ、すご」
その火の海を横のビルの壁を使う事で避けながら、感心したスバルの眼下。炎に行く手を阻まれたガジェットの下に魔法陣が展開され、其処から出てきた鎖によってガジェットが捕らえられた。
「おお!」と感心するスバルに、『スバル!!』とティアナから激が跳び、慌てて意識を集中し、炎をまぬがれたガジェットを追う。
「ったく、あいつは……」
そしてその頭上。近場のビルの屋上で、カートリッジを二発使ったティアナが逃走する残りのガジェット二機に狙いを定めていた。銃口の先、形成される弾丸は一発。その一発を覆うように、AMFを突破する為の膜を張って行く。フィールド系魔法を突破する為の多重弾殻射撃。AAランクのスキルであるそれを、ティアナは徐々に。だが確実に形成していく。
(弾丸形成。射撃型必須のスキルのサポート。私の作ろうとしている弾丸に合わせて、最適なサポートをする)
最後にこのアンカーガンを預けた時に、ティアナがカズヤに言われた言葉。他にも色々とやりたい事や仕込みたい事はあったようだが、とりあえずはその一点に重点を置いたと言っていた。
その言葉はやはりいつも通り事実だった。今の自分のスキルでは、そう簡単に出来ないであろう多殻層弾が容易ではないが、でも十分な速度で形成されていく。
「バリアブル!」
やがて形成された多殻層弾。しっかりと狙いをつけ、
「シュート!」
引き金を引く。発射された弾丸は一機目のガジェットのAMFに当たり、最外殻層がAMFに無力化されながらも、本命の弾丸はガジェットを貫き、逃走するもう一機も追尾したのに同じように貫いてみせる。
スパークの後、破砕されたのを確認することなく、ティアナは精魂尽き果てたかのように屋上へと倒れた。頭に響く自分を褒める相棒の声に『当然でしょ』とそっけなく返しながら、ティアナはアンカーガンを見つめる。
「本当に、流石よね」
本人の前では口が裂けても言えないが。
口元に笑みを浮かべ、ティアナはほんの僅かな休息の為に、目を閉じるのだった。
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久方ぶりのスバティアサイド。
というよりまともに六課の方を語る回数が極端に少ない技術屋さん。
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