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ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~ 十一話

神々の始動

2012-07-24 15:18:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2920   閲覧ユーザー数:2833

 

ヴァルキリーの朝は早い。

 

朝早くに起床し、自室の片付けから入って校舎内の掃除。

 

戦闘訓練以外にも学問の勉強も必須条件なのである。

 

そんな感じで日は昇る。

 

 

 

 

 

 

それは朝会の後のことだった。

 

ロスヴァイセが朝早くにカリフを起こそうとしたのだが、既にその姿は無く、朝会から帰った時には既に帰ってきていた。

 

今のロスヴァイセは昨日の鎧とは違ってネクタイを付けたブレザー仕様……スクール制服の姿だった。

 

「あ、カリフさん! どこ行ってたんですか?」

「おぉ、ロス……ヴァイセか?」

「もう、また名前忘れそうになってませんでした?」

 

ジト目での視線にカリフは何の反応も示さず、ただ自前のタオルで汗を拭いている。

 

それを見たロスヴァイセは次の授業の準備をしながら疑問を抱く。

 

「何かやってたんですか?」

「あぁ、朝は気温が低いからいい運動日和だし……なにより修業も忘れてはならんからな」

「修業ですか? 見た所カリフさんは魔力を使役するような感じではないのですが……」

「魔法だけが力ではない。自分の力が最強だと思っているとしっぺ返しをくらうぜ?

「は、はぁ……」

 

そう言うと、カリフは汗を拭くために上半身の服を勢いよく脱いだ。

 

「ちょっ!?」

「にしても大分暖かくなってきたな……それほど寒いということはなかった」

 

急な行動にロスヴァイセは目を逸らして顔を赤くさせるが、カリフはそれに動じることもなくタオルで汗を拭く。

 

ロスヴァイセも気になってチラ見でカリフの体を見ると、それは想像以上だった。

 

見事に鍛えられ、無駄な筋肉がなく、膨らみ過ぎていないバランスのいい体つき

 

それに目を奪われてじっと見ていると、同時に気付いた。

 

(すごい傷……)

 

カリフの体中に付けられた多くの古傷

 

いずれも小さい頃に付けられたかのように、既に体の一部となっていた。

 

「その傷は……」

「? あぁ、少し修業の熱が入り過ぎたことがあってな……」

 

修業に熱が入ったとしてもそこまでの物なのだろうか?

 

ヴァルキリーの自分も訓練で体に傷を負うことはあるが、時間が経てばすぐに元に戻る。

 

だけど、こんなに古傷として残るほど大きな傷を負ったことなどない。

 

故に、ロスヴァイセは提案してみた。

 

「あの……できたらでいいんですが……」

「?」

「後で修業風景を見せてくれませんか?」

 

これほどまでになるほどの修業がどんな物か……これからヴァルキリーになる者として気になる所だった。

 

カリフは意外な内容に少し感心しながらも二つ返事で了承した。

 

「見てもいいけど邪魔だけはするなよ? てか、お前まで巻き込まれる恐れがあるからな」

「は……はぁ……」

 

言葉の真意では理解できない。

 

巻き込まれるとは一体……どういう意味なのか……

 

疑問に思いながらもカリフの上着を拾った時だった。

 

部屋のドアが開いてルームメイトが押し寄せてきた。

 

「ロスヴァイセー! そろそろ時間だよー?」

「いつも言ってますが、ノックくらいしてください。今行きますよ」

「いーじゃん同じ学び舎の下にいるんだし、何も隠すことなん……て……」

 

そこまで言うと、同級生の動きが止まってしまった。

 

その様子にロスヴァイセも怪訝に思って首を傾げる。

 

「どうしました?」

「いや……その……なんというか……」

「ごめん……私たちの方が空気読んでなかった……」

「そうよね、いくら同じ屋根の下にいるとはいえプライベートなことは尊重しないと……」

「??」

 

もう何を言っているのか訳が分からない。

 

疑問に思ったロスヴァイセはカリフと顔を見合わせた。

 

その時だった、ロスヴァイセは思い出した。

 

「あ……」

 

部屋の奥のカリフは上半身裸

 

しかも、上半身はロスヴァイセが持っている。

 

そして、トコトコやって来たカリフの一言

 

「そろそろ上着返してくんない?」

 

なんということでしょう。

 

この一言は聞き様によっては、服をはぎ取ってからのお楽しみにしか聞こえてこない。

 

しかも、ロスヴァイセ辺りの年代の女子はちょっとのことでもすぐにあっち関係に結び付けようとする。

 

言うなればアホである。

 

それを理解したロスヴァイセは顔を紅潮させて上着を投げ捨てる。

 

「わああぁぁぁぁ!! これは違うんですよ!! これはですね……!!」

「まさか……先に大人の階段を……」

「ロスヴァイセ……ショタに罪はないけどこれはやりすぎ……」

「既成事実……」

「話を聞いてくださいよおおぉぉぉぉぉ!!」

 

女が集まれば姦しいと言うように、入り口前でキャピキャピ騒いでいる生徒たちを尻目にカリフは放り投げられた上着を拾って埃を払う。

 

「さて、ここらを見て回るか」

 

そう言いながらカリフは必死に弁解するロスヴァイセを置いて窓から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ロスヴァイセの部屋を出てからカリフはそこら学校の外を散策していた。

 

ここに来て違和感を感じたからだ。

 

まず、気の探索ができなくなっていた。

 

普通ならここから数百キロも離れた街の人の一人一人の気を感じることができるのに今ではそれができない。

 

それなのに学園内の気はしっかりと理解できる。

 

そのことで気になったカリフは学園の外へと出てみると、ここで合点がいった。

 

「おぉ……これが結界と言う奴か……」

 

カリフは目に見えない壁をペタペタと触って確認していた。

 

「黒歌の言ってたのと同じタイプっぽいな……だが、気の流れまで遮断するのは何か別の力の術だからか……?」

 

興味深そうに壁を触りながら学校の周りを散策していると、急にだれかにぶつかった。

 

「あ、ごめ」

 

集中してたから気が付かなかった。

 

今のは自分の不注意だと思いながらも油断していたことに内心で毒づいていると、そのぶつかった相手はゴスロリの恰好した自分と同い年くらいの耳がとんがった少女がこっちをジーっと見つめてくる。

 

「我、このような人間、初めて」

「あぁ、オレもお前とは初めて会うけどな」

「我、お前のように強い人間初めて。ちょっと見に来た、名前、教えて欲しい」

「そういうのは自分から名乗るもんだ。そういうのは筋通してナンボだろ」

「我の名前、教えると教えてくれる?」

「当然、相手がどんな形であれ挑んでくるならばオレは向き合おう」

 

なんだかカリフと意気投合しているように見える少女は言葉足らずで答えた。

 

「我、オーフィス。周り、そう呼ぶ」

「!?」

 

頭を掻いて適当にあしらおうとしていたが、その名を聞いてカリフは驚愕した。

 

初めて見たのに少女を知っているのか?……当然だ!

 

その名前……忘れもしない黒歌が言っていたこの世で最も強いとされる最強のドラゴン

 

無限の龍神……ウロボロス・ドラゴン

 

名を……オーフィス

 

「そうか……お前が今、最も強いとされる最強の存在……二天龍をも凌ぐとされる最強のドラゴンか!!」

 

カリフは歓喜に打ち震えながらもすぐに臨戦態勢になってオーフィスから距離を置く。

 

そして、気を探索してみると、予想以上の答えが見えた。

 

(こいつ……外には人並みの気しか流れてないのに探ってみると、体の中心部でとてつもねえ力がうねりをあげてやがる!! 間違いなく今まで出会ってきた奴よりも別次元につええ!)

 

完全にここまで来ているのに気付けなかった。

 

このオレが気付けなかったのだ……こいつ、相当のやり手か……

 

「早速で悪いんだけどよぉ……オレとちょい殺し合ってみねえかぁ?」

 

少し我を忘れかけているカリフにオーフィスは動じることも無くこっちを見つめている。

 

「楽しそう、何か楽しいことがあった?」

「そりゃあなぁ!! ここに来て初めてなんだからなぁ! オレを満足させてくれる奴ってのは!」

「満足? 我、なにもしてない、それから一つ」

 

興奮して半ば狂乱状態に陥りかけているカリフにオーフィスは一本の指を立てた。

 

「我、名前教えた。だから、名前教えて欲しい」

 

ここにきてオーフィスが構えていたカリフに静かに近付いてくる。

 

そんな姿にカリフはというと……

 

「……なんだぁ?」

 

どう反応すればいいか困っていた。

 

「知りたい、教えて。名前」

「……カリフ」

「カリフ、それが名前、我、オーフィス」

「いや、今聞いた」

「カリフ、柔らかい」

 

漫才のようなかけ合いをしながらオーフィスは自分の顔をペタペタと触ってくる。

 

その様子を見てカリフはさっきまでの高揚感が見事に霧散されてしまった。

 

(な、なんだこいつ……警戒心どころか敵意も防衛行動も見せねえとか……何考えてやがるんだ?)

 

カリフの毒気が抜かれた原因はまさにそれ。

 

オーフィスには闘気も何も感じられない。

 

いくらこっちが牽制しようとしても意に返さず、ただの一人遊びにしかなっていない。

 

なにより、相手は何もしてこない、戦意がない相手ということでもし、ここで自分から戦えば自分で自分の信念を曲げることになる。

 

そんなカリフの考えとは裏腹にオーフィスはカリフの顔を触るのを止めてカリフを見上げた。

 

「どうした? さっきまで楽しそうだった。今は楽しくなさそう」

「……だれのせいだと思ってんだ…」

「?」

 

チョコンと首を傾げるオーフィスにカリフは小さく嘆息した。

 

「ったく……ちったぁ楽しもうぜ? なんだかお前と離すと妙な気分だ」

「我、妙?」

「あぁ、鏡見れば一目瞭然だ」

「後で見てみる。カリフ、我、おんぶ所望」

「なんでそんなことしなきゃなんねえんだ?」

「カリフ、ここ見て周ってた。我、カリフ、ここを見たい。おんぶ」

 

手をこっちに広げてくるロリドラゴンにカリフはもう溜息しか出ない。

 

「……勝手にしてろ」

「分かった。勝手にする」

 

そう言ってオーフィスはカリフの背中へピョンとしがみつく。

 

「……ま、いいか」

 

なぜだか振り払う気力も抜けたカリフは背中にしがみつくオーフィスと共にそのまま学園内を散策することになった。

 

だが、この後の散策の最中にオーフィスは勝手にどこかへ消えてしまった。

 

「また、会いに来る」

「げぇ」

 

口では嫌がってはいたが、カリフもそんなに嫌そうな雰囲気ではなかったというのはご愛嬌であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしてカリフはロスヴァイセの部屋の“窓”から帰ってくると、そこで待っていたロスヴァイセはカリフの姿を見るなり詰め寄って来た。

 

「やっと来ましたねカリフさん!! ずっと待ってたんですから!」

「んだぁ? なんかしたか?」

 

そう言うとロスヴァイセは顔を真っ赤にさせながら憤慨した。

 

「なにって……! 昨日の勇者発言で私の名前が学園中に広まってもうずーっと誰かれ構わず視線を感じるわ、今日の朝も一緒に寝たとか身に覚えのない噂まで一人歩きしてるんですよ!? もう学園の中を歩けませんよ~~~!!」

「知るか」

 

泣き崩れるロスヴァイセを一刀両断するカリフにロスヴァイセは涙で濡らした目で睨んでくる。

 

「確かに勇者発言は私に落ち度はありましたけど、朝寝たというのは完全に誤解なんですよ!」

「いいじゃん別に」

「よくありません!」

 

何をそんなに騒いでいるのかは知らないが、今はどうでもいい。

 

頭を垂れてショックを受けているロスヴァイセにカリフは言った。

 

「よし、そんじゃあ行くぞ」

「……どこにですか?」

 

未だに暗いロスヴァイセにカリフは笑みを浮かべた。

 

「オレの修業だよ」

 

 

 

 

カリフの修業を一目見ようとロスヴァイセは一際広い校庭に出て体育座りで遠くでカリフが準備体操をしている様子を見ていた。

 

ちなみに、今の服装はブレザー制服から鎧に変わっている。

 

そこへ、ロスヴァイセの同僚が数人でやってきた。

 

「何やってるの? ロスヴァイセ」

「いえ、ちょっとカリフさんの修業の見学ですよ」

 

そう言って全員が校庭の中央のカリフを見つめると、そこには屈伸をしているカリフの姿があった。

 

「あら、旦那さまじゃん」

「違いますよ!」

「でも勇者じゃん」

「それは……まぁ……」

「なんだ、大分集まってるじゃないのか?」

「あ、カリフさん」

 

この場から離れたくは思うが、カリフの修業も気になるのでそのまま体育座りをしていると、準備運動を終えたカリフがいつのまにかすぐ近くにいた。

 

「おい、この際だから少し手伝え」

「え? 私がですか?」

「あぁ、それにそこのヴァルキリーズにも手伝ってもらいたい」

「わ、私たちも?」

 

急に指名されて戸惑うロスヴァイセたちだが、カリフはポケットに両手を突っ込んで言った。

 

「オレに魔法とやらを当ててみろ」

「……え?」

 

その一言に全員が呆けた。

 

目が点になった面子の中でロスヴァイセが早く正気に戻った。

 

「いやいや、そんなことできるわけないじゃないですか! 怪我しますよ!?」

「怪我するかしないかはオレの実力しだいだ。そんなくだらんことに構わずにさっさとやれ」

「ですが……無抵抗の人に魔法を仕掛けて怪我させたとあっては……」

「グダグダ言ってねえでさっさと来いっ!!」

「はいぃ!!」

 

あまりに仕掛けて来ないで躊躇っていたロスヴァイセにカリフは檄を飛ばしてけしかけると、その怒気に当てられてロスヴァイセは思わず防衛反応の感じで撃ってしまった。

 

繰り出された巨大な魔法弾を見て、同僚の一人が表情をギョっとさせる。

 

「ちょっ! ロスヴァイセ! その魔法は……!」

「え? あ!」

 

気付いたころにはもう遅い。

 

無我夢中で撃った砲撃はロスヴァイセの中でも威力が高めの魔法

 

彼女の得意魔法は魔法砲撃と威力と速さに特化した攻撃系のものである。

 

それを実証するかのようにカリフに向かってくる魔法はカリフの十倍近くの大きさを誇り、文字通り飲み込もうとしている。

 

「カリフさん! 避けてください!!」

 

そうは言うが、それなりにスピードもあるから今から回避しても体の一部が飲み込まれて怪我してしまうことは確実

 

それほどまでにやばい代物だった。

 

だが、カリフは目の前に迫ってくる光の球を前に前かがみになって腰を落とす。

 

そして、鼻先にまで近付いた時だった。

 

「へぇあ!」

 

カリフは掛け声とともに真下から弾を蹴り上げる。

 

気をクッションのように使って蹴り上げらた弾は破裂せずに真上に飛ばされた。

 

やがて、上空の遥か彼方にまで達して小さく爆ぜた。その様子はまるでロケット花火のようだった。

 

「……え?」

 

一人が信じられないような声を上げた。

 

それもそうだ、さっきの技は今習得している魔法の中でも最大級の威力を誇る技であり、ましてや使い手がロスヴァイセだ。

 

パワータイプの彼女が繰り出した魔法を足一本で弾き飛ばしたのだから。

 

カリフの蹴り上げた足は綺麗に天に掲げられ、体はブレもせずに自然体を維持している。

 

やがて真っ直ぐに伸びていた足を収めてカリフは指一本突き出してこまねいた。

 

「次はできるだけ速い連射型のを頼む。全力で来い」

「は…はい!」

 

すっかり見惚れてしまっていたロスヴァイセもカリフの一言に気を取りなおして言われたがままに複数の魔法陣を展開させる。

 

そこから超高速の矢の魔力を飛ばす。

 

さっきのパワータイプとは違ってスピードを重視した攻撃にカリフは片足を前に突き出し……

 

全てを最小限の動きで弾き飛ばした。

 

弾き飛ばされた矢はそのまま直進して斜め上空へと消えて行った。

 

「……」

「なんだ? もう終わりか?」

 

これまでも弾き返されたことにロスヴァイセもアングリと口を開けて驚愕していると、そこからカリフは悠々とした立ち姿で挑発気味に煽る。

 

すると、そこで何かに火が点いたロスヴァイセは仕掛ける。

 

「なら、これでどうです!!」

 

頭に血が昇りつつあるロスヴァイセだったが、この騒ぎを聞きつけて多くの生徒と教師陣が校庭に集まってきていた。

 

「なにをしているのですかロスヴァイセ!!」

 

その中でも理事長までもがやってきた。

 

仮にもヴァルキリーになろうとしている者が子供に向かって攻撃魔法を放とうとしている。

 

明らかに大問題となる事態に理事長が出てきたのは当然である。

 

しかし、時すでに遅くカリフの周りには多くの魔法陣が展開されてカリフに放たれた。

 

さっきの矢と同じ魔力は四方八方から襲いかかってくる。

 

カリフは360度から向かってくるのを感じて初めてアクションを見せた。

 

矢の雨の中から僅かな隙間を見つけてその合間を抜けていく。

 

柔らかい体によるしなやかな舞い、常人に非ず動体視力、そして世界をも凌駕するパワー!!

 

それらを駆使して矢の雨を全て避けるなどカリフにとっては造作も無いことだった。

 

この時はポケットの手も出して時々弾いてはいる。

 

スローモーションの世界にカリフは存在する。

 

否、逆である。

 

カリフが速すぎるだけの話だった。

 

全てを避けきったカリフは矢が集中的に殺到している場所から離れた場所に現れた。

 

「えぇ!? いきなり現れた!?」

 

周りには一連の行動が一瞬で行われたので、カリフが消えてまた現れたとしか見えていない。

 

「……!! でも、まだです!」

「む?」

 

そうすると地面の中から至近距離で向かってきた矢を頭を後ろに退いて避ける。

 

その場をバックステップで移動すると、次々と迫ってくるように矢が地面から突き抜けてくる。

 

「全てが追尾式か。おまけに速いな」

「破壊しなければ止まりません!! 威力はありませんが、当たればただじゃ済みませんよ!!」

「ほう、なら少し遊ぶか」

 

壊れないなら遊ぼう、そう考えたカリフは自慢の足を使って矢の追撃を逃れる。

 

後を追ってくる矢を引きつけておいて瞬間に避ける。

 

瞬間移動で避けると同時にカリフは思った。

 

(これなら丁度いいかもな)

 

思い浮かんだのは生前にベジータも悟空も使っていた回避技

 

速すぎず、絶妙な移動で自分の残像を残す。

 

そして、残像を幾重にも創り出す妙技

 

多重残像拳

 

「なっ!?」

「なにあれ!?」

「たくさんいる!!」

「何かの魔法!?」

 

ギャラリーから驚愕の叫びが聞こえてくる。

 

それもそのはず、今の校庭にはカリフの残像で埋め尽くされているのだから……

 

ロスヴァイセも見たことも無い技に驚愕していると、自分の魔法の変化に気付いた。

 

「矢がコントロールを失った!?」

 

矢は対象の姿を認識して動くため、この残像拳に制御を失っていた。

 

大量の対象の姿に矢が迷いを見せている。

 

そんな状況にロスヴァイセもどうすればいいのか分からずに見ているしかできていなかった。

 

そんな中でもカリフは思った。

 

(……そろそろ終わらせてもいいか)

 

そう思った時、カリフは動きを止める。

 

それによって残像は消えていき、残ったのは地面に手を置いているカリフ本人だけとなった。

 

それを確認した矢は再びカリフの姿を確認して襲いかかる。

 

今度もさっきと同じ全方向からの攻撃

 

普通に避けるのなら可能だが、これを終わらせるには全てを破壊しなければならない。

 

なら、お言葉通り全てを破壊すればいい!!

 

静かに手刀をナイフに変えて……

 

「……!!」

 

呼吸を止めて目を見開く。

 

矢の一つ一つを右手のナイフだけで破壊していく。

 

一歩も動かず、無呼吸での連続攻撃がカリフの身を守っている。

 

一本の腕だけで前、右、左、上、斜め上、後方からの猛攻を全て破壊していく。

 

凄まじいペースで矢が減っていき、カリフにも疲れの色も見えない。

 

そして……

 

最後の一本が

 

 

塵となって消えた。

 

 

『『『……』』』

 

まさに圧巻だった光景をロスヴァイセも含めた全校生徒、教師陣、理事長までもが驚愕に言葉も発することができなくなっていた。

 

その注目の的であるカリフは両腕をプラプラさせて言った。

 

「……今日もまあまあってとこだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっとできた……最高の我が子たちが……」

 

一方では影に撤する者もいた。

 

黒いローブに身を包んだ人物は地の底から聞こえてくるような笑い声を上げる。

 

そして、その前には巨大な双眼が四つも輝いている。

 

「くくく……試作品とはいっても流石はフェンリル……スペックも能力も実に優秀だ……これなら来たるべきオーディンとの一戦にも充分な戦力となろう……」

 

黒い人物は両手を大きく広げて目の前の魔獣に言い放った。

 

「我が子たちよ、これから来たるべき戦闘前の余興として遊んでおいで……なに、大抵のことなら私が口添えすればどうとでもなる……だから……」

 

その時、男は笑った。

 

「存分に遊んでおいで。悪神ロキの名の下に許可しよう……」

 

その瞬間、二体の巨大な狼は巨躯に似合わない俊足でその場から姿を消した。

 

それを見届けたロキと名乗る人物はクックと笑った。

 

「これで血の味でも覚えてくれば最高だな……」

 

 

今ここに、狂暴な魔獣が解き放たれた。

 

場所は北欧の地……嵐が吹き荒れる。

 

 

 

 

 

 

そして、別の場所でも事態は動いていた。

 

「じゃあ四日後に北欧の地に行ってくる」

「はっ!」

「大抵の問題はシェムハザがなんとかしてくれる。こっちはオーディンのクソジジイと話を付けてやる」

「お気をつけください! アザゼルさま!!」

 

今、北欧に新たな物語が刻まれようとしている……

 

そのことは誰にも知る由も無かった。


 
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