No.456994 魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 十八話2012-07-21 22:06:38 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:2142 閲覧ユーザー数:2051 |
「……」
「フェイト……大丈夫かい?」
「うん」
四日
決闘の日にちを伝えられ、適度な休息で既に全快したバリアジャケット姿のフェイトがいた。
黒いマントをたなびかせてマンションの屋上から昇り切っていない朝日の光を一身に受けている。
「母さん……あともう少しだから……」
フェイトは帰りを待っているであろう母に今日の勝利を誓う。
それと同時にフェイトは屋上から飛び立つ。
アルフも獣形態へと姿を変えてフェイトの後を追う。
決戦の場所へ
「なのは……」
「うん……行こう」
不屈の心の白き魔導士も譲れぬ想いを胸に道路を駆ける。
「お願い……レイジングハート」
『はい。この日のための新必殺技、見せてあげましょう』
「うん!!」
四日も時間があったのだ。
やることは全てやったし、後悔もない。
ならば今の自分を出し切るだけ。
一人と一匹は決戦の地へ
所変わって、アースラ内部
内部のモニター室ではクロノとエイミィが既に決戦の地である海鳴公園の湖畔を映していた。
「準備はいいか?」
「はいはい~。もしものための逆探知とカリフくんの監視、でしょ?」
「頼んだぞ? 頼りにしてるんだから」
クロノは何気なく言うが、思ったことを口にするとエイミィはそこはかとなく嬉しそうに頬を掻く。
だが、ここで一つの不安要素を思い出してゲンナリとする。
「でもね~……あの子の追跡って難しいんだよね……」
「ああ、どういう訳かこの四日間は特に顕著だったな」
「うん……見つけた!……って思ったら普通じゃあ有り得ないほどの妨害電波とAMFで見失っちゃうしさ……」
「だからこそ今回は見逃す訳にはいかない。それほどの技術は十中八九プレシア・テスタロッサからのバックアップだろう。現時点ではそうとしか言いようがない」
だからこそクロノたちは今日の作戦に力を入れている。
成功すればプレシアの居場所も炙り出せる。
彼が一筋縄では通用しないのも既に確認済みだ。
それ故にあまりカリフを刺激させたくはない。
クロノはモニターから油断する暇もなく監視を続けていた。
そして、午前の四時、海鳴公園はとても静かだった。
空は澄みきり、人影もない静かな公園
そんな公園に一人の少女が歩いていた。
なのははまるで導かれるように湖の近くまで歩いて立ち止まる。
「ここならいいよね?」
自分以外の姿はどこにもない。
だけど、確かにそこにいる。
「出てきて……フェイトちゃん」
その問いと共に風がなのはの頬を撫でた。
そして……背後から気配を感じた。
「……」
電灯の上に悠々と立ち、なのはを見下ろすフェイトとアルフがそこにいた。
なのはは何か言いたげに振り返るが、フェイトのバリアジャケット、バルディッシュ、そして今までにない光に満ちた双眼を前に思いとどまった。
「……ただ捨てればいい訳じゃないよね、逃げればいいって訳じゃもっとない……」
なのはも片手をかざし、相棒とバリアジャケットを展開させる。
「きっかけは、きっとジュエルシード、……だから賭けよう、お互いの持ってる全部のジュエルシードを!」
[[Put out]]
なのはの提案と共に互いのデバイスからジュエルシードを展開させる。
「それからだよ……全部……それから……」
レイジングハートを構え、バルディッシュも鎌状となる。
全ては主人のために……
―――私たちの全ては始まってもいない……
―――だから、本当の自分を始めるために……
―――始めよう……最初で最後の本気の勝負……
「始まったわね……」
「ああ……」
朝の海鳴公園を見ている者は他にもいた。
事前に決闘のことを知らされていたプレシア。
そして、この決闘の実行者であるカリフ本人だった。
なのはとフェイトに決闘のことを告げたその日からカリフはそこらで野宿生活を送っていた。
自分がいると気になるし、なにより二人に気を遣わせるかもしれないと思ったからだ。
途中でプレシアと連絡を取って雲隠れしたのだが。
フェイトもアルフも自分の意を汲み取ってくれたのか、自分のすべきことをやってきたのだろう。
コンディションも動きのキレも前よりも上がっている。
それはなのはにも言えることなのだが……
「どうよ……あんたの愛娘だ。最期まで拝んでろ」
「えぇ……そうね……」
プレシアは玉座に座りながら今まさに立派に戦う娘の姿に心を打たれ、溢れる涙を拭きとる。
そこでプレシアもこの決闘の意義に思い至った。
「貴方……もしかしてこれを私に見せるため……」
「あ、フェイトが突っ込んだ」
カリフは胡坐をかきながら勝負の行方を見守る。
聞こうとしたことも途中で遮られ、プレシアもカリフに習って勝負を見守る。
「……」
「……」
互いに何も話さず、二人は少女たちの勝負をただひたすらに目に焼き付けていた。
そんな中、プレシアはモニター越しで必死に戦う娘を見て感涙を流していた。
周りの声など入らない自分だけの世界の中で、プレシアは穏やかに眺めていた。
後、数時間の命だけれども……プレシアは幸せを感じていた。
今ここで、プレシアは確信できたから。
我が子の成長を
強さを
優しさを
支えてくれるであろう友を
最期に目にすることができたのだから……
「……い。おい! 聞いてんのか!?」
「え? えぇ……」
物思いにふけっていたのか、カリフの呼びかけに気付いていなかった。
プレシアが涙を拭きながら応じると、カリフの苛立ったような表情も少し和らいだ。
「娘の成長に見惚れるのは勝手だがよぉ……オレはもうそろそろ行くぜ?」
「分かってるわ……それで管理局がここを嗅ぎつけて………計画通りよ」
「そうか。オレは勝手に行くから一人で堪能してくれや……娘の授業参観」
「授業参観……それもそうね……ふふ……」
プレシアはカリフの表現に美しく手を口に持っていき、微笑む。
そんな様子にカリフは反応を見せず、黙ってプレシアから貰った次元移動装置を起動させる。
送る言葉は無く
これからの永き旅に冥福を祈る
母の雄大な山の様な大きさ、強さ
女の広大な草原の様な寛大な親心
女としての言葉にできない美しさと、その美しき魂
オレはあんたからたくさんの事を学んだ
だから、オレは貴女に言葉を捧げよう
―――強く、それでいて儚く散らすその命……最期まで見届ける
―――だから、貴女との約束は違わない……
カリフは心の中でそう呟き、姿がブレるその瞬間まで胸に手を当ててプレシアに黙祷を捧げ続けた。
短い生涯の中で自分なりに考えた命に対する敬意
その者のことを決して忘れないための儀式
その目にプレシアの姿を焼きつかせながらカリフは時の庭園を後にした。
今度は、尊敬する女性の意志を継ぎし未来の申し子たちの元へ……
最期の彼女の願いを叶えるために……
「……思いもよらなかったわ……私よりも若い男の子がここまで私をこんなにしてくれるなんて……」
誰もいなくなった部屋の中でプレシアは
「……もっと早くに貴方と会えたらなぁ……」
そう呟きながら、プレシアは再び瞳から雫を一滴だけ零すのだった。
「シュート!」
「ファイヤ!」
海鳴公園の上空
今まさに激戦が繰り広げられていた。
二人は互いに魔力弾を生成して互いに飛ばし合う。
弾同士ですれ違い、なのはは避けながら突き進む。
フェイトは弾をある程度誘導し、一つに集まったところをシールドで防ぐ。
「!!」
だが、視線の先には更に幾つかの魔力弾を作り上げていたなのはがこちらを捉えていた。
「シュート!」
さらなる追撃に対し、フェイトはバルディッシュを鎌状に変化させて叩き落としていく。
最後の一つを避けてなのはに斬りかかる。
「っ!」
なのはは咄嗟に片手をかざしてシールドを作る。
「くぅっ!」
「はぁ!!」
フェイトの斬撃がなのはのシールドとぶつかり合う。
フェイトからの猛攻になのはは必死に耐えながらも目をつぶる。
なにも勝負を放棄したからではない。
勝つための集中に過ぎなかった。
「!?」
フェイトは違和感を感じ、背後を振り向くと魔力弾が自分に向かってきているのを見つけた。
さっき避けた最後の一発が時間をかけて大きく弧を描き、今まさに牙を剥いている。
「くっ!」
フェイトは当たる直前に振りかえって防御に撤した。
同じくシールドで防いだものの、攻撃の手を緩めた隙になのはを見失ってしまった。
辺りを見回すも、なのはの姿はない。
「どこに……!?」
フェイトが焦りを見せた瞬間だった。
「はああああああぁぁぁぁぁ!!」
「!!」
なのはは上空から真っ逆さまにフェイトに突進を仕掛ける。
フェイトも咄嗟にバルディッシュで受け止めた。
その瞬間、二人の魔力が爆発を起こした。
「はぁ!」
海上が白い光に呑まれた中、フェイトはなのはの背後に回り込んで鎌を振り落とす。
なのはも咄嗟に回避し、胸のリボンが斬れただけで済んだ。
「あ!?」
態勢を立て直そうとその場から離れようとしたなのはだったが、回避する場所を読まれていたのか前方には数個の魔力弾が浮いていた。
そして、その全てが襲いかかる。
「あぁ! うっ! くっ!」
なのはも手にかざしたシールドで魔力弾をよろけながらも受け流していく。
魔力弾は全て海に撃墜された。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ…………」
なのはとフェイトは互いに距離を置き、息を整えていた。
そんな中、フェイトは改めてなのはの実力を思い知った。
(以前まではただ魔力が高いだけの素人だったのに……今は速くて強い)
決して油断などしていなかった。
順当にいけば経験の差から言ってフェイトの方が断然有利だと言える。
ただ、なのはの成長速度がずば抜けていた。
それだけがフェイトの誤算だった。
(迷ってたら……やられる!)
だからこそ、フェイトはなのはに対する遠慮と言う名の甘さを捨てた。
フェイトの足元から巨大な魔法陣が形成される。
その様子から、現在のフェイトの本気だと目に見えて分かる。
なのはもその魔力の量から判断して対策を考えていた。
だが、それも叶わなくなった。
「あぁ!!」
なのはの両腕が黄色いバインドに掴まってしまった。
これでは避けることはおろか動く事さえもできない。
「う……く……!!」
なのはは逃れようともがくが、ビクともしない。
相当な魔力を込められている証拠だった。
それでも、諦めずにもがくなのはの前にフェイトは呪文を紡ぐ。
「アルカス・クルタス・エイギアス……」
フェイトは残りの魔力を振り絞って力を溜める。
決着の時はすぐそこまで来ていた。
その様子を地上で見ていたアルフとユーノは驚愕していた。
離れた地点からでも濃密に感じる魔力
普通では有り得ないほどの力がたった一人の少女に向けられているのだから。
「まずい! フェイトは本気だ!!」
「なのは! 今サポートを!!」
最悪なシナリオを想像してしまったユーノは前に出てサポート魔法をなのはにかけようとした。
その時だった。
「止めろ」
「「!!」」
背後から聞こえてきた幼く、だが重みのある声に二人の体は反応した。
何度も聞いたことのある声に二人は恐る恐る振り返る。
そして、予感が的中したことを悟った。
「カリフ……」
「ふん」
アルフの驚きの声も聞き流してカリフはゆっくりと二人の間を歩いて通り過ぎる。
カツカツと音を立てながら二人の前に来るとそのまま座って二人の様子を見上げる。
「……これはあいつ等の勝負だ……どんな結果になろうともそれを邪魔する権利はオレたちにはない」
「で、でも……!!」
慌てる様子も見せないカリフにアルフは反論しようとするが、カリフは続けた。
「あの二人の勝負……何人たりとも侵させはしない……」
カリフの言葉にアルフもユーノも何も言えなくなってしまう。
だが、なのはだけはバインドにかけられながらもどこか嬉しそうに笑った。
(ありがとう……カリフくん)
感謝の言葉を心の中だけにしまった。
「疾風なりし天上よ、今満ちるし時、眼下の敵を打ち砕け……バリエル・ザリエル・ブラウゼル」
着実にフェイトは力を溜め、夥しい量の魔力弾を生成し続ける。
弾の一つ一つに雷が奔る。
そして、呪文を終えたところでフェイトの目つきが変わった。
必死、まさにこれで終わらせると言わんばかりになのはを睨み……
「フォトンランサー・ファランクスシフト……」
片手を天にかざし……
「打ち砕け……ファイヤ!!」
なのはに向かって振り下ろした。
そして、フェイトの命を受けた弾幕はなのはへと襲いかかる。
「!!」
なのはも攻撃に耐えようと歯を食いしばって耐える準備をする。
そして、弾幕の大群がなのはに降り注ぐ。
降り注がれる弾は爆煙を上げて破壊の限りを尽くす。
煙が立ち込めてもフェイトの攻撃は止まらない。
「う……く……」
膨大な魔力の消耗に苦しげに唸るが、それでも攻撃は止めない。
当てる……当てる!!
確かな感触を確かめながらフェイトは一気に魔力弾をぶつけ続けた。
そして、全ての弾を使いきったフェイトはふらつきながらも片手に残ったなけなしの魔力で弾を作り上げた。
「はぁ……はぁ……」
息を切らせながら煙の立ちこめる場所を凝視する。
もう魔力はほとんど残されていない。
フェイトは祈るような想いで晴れゆく煙を望んでいた。
そして、見えたのは……
「はぁ……撃ち終わると……バインドも……解けちゃうんだね……」
バリアジャケットが所々焼け焦げ、肩で息をするなのはの姿があった。
「耐えた……の?」
フェイトは驚愕と落胆からその場から動けなくなっていた。
「フェイトのなのはの違いがここで明確に現れたか……」
そんな状況にカリフはなのはにそう呟いた。
横で驚いていた二人もそれに反応する。
「ち……違い?」
「あの二人に?……さっきまで互角だったのに……」
「いや、確かに実力は五分五分だった……だがそれは互いの持ち味を活かしたからこその結果だ」
「持ち味?」
そう言うと、カリフは立ち上がって腕を組む。
「フェイトはスピード、技術、そして経験で相手と上手く立ち回るのテクニシャン型に対し、なのはは元々高い魔力と火力で攻めるパワー型だ」
「へ……へぇ〜…」
「これらを見積もっても二人の実力はイーブン、事実、オレもさっきまではフェイトの勝ちを予測したんだが……」
口を吊り上げ、不敵に笑う。
「なのはの根性が大局を変えた……ただそれだけのことだ」
カリフの言葉に二人は思わず生唾を飲み、再び勝負へ目を向ける。
「受けてみて……ディバインバスターの……バリエーション……」
息も絶え絶えになりながらもなのははレイジングハートに桃色の魔力を収束させていく。
フェイトは明らかに膨大すぎる魔力を危惧してその場から離れようとする。
だが、そこでフェイトの動きは止まる……いや、止められた。
「!! バインド!?」
まさに因果応報
先程なのはに仕掛けた戦法を今度は自分が仕掛けられたのだから。
だが、さっきまでとは状況が全く違う。
なのははフェイトからの襲撃の際にバリアジャケットを魔力を込めて硬質、防御に成功した。
それに対し、今のフェイトにはその術が無い。
つまりは万事休すといったところだ。
「これが……私に全力全開……!!」
「!!」
さらに巨大化する魔力にフェイトは目を見開く。
掲げていたレイジングハートを両手に持ち替え……
「スターライト……」
目の前の魔法陣に
最強の一撃を
「ブレイカアアアアアアアアァァァァ!!」
込めた
「!!」
魔法陣から放たれた桃色の閃光を前にフェイトは目を見開いたまま
強く、そして暖かい光の中へと
溶けていった
閃光によってできた水柱と水しぶきで二人の姿を捉えることはできない。
だけど、結果は見えていた。
「終わったか……」
「そんな……フェイトが負けるなんて……」
「やった……やったよなのは!!」
カリフの一言にアルフは主人が負けた現実を思い知らされ、ユーノはなのはが勝ったという事実を喜んだ。
二人から背を向けてはいるが、カリフは見事に自身の全力を出し切った二人に優しい眼差しを向けていた。
そうしていると、水しぶきが晴れて気を失って力無く海に落ちていくフェイトの姿が露わになった。
「フェイトちゃん!!」
なのはは落ちていくフェイトを助けようと降下しようとする。
そんななのはよりも遥かに速く動いた者がいた。
「……」
カリフは利き足を後ろに一歩だけ下がらせ……
「!!」
思いっきり踏み抜いて跳躍した。
「うわ!!」
「わぁ!!」
カリフの超人的な跳躍によって起こった衝撃がすぐ後ろにいたアルフとユーノを後ろへ転ばせた。
落ちゆくフェイトを造作もなく受け止め、武空術で減速して止まる。
「え? あれ?」
なのはから見たら、急にカリフが現れて気が付いたらフェイトを介抱していたとしか見えていなかった。
少し混乱するなのはを余所にカリフは気絶しているフェイトの顔を覗き込んでいると本人の目が開いた。
「よぉ……気分はどうだ?」
「その声……カリフ……?」
おぼろげにフェイトは名前を聞き、声でカリフだと確信した。
まだ、ダメージが残っているのかボーっとしている感じだった。
「最初から見てたけど……壮大な負け方だったな」
「負け……そっか……私……負けちゃったんだ……」
フェイトは頭の中が徐々に冴えてきたのか自分の負けた瞬間を思い出していた。
自分なりにベストを尽くしたはずだったのに……完敗だった。
その想いがフェイトの心を徐々に絞めつける。
「……っく……」
「ん?」
「えぐっ……ひくっ…………」
フェイトは溢れる涙を我慢せずに泣きじゃくる。
ただ負けただけじゃない。
同時に母の夢が絶たれたことを悟った悔しさと申し訳無さを含めた涙だった。
「ごめん……ひくっ……母さん……えぐっ……私……負けちゃったぁ……」
「……」
「フェイトちゃん……」
嗚咽混じりの懺悔にカリフは真顔で眺め、近くにまで寄ってきたなのははフェイトの涙を複雑そうな表情で眺めていた。
カリフは恥も外聞もなく涙と鼻水に濡れた顔を手で拭いながら言った。
「これがさっきまで闘っていた奴の顔かよ……」
「……」
「……お前は全力を出した……なのはも全力で応えた……実力は五分五分だったが、運はなのはに微笑んだ……それだけさ」
「……」
「負けた奴にこんなこと言うのはお門違いだとは思うがよぉ……今日のお前は一段と輝いてたさ」
「……え?」
フェイトはカリフの意外な一言に真っ赤になった目で見上げてきた。
「バインドに捉えられたときに勝負はついていただろうが、それでもお前は諦めずに抵抗し、闘った……見っとも無くてもその強い意志は敬意に値する」
「え……あ……」
「誓ってもいい。今のお前を貶める奴がいるならオレが全力で屠り去ってやる」
「……カリフぅ……」
カリフの言葉にフェイトは涙を更に流す。
だが、それは悔しさでも後悔の涙ではない。
純粋な“嬉しい”涙だった。
そんなフェイトを抱えたままカリフはなのはへと向き直った。
「高町なのは」
「は、はい……」
「お前も勝機の薄い戦いの中、諦めることをせずに粘り続けて勝利を掴んだ……その諦めの悪さと折れない心も敬意に値する」
「あ、ありがとう……」
急に褒められるものだからなのはは顔を赤らめて照れた。
場は少し和やかになってきたところでカリフは話を進めることにした。
「それじゃあフェイト……ジュエルシードを」
「……うん」
フェイトはバルディッシュから今まで集めてきたジュルシードを放出して宙に浮かせる。
「うん……ジュエルシード全部だね」
「それが私の持ってる全部だよ……あと、カリフ……」
「うん?」
「あの……その……そろそろ降ろしても大丈夫……だよ……」
「ん? あぁ……」
顔を赤くさせてもじもじと恥ずかしそうに言うフェイトの言葉に自分の状況に気付いた。
そういえば抱いたままだったな……
「なるほど……たしか女は気に入った男にしか触れられたくないってブルマ言ってたな……」
「ちが……嫌なんかじゃないよ……ただ……あの……その……」
「はぁ?」
「あはは……」
はっきりしないもじもじしたフェイトの答えにカリフは少し苛立ったように聞き返す。
完全にフェイトの気持ちに気付いていないカリフになのはは苦笑した。
このまま笑いに包まれてこの事件も幕を下ろす。
誰もがそう思っていたときだった。
「!!」
カリフは力の余波を空から感じ取り、上を見上げると空は曇り、紫の雷が迸った。
「!! カリフ!」
フェイトは雷に気付いてカリフの名を叫ぶ。
だが、カリフは慌てることなくピシュンと音を立ててフェイトを抱いたまま雷を当たる瞬間に回避する。
「フェイトちゃん! カリフくん!」
「わめくな。あれくらい容易い」
無事な二人になのはは胸を撫で下ろす。
だが、さっきの雷が捉えたのはフェイトが出したジュエルシードだった。
雷を受けたジュエルシードは空へと浮かび、大気中の次元の歪みの中へと消えて行った。
(遂に始まったか……一世一代のフェイトの人生を賭けた命がけの三文芝居……)
決して避けられない運命が少女たちを翻弄する。
世界の歯車は更なるギアを上げる。
物語は最終段階へ……
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