No.457030 魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 二十話2012-07-21 22:47:26 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:2345 閲覧ユーザー数:2247 |
「アル……ハザード……」
「馬鹿なことを!!」
クロノは未だに鳴り止まぬアラートの中で自身のデバイスである『S2U』を解放させて出動に向かおうとする。それを見たエイミィは慌てて呼び止めようとする。
「クロノくん!!」
「僕が止めてくる!! ゲートを開いて!!」
それに応じてかエイミィはゲートを開くためにプログラムを入力している。
クロノはそのまま現場に向かおうとしたその時……
乾いた音が
アースラに響いた。
「……え?」
フェイトは混乱していた。
先程までに自分の心を抉った母からの拒絶の言葉が未だに胸の中を貪っていた。
もう何も考えることができなくなった時、自分の首が急に弾かれた。
何がなんだかわからなくて、頭の中がぐちゃぐちゃになっていると、今度は頬が熱くなった。
なんで? なにが起きたの?
私が混乱していると、突然にアルフが牙をむき出しにして跳びかかった。
「何してんだお前はあぁぁぁぁぁ!!」
今まで見たこともない様な形相でアルフはカリフの襟元を掴んで強引に持ち上げた。
ここで理解できた。私をビンタしたのは……カリフだった。
他の人も、提督だと呼ばれていた人もカリフの行為に固まってしまい、アースラ内にはアラームの音とアルフの感情の高ぶりからくる荒い息使いの音しか聞こえなくなっていた。
だけど、カリフは目の前のアルフに対して脅えるどころか無表情のままいつもの感じで口を開いた。
「何してやがる……離せ」
「うるさい!! お前……!! フェイトを殴って……なんのつもりだい!!」
カリフの命令に耳も貸さずにアルフは涙を流しながら怒りの表情でカリフを責め立てる。
ここでカリフはあろうことか笑みを浮かべた。
「なんのつもりだぁ?……くだらねえことでグチグチ悩みやがって……心底オレを苛立たせたくれたか、それだけだ」
「カリフ!! なんてことを!!」
「あんまりすぎるよ!!」
冷笑のカリフにユーノもなのはも我慢できなくなってカリフを責め立てる。
だが、カリフは再び冷笑から無表情に変えて言い放った。
「なら聞くが、フェイトがアリシアとかいう奴のクローンなのは分かった。だが、そこに何の問題があるのか?」
「あるに決まってんだろ!! フェイトは……フェイトはアリシアの……!!」
ここから決定的だった。
アルフの言わんとすることが容易に想像できたカリフは……
胸に怒気を抱き、
思いの丈を爆発させた
「“偽物”だというのかっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
『『『!!』』』
カリフにはどうしても許せなかった。
誰もが“オリジナル”と“クローン”の間に境界線を引いていることに
「フェイトが……こいつが“アリシア”の偽物……ダミーだと本気で思っているのか!?」
「ち……ちが……」
「いいや!! お前は……お前等はフェイトが“クローン”だという理由だけで憐れんだと言っているんだ!! エェ!!」
カリフにはどうしても許せなかった。
誰もが“今を生きる”フェイトを見てくれなくなったことに
「“クローン”だからどうした!? クローンは生きてはならないと本気で言い切るつもりか!?」
「違う!! そんなこと思っちゃいない!!」
「なら、そんなことで悩むんじゃねえ!! いい加減に離しやがれ!!」
カリフはアルフの腕を強引に振りほどいて地面に足を付けた。
そして、俯くフェイトの傍にまで来て彼女の顔を覗き込むような姿勢で呼びかける。
「ならば聞くぞフェイト……お前は自分を“偽物”と認める気か?」
「……」
「このまま一生をアリシアの影に隠れて生きていけるのか!?」
カリフは問いかける。
フェイトにではなく、フェイトの“魂”そのものに呼びかける。
フェイトは静かに口を開いた。
「でも……母さんは私を……“人形”って……」
「他人の評価などに一っ切の耳も貸すな!! 他人の好き勝手な、真意の籠っていない慰み、同情は何も生まない!! 夕刻の独り言よりも心に響かない評価に流される先など高が知れている!! 生きたくば腹から込めて堂々と言うがいい!! 己の、名を!!」
カリフの言葉にフェイトの心と頭がかき乱されていく。傍から聞けばただの妄言、虚勢に思う。
だが、そんな言葉がフェイトの心を揺さぶっていた。
カリフは知っている。
実際に自分が“偽物”だとしても、真にすべきことはなんであるかを……
それは“後悔”に堕落することでもなければ“絶望”に歩みを止めることでもない。
「自分を認めろ!! お前には天から賜りし“命”がある!! 肉を喰らい、水で命を潤し、喜びも悲しみも……“愛されたい”と感じる心がある!! それが全て偽物だと言えるのか!?」
否っ!!
「喜びも哀しみもお前だけの生き方も、思いもまっすぐに砕けないお前だけの自由意思!! その意思こそが人間賛歌だ!」
後悔する暇があるなら喜びを噛みしめろ!! 絶望する暇があるなら哀しみを胸に抱け!!
「人間の賛歌は勇気の賛歌!! 人間の素晴らしさは勇気の素晴らしさ!! 今の弱さも勇気と共に支配しろ!! 自分を認め、信じる勇気を持て!!」
オレを育んでくれた父親がオレに説いた言葉をこの場で受け継がせる。
フェイトは……“昔”のオレなのだから!!
「その勇気を知らなければお前はノミと同類だァーーーーー!」
「……」
カリフの言葉に今まで動く事さえしなかったフェイトはゆっくりと立ち上がった。
その手に砕けたバルディッシュを持って……
「フェイトちゃん……」
なのはが呼びかけると、フェイトは俯きながら少し反応した。
しばらく経つと、フェイトはカリフに向き直って言った。
「私……今まで母さんに認めて欲しかったから……生きていきたいと思ってた……そうでなきゃ生きられないって思ってた……」
「……」
「捨てればいいって訳じゃない、逃げればいいって訳じゃ……もっとない」
「フェイトちゃん……」
なのはは自分が言った言葉を涙を流しながら反芻するフェイトに胸が熱くなる。
「……私は未だに母さんに縋っている……認めてもらいたいって思ってる……」
「……」
「私って……どうしようもないのかなぁ?」
フェイトからの問いにカリフは少し考え……
「それがお前の“人生”なのだろう? フェイト・テスタロッサ」
何の迷いもなくそう言った。
胸の中の何かが満たされた気がした。
まるで、今まで解けなかったパズルの最後のピースが見つかったように……
「アルフ……私のこと……どう思う?」
「……フェイトはあたしの主であり、家族じゃないか……」
「……そうだよね……ごめんね……今まで心配かけて……」
「フェイト……」
フェイトをアルフがゆっくりと抱きしめる。
こうしてお互いを“認め”合い、彼女たちは本当の家族となった。
しばらく抱き合ったところで、フェイトは涙を拭いて自分の足で立ち上がる。
「私は……私の“人生”はまだ始まってもいなかった……」
「……ならどうしたい?」
「私は……」
フェイトの瞳に光が戻った。
それと同時にバルディッシュが展開され、傷が全て回復した。
まるでフェイトの心を表すかのように……
カリフはフェイトの答えを見て笑みを浮かべた。
「それが……答えだな?」
「うん……私は始めるんだ……私だけの人生を……!」
「そうだ!! それこそがお前の答えであり、お前だけの“人生賛歌”だ!! 存分に生きろ!! それがお前の人生だから!!」
「うん……ありがとう……」
フェイトは黒のバリアジャケットに身を包んだ。
それを見たアルフは涙を見せながらもフェイトの復活を喜んでいた。
そして、カリフはなのはたちを見据えて聞いた。
「お前たちはどうする」……と。
もちろん、なのはたちの答えは決まっていた。
「私は行く!! フェイトちゃんが頑張っているから!!」
「僕も!! 今回の件は僕の責任でもある……だからここで終わらせる!!」
「言うまでもない!! 僕には世界を守る義務がある!!」
なのは、ユーノ、クロノの答えを聞き、カリフは抑えきれない笑みを浮かべて号令をかけた。
「覚悟上等!! ならば全員で乗り込んでやろうじゃないか!!」
颯爽とゲートへ体を向けた時、誰にも聞こえない様に呟いた。
「プレシア……お前との契約が切れた今、フェイトとの約束を貫く……悪く思うなよ?」
口では詫びながらも、不敵に笑いながらゲートをくぐった。
決戦は時の庭園にて決まる……
カリフ、なのは、フェイト、アルフ、ユーノ、クロノは時の庭園の入り口前に集結し、目の前を凝視していた。
「一杯いるね」
「まだ入り口だ。中にはもっといるよ」
なのはたちに立ち塞がるのは多数の機械兵士である。
一つ一つの戦闘力はAランクであり、並の攻撃では破壊は無理である。
それでもやるしかない。
そう思ってクロノが構えた時、カリフがゆったりとクロノたちの前に躍り出た。
「カリフくん? なにを……」
「なにって……こんなガラクタ相手に無駄弾が必要か?」
「だが、そうも言ってられない。多少はうっとおしいが、ここは魔法で一気に片付ける!」
意気込むクロノにカリフは頭をガリガリと掻いてバツが悪そうに呟いた。
「不本意とはいえ、オレの都合で大幅に時間をロスしちまったからな……責任持ってオレがこいつらを“全て”“一気に”葬ってやる」
腕を組んでとんでもない発言をするカリフに全員が驚愕し、フェイトが渋った。
「そんなの無茶だよ! この数を一気になんて!」
「あんたが強いのは分かるけど、限度ってのがあるよ!」
フェイトとアルフの説得にカリフは可笑しそうに笑いながら一歩踏み出す。
「なら、ついでに見せてやろう……オレだけの“人生賛歌”ってやつを」
「カリフの……人生賛歌?」
意味深な言葉にユーノが首を捻るも、その間にもカリフは機械兵との距離をジリジリと詰める。
「来いよ。ターゲットはここにいるぜ」
そう言いながらある程度近付いた時だった。
一体の斧を持った機械兵が襲いかかり、巨大な斧を振り下ろした。
「カリフ!!」
フェイトの悲鳴が木霊する中、カリフは左手だけを天に掲げ……
「……え?」
左手の指二本だけで凶刃を止めた。
「うわぁ!」
「う……ぐ……」
「いやあぁぁぁ!」
「うぅ……」
「こ……これは……」
伝わる衝撃でなのはたちは飛ばされない様に踏ん張るが、その中心であるカリフだけは左手だけで自分の身長の十倍以上もある巨大な斧を軽々と持っている。
機械兵は斧を引っ込めようとするが、いくら引っ張ってもカリフの指から離れない。
それどころか機械兵の足元が陥没するほど足を動かして後退しようとしているのに、カリフは依然として左手だけで斧を掴み、何より一歩も動くことは無い。
明らかに機械兵の方がパワー負けしている。
どんな素人が見ても、はっきりとそう分かるほどに明確な差が出ていた。
そして、機械兵は諦めたかのように引っ張るのを止めると、今度は後方の機械兵がカリフを相手している機械兵を押すように次々と流れ込んできた。
機械兵の大群はカリフを壁にでも圧し潰そうとしているらしい。
だが、それでもカリフはほんの一ミリも動かない。
鈍い音をたててタックルしてくる機械兵が10、20、30と数が増えてくるのにも関わらずにカリフは未だに微笑を浮かべながら二本の指だけで堪えている。
あまりの光景になのはたちも声すら出せなくなっていた。
そして、機械兵がそろそろ100にまでいこうとした時、カリフが動いた。
「ふぅ~……」
カリフの何気ない一歩が機械兵の大群を後退させる。
現在の機械兵がカリフに与えている力はおおよそで換算しても一万トンは既に越えている。
それはつまり、今のカリフは利き手でない左手の指二本だけで核爆弾級の衝撃に対抗し得るという信じ難い結果となっている。
測定しているアースらのブリッジは今頃口を開けて呆然としている頃だろう。
「……腐った生ごみと同列のガラクタが……だれの断りを入れてオレの体に触ろうとしている?」
カリフはまた一歩踏み出し、大群をさらに後退させる。
そして……カリフは唸った。
「しゃらくせえんだよぉ!! 無礼者ぉ!!」
血走った眼球を露わにさせながら足に力を入れた瞬間、踏んでいた地面を陥没して一気に走りだした。
そのことで掴んでいた斧は折れ、機械兵の懐へと突っ込んだカリフはそのまま勢いを落とすことなく大群を扉ごと破壊していく。
そして、中にまで配置されている機械兵の大群さえも巻き込んで屋敷内を破壊しながら直進しかしない。
「このオレを阻む壁や曲がり道など無価値・無価値・無価値ぃ!! 誰もこのオレを止めることなど不可能なのだぁ!!」
部屋を、壁を、屋敷を破壊しながら我が道を進むカリフの前に遂に今までの潰されている機械兵とは比べ物にならない超重量級機械兵が立ちはだかった。
そして、残骸となった機械兵でできた巨大な鉄の塊をホールドで受け止めた。
機械兵は潰されることは無かったが、カリフを止めるには至らず、踏ん張る足で地面を引き裂きながら成す術もなく壁に叩きつけられ続ける。
そして、大広間に辿り着き、その大広間の壁を突き破った。
超重量級機械兵は破壊された壁に掴まってこと無き終えたが、既に事切れた機械兵は動かない人形となって次元海へと落ちていく。
400くらいの機械兵が次元の塵となっても未だに瓦礫に掴まってぶら下がる超重量級機械兵をカリフは見下ろしにきた。
それを確認した機械兵は双肩に搭載されている砲台をカリフへ向けて魔力をチャージする。
カリフはゆっくりと両手を機械兵に添えるだけ。
そして、機械兵は砲撃を放った。
Aランク級の砲撃がカリフを飲み込む直前まで近付いた時……
「ふん」
カリフは両手から気弾を放った。
カリフの気弾は機械兵の砲撃をあっさりと飲み込み、機械兵でさえも飲み込んだ。
気弾は次元海の中で一筋の光となって迸った。
「……こっちか」
あらかたプレシアに近付いてきたのを感じたカリフはプレシアの気の方向だけを確認すると、そこへ向かって進む。
そして、壁に行き着いたとき、カリフは両手の拳を握り、振りかぶった。
「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリッ!!」
壁を拳で破壊して進んでいく。モグラでさえも決してやらない力に任せた穴掘り方でプレシアの元へと近づいていく。
願い事は全てこの腕っ節で叶えてきた
永い年月を腕力で生きのびてきた
他人から後ろ指を指されてもこの生き方に後悔はない
これからもオレは生き続ける
反省はしても後悔だけはしない
“弱さ”も“強さ”も全てを認め、飲み込もう
故に、ここで宣言しよう
これがオレの“人生”だ!!
何物もオレの力の前には無力!!
力の果てにオレの答えがある
謳えよ謳え
これがオレの“人生賛歌”
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