No.456511

Fate/The black truth 第2・3話  「契約」

ロッキーさん

雁夜の戦いを知る戦人。戦人は雁夜の中に眠る秘めた想いを暴く。

2012-07-21 00:52:40 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2012   閲覧ユーザー数:1960

第2話 契約「上」

 

 

side- 雁夜

 

バーサーカーが戦いに参加した俺の理由を聞いてきたのがそもそもの発端だ。間桐の魔術を嫌悪していた俺は昔からの想い人“葵”さんと一緒にいる時間が幸せの時間だった。想いを伝えたくても、家には忌まわしい妖怪爺がいる。葵さんをあの爺に近づけたら必ず不幸になる。故に他の誰かと結婚しても、想いを伝えられなくても葵さんが幸せならよかった。

幾年がたち子供が生まれ、僅かな時間の中、子供たちや葵さんと話をするのが楽しかった。

だが、父親の時臣が間桐の家に桜ちゃんを養子にだしたと聞いたときは耳を疑った。あの妖怪爺がいるところに娘をいれるなんて正気には思えない。葵さんや凛ちゃんを悲しませてまでやることなのか。葵さんは納得しているが、俺は納得がいかなくて桜ちゃんのために十数年ぶりに間桐家に戻った。

 

「その面、もう二度と儂の前で晒すでないとたしかに申し付けた筈だがな。」

 

冷たく憎々しげに言い捨てる老人“間桐 臓硯”をみて変わってないと感じた。何せこの妖怪は、延命に延命を重ねた不死の魔術師。例え自分の血を引くものでも自分の命を長らえさせる道具と考えている。そんな爺に弱みをみせては一瞬にして喰われてしまうので単刀直入に答える。

 

「遠坂の次女を迎え入れたそうだな。そんなにまでして間桐の魔術師の因子を残し・・・いやそこまでして聖杯を欲するのか爺。」

 

俺はあえて前振りを無視して聞く。臓硯は口元を歪めながら怪物の笑みをしながら答えた。

 

「左様。此度の聖杯戦争は見送り、60年後の聖杯戦争には勝算がある。遠坂の娘の胎盤からはさぞ優秀な術者が生れ落ちるであろう。アレはなかなか器として望みが持てる。」

 

湧き上がる怒りを飲みほし、平静を装う。

 

「聖杯さえ手に入るなら、遠坂桜には用がないわけだな。」

 

「お主、何を企んでおる?」

 

「取引だ。間桐臓硯。俺は次の聖杯戦争で間桐に聖杯を持ち帰る。それと引き換えに遠坂桜を解放しろ。」

 

「カッ、馬鹿を言え。今日の今日まで何の修行もしてこなかった落伍者が、わずか1年でマスターになろうだと。」

 

「それを可能にする秘術が、あんたにはあるだろう。『刻印虫』を植え付けろ。この体は薄汚い間桐の血肉で出来ている。他家の娘なんかよりは馴染みがいいはずだ。」

 

臓硯は表情を消し、魔術師の顔になる。

 

「雁夜、―――死ぬ気か。」

 

               ・・・・

「まさか、心配だとはいうまいなお父さん」

 

雁夜が本気なのも、臓硯は理解したらしい。

 

「解せぬな。何故、小娘1人にそうまでして拘る。」

 

「間桐の執念は、間桐の手で果たせばいい。無関係の人間を巻き込んでたまるか。」

 

「それはまた殊勝な心がけじゃのう。」

 

臓硯は愉しそうににんまりと、底意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「しかし、雁夜、巻き込まれずに済ますのが目的ならば、いささか遅かったようじゃのう。遠坂の娘が当家に来てから、何日目になるか、お主知っておるか。」

 

「爺ぃ。まさか―――」

 

自分の最悪の答えにたどり着いたのが面白いが如く

 

「蟲蔵に放り込んで初めの3日間は泣き喚きおったが、4日目からは声も出さなくなったわ。今日等は半日も蟲に嬲られ続けてまだ息をしとるわ。遠坂の素材も捨てたものではない。」

 

「さてどうする。頭の先から爪先まで蟲まで犯されぬいた壊れかけの小娘1匹。それでもなお救いたいと申すなら、まぁ、考えてもやらんでもない。」

 

「・・・異存はない。やってやろうじゃないか。」

 

 

「・・・ゴホッ・・ゲホッ・・こうして1年間、蟲に嬲られ続けることによって半身が麻痺してまでも戦う理由だよ。」

 

長々と話をしてしまったせいか体の具合が悪くなってしまった。寿命も少なくなってしまったが桜ちゃんを葵さんの所に帰してあげたら、俺の命は惜しくない。時臣も反省の意味を込めて殴り飛ばしてでも考えを改めさせる。考えを改めたら俺は時臣を許そうとするぐらい精神は落ち着いていた。

バーサーカーは俺の話を黙って聞いてくれた。呆れるよな。こんな理由で戦うなんて。

バーサーカーが話をすることが出来るからか、本来の世界よりも若干落ち着いている状態である。あるいは自分の話を誰かに聞いてほしかったのかそれは雁夜も分からない心情だ。だが、この後バーサーカーが口を開いたとき、自分の信じているものが崩れ落ちることをまだ知らない。

 

 

 

 

 

side- バーサーカー

 

 

マスターが殺したいサーヴァントを殺すにはどうすればよいか。攻撃方法・人格・容姿・態度等ありとあらゆる情報を集めなければ確実に殺すことができない。

マスターの話を聞くと最初の脱落者は“アサシン”だと分かった。何故かというと、使い魔の目を通してみたそうだ。なんでも、アサシンが遠坂邸に忍び寄り結界を壊そうとしたところ、遠坂邸から黄金のサーヴァントが出現し、黄金のサーヴァントの背後からありとあらゆる武器が出現し、あっという間になす術もなく串刺しになったそうだ。その攻撃方法から残ったサーヴァントのクラスに照らし合わせると“アーチャー”か“イレギュラークラス”になる。

マスターの話を聞くと聖杯戦争はよっぽどのことがない限り“イレギュラー”は発生しないというから“アーチャー”と仮定しておこう。

 

“俺としてはマスター共々残酷な真実を突き付けて絶望に突き落としたいんだがな”

 

俺は殺すのはいいが、悪夢のような現実に突き落としてからのほうがより一層楽しめると考えている。マスターの戦う理由を最初に聞くのを忘れていた俺はマスターに聞く。体調が悪そうだが語った。どうやらマスターは桜の幸せを考え遠坂 葵のもとに帰そうと聖杯戦争に参加し遠坂 時臣の魔術師的思考を改めさせようと目論んでいたが、俺を呼び出したからにはそんな物語では終わらせない。

 

「マスター。お前の望みはこの家にいるあの小娘を遠坂 葵に帰すのが願いなんだな。」

 

雁夜は体調が悪くなり横になって俺に自身の願いを言った。

 

「・・そ・・そうだ。・・・俺は、そのために、・・桜ちゃんを自由にするために・・間桐に・・・戻ったんだ。」

 

息をするのも苦しいのか、やっとの思いで答えてくれた。俺はこの館にいる小娘を見たが、あれは絶望している眼だ。どんのことがあっても助からないと思考が停止している状態だ。あんなのを助けたいとは俺もそうだがマスターも狂っているなと思った。

だが俺は、そんな綺麗事の真実を聞きたいんではない。

 

「違うなマスター。お前はそんな理由で戦うではないんだろ。そんな願いじゃないだろ。」

 

俺はマスターの願いを否定した。分かるんだよ。そんな綺麗事の願いではないことぐらい推理しなくても分かるぜ。

 

「ど・・どういう意味だバーサーカー。・・・お・俺の・・願いが・・違うだと。」

 

マスターの表情が困惑している。まるで自身の願望から目を背けているかのような感じだ。だから俺は背けている真実を、マスターの真の願いを答えてやろう。

 

「お前は時臣を殺して、あの男から母娘を奪いたいんだろ。そのために参加したんだよ。」

 

雁夜は俺の言っていることが分からないのか最初は呆然としていたが、次第に顔に熱がはいる。

 

「違う。俺は桜ちゃんを葵さんの所に帰したいだけだ。あの母娘が幸せになればそれで充分なんだ。」

 

俺の言葉を否定したいがために先ほどまでの病弱ぶりが嘘のようだ。

 

「何が違うんだ。お前は母娘の幸せを願うんなら、何故あんな壊れた娘を助けようとするんだ。あれがいなくなった欠落をお前が埋めてやればすむ話ではないか。それとも何か。あの状態の小娘を遠坂 葵に帰せば元に戻ると思っているのか。」

 

「・・・・・・・っ。」

 

マスターもわかっているんだろう。だから何も言えないんだ。反論が出来ないのかマスターは俺から目を背けながら

 

「・・ち・・違う。ぉ・俺では葵さんを・・・幸せにすることが出来ない。・・・・俺が傍にいたら不幸になる。・・・だから桜ちゃんをこの間桐から解放して、元の優しい笑顔を取り戻すために戦うんだ。・・・葵さんや凜ちゃんの為にも。」

 

自分の真実がいかに儚いものなのかちょっと突いたらボロボロになる。今の姿がまさにそれだ。そんな儚い真実に縋るマスターに止めをさしてやろう。

 

 

         ・・・・・・・・・・・・・・

「はっきり言おう。遠坂の母娘は幸せにはならない。」

 

 

 

俺の黒き真実により雁夜は目を見開いた状態で、ガタガタと体を震わせる。まるで自分の信じてきたものが否定された子供のようなぐしゃぐしゃの顔だ。

 

「嘘だ・・・嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。これ以上下らないことを言うなら令呪を使ってお前を二度と喋られないようにしてやる。」

 

「まぁ落ち着けマスター。まずは俺の話を聞いてから使いな。そうしたら令呪を使わずとももう二度とこのことは喋らないからよ。」

 

追い詰めすぎたのか令呪を使用されては堪らないからマスターを落ち着かせる。さぁて、俺の真実は少しばかり残酷だぜ“雁夜”

第3話 契約「下」

 

 

 

 

 

 

side 雁夜

 

「違うなマスター。お前はそんな理由で戦うではないんだろ。そんな願いじゃないだろ。」

 

バーサーカーは俺の願いが違うと否定をした。どういう意味だ。こいつは俺の話を聞いていなかったのか。

 

「ど・・どういう意味だバーサーカー。・・・お・俺の・・願いが・・違うだと。」

 

体の具合が悪くなったせいか、言葉を上手く出すのも難しい状態だ。俺は桜ちゃんを葵さんと凜ちゃんの元に帰して三人をあの頃のような笑顔にするために戦うだけだ。それ以外に何があるのだと言うんだ。バーサーカーは待ってましたと言わんばかりの顔で

 

 

「お前は時臣を殺して、あの男から母娘を奪いたいんだろ。そのために参加したんだよ。」

 

 

と嗤いながら俺に言った。馬鹿な、こいつは何を言った。俺が葵さんを時臣の手から奪いたくて参加しただと。何を言っているのか分からなかったからか理解出来なかった。初めは呆然としていたが、こいつの言ったことを脳が理解し始めると、この男の言ったことが赦せなくなった。―――巫山戯るな。葵さんには秘めた想いがあるが、そんな理由で桜ちゃんを救いにきたんじゃない。俺の決意をそんな理由で汚すんじゃない。

 

「違う。俺は桜ちゃんを葵さんの所に帰したいだけだ。あの母娘が幸せになればそれで充分なんだ。」

 

俺はバーサーカーの言葉を強く否定した。

 

「何が違うんだ。お前は母娘の幸せを願うんなら、何故あんな壊れた娘を助けようとするんだ。あれがいなくなった欠落をお前が埋めてやればすむ話ではないか。それとも何か。あの状態の小娘を遠坂 葵に帰せば元に戻ると思っているのか。」

 

「・・・・・・・っ。」

 

否定することが出来ない。バーサーカーの言うとおり、桜ちゃんを葵さんに帰したとしても、桜ちゃんがあの状態だと、心優しい彼女のことだ。悲しんでしまい、下手したら最悪の事態になるかもしれない。凜ちゃんも葵さんと同じように悲しんでしまう。俺がそばにいても、彼女達を笑顔にすること所か支えることも出来ない。・・・悔しいけど、認めたくないが、あいつでなくては葵さんを支えることが出来ない。

 

「・・ち・・違う。ぉ・俺では葵さんを・・・幸せにすることが出来ない。・・・・俺が傍にいたら不幸になる。・・・だから桜ちゃんをこの間桐から解放して、元の優しい笑顔を取り戻すために戦うんだ。・・・葵さんや凜ちゃんの為にも。」

 

情けないが、間桐家から桜ちゃんを解放するためだけしか戦えない。たとえこの戦争で命を落としても、桜ちゃんを助けることが出来たら悔いはない。気持ちを切替えようとしたところ、バーサーカーが無表情で俺の真逆の願いを口にする。

 

 

 

         ・・・・・・・・・・・・・・ 

「はっきり言おう。遠坂の母娘は幸せにはならない。」

 

 

                    

寒気がした。今のは何だ。

 

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

たった一言だが、今の言葉は不気味なほど説得力がありすぎる。

 

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まるで、本当に母娘は幸せにならないと運命が決まっているかのような言葉だった。

そんな訳がない。桜ちゃんを解放したら、元通りになるんだ。俺の願いを根本から崩そうとする言葉を言うんじゃない。体の震えが止まらなくなるが関係ない。

 

「嘘だ・・・嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。これ以上下らないことを言うなら令呪を使ってお前を二度と喋られないようにしてやる。」

 

     ・・・・・・・・・・・・・・

これ以上、俺の願いを否定するんじゃない。

令呪に意識を向けて、発動させようとしたところ

 

「まぁ落ち着けマスター。まずは俺の話を聞いてから使いな。そうしたら令呪を使わずとももう二度とこのことは喋らないからよ。」

 

バーサーカーは俺に落ち着けと言う。巫山戯るな。もうお前の言葉を聞きたくない。これ以上俺を惑わす言葉をいうなら、問答無用で令呪を発動させる。

 

「俺の言ったことはお前にとって戯言にしかならない。何を言っても説得力がない。そこで、俺を少しでも信用してもらうために証明してやろうじゃないか。」

 

「・・・証明だと。」

 

バーサーカーは信用してもらうために何をするんだ。

 

「そうだ。当初の目的は聖杯を持ち帰ることだ。まずは、第一歩としてお前を苦しめる諸悪の原因となる遠坂 時臣のサーヴァント“アーチャー”を撃退する力をお前に見せてやる。」

 

その一言で俺の中にある憎悪が噴出する。そうだ。元々はあいつの下らない目的のために家族が泣いているんだ。あいつは俺が欲しかったものをゴミのように捨てたあの男を赦せない。これ以上あの人達を悲しませるなら、あいつは俺の手で ■ してやる。

 

「なら証明しろ。・・・お前が・・アーチャーを・殺すことが・・できたら・・・信用してやる。」

 

憎しみで満ちた俺の答えにバーサーカーは満足したのか、嗤いながら高らかに宣言した。

 

「いっひっひっひっひ・・・・マスター、いや雁夜。この俺“右代宮 戦人”が証明しよう。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・ 

 俺がお前の敵を殺してやるよ。」

 

 

 

 

この日、俺は初めてサーヴァントとマスターの関係を結んだ。

 


 
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