エステル達はティータに案内され、ある家に着いて中に入って行った。
~ツァイス市内・ラッセル家~
「えへへ……。これがわたしの家です。」
「ほう。ここがラッセル博士の住居か……」
「へ~、いいお家じゃない。」
「わあ……これがティータちゃんの家なんだ!」
リフィアは興味深そうに家の中を見渡し、エステルやミントも同じように見渡した。
「ラッセル博士はどこにいらっしゃるのかな?」
「おじいちゃんなら工房の方にいると思います。その扉の向こう側です。」
ヨシュアの疑問にティータは玄関とは別に着いている扉を指し示した。
「それじゃあ早速、挨拶させてもらいますか。」
扉の中に入って行き、ティータの案内で扉の先の部屋にある階段をエステル達は上って行った。
「おじいちゃん、ただいまぁ。」
「……むむむ………。ここをこうして、こうすれば……。くぬぬぬぬっ……!……ぬおおおっ…………」
そこにはティータの呼びかけにも答えず、椅子に座って一心不乱に机の上にある導力器らしき物を熱心に作業している老人――ラッセル博士がいた。
「……あ。」
「あ、その人ね。」
博士の様子にティータは気不味そうな表情をした。ティータの様子に気付かず、エステルは博士に挨拶に向かった。
「あの~、初めまして。あたし、遊撃士協会のエステル・ブライトっていいます。実は、博士に相談したいことが……」
「………………………………………………………………」
「……あり?」
エステルの挨拶に何も答えず、ただ作業している博士にエステルは首を傾げた。その時博士が立ち上がって大声を出した。
「で、できたあああっ!」
「ひえっ!?」
「ひゃっ!?」
「ッ!?」
博士の大声にエステルやミント、ツーヤは驚いた後一歩後退した。
「わはは、やったわい!ついに完成したぞおおおっ!さすがワシ!すごいぞワシ!うむ、こいつは早速、テストせねばなるまいてっ!」
博士はエステル達には一切気付かず、1階に降りて行った。
「わぁっ!な、なんなのよ~!?」
「ご、ごめんなさい、エステルさん。おじいちゃん、発明に夢中になるとまわりが目に入らなくなって……。数日前から造っていた装置がようやく完成したみたいなんです。」
「なるほど……。さすが天才って感じだね。」
「そ、そういう問題じゃないと思うんですけど……」
感心しているヨシュアにエステルは呆れて溜息を吐いた。
「め、面目ないですぅ……」
エステルの言葉を聞いたティータは気不味そうな表情になった。
「うわ~……それってリフィアとそっくりていう意味じゃない……嫌な予感。」
「エヴリーヌ、それはどういう意味だ?」
「お、お姉様。抑えて下さい。それより、ラッセル博士とは昔からああいう方だったんですか?」
博士の事を知り、思わず呟いたエヴリーヌを睨んでいるリフィアを宥めたプリネは話を変えるために博士の事を尋ねた。
「ああ。魔導技術の事を知った時、周りの技術者達に抑えられながらもリウイに魔導技術の詳細を迫っていたほどだ。興味がある事があれば周囲の目は一切入らないのは以前と全く変わっていないな。」
「なるほど。(確かにリフィアお姉様とよく似た方ですね………)」
そしてエステル達は博士を追い、1階に降りた。1階に降りると博士が何かの設計図らしき紙を見ていた。
「おじいちゃん、あのね。このお姉ちゃんたちが相談したいことがあって……」
「ん……?おお、ティータ!いいところに戻ってきたのう!今からテストをするからデータ収集を手伝ってくれ。」
「え、でも、あのね……」
「今度の発明は、生体感知器を無効にするオーブメントじゃ。特殊な導力場を発生して走査(スキャン)をごまかすわけじゃな。」
「ほ、ほんとー?」
エステル達のために博士の作業を止めようと声をかけたティータだったが、博士の言葉に作業を止めさせる事を忘れてティータは興味深そうな表情をした。
「ホントもホント。掛け値なしの新発明じゃ!ほれほれ、いいから、起動テストの手伝いをせい!」
「うんっ!」
そしてティータは博士と共に部屋に備え付けてある複雑そうな装置を動かし始めた。
「……あの~。」
「うーん。しばらくかかりそうだね。」
博士達の様子を見てエステルはジト目で声をかけたが答えは帰って来ず、ヨシュアは苦笑した。その時博士は手を止め、振り向いて次々とエステル達に指示をした。
「ほれ、そこの黒髪の!」
「え、僕のことですか?」
「他に誰がおる?2階の本棚から『導力場における斥力値』というノートを持ってくるんじゃ!ほれほれ、とっとと急がんか!」
「は、はい、わかりました。」
博士の勢いに押されたヨシュアは2階に走って行った。
「ちょ、ちょっとヨシュア……」
「ほれ、そこの触角みたいな髪したの!」
「しょ、触角……。あ、あんですって~!?」
博士に言われた自分の特徴にエステルは怒ったが
「ぼけーっとしとらんでコーヒーでも淹れてこんか!」
「な、なんであたしがっ!?」
「ちなみにワシはブラックじゃ。泥のように濃いヤツを頼むぞ。」
「聞いてないし……。はあ、もう、わかったわよ。」
「あ、ママ。ミントも手伝うね。」
話を聞かず一方的に指示をする博士と言い合いをしても無駄とわかり、溜息をついてミントと共に部屋を出た。
「ほれ、そこの赤髪!」
「なんでしょうか?」
「コーヒーと共に摘まめる菓子を作って来てくれい!とびっきり甘いやつを頼むぞ。」
「は、はあ………」
「ご主人様、お手伝いします。」
プリネは戸惑いながらツーヤと共に部屋を出た。
「後、そこの変な帽子のと銀髪!」
「………嫌な予感。」
「へ、変な帽子じゃと!?これは余が気にいっている帽子なのじゃぞ!?」
「ごちゃごちゃ言わずにここに書いた物を道具屋から調達してこんか!他の者達は動き回っているのにお前達だけサボるつもりか?」
怒っているリフィアを気にせず、博士はメモをリフィアに渡した。
「ぐぬ……妹が働いて、妹の手本となる余達が高みの見物する訳にもいかぬか……全く何故余が人の使い等を……ブツブツ。」
「はあ………こんな事ならギルドでお留守番しとけばよかった………」
痛い所を突かれたリフィアとエヴリーヌは文句を言いながら部屋を出た。そしてティータが作業を終えた。
「……うん、ばっちり♪おじいちゃん。こっちの設定は終わったよ。」
「おお、さすが早いな」
「あれ……。そういえば……エステルさん達は?」
「誰じゃ、それ?………………………………」
ティータの言葉に博士は首を傾げた。
「そういえば、見覚えのない若い助手どもがいたが……。はて、マードックのやつがよこした新人かのう?」
「お、おじいちゃあん……」
無関係のエステル達を手伝わせている事にティータは溜息をついた。
こうして、エステル達は成り行きで実験を手伝うことになり、実験が終わった頃にはすっかり夕方になっていた……
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第94話