No.458375

技術屋外伝 外伝01 第零話 試験前夜

gomadareさん

一応ごまだれのメイン連載である『戦う技術屋さん』の外伝です。
第一話の前夜。386トリオ最後の集合の日。

そして翌日→http://www.tinami.com/view/446201

2012-07-24 01:09:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1831   閲覧ユーザー数:1761

ミッドチルダ西部に位置する10階建てのマンション。

ミッドチルダ南部にある386部隊隊舎からは少し遠いのだが、車通勤であった為、さしたる問題も無く。

現在の108部隊は同じ西部に隊舎がある為、車で10分。かなり近い。

 

そんなマンションの一室は陸士訓練校卒業式の数日後に借りられて以来、ご存知カズヤ・アイカワの現在の家である。

とはいえ、カズヤの物かと言われれば、それは書類上のみの話であり、スバルとティアナが六課に移動する前は、しょっちゅう入り浸っていたし、386部隊の部隊員達も、かみさんに怒られたや飲酒したから車に乗れないなど、様々な理由をつけてカズヤの家に上がり込んでいたので、ある意味386部隊全体の避難所の様な扱いであった。

今回の話は、そんなカズヤ宅での陸戦Bランクの試験前。スバルとティアナが最後にカズヤの家へ来た時の話である。

 

 

***

 

 

カズヤの家は2LDK。その為、一部屋は物置であり、もう一部屋は自室兼開発室兼研究室と役割を兼任している。

実際の所、カズヤはこの部屋以外に貸倉庫を借りているので、態々別に物置を用意する必要も無いのだが、基本的に物を手放せないカズヤにとっては、物が増えても減る事は無いというのが現状。物置だって、元々は開発室と研究室を兼任していて、自室はあくまで自室でしか無かったのだが、余りの物の多さについに研究スペースが無くなり、物置代わりになっているに過ぎない。

一応それを教訓とし、カズヤの自室も物は多いが何とか足の踏み場とベッド、机と椅子は健在。壁一面を覆う本棚には既に読まなくなった紙媒体の書籍や書類がぎっしりと詰まっているし、クローゼットを開ければ少しばかり古い型のデバイスパーツや私服類が溢れているのだが、カズヤの過去を知っている者からすれば、これでもマシになった方であった。

さて、そんなカズヤの自室には現在、三人の人間が(たむろ)していた。

カズヤは基本的に自宅へ人は入れても、研究室や開発室を兼ねている自室へ人を入れる事は無く、現状でカズヤの自室に入れるのはカズヤを除けばスバルとティアナのみ。なので、此処にいる三人も当然その三人である。

現在カズヤは少女二人に背中を向け、机に向かいスバルのローラーを弄っている。解体し、摩耗したパーツを新しい物に変えたり、プログラムを改善したりと忙しなく手を動かしている。

そして残りの二人。その内、ティアナは床にぽっかりと開いたスペースに腰を下ろし、傍らに置かれたチョコレートを食べながら雑誌を眺め、もう一人のスバルは部屋に置かれたベッドを独占し、枕に顔をうずめて特に何もするでもなくのんびりしている。

かれこれ一時間以上この調子。カズヤはともかく、スバルとティアナはカズヤの自室におらずとも、リビング辺りにいれば良さそうだが、この状況が三人にとっての普通。だが、暫くすると流石に飽きたのか、体勢はそのままにスバルは顔を横に向ける。その視線の先には未だに自分のローラーを弄っているカズヤの姿。自分の物を調整して貰っているだけに、邪魔をしたくないというのもスバルの本音であったが、少し位遊んでもと思うのもまたスバルの本音なのだ。

 

『駄目よスバル。アンタのデバイスを調整して貰ってるのに、邪魔するなんて』

 

声をかけるかかけないか。悶々と悩むスバルの脳内に、天使ルックのデフォルメされたティアナが現れ、そう諭した。

その言葉に、邪魔したら悪いよねとスバルが自粛しようとすると、新たに現れたのは何故かティアナと同じ天使ルックのデフォルメカズヤである。

 

『気にしなくてもいいぞ?誘いたければ誘えばいい』

『なんでアンタも天使なのよ!』

『カズヤマジ天使』

『ふざけろ』

 

何時の間にかアンカーガンを構えたデフォルメティアナがデフォルメカズヤの眉間を撃ち抜く。

 

『眉間がぁあああああああ!!!!!!』

 

眉間を押さえ、ゴロゴロと悶える様はスバルの良く知るカズヤと同じ。そして結局答えが出ておらず、デフォルメティアナが勝ったのだし、その意見に従おうと思っているスバルへ、「おい」と何処か不機嫌な声がかかる。

横へ向けたままの姿勢から少しだけ視線を上げれば、ジト目を向けてくるカズヤが居た。

 

「なんか俺にとって凄く不愉快な事、考えてないか?」

「……例えば?」

「俺が眉間を撃ち抜かれて悶えてる姿とか」

「……」

 

私の親友はどうやらエスパーらしい。今まさにそれを考えていた所である。

 

「そ、そんな事無いよ?」

「……まあ、いいけどよ。ほれ、終わったぞ」

「ほんと!?」

「ああ。ちょいと屋上に行こう。軽く試走してくれ。ティア。スバルの試走に屋上行くんだけど」

「え?ああ、終わったの?ちょっと待って、私も行く」

 

雑誌を傍らに置いて、ティアナが立ち上がる。スバルも若干気をつけながらベッドから降り、カズヤは起動済みのE-01を手に取った。

ティアナから順に外に出て、まだ春先で少し肌寒いから一応コートを羽織り。それなりの広さはあるが、三人一緒だと流石に狭い玄関でふざけあう様にして外に出た。

 

 

***

 

 

軽く走った後にウイングロードを発動。加速機構には手をつけて無いから、余り速度は出さないで胴体制御をメインにしてくれと言うカズヤの言葉に従い、スバルはウイングロードの上を少し無理な駆動をしながらも、安定して走って行く。

その様子からどうやら上手くシナジーしている事を感じ、カズヤは一安心。ティアナの方は、関心が無い訳ではないだろうが、そこら辺の事はカズヤに一任しているらしく、自分の周囲のターゲットに素早く照準を合わせるターゲットトレーニングを、先程から黙々とこなしていた。

 

「……うん。もういいぞ、スバル!降りて来てくれ!」

「了……解っ!」

 

カズヤに呼ばれ、態々ウイングロードの上から跳び下りるスバル。空中で二回転を含めたのち、両足から着地。両手を上げての締めのポーズまできっちりと。

 

「10.0!」

「アホか!行動としては0点だ!」

「なんだってー!?」

「お前がこの程度で怪我しない事は重々承知してるが、それでも何かあったらどうする!明日、試験だろ!」

「うぐっ……すいません」

「分かればよろしい」

 

と言いながらも、近づいたカズヤはスバルへデコピンを一つ。それからスバルへローラーを脱ぐように指示をし、先程の走行中、気になった点をスバルへ尋ねる。

 

「あんまり無かったよ?何時もギュオーンって感じだったのが、ギュイーンってなった位」

「訳が分からん。一応聞くが、どっちの方が走り易いんだ?」

「強いて言えばギュオーンかな?」

 

座学の成績はカズヤよりいい癖に、説明は相変わらずであった。ギュオーン、ギュイーンってなんだよと呟きながら、ローラーを点検して見るが、ギュオーン、ギュイーン要素は見当たらない。ただ前の方が走り易いという事は、恐らく新しく変えたパーツが何かしら関係しているのだろうと見当をつけたカズヤ。それなら一度家に戻らなければならないのだが、屋上に来た理由はもう一つあるので、先にそちらから片付けてしまおうと考える。

ティアナの名前をカズヤが呼ぶと、ティアナは訓練を中断し、アンカーガンをホルスターに仕舞いつつ、カズヤとスバルの元へとやって来た。カズヤが二人に座る様に言うと、行う事を知っているティアナは大人しく腰を下ろし、スバルは訳が分からないながらも、ティアナにならって自分も腰を降ろす。

二人が座った事を確認してから、カズヤはE-01を操作し、仮想ウインドウを展開させた。映っているのは翌日に行われる陸戦魔導師Bランク昇格試験の会場となる廃ビル群。漸くスバルも合点がいき、表情を引き締める。

 

「明日の試験の確認だ。明日は覚えているかの簡単な試験を会場に向かいながらするから、これが実質最後だと思ってくれ。特にスバル」

「はーい」

「ティアが説明した方がいいのかもしれないが、ティアもきちんと確認したいって事で、代わりに俺が。分からない事があったら聞く様に」

「カズヤせんせー」

「何だ、スバルくん」

「なんでせんせーはDランクなんですか?」

「試験が面倒で受けていないからだよ」

 

試験が面倒って、先生役としてどうなのだろうか。

 

「カズヤ」

「何だい、ティアくん」

「さっさと始めなさい」

「了解です」

 

生徒の尻に敷かれるなんて、先生役としてどうなのだろうかパート2。

 

「えっと、今回の試験内容は……スバル」

「目標の全破壊しつつ時間内でのゴール!」

「正解。ターゲットは人型の丸型プレート入り。そしてその中には三角形のプレートが入ったダミーもいる。こいつは破壊してはいけない。また妨害用として攻撃用のオートスフィアが点在している。ようはこいつらに攻撃を回避しつつ、ダミーは壊さないようにしながらターゲットを破壊。ゴールを目指せってそう言う事だな。攻撃用スフィアは破壊可だから、邪魔なら確実にこいつを潰して行くのも手だ。必要無いなら、勿論相手にする必要は無い。だけどスバルなんかは後ろから撃たれる可能性もあるから破壊して行った方がいいかも」

「うん」

「逆にティアナは誤射する可能性もあるから、弾数少なめ、必要が無いなら撃つなよ」

「分かってるわよ」

 

二人の解答に満足したのか、カズヤが胸ポケットからボールペンを取り出した。それで何をするのかと思えば、少しだけ弄るとボールペンが長くなる。

 

「面白いだろ、これ。指し棒になるんだぜ?大分前に文具屋で買って以来、芯を変えて使い続けてる逸品だ」

「いや、何度も聞いたし」

「良いからさっさと説明続けなさい」

「へいへい。さて、ルール説明した所で、ルート説明だ。とはいえ単純だな。スタート地点が此処。此処から先ずは近くのビルへ。この中のターゲットを全破壊しつつ移動して、次は幹線道路。此処の三段目を一気に走ってゴールだ」

 

言葉に合わせ指し棒とかしたボールペンを動かして行く。スタート地点のビルの屋上から別のビルへ移動し、そこを一階まで下ってから三段に重なる幹線道路を一気に登ってゴール地点へ。その動きに合わせ、ルート上に赤い線が引かれていく。

 

「全力でスバルが走れば時間内なんて楽勝だが、今回はそれだけじゃない。オートスフィアを突破しないとならんし、ターゲットを壊さないといけないからな。とはいえ、目立った障害はこの三か所」

 

そう言うカズヤはボールペンを動かし、最初のビル、幹線道路入り口、幹線道路一段目から二段目に上がる縦穴を丸で囲む。

 

「分かってはいると思うが、最初のビルはターゲットが多く、更に分散して存在している。その分スフィアも分散しているから攻撃密度は低いが、回避するための範囲も狭い。その為にどうするかは――ティア」

「あたしとスバルが二手に分かれる。外から狙えるターゲットは全部私が。中のターゲットはスバルが」

「ああ。多分、試験官もそれを前提にしている筈。ようは個人能力を見る為の場所だと思えばいいだろ。だからスバル。この時はフォワードトップとしての突破力の見せどころだし、ティアナはシューターとしての正確無比の射撃が見せどころだ。せいぜいアピールするんだな」

「オッケー!全部叩くよ!」

「馬鹿スバル。ダミー叩いたら駄目だからね」

「……分かってるよ!」

 

ほんとかよ、と一瞬思うカズヤとティアナ。しかしその事をおくびにも出さず、カズヤは更に解説を続行していく。

 

「次の幹線道路入り口。スフィア、ターゲット、ダミーが混在している厄介な場所だ。スフィアは一定距離に入れば攻撃を仕掛けてくる。先手は取られるが、こればかりは仕方が無い。近くに狙撃に向いた場所も無いからな」

 

カズヤの言葉通り、幹線道路入り口は開けた場所。幾ら射撃が得意なティアナでも、狙撃はまた違った技術が要求される以上、余り長距離から狙い撃つ、と言うのは難しい。

 

「混戦覚悟。クロスレンジで叩けるスバルを筆頭にするにしても、ある程度ティアナもクロスレンジは覚悟しないと不味いな。それに混戦になる以上、スバルは狙っていなくてもダミーを殴る可能性が捨てきれないし、ティアナも誤射する可能性があるから」

「無茶はしないわ。隠れられる所に隠れて、なるべくスバルと逆サイドを狙いつつ、スバルのサポートに回る」

「良い回答。さて、此処を突破すれば暫くは点在するスフィアとターゲットが続く。それを殲滅し終えたら、第三関門の縦穴だ」

 

最後の丸で囲まれた部分を示す。

 

「此処で厄介な事は何だ?スバル」

「え!?え、えーと……」

「ティア」

「上がった直後の一斉射撃」

「覚えとけよスバル」

「イエッサー……」

「名誉挽回のチャンスをやろう。このエリア、スバルならどうする?」

「撃たれる前に叩く!」

「汚名挽回すんなよ」

 

あれ?とスバルが首を傾げる中、溜息をつくカズヤとティアナ。最悪、この場所ではツーマンセルだから、ティアナが覚えておけばいいだけと言えばその通りだが、流石に理解の有り無しは、作戦の遂行レベルに関わってくるので、教師役のカズヤは幹線道路のエリアを拡大する。

 

「そんな危ない真似をせずとも。他に上がれる場所はあるだろうが」

「でも、その場所にもターゲットってあるよね?」

「当たり前だ」

「じゃあ、迂回ルートは駄目なんじゃない?」

「だから叩くのは確定。でも、この穴から上がれば攻撃される。だがこのタイプのスフィアは基本的に攻撃している間は、他を攻撃する事は出来ない」

「へ?……あ、クロスシフト!何か囮準備して、その囮を攻撃させてる間に、私とティアの一斉射撃で、一気に殲滅!」

「100点」

「やったー!」

 

だが、先程挽回されてしまった汚名のせいで、プラスマイナスゼロである。

 

「因みに、囮にするのは私のアンカーガン。一番確実」

「うん。そうだろうな。じゃあ、最後に。一番の難関。運が悪い事に、確立25%のレアな関門だ」

 

ルート地図を消し、新たに表示したのは大型のスフィア。オートスフィアの何倍もの大きさ。スバルが生唾を飲み込み、ティアナが僅かに目を細める中、カズヤの解説が始まる。

 

「大型狙撃スフィア。お前らの前に立ちはだかる小型のスフィアとは段違いの馬鹿威力に射程距離を持った中距離固定砲台。第三関門終了後、幹線道路移動中のお前らを襲撃してくる。分かっているとは思うが、今のお前らのスキルじゃ、回避も防御もきついからな?」

 

正直、試験内容が郵送されて来た時、カズヤはこれ詰んだよね?と本気で思ったほど。ティアナも暫くは「ないわー」と頭を抱えていたし、スバルは「これ、郵送先、間違えて無い?」と現実逃避していた。

 

「そして何処に設置されるか分からない以上、此方から出向いて叩くって言うのは得策じゃない。下手したらルール違反にもなる。迂回して、なるべく戦わない様にしての突破がベスト。こいつさえ越えれば後は楽勝だしな。以上、ティアナと俺監修の試験突破対策でした。何か質問は?」

 

完全に理解しているティアナは手を上げず。代わりに上げたのはスバルであった。

 

「なんで私じゃなくてカズヤ監修なのかとか色々聞きたいけど、具体的に大型スフィア対策はどうするの?」

「スバルが戦略考えるタイプじゃないからだろうな。頭脳労働は俺とティアの仕事。そしてその対策についてはティアが説明する」

「私が幻術を使いつつ、ゆっくりでも、確実に進めば問題無いわ。なるべく撃たれないように、撃たれたらアンタが防ぐのよ」

「……私!?」

「幻術使ってる時にそんな余裕ないもの。……頼りにしてるわ」

「……カズヤ、大変!ティア、熱があるみたい!」

「みてぇだな。ティア、早く寝た方が――」

「あー、もー、アンタ達は!!」

 

…………………

…………

……

 

「すいません」

「ごめんなさい」

 

珍しく素直なティアナを目撃した結果、混乱したカズヤとスバル。ティアナにボコボコにされて目は覚めたが、体中がズキズキと酷く痛む。

 

「プロレス技のキレっぷりが半端無いですね、ティアさん。女子プロ目指せば?」

「流石ですよ、ティアさん!私の代わりに前に出ればいいと思う!」

「またやられたいの?」

「「ごめんなさい、調子に乗りました。アイアンクローだけは勘弁して下さい」」

 

指を鳴らすティアナに、すかさず土下座する二名。コブラツイストよりもジャーマンスープレックスよりも。ティアナのアイアンクローが怖いとはどういう事か。一応、二人曰く、ティアナのアイアンクローは痛みとか苦しみとか、あらゆる物を超越した何かを叩きこんでくる文字通りの鉄の爪(アイアンクロー)。その超越した何かは、被害にあっている二人にしか分からない。

 

「……まあ、いいわ。明日試験だし。それよりカズヤ。アンタ、明日はどうするの?」

「え?一応着いて行くつもりだけど。試験会場はリニアで行くには不便だし、どうせ送迎するなら、スタート地点で応援でもして、ゴールで待ってるさ」

 

休みも取ったし、と相変わらず正座のまま、顔を上げたカズヤはそう言う。

 

「成る程。じゃあ、明日の移動手段については気にしなくていい訳ね」

「そうなるな。さて、んじゃ、家に戻ろうぜ?明日の見直しも済んだし、スバルのローラーを少し弄らないといけないから」

「そうね」

 

もう怒っている様子無く、安心して立ち上がるカズヤ。それに倣いスバルも立ち上がろうとし――転ぶ。

何事かとカズヤとティアナがスバルを見れば、足を押さえて悶える姿があった。

 

「足……痺れた……」

「……さて、戻りましょうか」

「そうだな。今日は徹夜かなー?」

 

テクテクと屋上を歩き、扉の向こうに消えるカズヤとティアナ。

 

「……え?あれ!?ちょ、ちょっと!おーい!ティアー!カズヤー!」

 

あとに残されたスバル。身じろぎして足をぶつけ、痺れに耐えながらも必死に叫ぶ。

 

「呼んでるぞ?」

「アンタでしょうが」

「いや、先に呼ばれたのティアだし」

 

その声を、扉の向こうで聞くティアナとカズヤ。別に悪ふざけで置いて行くつもりも無いので、少し待ってからカズヤが戻ろうとすると、その前にティアナに呼びとめられた。

 

「何?」

「スバルのローラーもあるのは分かってるけど、私のアンカーガンもお願い出来る?」

 

苦笑交じりに差し出されたアンカーガンを、カズヤは笑みを浮かべて受け取った。

 

「勿論。でももうちょっと早く言って欲しかったな」

「悪いとは思ってるわよ。アンタがスバルのローラーに付きっきりだったから言いだしづらかったの」

「それは失敬。でも気にしなくてもいいぞ?優先順位は高いから」

「―――ッ!さっさとスバルの事、迎えに行って来なさい!」

「へーへー」

 

若干頬を染めたティアナの様子をクスクス笑いながら、カズヤが再び屋上へ戻る。

痺れた足を抱えたまま、横になって丸くなっているスバルを見つけ、苦笑を浮かべながら近づいて行く。

 

「ほれ、戻るぞ」

「いいもん。二人で戻ればいいじゃん」

「拗ねるなって」

 

ポンポンとスバルの頭を撫で、それから横抱きに抱え上げる。俗に言うお姫様抱っこという姿勢。スバルとしては足に触られて地味に残った痺れが辛い。

 

「……カズヤ、足痛いんだけど」

「我慢」

「えー……」

 

まあ、そこまで我慢できない訳でも無いからいいのだけど。

とりあえず、この意地悪な親友に落とされないように、スバルはカズヤの首に手を回す。流石に少し恥ずかしく、スバルは僅かに顔を反らし、その様子にカズヤはキョトンとしてから、にやりと意地の悪い笑みを浮かべた。

そしてその様子を見ていたティアナが壁を殴っていたのだが、二人と合流した時点では元通り。三人揃ってカズヤの部屋へと戻って行く。

 

因みにこの翌日。気絶したカズヤをスバルがお姫様抱っこして運ぶのだが、この時点の三人がその事を知る筈も無い。

 


 
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