~ジェニス王立学園・本校舎内~
コリンズにプリネを短期間、学園生活をさせてくれた事に礼を言うためにリウイは受付に聞いた。
「……失礼する。学園長に用があるのだが、学園長はどこにいる?」
「学園長ですか?恐らく学園長室にいると思われます。学園長室はあちら側の奥の部屋となっております。」
受付はリウイに学園長室の場所を片手で指し示した。
「そうか。感謝する。」
受付にそう言って、リウイが学園長室に向かうとちょうど、学園長室からコリンズとジルやハンスが出て来た。そしてコリンズはリウイに気付き、驚いた。
「おお……!まさか、このような所で貴方様のような方にお会いするとは夢にも思いませんでした。ジェニス王立学園の学園長を務めさせていただいているコリンズと申します。」
「………メンフィル大使、リウイだ。このような時間に挨拶をして申し訳ない。何分忙しい身でな。こちらに着いたのがちょうど劇が始まる頃だったので、劇が終わってから挨拶をさせてもらった。」
(すげぇ……!本物のメンフィル皇帝だぜ、ジル!)
(それぐらいわかっているわ。それより、せっかくリウイ陛下が目の前にいるんだから、協力をお願いしないと。)
(ああ)
リウイが目の前にいる事に小声で会話をしていたハンスとジルは礼儀正しい姿勢になり、リウイに話しかけた。
「初めまして、ジェニス王立学園生徒会長のジルと申します。」
「同じく副会長のハンスです。お忙しい所申し訳ないのですが、少しよろしいでしょうか?」
「学園の生徒か。何の用だ?」
「はい。実は……」
ジルとハンスはリウイに毎年学園祭と同時にやっている活動の事を説明した。
「ほう。この学園の生徒達は学生という身分ながら中々立派な事を考えるな、学園長。」
「イーリュンの孤児院の経営の援助をなさっている陛下にそう言って頂けるとは、恐悦至極でございます。」
ジル達から説明を聞いたリウイは感心し、コリンズは謙遜した。
「それで恐れ多いのですが、できたら陛下にもご協力をしていただきたいのですが……」
ジルは期待を込めた目でリウイを見た。
「ふむ。市長達やあの公爵も寄付をしているのだから、他国とはいえ王である俺が拒む訳にもいかぬな。……生憎持ち合わせはあまりないから、これで代用してくれ。」
リウイは懐から宝石をいくつか出し、ジルに手渡した。
「え……これって琥珀!?」
「しかも、一個一個サイズが普通の琥珀より大きいし、こんなに透き通って中まで見える琥珀、初めて見たぜ……」
ジルとハンスはリウイが手渡した宝石を見て、驚いた。
「俺達の世界ではそれなりの値段にしかならない物だが、こちらで鑑定してもらった所、一つにつき20万ミラは下らないそうだ。市内にある装飾店にでも持って行けば、かなりの金額で買い取って貰えるだろう。」
「一個で最低20万ミラ……!じゃあ、ここに渡されたのが5個あるから……」
「最低100万ミラかよ……!すっげ~……!今ある寄付金と同じ金額じゃないか……!」
宝石の値段を聞いたジルとハンスは驚いた。
「……よろしいのでしょうか?そのような高価な物を頂いても……」
コリンズは恐る恐るリウイに尋ねた。
「ああ。祖国に戻ればいくらでも手に入るしな。そんな物でよかったら民のために役立ててくれ。」
「「ありがとうございます!!」」
ジルとハンスは同時に頭を下げて、リウイに感謝した。
「さて……挨拶も済ませた事だし、今日の所はこれで失礼させてもらおう。」
「……申し訳ないのですが、少しだけお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
立ち去ろうとしたリウイにコリンズが呼び止めた。
「ん?まだ何か用があるようだな。」
「はい。……少しだけ席を外してある方に会いに行かなくてはならないので、どこかで休んでお待ち頂いてもよろしいでしょうか?すぐに、戻って来ますので。」
「それなら、ここで待たせてもらおう。」
そう言ってリウイは学園長室の入口の近くの壁にもたれかかり、懐から古文書を出して読み始めた。
「申し訳ございません。……すぐに戻りますので……行こうか、2人とも。」
「はい。」
「失礼します、陛下。」
コリンズに促されジルとハンスはリウイに会釈した後、急ぎ足で講堂に向かった。
~ジェニス王立学園・講堂・控室~
その頃エステル達は戻って来たプリネやクローゼと共にテレサ達の話相手をしていた。
「ママ、凄っごくカッコよかったよ!」
「ありがとう、ミントちゃん。」
「えへへ……」
エステルに頭を撫でられたミントは嬉しそうに撫でられていた。またほかの子供達もヨシュア達にそれぞれ劇の感想を嬉しそうに話した。クロ―ゼやプリネは笑顔で答えていたが、ヨシュアだけは引きつった笑顔で答えた。
「ふふ……みなさんには感謝しなくてはね。本当に、ルーアン地方でのいい思い出になりました。」
「先生……」
「この子たちにはまだ……?」
静かに語るテレサの言葉から推測したクロ―ゼとヨシュアは辛そうな表情で尋ねた。
「ええ……。マノリアに帰ってから話します。そして早ければ明日にでもミントとツーヤをエステルさんとプリネさんに託して発とうかと……」
「そ、そんな急に!?」
テレサの考えにエステルは声を上げた。
「ママ~。どうしたの?」
「なになに、何の話だよー?」
「失礼でしょ、クラム!大人の話にわりこんだりして。」
「ミントちゃんも。先生は今大事な話をしているみたいだから、後で聞こう?」
ミントとクラムは興味ありげな表情でエステル達に尋ねたが、クラムにはマリィが怒り、ミントにはツーヤが言い聞かせた。
「いいのよ、マリィ、ツーヤ。でもとりあえずは宿屋に帰るとしましょうか。夕食を食べて……話はそれからでいいですね?」
「う、うん……?」
「??」
「………」
テレサに諭され、クラムは戸惑った表情で答え、ミントは可愛らしく首を傾げ、もうすぐ自分達はテレサ達と離れる事をわかっているツーヤは孤児院の子供達をこの場で悲しませないために黙っていた。
「それではクローゼ……エステルさんにヨシュアさん、プリネさんも。私たち、そろそろ失礼しますね。今日は本当にありがとう。素晴らしいものを見せて頂いて。」
「あ、ちょっと待って。ジルたちが戻ってくるから……」
「……失礼するよ。」
立ち去ろうとしたテレサ達にエステルが呼び止めた所、ちょうどコリンズを連れたジルとハンスが戻って来た。
「まあ、コリンズ学園長……」
「久しぶりだのう、テレサ院長。せっかく来て頂いたのに挨拶が遅れて申しわけなかった。」
「とんでもありません……。本当に素晴らしいお祭りに招いていただいて感謝しますわ。」
「ふふ、生徒たちも頑張った甲斐があるというものだ。……事情はクローゼ君から聞いた。本当に大変なことになったものだ。そこで、わしらも微力ながら力になれればと思ってな……」
「え……」
コリンズの言葉の意味がわからず、テレサは呆けた声を出した。
「ジル君。」
「はい。」
コリンズに呼ばれたジルは王立学園の紋章が入った分厚い封筒をテレサに手渡した。
「どうぞ、お受け取りください。」
「これは……?」
封筒を渡されたテレサは訳がわからず、ジルに尋ねた。
「来場者から集まった寄付金でちょうど100万ミラと先ほどリウイ皇帝陛下が寄付して下さった宝石がいくつかあります。孤児院再建に役立ててください。」
「ひ、ひゃく万ミラ!!」
「すごい大金ですね……」
「リウイ皇帝陛下が……」
封筒の中身を知ったエステルとヨシュア、クロ―ゼは驚いた。また、同じように驚いているプリネはテレサに話しかけた。
「あの……テレサさん。封筒の中に入っている宝石を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい。」
封筒から宝石を出したテレサは恐る恐るプリネに手渡した。
「…………これは……”琥珀の宝石”……!」
「プリネ、その宝石の価値がわかるの?」
宝石の価値を知っていそうな様子を見て、ヨシュアは尋ねた。
「はい。この宝石は祖国メンフィルの装飾店等でよく見かける宝石なのですが……こちらの世界では珍しいらしく、かなりの値段がつくと聞いた事があります。………確か1つ20万は下らないかと。」
「い、一個、20万!?」
「それが5個あるという事は最低でもその封筒に入っている金額と同額になるという事か……」
宝石の価値を知ったエステルやヨシュアは信じられない表情で驚いた。そしてプリネは見せて貰った宝石をテレサに返した。
「どうぞ。……市内にある装飾店などでしたら、信用がある所ですから、その宝石を安く買い取られる事はなく、その宝石に見合った価値で買い取ってくれるでしょう。」
「……………」
テレサは驚いた表情のまま、プリネから宝石を返してもらった後、尋ねた。
「ど、どうしてこんな……?」
「今回は、公爵やボース市長、果てはあのメンフィル皇帝など多くの名士が来場したからのう。例年よりも多く集まったのだよ。」
「学園長……」
コリンズの言葉を聞き、クロ―ゼはコリンズ達がテレサ達のために動いた事に感謝し、微笑んだ。
「そんな、いけません!こんなものは受け取れません!」
テレサは血相を変えて、受け取った封筒と宝石を返そうとした。
「遠慮する必要ありませんよ。毎年、学園祭で集まった寄付金は福祉活動に使われているんですから。」
「孤児院再建に使われるのなら寄付した方々も納得しますって。」
「でも……そんな……。ここまでして頂くわけには……」
ハンスとジルに説明されたが、テレサはまだ少し納得していなかった。
「先生……どうか受け取ってください。」
「クローゼ……ですが……。」
「先生が戸惑う気持ちも判ります。でも……どうか考えてみて欲しいのです。それだけのミラや宝石があったら孤児院を再建するのはもちろん、ロレントに行く必要もありません。あのハーブ畑だって放っておかなくてもいいんです」
「………………………………」
クロ―ゼの説明にテレサは黙った。
「クローゼ君の言う通りだ。亡きジョセフ君と何よりも子供たちのために……。あなたは拘りを捨ててそのミラと宝石を受け取るべきだろう。」
「……ああ……。もう……何とお礼を言っていいのか……。ありがとう……。本当にありがとうございます……」
コリンズにも諭され、ようやく受け取る事を決めたテレサは涙を流してコリンズ達に感謝した。
「グス……よかったぁ……」
「うん、これで一件落着だね。」
(お父様……ありがとうございます……)
エステルとヨシュアは孤児院の再建の目処が立った事に安心し、プリネはこの場にいない尊敬する父に心の中で感謝した。
「な、なあ……。ロレントに行くってなんだよ?何がどうなっちゃってるわけ?」
「いいのです……。もう心配しなくても……。あなたたちには……本当に苦労をかけましたね……」
話を聞き、訳がわからなくなったクラムはテレサに尋ねたが、テレサは涙を流しながら気にする必要が無い事を諭した。その様子を見てクラムは戸惑いながら納得し、テレサが涙を流している理由を尋ねた。
「べ、別に苦労なんてしたつもりはないけど……。それよりも先生……どうして泣いてるのさぁ?」
「バカねぇ、クラムったら。そんなの嬉しいからに決まってるじゃない♪」
「えへへ……よかったね!先生、みんな!(みんな……元気でね……)」
(よかったね……みんな……これであたしとミントちゃんは心置きなくご主人様達と……)
訳がわからない様子のクラムにマリィは笑って答え、ミントやツーヤは孤児院が再建される可能性が出て来た事に安心し、心置きなくエステル達についていける事に安堵した。
「……それでは失礼します。みんな、帰りますよ。」
「「「「はーい!」」」」
「ママ、待ってるよ!行こう、ツーヤちゃん。」
「うん。……それではご主人様。ミントちゃんといっしょにご主人様がエステルさんと共に迎えに来てくれる日を待っています。」
「ええ、近い内、必ず迎えに行くわ。」
そしてテレサや孤児院の子供達は帰って行った。
「さて……そろそろ後片付けをしましょうか。」
「うん、そうね。」
ジルの言葉に頷いたエステルは早速動こうとした所、プリネに呼び止められた。
「あの……エステルさん、少しいいですか?」
「?どうしたの、プリネ。」
「エステルさんにぜひ会って欲しい方がいるんですが、少しだけ時間を貰ってもいいでしょうか?」
「いいけど……片づけが終わってからじゃ、ダメなの?」
プリネの言葉に首を傾げたエステルは尋ねた。
「すみません……何分多忙な方でして、あまり遅くまではいられないんです。」
「う~ん……ねえ、みんな。あたしとプリネ、少しだけ片づけを抜けてもいいかな?」
「ええ、いいわよ。何たってあんた達のお陰で劇が成功したんだから。」
「ありがとう、ジル。じゃあ、ちょっと行って来るね!」
そしてエステルはプリネと共に一端、講堂を出た………
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