~ジェニス王立学園・講堂~
「ヒック……ふざけるな!」
「「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」
一番前の席で見ていた酔っているデュナンが不愉快そうな表情で叫び、舞台に上がって来た。いきなり現れた乱入者に生徒や観客達は驚いた。
「何故平民ごときに勝利を譲らなければならない!王族であるこの私は貴様のその判断、認めんぞ!ヒック!」
「な、な…………」
酔ってエステルを指差して叫ぶデュナンにエステルはあまりにも驚いて声が出なかった。そこにフィリップが慌てた様子でその場で立ち上がってデュナンに叫んだ。
「か、閣下!これはお芝居です!これ以上ご自分の誇りを汚さないで下さい!」
「黙れ、フィリップ!!親衛隊よ、であえい!!」
フィリップの言葉を無視したデュナンは自分の護衛達を呼んだ。呼ばれた親衛隊達は困惑しながら舞台に上がって来た。
「ヒック……この愚か者や周りの者達に、この私に代わって正義の鉄槌を降せよ!」
「「「か、閣下!それはいくらなんでも!」」」
デュナンの言葉に親衛達達は信じられない表情で反論した。
「デュ、デュナン公爵!?」
「なんという事を……!」
デュナンの行動にダルモアは驚き、コリンズは信じられない表情をした。
(おいおいおい……!まさか学園祭でこんなスクープが出るとは思わなかったぜ……!カメラは……クソ!そういえば、講堂に入場した時に劇の間は撮影禁止だからって預けられたんだった!これじゃ、記事にできねえ……!)
(あの方は……!どこまで閣下を困らせるつもり……!)
一方ナイアルは驚いた後、記事の証拠にするためにカメラを探したが持って来てないことに気付き悔しがり、観客の一人として来ていたカノーネは表情を歪めた。
(なっ………!あの……放蕩者が……!プリネやエステルとヨシュア、そして生徒達がお互い協力しあい、成功したせっかくの劇を穢しおって………!)
(……………あいつ、殺していい?お兄ちゃん……!)
(………落ち着いて下さい、お二人とも!民衆や生徒達の目の前で血の雨を降らすつもりですか!?)
(しかし、ティア殿……!このまま指を加えて観ている訳には……!)
観客達がざわめいている中、デュナンの行動に驚き、怒りを抱いたリフィアとエヴリーヌはそれぞれの武器を出して、いつでもデュナン達を攻撃できる態勢に構えたがティアに諌められた。
(………………ペテレーネ、ティア。お前達はリフィア達を抑えていろ。)
(え!?)
(何をなさるつもりですか、お父様!?)
リウイの言葉にペテレーネとティアは驚き、リウイが何を考えているのか尋ねた。
(………目には目を、歯には歯を……だ。何、殺したりはしない。王として少し灸を据えてやるだけだ。)
(あ、リウイ様!)
ペテレーネの驚きの声を背中に受けた後リウイは2階から飛び降り、愛剣をいつでも抜けるような態勢で気配を消して舞台へ走った。
「さあ、まずはあのユリウスとやらを痛い目にあわすがよい!」
「し、しかし……!」
「つべこべ言わずに行け!王族の命令に逆らう気か!?」
「く………(すまない、生徒達!命令に逆らえない自分達を存分に呪ってくれ!……申し訳御座いません、ユリア隊長!)ハッ!」
デュナンの命令に逆らえない親衛隊の一人が悔しそうな表情で鞘からレイピアを抜き、エステルに襲いかかった。
「くっ!何がなんだかわかんないけど、やってやるわ!」
「エステル!」
「エステルさん!」
(エステルさんをやらせはしません!)
レイピアを構えて迎撃の態勢に移ったエステルにヨシュアやクロ―ゼは役を忘れて叫び、プリネは競技用のレイピアを構えてエステルに襲いかかった親衛隊員を攻撃しようとしたその時
キン!
舞台に乱入したリウイが愛剣で親衛隊の攻撃を防いだ。
「な!?」
「え……」
リウイの登場に攻撃を防がれた親衛隊員は驚き、エステルはレイピアを構えたまま呆けた。
「フッ!」
「うわ!?」
リウイと剣を交えた親衛隊員は鍔迫り合いに負けて吹き飛ばされた。
(お、お父様!どうしてここに……!?)
父の背中を見たプリネは、一目でリウイとわかり、驚いた。
「………プリネ。舞台にいる生徒達全員を下がらせろ。」
驚いているプリネにリウイは静かに言った。
「(お父様………。………せめて、滅茶苦茶になった劇の雰囲気を戻さないと!………確か『剣帝ザムザ』の主人公のライバル役がいましたね。……よし、そのライバル役の名前でこの場を誤魔化しましょう。……お父様やエステルさん達が私の意図に気付いてくれればいいのですが……)おお!貴公は誰にも仕えない自由騎士として名高い黒騎士ミリガン!まさか、このような窮地に助太刀してくれるとは……ありがたい!」
なんとか観客達に今の状況も演出であることに思わせるために、プリネは一瞬で考えてリウイの役者名とセリフを言った。そしてプリネの意図に気付いたクロ―ゼとヨシュアが即座に思い付いたセリフで劇の雰囲気を戻そうとした。
「なんと……!騎士団長以上の強さと言われるあの”黒騎士”!!」
「まあ……!どうしてリベールに……?」
セシリア姫の口調でヨシュアはリウイが自分達の意図に気付いてくれる事を祈ってリウイに問いかけた。
「(………フッ、なるほど。今の状況すら利用して劇を成功させるつもりか。……プリネも考えたな。………いいだろう、ここは父親として娘の願いを聞いてやるか……)…………長年追っていたさまざまな国で王家を語る偽物の集団の足取りがようやく掴めたから、今ここにいる……それだけだ。」
プリネ達の意図を理解したリウイは一瞬口元に笑みを浮かべた後、厳かな口調で言った。
「なっ!?この私が偽物だと!?」
リウイに偽物と言われたデュナンは顔を真っ赤にして怒った。
(な~んだ。芝居だったのか。ビックリしたぜ~。)
(………本当にお芝居かしら?)
(ママ……)
(ご主人様……)
プリネ達のフォローのお陰で孤児院の子供達はある程度信じたが、マリィは疑い、ミントとツーヤは心配した。
(あら?あの方は………!!)
(リ、リウイ皇帝陛下!?まさか、来ていらしていたとは……!)
(なんと………!)
(ん……?……!?おいおいおいおい!!なんであんな大物があそこにいるんだ!?)
リウイの乱入に驚いた後、リウイの姿を凝視したメイベルやコリンズにダルモア、ナイアルは驚愕した。
「(小父様………すみませんが、今回はあの子達のために心を鬼にさせてもらいます……!それにさすがに私自身も許せません……!)なんと!そのような輩がいたとは……!王国を守る騎士の一人として援護致します!」
「いや……オスカー、お前は利き腕を負傷している。ミリガン殿の足手まといになるからやめておけ。」
「例え利き腕を負傷していたとしても、自分は戦えます!」
親衛隊員達やデュナンをリウイと共に迎撃しようと思ったクロ―ゼはレイピアを抜いて言ったが、プリネの言葉に驚いた。
「オスカー、お前は騎士団長と共にこの場にいる全員を避難させろ。」
「ユリウス!?お前まで何を言う!」
ようやく事情がわかったエステルは自分なりに考えたセリフを言って、クロ―ゼを驚かせた。
「……賊は姫様や父上に議長、そして民達を狙っているのだ。この場で守れるのは自分とオスカー、そして騎士団長だけだ。騎士団長だけでは人手が足りない。だから、オスカー!お前は騎士団長と共に姫様や民達を護れ!ここは自分と黒騎士殿が抑える!」
「ユリウス……わかった!皆!自分と騎士団長に着いて来てくれ!命に代えても皆の命を自分が守る!」」
自分達を避難させようとしているエステルの意図を理解したクロ―ゼは迷ったが、エステル達に任せる事を決断して、生徒達やパズモ達に呼びかけた。
「ユリウス!……気をつけろよ!」
「オスカー、お前もな!……団長、お願いします!」
「わかった。……さあ、姫様。ここはユリウスに任せて非難を……」
プリネはヨシュアに舞台脇に引っ込むように促した。
「ユリウス!」
「……心配なさらないで下さい、姫。このユリウス、賊ごときでやられなどしません。必ず姫の元に参ります。」
「……約束……ですよ。」
そしてエステル、プリネ、リウイ以外は全員舞台脇に引っ込んだ。
「ミリガン殿!……こちらの剣を!」
プリネは自分が持っている競技用のレイピアを鞘に収めたままリウイに投げた。投げられた鞘をリウイは振り向いて取った。
「私は予備の剣があります!ですから私に代わり、賊達に裁きを!」
「(………フッ、なるほど。競技用で刃が落とされているから多少本気を出しても重傷を負わす心配はないな。観客達の事も考えての上とは、なんとしても劇を成功させたいようだな。)ありがたく、団長殿の剣を今だけは使わせていただく。だから、団長殿は姫や民達の守りに専念するがよい。」
「はい!」
そしてプリネも舞台脇に引っ込んだ。リウイは、愛剣を鞘に収め競技用のレイピアを鞘から抜いて構えた。エステルもリウイの横に並ぶような位置でレイピアを構えた。そしてエステルは小声でリウイに話しかけた。
(どこの誰だか知らないけど、あたしも戦わせてもらうわ!)
(……こんな雑魚共、俺一人で十分だ。なぜお前も戦う?)
(そんなの決まっているじゃない!今日までみんなが楽しみにしていたあたし達の劇を滅茶苦茶にしたあのオジサンが許せないに決まっているでしょ!一発ブッ飛ばさないと気がすまないわ!)
(………そうか。武器はそれで大丈夫か?)
(う……実はちょっと自信がなかったり……父さんやプリネに習ってある程度はできるけど、棒とは勝手が違うし……カーッとなってついこの場に留まっちゃったのよね………)
リウイの言葉にエステルは図星をさされたかのような表情で答えた。
(………仕方ない。俺が戦いながら指示する。お前はそれに従って戦え。)
(え!?あなたってそんな事できるの!?もしかして凄く強い??)
(………話は終わりだ。俺は2人を相手にしてやる。お前は残りの1人を相手しろ。)
(あ、ちょっと!あなたの名前は?)
(何?この場で答える必要はないだろう。)
エステルの言葉にリウイは疑問に思って聞き返した。
(いっしょに戦う仲間なんだから、仲間の名前を知ってて当然でしょ?あたしの名前はエステル!エステル・ブライトよ!あなたは?)
(…………………リウイ。そう呼んでもらって構わん。)
「(リウイね!(あれ?な~んか、どっかで聞いた事があるような……?まあいいわ!))さあ、賊共をリベールから追い出しましょう、黒騎士殿!!」
「ああ。………行くぞ!」
今ここに少女と闇の英雄王の運命が交わり、そして2人の共闘が始まった…………!
後書きという事でみなさんもいつかは期待していたであろう、リウイ、エステルの両雄共闘です!!いやぁ~自分で書いててワクワクしました!……感想お待ちしております。
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~白き花のマドリガル~中篇(後半)
原作知っている人は前話で劇は終わっているはずなのに、まだ続きがある事に首を傾げていると思いますが今回の話を見ればわかります。