No.457177

IS(インフィニット・ストラトス)―皇軍兵士よ気高くあれ―

珠鋼さん

帝国海軍航空隊『特務零戦隊』に所属する桐島春樹は、祖国を、そして大切なものを守るため、命を賭して戦い、戦場にその命を散らした。だが、彼は唐突に現れた女神(自称)により、新たな世界に転生させられることとなる。そして彼は新たな世界でもう一度戦場を駆け抜ける。そう、全ては大切なものを守るために。 ※オリ主・オリ設定ものです。その手の作品が苦手な方、またオリ主の設定に対して「不謹慎だ!」と思われる方は戻ることを推奨します。基本は原作に沿って話を進めていきますが、所々で原作ブレイク上等という場面があるかもしれませんし、所々でおかしな点が見受けられるかもしれません。それでも構わないという方は本編へどうぞ。

2012-07-22 01:23:07 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1473   閲覧ユーザー数:1411

 

 

 

第04話 数十年越しの帰還

 

 

 

 

結論から言うと、春樹の放った言葉は一言一句違ええることなく姫川に伝わっていた。

 

といっても、春樹の言葉を直接聞き取ったわけではなく、先程同様ISのハイパーセンサーで春樹の口の動きを読み取ったからなのだが。

 

「………………」

 

まぁそれはさておき、春樹の言葉は“化け物”という単語までしっかりと伝わっていた。

 

そして、それは姫川の逆鱗に触れるのに充分過ぎる程の力を持っていた。

 

「……………………」

 

『あ、あのぅ、姫川二尉?』

 

通信越しにも伝わってくる殺気と怒気の混ざった沈黙に耐えられなくなったのか、オペレーターが若干弱々しい口調で声を掛けてくる。

 

だが、次に姫川の口から発せられた言葉はオペレーターに対する返事ではなかった。

 

「…………そっか、化け物か」

 

ひしひしと伝わってくる怒気や殺気とは真逆の、ひどく穏やかな口調で、姫川が呟いた。

 

『えっと………姫川二尉?』

 

不自然なくらいに穏やかな姫川の声音に言い知れぬ恐怖を感じつつ、オペレーターが恐る恐るといった風に尋ねてくる。

 

だが、姫川の耳にはそれが届いておらず、彼女は先程と同じとても穏やかな口調で続けた。

 

「そうかそうか、私は“お化け”から“化け物”に昇格したってわけ。なるほどなるほど」

 

穏やかな口調と穏やかな表情でしきりに頷く姫川。しかし、その目は一ミリどころか一ミクロンだって笑っていなかった。

 

「………ふふ」

 

『?』

 

「うふふ、ふふふ」

 

『ひ、姫川二尉?』

 

「あはは、あははは」

 

『あ、あの、姫川二尉? 一体どうし――――――――』

 

「アッハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

『ひ、姫川二尉!? お、お気を確かに!!』

 

オペレーターが全力で姫川に呼び掛ける。だが、例の如く姫川の耳には届いていなかった。

 

(あはは、もう駄目だ)

 

そこで、姫川の中で何かが―――――――――キレた。

 

 

 

 

「よしっ!! 殺そう!!」

 

 

 

 

そう叫んだ直後、姫川の手に一丁の((自動小銃|アサルトライフル))が出現する。

 

名前は『20式自動小銃』。「IS本体から専用装備に至るまで純国産」という方針から開発・生産された、日本でも数少ないIS専用武装の一つである。

 

「さぁて、祭りの『だ、駄目ですよ!!』ん?」

 

ライフル片手に呟いた姫川に、オペレーターが全力でつっこむ。

 

その甲斐あってか、先程までは届いていなかったオペレーターの声も姫川の耳に入っていた。

 

「駄目ですか?」

 

『絶対に駄目です!! 憲法9条があるでしょう!?』

 

その言葉を聞いた瞬間、姫川は若干顔をしかめた。

 

「確かにそうですけど…………でも、そんなこと気にしてたら手遅れになるかもしれませんよ? 前世紀の遺物とはいえあれも一応戦闘機なわけですし、何かあったら叩かれるのは((自衛隊|わたしたち))なんですからね」

 

『そうだとしても、敵か味方かの判別がついていない以上は、威嚇射撃も戦闘も許可できません。もしもあれが民間機だったら、それこそ大問題ですよ?』

 

「う……………」

 

オペレーターの言葉に、姫川は言葉を詰まらせる。

 

そう。限りなく低いとはいえ、あの零戦が民間人の所有物である可能性もゼロではない(何せこの世に“絶対”という言葉は存在しない)のだ。

 

もしオペレーターの言う通り、あの零戦が民間人の物で、仮に姫川が撃墜してしまったとしたら、もう叩かれるどころではない。確実に業務上過失致死で刑務所(ブタ箱)行きだ。

 

「…………了解しました」

 

さすがにそれは勘弁願いたい。そんな理由から、姫川は渋々了承した。

 

「そうなると、やはりあの機体は厚木へ?」

 

『はい。厚木基地の方まで誘導してください。あの機体のパイロットには聞かなければならないことがたくさんあるので』

 

聞かなければならないこと。十中八九、先程の現象のことだろう。あとはパイロットの素性や何故零戦で飛んでいたのかについてか。

 

「了解しました。あ、射撃は駄目でも銃で脅すくらいはいいですよね?」

 

『まぁ、そのぐらいであれば……………』

 

「了解しました。それでは」

 

短くそう答え、姫川は零戦の追跡を開始した。

 

 

 

 

 

「奴は………くそ、まだ追ってく―――――ん?」

 

再び前方に目を向けた瞬間、春樹の視界に“ある景色”が飛び込んできた。

 

「あれは………街、なのか?」

 

彼の目に飛び込んできた景色。それは高層建築物が乱立する臨海都市だった。

 

「凄いな。俺の住んでた世界とはえらい違いだ」

 

まるで競い合うように建ち並ぶ高層建築物、舗装された道路、あらゆる形状をした凄まじい量の自動車、そのどれもが春樹の見たことないもので溢れかえっていた。

 

(なるほど、これ程まで技術レベルに開きがあれば、航空機を用いずに空を飛ぶ方法の一つや二つ、あっても何ら不思議ではないな)

 

よくよく考えてみれば、あの女が身に纏っていたのも、鎧というよりは何らかの機械装置といった風情だった気がする。

 

となると、あれはお化けや化け物の類なんかではなく、れっきとした人間ということになる。あの時は気が動転していてそれどころではなかったが。

 

「だとしたら、とんでもないことをしたな。出会い頭に人のことを化け物呼ばわりなて……………まぁ、機体のエンジン音がうるさかったからさすがに聞こえていないだろうが」

 

この時、春樹は心からそう思っていた。

 

だが、この数秒後。春樹はその考えが間違いだったということを、その身をもって思い知らされることになる。

 

「さて、あの女は」

 

言いながら、ふと後ろを振り返った直後、春樹は目を見開き、絶句した。

 

まぁ、それも無理からぬことだろう。何せ――――――――――

 

「ぜ、前言撤回!! やっぱりあいつは正真正銘の化け物だっ!!」

 

殺気を全快にした件の女が、小銃片手にこちらへ向かってきているのだから。

 

 

 

 

 

「なぁ、弾。ふと思ったんだけどさ」

 

「あ? なんだよ突然」

 

「………藍越学園とIS学園って、似てるよな」

 

「…………………」

 

「おい、なんだよ。その可哀想なものを見るような目は」

 

「………いや、いいんだ。お前はそういうやつだからな」

 

「何の話だ。何の」

 

「いいんだよ。なんでも。………っつかよ、一夏」

 

「ん? どうした?」

 

「お前、そんなこと考えてて、受験の方は大丈夫なのかよ」

 

「んー。まぁ大丈夫だろ。模試での判定はAだったし、ってか成績で言えば弾より俺の方が上だぞ?」

 

「いや、俺が言いたいのはそういうことじゃなくてな」

 

「ん? じゃあ、どういうことだ?」

 

「………………」

 

「黙るなよ」

 

「いや………お前、ちゃんと試験会場まで行けるのかな、と」

 

「…………お前は俺を馬鹿にしてるのか?」

 

「いや、だってよ。お前の場合だと、素で藍越学園とIS学園の試験会場を間違えそうだからな」

 

「馬鹿にするな。さすがにそんな抜けた間違いはしない」

 

「だといいけどな。それにしても………はぁ、IS学園か」

 

「なんだ? 弾はIS学園に入学したいのか?」

 

「当たり前だろ!? もし入学できたら三年間ハーレム状態が続くんだぞ!? 男だったら絶対に心躍るだろ!?」

 

「………そうか? ただ肩身狭いだけだと思うぜ?」

 

「…………お前に同意を求めた俺が馬鹿だったよ」

 

「何故そうなる」

 

「黙れリア充。爆発しろ」

 

「だから、何でだよ」

 

「うるせぇ!! お前なんか豆腐の角に頭ぶつけて――――――――――」

 

 

 

 

ゴオォォォッ!!

 

 

 

 

「ん? なんだ」

 

「どうせセスナか何かだろ。音がデカ過ぎんのが気になるが…………。そんなことより話の続きだがない一夏―――――――って一夏?」

 

上空を見上げたまま目を見開いている友人に対し、少年は訝しげに声を掛ける。

 

それに対し、彼の友人は空を見上げたまま、震える声でこう答えた。

 

「なぁ弾。“零戦”が空を飛んでるんだが………………」

 

「は? 何言ってんだ?」

 

「いや、ほら……………」

 

そう言って、少年の友人は空を指差す。

 

対する少年は半信半疑ながらも、少年の指差す方向に目を向け、驚愕に目を見開いた。

 

「うそ、だろ?」

 

少年の目に写ったもの。それは確かに旧帝国海軍の名戦闘機『零戦』そのものだった。

 

「マジかよ…………。夢でも見てんじゃないだろうな」

 

「いや、それはないだろ。周りの連中だって、ほら」

 

少年たちは試しに目を擦ったりするが、目を擦っても零戦はそのまま。おまけに周囲の人間にいあtっては各々の携帯電話を取り出して写真まで撮っている。

 

「現実、か。でも、なんだって零戦なんかがこんなところに……………」

 

「どこぞのミリオタが飛ばしてんのか? にしてはやけにリアルな……………」

 

戸惑いを露に、少年たちは言葉を交わす。周囲の人間たちも、困惑からざわめきが起こっていた。

 

だが、驚愕の事態はこれだけに留まらなかった。

 

「ん? っ! おい、あれ見ろ!」

 

「何だ? 零戦の後ろに何か…………」

 

「ISだ! 航空自衛隊のISだ!」

 

誰かが声を上げ、空を指差す。

 

その先には、やはり誰かが叫んだ通り、航空自衛隊のISが空を舞っていた。

 

「なんか、異様な光景だな」

 

「まぁな。何て言うか…………」

 

空を凝視しながら、少年たちは呆然と呟いた。

 

それはそうだろう。何せISと零戦という本来ならあり得るはずのない、時代を超えた組み合わせなのだ。驚かない方がどうかしてる。

 

もっとも、次の瞬間に少年たちが目にした光景は、そんな気分が吹き飛ぶくらい衝撃的なものだったが。

 

「なっ!? お、おい!!」

 

「ぶつかるぞっ!!」

 

若干蒼白になりながら、少年たちは悲鳴じみた声でそう叫ぶ。

 

当然だろう。何せ零戦が近くのビルに突っ込みそうになっているのだから。

 

回避は不可能。彼我の距離はそこまで離れているわけではないし、今からでは上昇したとしてもビルを回避することはできない。

 

「に、逃げろ!」

 

誰かが叫び、人々は我先にと逃げようとする。

 

だが、彼らの思い描いた未来が現実になることはなかった。

 

「「はぁっ!?」」

 

驚愕のあまり、思わずそう叫ぶ少年たち。他の人間も声こそ上げてはいないが、皆一様に驚愕に目を見開いていた。

 

それもそのはず、何せ件の零戦が“機体を横にしてビルとビルの僅かな隙間を通り抜けていった”のだから。

 

「「…………………」」

 

しばし絶句。まぁそんな達人も真っ青な芸当を見せられては当然だろうが。

 

そして、そんな彼らを他所に、空自のISは悠々と零戦の後を追っていく。それを見送りながら、少年たちは呟いた。

 

「「な、なんて現実だ……………」」

 

と。

 

 

 

 

 

「し、死ぬかと思った……………」

 

横になった操縦席の中で、春樹は思わず呟いた。

 

(一歩間違えれば大惨事だったからな、咄嗟に反応できて本当に良かった)

 

これも実戦と鍛錬で培った反射神経のおかげかな。そんなことを考えながら、春樹は安堵の溜め息をついた。

 

そして、彼はふと自分が重要なことを忘れていることに気が付いた。

 

「そうだ。あの女は」

 

言いつつ、慌てて背後を振り返る。だが――――――――

 

「いない、だと?」

 

零戦のすぐ後方、そこに求めていた女の姿は見当たらなかった。

 

逃げた? ありえない。そんな簡単に引き下がるなら端から追いかけてなどこない。

 

ならばこの隙間を通って来れなかったのか? それこそありえない。零戦でさえ通過できたのだ、あの鎧が通過できない道理はない。

 

(なら、一体どこへ……………)

 

ビルの隙間を抜け、零戦を元の水平姿勢にもどしながら、春樹は思考する。

 

しかし、この時の彼は一つ、あることを失念していた。

 

空中戦闘は、何も背後のみが全てではない、ということを。

 

 

 

 

ゴツン

 

 

 

 

「ん? 今のは――――――――」

 

言いながら、春樹は音のした真上へと目を向け、絶句した。

 

言うまでもなく、そこにいたのは先程の女だった。

 

ちなみに、先程の音の正体は彼女が銃口を風防ガラスに押し付けた音である。

 

「―――――、――――――――」

 

銃口をこちらにむけながら、女は何事かを口にする。

 

相変わらず声は聞こえてこないが、今の春樹には彼女の言わんとしていることがすぐに理解できた。

 

「ツイテコイ、サモナキャコロス」

 

今の春樹に、選択の余地などあるはずもなかった。


 
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