第四倭 黄巾の乱
官軍の斥候が黄巾の本拠地を見つけたとの報告が入ってからの行動は早かった
弱体化の一途を辿っている呉、
その名前を上げるのには丁度いい機会であるからである
「官軍も賊1つ潰せないほどに落ちぶれたわねぇ……まぁその方が有り難いわ」
雪蓮が行動に移す
「私は袁術の所に行って兵返して貰うから、冥琳後は頼んだわ、穏、貴方はついて来なさい」
「御意」
「御意です~」
「蓮華、私が不在の間、呉を頼んだわよ」
「はい、姉様」
「思春、明命、祭、蓮華の事頼んだわ、隣で支えてあげてやって」
「「「御意」」」」
「一刀、亞莎、初陣だけどいつもどうりにやれば大丈夫よ」
「あぁ」
「が、頑張ります」
「それでは部隊の編成に入る、亞莎、手伝え」
「は、はい!」
慌ただしくなる城内、戦場はすぐそこまで近づいて来ていた
呉から200里程離れた平原
斥候によると、そこに黄巾の本隊がいるとの情報であった
それを確かめに行っていた明命が戻る
心なしか暗い顔をしているのは気のせいであると思いたい
「で? どうだったの?」
「それが……もぬけの殻でした……」
「は!?」
斜め上の返答に声をあげてしまった俺
「それでは、情報は嘘だったと言う事か?」
さすが冥琳、冷静に尋ねる
「いえ、火や野営の跡からかなりの数が居た事は確かでした」
補足する明命
「つまり、斥候が気付かれていて逃げられてたって事か?」
「それか、普通に移動したか」
重い空気が漂う
兵を準備し、食糧を集め、馬を集め、数日かけて行軍した結果がこれでは仕方ない
俺的には、「誰も死ななくて良かったじゃん!」
と言いたい所ではあるが、空気を読める男なので言わない
ここは適当な事を言いつつ、お茶を濁す
「もしかして囮だったりしてな」
「……どう言う事だ? 北郷?」
冥琳が話に乗る
「今まで見つからなかった本隊が隠れていたならいざ知らず、こんな平原に居たのに見つかりませんでしたーって俺は納得できない」
「つまり、本隊では無いと」
「まぁ普通に移動中だった可能性もあるけどね」
そもそも、電話もメールも、というか伝書鳩も無い時代やはりタイムラグがあるのは仕方ない事だと思う
狼煙ぐらいならこの時代でも使えそうなもんだけどな……
「ふむ……」
考え込む冥琳
「で、どうするのだ? 冥琳よ」
「仕方ありません、今日一日斥候を出して見つからなかったら戻るとしましょう」
「それがいいかのぅ」
「では、まずは兵達に野営の準備を」
そう言おうとして、思春が口を止める
「誰か来る」
地平線の彼方に、人影が1つ
人影の正体は陳留の部隊の斥候であった
彼の話を纏めると、
黄巾党本隊だ、と報告を受けたのは黄巾党の方面隊であった
何故、本隊と方面隊を斥候が間違ったかはさておいて
その分隊は各地に点在しており、近くの将へと連絡をするようにと言う上からの命令のもと、雪蓮の元にも連絡が来た
問題は、ある将が黄巾の方面隊を打ち漏らした事に始まる
生き残りの兵達が、大陸各地へと散らばりこの事をそれぞれの方面隊へと伝え
その結果、方面隊が集結しているらしい
呉は特に方面隊との距離が離れていたため行軍の間に逃げられたと、言う事であろう
「結構組織化されてるんだな、黄巾って」
各地の部隊の位置を把握して、なおかつこのような事態にも対応するとは
「で、その陳留の部隊はどうしてるんだ?」
「はい、現在黄巾の部隊を追跡中でして、途中で合流した義勇軍と共にここから北に十里辺りで共同戦線を張っております」
一呼吸置いて、斥候が付け加える
その表情は硬く、なにか問題があるんだろうと思わすには充分であった
「ですが、問題が……」
「問題とは?」
「どうやら、この辺りが集合地点らしいのです」
陳留の部隊が黄巾を追っていると義勇軍と合流
義勇軍も黄巾の部隊を追って来ていた
斥候を放ってみると義勇軍が追っていた黄巾と、陳留の追っていた黄巾が接触している所を発見
さらに続々と集まり続けていると言う事なのである
各諸侯は自分の領土から追い出すと追う事を止めてしまっていて、
これ以上の戦力増加は望めそうにない
ここには、黄巾と、陳留、義勇軍、そして我々の呉の部隊しか居ない、という話である
「で、その黄巾の部隊の規模は?」
「十万程になるかと」
「あれ? 亞莎、うちの数は?」
「五千程かと」
「陳留、義勇軍の連合軍はどれくらいになるんだ?」
冥琳が尋ねる
「約一万程です」
「合計一万五千と十万かぁ……」
数が戦の基本と言う事は初歩の初歩であり約六倍ちょっとの差を埋めるのは大変である
「で、その黄巾は?」
「他の斥候が追跡中です」
「どうするのだ、冥琳」
祭が軍師である冥琳の意見を促す
「ここで聞かなかった事にして帰る、と言う訳にもいかないだろう」
「だのぅ」
「では、陳留の斥候よ、連合軍の所まで案内頼めるか」
「了解しました」
無事合流した我々は連合軍本部と向かう
「やったぁ! 曹操さん! 新しい仲間だよ!」
とはしゃぐ女の子
その際に揺れる胸、つい孫権のと見比べてしまう
大丈夫、姉と血がつながってるんだから! 心の中で励ます
届けこの想い! 隣にいる孫権へ!
すると前の金髪ツインテールの女の子と目が合う
……まぁアレだ、努力してくれ
思いが通じてしまったのか睨まれる
「この度は共闘感謝するわ」
金髪ツインテールの女の子が前に出て挨拶をする
「私は姓は曹、字名は孟徳、陳留の刺氏をしているわ」
「で、私は姓は劉、字名は玄徳です! ただの義勇軍ですけどよろしくお願いします!」
「私は姓は孫、名は権、字名は仲謀、姉の孫策の代理だ」
一気に三国志でも有名な三人が一同に会した
曹操、劉備、そして孫権である
まぁ胸は劉備の圧勝である
そんなのんきな事を考えている間にも話は進む
「孫伯符はどうしたのかしら?」
「姉は今袁術の所へ」
心なしか不機嫌になる蓮華
「そう、それでは早速軍議を始めるわ」
軍議は難航に難航を極めた
各軍の軍師がそろい卓を囲む
三国志が好きな人が見たらたまらないであろう豪華なメンツである
劉備、諸葛亮、曹操、荀彧、孫権、周瑜
三国志をあまり知らない人でも一度は聞いたことがある名前ではないだろうか
その軍議の焦点はどうやってこの戦力差を覆すか、それが大きな問題となって立ちはだかった
そんな軍議が行われている宿営の周りでは……
「はぁ……疲れた……」
慣れない馬に乗って半日、
やっと一息つける、そう思ったらついため息が出ていた
「ふはは、どうしたのだ呉の将よ! もしかして臆しているのか!?」
目の前に立ちはだかるのは大剣を持った女
「おい、早速絡むな!」
それをなだめるのは偃月刀を持った女
「すまない、気を悪くしたら謝る、悪い奴ではないのだ誤解しないでくれ」
「なんだ関羽! 私の何が悪いと言うのだ!」
「その態度だ夏侯惇! 初めて会った人に臆しているのか? と言われてみろ! どう思う!」
「私なら斬る!」
「なら言うな!!」
「じょ、冗談だ」
「貴様の場合、冗談には聞こえんぞ!」
コントが繰り広げられていた
察するに、ボケが夏侯惇、ツッコミが関羽であろう
豪華なキャスティングである
「すまない、悪い奴ではないのだが……」
「いや、俺は気にして無いから良いよ」
「で、貴様の名前は?」
自分のペースを崩さず接して来る、夏侯惇
誰にでもこういう態度なのだろう
俺、そう言う奴嫌いじゃ無い
「北郷一刀、呉で客将をさせて貰ってる」
「北郷殿か、私は姓は関、名は羽、字名は雲長、劉備様の元で武官をしている」
「私は姓は夏侯、名は惇、字名は元譲、曹操様の元で覇道を共に歩んでいる」
「関羽さんに夏侯惇さんね、2人ともこれからよろしく」
「あぁ、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしく頼むぞ」
その後は2人と談笑タイムに入った
劉備はこんな人、曹操はどんな人、と言った感じで
言ってみれば上司の自慢大会見たいなものであった
劉備が目指す世界、曹操の目指す世界、色々であった
「そういえば、北郷は客将と言ったな」
「あぁ、そうだけど?」
「どうして、呉の客将に?」
「たまたまだよ、たまたま拾って貰って世話になってるだけさ」
「ほう、それではその内こちらに?」
ニヤニヤと興味深そうに聞いて来る、関羽
よっぽど劉備が掲げる世界に自信があるのだろう
「多分な、そして都にも行ってみる、とにかく大陸を回って探したいんだ」
倭の後ろ盾を、そして銅鏡のありかを
「そうか、もし劉備様の所に来たのならこき使ってやるぞ、この戦が終わったらな」
「はは、その時はお手柔らかに頼む」
「ぐ……ほ、北郷! こっちに来い! とにかく来い!!」
「ど、どうしたんだ夏侯惇」
「良いから! 私がこき使ってやる!」
「負けず嫌いも程ほどにしておいたらどうだ? 姉者」
「秋蘭……」
どこからともなく現れたのは秋蘭と言う女性、そして夏侯惇を姉と呼ぶと言う事は
「もしかして、夏侯淵か?」
「……おや、もしかして1度あった事があったか? ならすまない、忘れてしまったようだ」
謝る夏侯淵
相手の丁寧な対応に、こちらも悪い事をしてしまったような気になる
「いやいや、初対面だから気にしないでくれ、でも夏侯惇と夏侯淵の姉妹って言ったら有名だからさ」
「そうか、それは有り難いことだ」
「そして、張飛もね」
なんとも言えない顔をしていた関羽へフォローを入れる
「そ、そうか」
なんとなく嬉しそうな関羽さん
やっぱり平等にいかないと
そんな中、軍議が終わったのかぞろぞろと宿営から出て来る
「あら……関羽じゃない」
「……曹操」
「どうしたのこんな所で? ……もしかして私の物になる気になったのかしら」
「その話は丁重にお断りしたはずだが?」
なんか険悪な空気が流れ始める、合流する前に一揉めあったのだろうか
言葉から察するに曹操がお誘いを掛けたのだろう、私の元に来ないか? とか言って
そこで、空気を換気するために話しを進める
「で? どうなったんだ? 冥琳」
「あぁ、今奴らは平原のど真ん中で陣を敷いているらしい」
「ど真ん中で?」
「あぁ、流石に十五万もの人数をまとめ上げるのは不可能だったのだろう」
諸葛亮が続きを引き継ぐ
「ですので、一応ですが作戦を考えました」
戦が、今始まる
―― 夜
「夏侯惇軍、関羽軍、甘寧軍が向かったようです」
亞莎が戦況を伝える
夜、相手が寝静まった所を狙う
奇襲作戦だ
一番槍は夏侯惇、関羽、甘寧の三部隊だ
「魏の精鋭よ! 賊共を一掃せよ!」
「世に劉備の名を轟かせるために命を貸してくれ! 続け!!」
「孫呉の兵達よ! 今こそ力を示す時!」
兵達の怒号が響き渡る、
深々としていた平原が、瞬時に戦場へと姿を変える
三部隊が奇襲をかける、
奇襲を掛けると言う事でスピードが速いこの三部隊が選ばれた
「う、うわあっぁあぁああ!! き、奇襲だあぁあぁぁ!」
見回りの兵が、銅鑼を鳴らし全体へ知らせる
しかし、その間にも本隊を蹂躙する
悲鳴が、武器同志がぶつかり合う音が、そして武器が肉を貫く音が夜の闇へ響き渡る
奇襲は成功した、
黄巾の本隊は前方は分裂し、纏まりは皆無に等しい
「我が名は関雲長! 世を乱す賊よ! 覚悟は良いか!」
流石関羽、数十人に囲まれてもビクともしない
「でりゃああああああああ!」
一振りで大の大人を吹き飛ばす腕力、流石と言った所か
しかし、甘寧も夏侯惇も負けてはいない
「ふはは! 黄巾と言ってもこの程度か!!」
猪突猛進、そんな言葉が似合うのは夏侯惇
「……死ね」
音も無く1人1人命を刈りとって行くのは甘寧
3人とも一騎当千の働きをしている
あっという間に黄巾党本隊の前線は崩れ始めた
「亞莎、銅鑼を!」
「はい!」
銅鑼を鳴らす、退却の合図である
崩れたと言っても合計たった一万五千の内の三部隊の奇襲である
相手本隊奥深くまでのダメージは与えられないのは分かっていた
後ろの方から態勢を整える様子を見せる黄巾本隊
それを見越して退却させる
「黄蓋隊!」
冥琳が合図を送る
「分かっておる! 黄蓋隊! 弓を引けぇ!」
退却している三部隊を夏侯淵、黄蓋の両弓部隊で援護する
「「打てぇ!!」」
矢が空気を切り裂く音が響く
夜空から急に降ってくる矢に黄巾は勢いを無くす
「お疲れ様です、早速ですが今の内に態勢を整えます」
亞莎が戻って来た甘寧さんに指示を出す
「了解だ」
今、部隊は、魏、呉、蜀の順で縦1列に並んでいる
そこに、仲間をやられ頭に血が昇っている黄巾が突っ込んでくる
「後退する!」
呉は後退、黄巾を誘い込む
「足を止めるな! 相手を受け止めようとするな!!」
甘寧さんが指示を出す
俺も賊を受け流しながら後ろへ下がる、いわゆる鶴翼と呼ばれる陣形である
決して足を止めてはならない、止めたら勢いに押されてしまう
「持ちこたえろ!」
自分も声を出す
ここが序盤の大一番である
呉は下がり、他の2つは斜めに下がる事により黄巾の部隊を懐まで誘い込む事に成功
「今です!」
「い、今でしゅ!」
魏と蜀の軍師が号令を出す
2つの軍が間を狭める
よって黄巾の部隊を挟み込む事に成功した
「……流石、三国志きっての軍師達」
相手をいなしながら呟く
作戦通り、黄巾を囲む事に成功した俺達は殲滅していく
鶴翼は基本兵数で負けて居る場合は使用しない
しかし、奇襲という前段階を踏む事によって成功する確率を高めに高めた
指揮が届ききっていない部隊、それは部隊では無く、人が集まっただけの群れであった
しかし、ここまで来ても相手の勢いはまだまだ収まらない
相手の数は十万、まだまだ戦は始まったばかりだ
奇襲から態勢を整え始めた本隊
なにふり構わず突っ込んできた部隊は殲滅出来たものの、戦はこれからである
「相手も陣を敷いて来ましたね」
「やはり、兵法に心得のある奴がおったか」
「では、ここからは」
「あぁ、やっと戦らしい戦を始めるぞ」
「ではこちらは魚麟を」
奇襲によって、相手の戦力は三万程削れたと思われる
だが、残りは七万、まだまだ戦は長引きそうである
戦いは、連合軍有利に進んだ
呉からは周瑜、呂蒙
蜀からは諸葛亮、鳳統、
魏からは荀彧
これらの軍師が力を合わせれば、ただの兵上がりの将の行動は児戯に等しかった
「張飛隊! そのまま戦列を押し上げて下さい!」
「李典! 右側が薄いわ! 援護に行って! 楽進・李典・于禁の隊はそのまま戦線を維持!」
「甘寧隊、周泰隊は回り込んで外からかかれ! 北郷隊! そのまま押し上げろ!!」
「お兄ちゃん、やるのだ!」
「張飛ちゃんには負けるけどね」
戦前に飛び出した俺達は、相手を受け流しながら削る戦法に入っていた
隣に居るのは蜀の張飛、自分の身長を超える巨大な蛇矛を振り回しながら人を吹き飛ばしていく
一振りするたびに、“轟”という風を切る音がこちらまで聞こえて来る
やはり武器の種類による差は大きい
刀のようなリーチが相手と同じ場合、最低一度は相手と武器を合わせなければならない
ゆえに一対一が基本となる
しかし彼女が扱う蛇矛のようにリーチが長く、巨大な武器になると一度に倒す人が多くなり
人を武器の有無など関係無しに吹き飛ばす、結果として一対多が可能となる
やはり、刀は集団戦に向いている武器では無さそうである
「お兄ちゃん! そっち行ったよ!」
「了解!」
張飛の圧倒的強さに恐れたのか、こちらに向かって来る敵兵が多くなってきた
「ったく! キリがない!」
相手の剣を流し、態勢を崩した所で殺す
これを何回も繰り返す、何回も、何回も
「ふはは! 北郷! 追いついてやったぞ!」
剣で敵を薙ぎ倒しながらやってきたのは
「夏侯惇!」
一振りで剣もろとも斬る化物、夏侯惇
「中々やるようだが、私の方が上だ!!」
そう言うの競う事じゃないから!
「んー、中々やるのだ! お姉ちゃん!」
対抗心を燃やす張飛
「ふふ、どうだ張飛! どちらが多く殺すか勝負しようではないか!」
煽る夏侯惇
「望む所なのだ! お兄ちゃんも参加するのだ!」
「え!?」
煽られる俺
「じゃあ、次の一振りから数え始めるのだ!」
轟ッ!
そこからは2人の無双状態であった
「200人なのだ!」
「ひぃぃい!? お、鬼だあぁああぁ!」
「ふ、199人!」
「ば、化物だぁぁああぁあ!」
「ん~やるのだ~、でも負けないぞ~」
「こっちこそ!」
和気あいあいと戦を楽しむ2人
そして
「あいつの方が弱そうだ!」
「あいつをまず狙え!」
「態度違い過ぎるだろ!!」
思わず突っ込まずにはいられなくなる俺
2人が倒せないと分かると、弱そうな俺に集中し始める
「やべぇ、俺がボーナスポイントとなってる!?」
「お兄ちゃんは何人なのだ~?」
「どうせ20ぐらいだろ!」
195だよ馬鹿!
多分上から見ると、俺の周りの人口密度は2人と比べてかなり密度が濃い事になっている
要は2人がこちらに誘導する役目を自然とこなしてる、2人の周りは薄いというか近づこうとする奴はいない
その分こちらは地味な戦いであるから仕方ないのであろう
幸い、小回りのきく、刀と言う武器のお陰で何とか立ち回る事に成功している
「そこ出過ぎるな! 漏れた兵だけ刈れば良い! 呂蒙に伝えてくれ! もう少し兵を下げろと!」
兵達に指示を出す
危険地帯に近づける必要は無い、
「おい! 2人とも出過ぎるな!!」
「鈴々! 出過ぎだ!」
「だ、大丈夫です、あの北郷さんがなんとか指示をだしてくれてるようですし」
「だ、だが……」
「それより、そろそろ勝負に出る所かと」
「そうだな……後で北郷には礼を言っておかないとな」
「そうですね」
「後、鈴々は説教だな」
「ふ~ん、あの男やるじゃない」
「馬鹿2人の後始末をちゃんとしてますね、それと兵達の援護も忘れてません」
「欲しいわね、あぁいういぶし銀」
「そうですね、夏侯惇の手綱を握れる人が欲しい所ですし」
「そうね、とりあえずは目の前の賊を殲滅しましょう」
「一刀は?」
「ちゃんとやっています、蓮華様」
「そ、そうか」
「気になりますか?」
「そ、そんな訳ない! ただ初陣で緊張していないか気になるだけだ!」
「フフ……そうですか」
「では、仕上げと参りましょうか」
「あぁ、冥琳、そうするとするか」
このまま連合軍の勝利、そう確信したその時、1つの伝達が入る
「東から黄巾! その数二万!」
「なに!?」
東からやってきた黄巾の分隊が前線と中盤の間に入る、まずは前線を挟み撃ちにして倒すようだ
勿論、前線に居るのは、俺と、張飛隊、夏侯淵隊、そして呂蒙
「北郷様! 伝令です! 東から黄巾二万の部隊が後ろに!」
後ろを振り向く、後ろには呂蒙が居る筈だ!
「呂蒙! 今行く!」
しかし、周りに蔓延る賊たちは増える一方であり、道は人で塞がれている
1人1人倒しても埒が明かない
だけどこのままだと呂蒙が……!
「張飛! 夏侯惇!」
頼めるのは一対多が出来るこの二人だけ
「なんだ! 北郷!」
「なに! お兄ちゃん!」
「お願いだ! 後ろに居る部下を助けてくれ!」
「後ろ……な!? 黄巾が居るではないか!? どうしてだ!」
伝達が来ていなかったのか、無理も無い、夏侯惇達が居るのは敵との接触点
最前線も最前線だから辿りつくのも一苦労である
「東から別働隊が来たんだ! このままだと後ろとここが孤立してやられる!」
「だけどそうしたら、前線が保てないのだ!」
「ここは俺に任せてくれ! 頼む! 後ろに大事な部下がいるんだ!」
俺がここへ呂蒙を連れ出したような物、なら責任は俺が取らなければならない
「……分かった、前線を崩されたらお前を許さないからな! 兵達よ! 私に続け!」
「了解なのだ! ここはお兄ちゃんに任せるのだ! 皆はここでお兄ちゃんの手伝いをして!」
2人は群がる敵を圧倒的な力で的を吹き飛ばしながら後ろへ下がる
そして、一番前に立つのは俺、
目の前には、数多くの黄巾賊
適材適所、俺はあの2人のように1撃で多くを倒せない
だけど俺は生き残る事に特化している
ならば
「時間を稼ぐならお任せってな、さぁ死ぬまで付き合って貰うぞ」
「呂蒙様! 後ろから黄巾が迫って来ます!」
「りょ、了解です! なんとか持ちこたえて下さい!」
真後ろに敵が来た事により後ろにいた呂蒙が敵前に晒される事になった
呂蒙自身も武の心得があるが、相手の数は二万
いくらその後ろから味方が援護に来ているとは居るとは言え、その数を相手にするのは絶望であった
「りょ、呂蒙様! 逃げて下さい! このままでは呂蒙様まで!」
「い、いえ私も呉の将! 最後まで戦います!」
「しかし……ぐわぁ!」
「!! 貴様!!」
手に付けた暗器で人を殺す
だがしかし、減っている様子が分からない
味方の数もみるみる減って行く、後ろからの強襲流石に呉の兵と言えど
戸惑いを隠せない
呂蒙の頭に死が過る……
「一刀様……」
「後ろです! 呂蒙様!」
「!?」
見えたのは振りかぶられた剣
とっさに目をつぶる
人が倒れる音がする、
……生きてる
うっすらと目を空けていく、目の前に居たのは
「えっと……」
「お前の上司に頼まれ助けに来た」
「もう安心なのだ! だからちゃんと兵達に指示をだすのだ!」
「あ、ありがとうございます! 持ちこたえて下さい! 夏侯惇さんの兵達が助けに来てくれました!」
折れかけていた兵達の心を、なんとか立て直す
「後ろの周泰隊と思春隊が来るまでの辛抱です! 皆さん! 耐えて下さい!」
とにかく、動く、休まず動く
呼吸をするのも忘れ、とにかく体を動かす、
片方の刀で剣を受け流し、その隙にもう片方の刀でトドメをさす
それを繰り返す、視界に入る敵の全ての動きを予想する
筋肉に入れる力は最小限に、結果は最大限に
後ろには鈴々の兵達が頑張ってくれている
ならば前線は任せて貰おう
だんだん体が軽くなる、
なんだかこのままずっと動けそうだ
「よくこらえたわね、春蘭」
「華琳様!」
「後から来た黄巾は!?」
「許緒・楽進・李典・于禁と呉とのお陰でなんとかなったわ」
「亞莎! 無事か!」
「亞莎!」
「思春さんに明命!」
「ふぅ~なんとかなったのだ~」
「ありがとうございました夏侯惇、張飛ちゃん」
「いや、北郷に命令されたまでだ」
「そうなのだ! 感謝ならお兄ちゃんにいうと良いのだ!」
「その北郷は?」
思春が尋ねる
「お兄ちゃんなら……あ! 最前線にいるのだ!」
「正気!?」
曹操が声を上げる
「大丈夫なのだ! 鈴々の兵も置いて来たのだ!」
「それでも! ただの将と兵数百人だけで最前線維持なんて無茶よ!」
「でも……お兄ちゃんに頼まれたのだ……」
「話は後だ! 明命! 一刀を助けに行くぞ!」
「はい!」
「生きててくれ……一刀」
如何せん数が多い
いくらスタミナに自信があると言えど限度はある
車がガソリン無しで走れないように
電車が電気無しで動かないように
北郷一刀も、そのスタミナの底を見始めていた
呼吸が乱れ始める
最近無かった呼吸の乱れに焦りを感じる
一度でも止まったらもう動けなくなる
止まったら絶対動けなくなる、止まる時は死を覚悟する時だ
しかしそれを表情には出さない、だしたらそれに付け込まれる
ゆえに、表情は無表情である
だが人間だれしも、限界が訪れる
積み重なった死体に足を取られる
そのまま地面へと倒れ込む
起き上がろうとするにも、足に力が入らない
腕をつき、なんとか立ち上がろうとする
手足は震え、刀を握る握力さえ残っていない
周りに黄巾が集まってくる
彼らの表情からは想像出来ないほどの憎しみの表情が俺に向けられる
動け無いのを察したのか
だんだん人が集まってくる
目を閉じる
――― あぁ、終わりか
しかし、いつまで経ってもトドメを刺しに来ない
目を空けると、その理由が分かった
「あら、死にそうね」
そこに現れるのは
「間に合ってよかった、一刀に死なれたら困るもの」
呉の王
「遅いよ、雪蓮」
「はーい、お待たせー、それじゃあ穏!」
「は~い、それでは突撃~!」
地面を響かせるほどの声が鳴り響く
それは自分に生の実感を湧かせるのに充分であった
やっと前線崩れた、と思われた瞬間
やって来るのは孫呉の王、孫策
敵の心を折るには十分であり
戦が終結するのに、そう時間はかからなかった
「大丈夫か! 一刀!」
「一刀さん!」
俺の顔を見た瞬間、顔を綻ばせる2人
素直にそのリアクションは嬉しい
「やぁ、思春、明命、亞莎は?」
なんとか平然を装う
「無事だ」
「そうか……それは良かった」
「立てそうか?」
手が差し出される
「あー、うん」
なんとか手を借りて立ち上がる
しかし、足が震えて1人で立てそうも無い
それを察してくれた明命が肩を貸してくれた
「ありがとう、明命」
遅れて、曹操達と、張飛、そして呂蒙がやって来た
「お兄ちゃん! 大丈夫なのだ?」
「生きてるかー北郷」
「あぁ、夏侯惇、張飛、ありがとう」
頭を下げる
「なに、お前も良く踏ん張ったな」
「お兄ちゃん、見かけによらずやるのだ!」
「見かけには余計だ」
「にゃはは~」
「北郷一刀」
「なんだ? 曹操」
「1人の武人としてあなたの働きに敬意を払うわ」
「その言葉、ありがたく頂戴するよ」
声が1つ足りない
「亞莎?」
うつむいたままの亞莎に声を掛ける
「どうした?」
「一刀様!!」
「うおっ!?」
いきなり抱きつかれる、肩を借りてると言えど踏ん張る事が出来ずそのまま地面に倒れ込む
「一刀様」
「なんだ亞莎」
胸が濡れて来る
俺は何も言わず頭を撫でる事しか出来ないのであった
今晩はここに宿営を建てる事にした連合軍
そしてそこには、孫策が生け捕りにされた3姉妹の姿があった
「ふぇ~ん……ごめんなさぁ~い」
話を聞くと彼女らは大陸を旅していた旅芸人
その追っかけが暴走して黄巾賊などと言う物を作り上げていたようだ
「で、どうするの?」
「悪意が無いにしろ……ここは1つ首謀者の首を持って帰れば……ちょうど首が3つあるし」
「良いわね! それ!」
「えぇぇ!?」
「うるさいわよ、本当に首飛ぶから」
「ひぃ!」
「で、どうする? 曹操」
孫策が尋ねる
「そうね、私達が引き取っても良いけど?」
ニヤ、と何か考えている様だ
「えぇ~タダじゃなぁ~、ねぇ? 劉備?」
「あ、え、わ、私達は……」
「そこで、はいと言える女になりなさい」
「はぅ~」
曹操が提案する
「ではこうしましょう、この3人を私達が引き取る代わりに劉備、孫策」
「なにかしら」
「なにかな?」
「貴方達が独立する際は、力を貸しましょう」
「良いわね、それ! 約束よ」
「え、えっと! 朱里ちゃん!」
「悪くないと思います……曹操さんがどのようにこの3人組を使うかは別にしても、力が必要なのは事実ですし……」
「独立後も、私の前に立ちはだかるまではこちらからは何もしない、これでどうかしら?」
「分かりました、それでお願いします、曹操さん」
「賛成よ、曹操」
「では、この3人の命、私が預かったわ」
黄巾の乱はこうして一段落を迎えた
そして俺は、呉を去った
と、言う事でOP呉編完!!
と言う事でにじふぁんからの人はお久しぶりです
TINAMIからの人は初めまして、カレンフェルドです
にじふぁんからの人は知っていると思いますが、
にじふぁんに最初に投稿したのが2009年であり
それからまだ完結していない、という作品です
つまり、自分が駄目人間なだけな訳です
にじふぁんに投稿したものとは全く別物となっています
……あの頃は若かったと言う事でお許しください
そして文章力も上がっていません、誤字脱字の指摘毎回ありがとうございます
指摘の度に、良く読んでくれてるなぁと感謝しています
初めての戦闘シーンは如何でしたか?
多分至らない点多数あると思いますが
その時は匿名で構いませんのでどんどんメッセージなりよろしくお願いします
そしてこれからもこのシリーズをよろしくお願いいたします
とりあえずは、反董卓まで書きたいと思っています
自分的には拠点フェイズのような話も書きたいのですが、それは原作にお任せと言う事で
暇があれば、倭の時の話も
そして希望要望、改善点ありましたら、どしどしお願いいたします
匿名でも可能にしてありますので、よろしくお願いいたします
それでは、次に一刀は何処に行くんでしょうかね?
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黄巾の乱開戦、そして動き出す時代