トーキョー・ベイ警察署、T-9ルーム。
「全員集まったわね」
と、スノウを除くメンバーを前に隊長のユナ・ヒヤマと、副隊長のヴェクタス・ヘルシオンが作戦説明を開始する。
「今回、トーキョー・グランドセントラル発ホンコン・チムサーチョイ行きの新幹線『富士5号』に爆弾が仕掛けられたそうだ」
「そこで、今回の重要任務は当該列車からの爆弾の除去および解除よ」
二人は交互に作戦の説明をしていく。
「…ちょっと質問いいか?」
と、切り出したのはエミ・パナヴィア。
「列車を止めてから爆弾を外す事はできねーのか?」
その問いにヴェクタスが答える。
「エミ、残念ながらそれは不可能だ」
「いや、だって走りながらじゃあぶねーし」
「先ほどスノウから連絡が入ったのだが、今回仕掛けられた爆弾は速度センサー式だ。もし列車を止めようとすれば爆発する仕掛けになっている」
「…すると爆弾の解除はなかなか難しそうですね」
と、シュン・ネコノ。
「そこで今回の作戦なんだけど、今回は場所が場所だけに、行動できるメンバーが限られる事になりそうね」
と、ユナ。
「じゃあ適任なのが一人いるじゃない」
と、言ったのはクリスタ・ドロンだった。
「にゃ?」
みんなに見つめられてきょとんとしたのはサフラン・マコーミックだった。
「うむ、確かに素早そうだし、ロボットだから頑丈だしな」
「アーマージャケット着てるしね」
「そ、そんなに見つめられたらハズカシイのだっっ」
「…決まりね。今回我々はT-9ジャイロで列車上空へ向かいます。そこでサフランを降下させて爆弾の解除に当たらせます。爆弾の分析は列車内からスノウ君、ジャイロ内からはシュン君が担当、なんとしてもホンコン到達までに爆弾を解除するのよ。T-9隊出動!!」
「了解!!」
一方その頃、富士5号列車内はパニックに陥っていた。
「降ろせー!俺たちを降ろしてくれ!」
「こんなところで死ぬなんてイヤよぉっ!」
次々に大声で喚きたて、涙を流しておびえる乗客。
「皆さん、落ち着いてください。すでに警察には連絡してあります。きっと爆弾を解除してくれるはず…」
と、ジャッカル形女性ロボットのアテンダントの乗客をなだめるのに必死だった。
「落ち着いてられるか!列車は止められないのかよ!!」
「い、いえ、ですからその、止めると爆発する爆弾でして…」
そんなパニックの状況をよそに、スノウは2両目の連結部分に辿り着くと、持っていたレーザーピックで車両の壁に小さな穴を開け、そこから様子を覗き込んだ。
「…あった、あれが例の爆弾か!」
と、スノウが爆弾を発見したその時、遠くからローターの音が響き渡る。
専用ティルトローター機であるT-9ジャイロがやってきたのだ。
T-9ジャイロはゆっくりと列車上空に近づくと、一人のネコ形ロボットを降下させる。サフランだ。
「スノウ君!助けに来たのだ!!」
「サフラン、ちょうどよかった。お前の目の前に爆弾があるな?」
「爆弾?…あ、この後ろについてる怪しい箱かな?」
「そうそう!そいつを解除したいんだけど、ムリに外すと爆発するかもしれねーんだよ…こっちからはよく見えねーし、どういう構造かわかりそうか?」
するとサフランは、
「に゙ゅ~…爆弾の解除方法…かぁ」
と、額に手を当てて考え出した。サフランの電子頭脳がフル回転で爆弾の種類を特定し始める!
…しかし、サフランは目の前の爆弾の分析と同時にあることを思い出していた。
…今から2年前の事だった。
その日サフランは、デトロイトにあるロボット研究所を目指して長距離バスに揺られていた。
大勢の乗客に混じっていたサフランだったが、次の瞬間一人の男が運転席の目の前まで走ってきて拳銃を突きつけ声を張り上げた。
「全員動くな!動けば頭を撃つ!…いいか、全員じっとしてそのまま動かずオレ様の話を聞きな!!」
男は拳銃を持って乗客を脅す。それがいわゆるバスジャックであろうことは、生まれてこの方ずっとレギオポリスに勤めてきたサフランにも容易に判断できた。
「待つのだ!」
「…あ!?」
「…こちらはワシントンコロンビア・レギオポリスのサフラン・マコーミック巡査部長なのだ!」
「チッ、サツかョ…」
「目的は一体なんなのだ!?事と次第によっちゃタダじゃ…」
と、サフランは立ち上がろうとした、その時!
バスジャッカーの銃が火を吹き、サフランの耳を掠めてガラス窓を撃ち破った。
「動くなといったろ!サツだからってナメてッと殺すぞ!」
「ぐ…こ、このバスを乗っ取った目的はなんなのだ…カネか?クスリか?…それとも…!」
するとバスジャッカーは不気味な笑みを浮かべ、狂った目で乗客を見つめながら静かに言った。
「…へへ、目的?オレ様の目的はカネでもクスリでも何でもねえ…これから壮大なショーをやろうと思っててね」
「壮大なショー?な、何を言ってるのだ!!」
「いいか!このバスには爆弾を仕掛けてある!今現在このバスは120km/hで走っているはずだ。ここでブレーキを踏んでみな…60km/hを下回った瞬間このバスはこっぱみじんさ!ヒャーハハ!ヒャーハッハッハ!!」
狂ったように笑うバスジャッカーを前に、サフランは怒鳴り声を上げていた。
「冗談じゃないのだ!こんなことしてタダで済むと思うなよ!?」
「ムダだね、アンタにオレ様は逮捕できねえ…なぜなら…」
と、バスジャッカーはなおもその不気味な笑みを浮かべたまま、持っていた銃を自分の頭につきつけ…
…発砲したではないか!
なんと、バスジャッカーは自ら命を絶ってしまったのだ!
「くっ…あいつの思い通りになんかさせないのだ!」
バスジャッカーが自殺した直後、サフランは非常扉を破ると車体の下に潜り込む。
サフランのアイセンサーに搭載された爆発物探知機が爆弾を捉え、電子頭脳が即座に分析を始める。
(爆弾の種類は…構造は…解体方法は…!)
実はサフランには隠れた能力があった。
それは意外や意外、手先が器用なことである。そうしたこともあって彼女はレギオポリスの特殊機動班に在籍したが、
その任務の中で爆発物処理を任されていた事があった。
銃撃戦ではついつい味方を撃ちそうになってしまうサフランだが、爆発物処理においてはその業前はピカイチで、
彼女に解体できない爆弾はないだろうとまでいわれていたのである。
…実際、このバスジャック事件においても仕掛けられた爆弾は見事に解体され、乗客乗員は全員無事に生還した。
…ただ一人、車内で自ら命を絶ったバスジャッカーを除いて。
…新幹線『富士5号』…。
「どうだ?解体できそうか?」
スノウが問いかける。
「大体の構造は把握できたのだ…こう見えてボクは爆弾解体のプロだからね」
と、得意げに語るサフラン。無論その瞳に偽りなどなかった。
彼女は目の前にある爆弾と言う名の敵に、今戦いを挑もうとしていたのである!
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前回(http://www.tinami.com/view/456071 )の続き。
サフランのちょっとした過去と知られざる意外な特技が明らかに…。
◆出演
T-9隊の皆さん