~ジェニス王立学園・講堂内舞台~
「わが友よ。こうなれば是非もない……。我々は、いつか雌雄を決する運命にあったのだ。抜け!互いの背負うもののために!何よりも愛しき姫のために!」
紅騎士ユリウス――エステルはレイピアを抜いてセリフを言った。
「運命とは自らの手で切り拓くもの……。背負うべき立場も姫の微笑みも、今は遠い……」
蒼騎士オスカー――クロ―ゼは辛そうな表情でセリフを言って剣も抜かず立ち尽くした。
「臆したか、オスカー!」
「だが、この身に駆け抜ける狂おしいまでの情熱は何だ?自分もまた、本気になった君と戦いたくて仕方ないらしい……」
自分を叱るエステルに答えるかのようにクロ―ゼはレイピアを抜いて構えた。
「革命という名の猛き嵐が全てを呑み込むその前に……。剣をもって運命を決するべし!」
クロ―ゼがレイピア構えるのを見て、エステルも構えた。
「おお、彼らの誇り高き二人の魂、女神達もご照覧あれ!!女神達よ……誇り高い2人の剣士達にどうか祝福を!………2人とも、用意はいいな!?」
エステルとクロ―ゼの間にいた騎士団長ザムザ――白を基調とした芝居用の騎士服を着、純白のマントを羽織ったプリネがセリフを言いながら片手を天井に向けて上げ、エステルとクロ―ゼの顔を順番に見た。
「はっ!」
「応!」
「それでは………始めっ!」
「……………」
「……………」
「……………」
そして3人はその場で動かずジッとしていた。
「は~っ……」
「ふう……」
「ほっ………」
しばらくすると3人は一息ついた。
「やった~っ♪ついに一回も間違わずにここのシーンを乗り切ったわ!」
「ふふ、迫真の演技でしたよ。」
「ええ、これなら明日の本番も大丈夫ですね。」
「えへへ、クローゼやプリネにはぜんぜん敵わないけどね。セリフを間違えたこと、ほとんど無かったじゃない?」
自分を称えるクロ―ゼやプリネの言葉にエステルは照れた後、言った。
「私はずいぶん前から台本に目を通していましたから。」
「私の場合は主役のお二人と違ってセリフの数は少なかったですから、なんとかすぐに覚えられただけです。」
「そんな……謙遜する事ないですよ。それより色々と稽古をつけてくれてありがとうございました、プリネさん。お陰でエステルさんの動きに付いていけそうです。」
「ふふ、私は少し助言しただけですよ。クローゼさんは基本がしっかりしていましたから。」
「うんうん!その気になれば、いつでも遊撃士資格を取れると思うよ?」
「ふふ、おだてないで下さい。」
プリネとエステルの言葉にクロ―ゼは照れた。そして3人は椅子が並べられた講堂を見渡した。
「いよいよ、明日は本番ですね。テレサ先生とあの子たち、楽しんでくれるでしょうか……」
「ふふ、本当に院長先生たちを大切に思ってるんだ……。まるで本当の家族みたい。」
「ええ、まるでテレサさん先生とは本当の親子のように見えましたし、子供達の本当の姉にも見えましたしね。」
「………………………………」
エステルとプリネの言葉にクロ―ゼは突然黙った。
「あ、ゴメン。変なこと言っちゃった?」
「いえ……。エステルさんとプリネさんの言う通りです。家族というものの大切さは先生たちから教わりました……。私、生まれて間もない時に両親を亡くしていますから。」
「え……」
「……………」
クローゼの言葉にエステルは驚き、プリネは真面目な表情に直して黙った。
「裕福な親戚に引き取られて何不自由ない生活でしたが……家族がどういうものなのか私はまったく知りませんでした。10年前のあの日……先生たちに会うまでは。」
「10年前……。まさか『百日戦役』の時?」
「はい、あの時ちょうどルーアンに来ていたんです。エレボニア帝国軍から逃れる最中に知っている人ともはぐれて……。テレサ先生と、旦那さんのジョセフさんに保護されました。」
「そうだったのですか………」
「戦争が終わって、迎えが来るまでのたった数ヶ月のことでしたけど……。テレサ先生とおじさんは本当にとても良くしてくれて……。その時、初めて知ったんです。お父さんとお母さんがどういう感じの人たちなのかを。家族が暮らす家というのがどんなに暖かいものなのかを……」
「クローゼ……」
「………………」
昔を懐かしむように語るクロ―ゼにエステルは何も言えず、リウイとペテレーネ、リフィア達に愛されて育っても、後継者がいながら初代皇帝の娘である自分がいれば本当なら後継者争いが起こってもおかしくないのに、そういった事はなく、リフィアを含めシルヴァンやカミ―リ、ほかの腹違いの兄や姉達から可愛がられ正式な皇女に扱われている自分がどれだけ恵まれているかを理解しているプリネは黙って耳を傾けていた。
「す、済みません……。つまらない話を長々と聞かせてしまって。」
「ううん、そんな事ない。明日の劇……頑張って良い物にしようね!」
「私も精一杯がんばらせていただきますので、明日の劇……絶対に成功させましょう!」
「……はい!」
エステルとプリネの心強い言葉にクロ―ゼは微笑んで頷いた。そしてクロ―ゼはある事を思い出し、2人に尋ねた。
「そういえば……ミントちゃんとツーヤちゃんの事……お二人はどうするか決められましたか……?」
「あ、そのことね。プリネやヨシュアと何度も相談してやっと決めたわ。」
「私はツーヤちゃん。エステルさんはミントちゃんの”パートナー”になってこれからの人生を共に歩むつもりです。」
「そう………なんですか………」
エステルとプリネの答えにクロ―ゼは表情を暗くした。
「クロ―ゼや孤児院のみんなは寂しがると思うんだけど、これだけは譲れないわ。………どういえばいいんだろう……?ミントちゃんに出会ってからなんとなくミントちゃんをずっと見守りたい気持ちになるのよね。」
「ええ。それにツーヤちゃん達は私達をずっと待っていたんです。だったらそれに答えてあげるのが”パートナー”というものでしょう?」
「………………………エステルさん、プリネさん。」
少しの間目を閉じて考えたクロ―ゼは口を開いた。
「はい。」
「何?クロ―ゼ。」
「私が言うのは筋違いかもしれませんが………2人の事を……大事にして下さい……」
「モチのロンよ!だってあたしはミントちゃんにとってはお母さんなんだから!まだ16歳のあたしが母親をやるなんて無理があるけど、ミントちゃんがいい大人になるよう頑張って育てるわ!ヨシュアは最初、反対してたけど最後には納得してくれたから大丈夫よ!」
「私もツーヤちゃんが立派な大人になれるようお父様達といっしょに大事に育てるつもりです。だから安心して下さい。」
「(エステルさんならきっとミントちゃんを大事に守ってくれるでしょうね……ツーヤちゃんの未来もメンフィル皇女のプリネさんの傍にいれば華々しく明るい未来になるでしょう……この人達なら………)ありがとう……ございます………」
エステルとプリネの答えにクロ―ゼは目に溜まっていた涙をぬぐって笑顔で答えた。
その後ヒロイン役をするヨシュアの演技の上手さの話に花を咲かせていたエステル達はヨシュアやハンスと合流した後、明日の本番の景気づけにいっしょに夕食をするためにヨシュアとハンスを席をとっておいてもらうために先に食堂に行かせ、学園長に呼ばれたジルを迎えに行った………
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第73話