■18話 策士策に溺れる
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昨日ねる前にちょっとやってみよっかなーと思いついて早起きしてみたのだけれど……想像以上に眠い、もう二度寝したい。
だからといって二度寝しては起きた意味がない。仕方がないので鍛錬でもして目を覚まそう思って調練場へ向かう。ちなみにもう道は覚えました。
それにしても昨日は久々に泣いてしまった。おかげで張遼には甘える事になって恥ずかしい限りだ……。ここまで感情を表に出したのはかごめを助けた時以来だろうか?
そんなことを考えているうちに調練場につくいたのだがこんな朝早くから先客がいたようだ。
「やっ……はっ……」
誰かいるのはわかっていたけれどまさかかごめだったとは予想外である。そしてこの頃鍛錬している姿を見なかったが、なるほどこんな朝早くからやっていたのかと納得する。
「かごめ」
ずっと見ているのも何なので声をかけたのだけれど予想以上に体を震わせて驚いていた。もしかしたら何か隠し事をしていたのかもしれない。悪い事をしたと思いつつも声をかけたのだから立ち去ることも出来ない。
「すまん、驚かせたか?」
「別に……いい」
「そっか、ありがとな。それにしても手に持ってるそれ弩? いやちょっと違うみたいだな」
「真桜、作…ってくれ…た」
隠すわけでもなく笑顔で見せてくれたそれは小型の弩のようだが何かと違う。矢をセットしたら弩の後方の突起物を外側に引くと自動で矢を弓につがえてくれる。後はトリガーを引くだけで発射できる構造のようだ……ちょっと銃っぽい。
矢をつがえる際の力は本来の弓よりも格段に少ないおかげで腕が上がればそれなりに連射もできるみたいだ。しかもそこまで重くなくかごめでも難なく扱うことが出来る上に威力もそこそことかなりの一品ではないだろうかと思う。
「これはすごいな」
「おかげ、で……戦え…る」
「でも、安心して背中を預けるにはちょっと心もとないな」
容赦のない言葉にかごめは俯いて頬を膨らませながらしょぼくれる、罪悪感がひしひしと感じさせるが戦場に出るからには容赦できない。前回の黄巾党との戦いは明らかに実力が相手よりも格段に上の綾がいたからこそ成り立っていたのだ。
さすがに今の状態での戦闘参加は推奨できない。けれどかごめの覚悟は相当なものだ、恐らく俺の話を聞いて真桜に頼み込んで作ったのだろう。きっとこれから何か言ったとしても無理に戦闘に参加してしまう恐れも大きい。
「ああ、戦うなって意味じゃなくてだな。えっとだな、これじゃあ敵が近づいてきたとき対処できないだろ? だからなかごめには盾も持ってもらいたいんだが……そうだな……」
一応理由を説明したら諦めてくれないかと思ってこれ以上重量を増やすという理に叶ってはいるものの相当な無茶なアドバイスをしたのだけれど完全に逆効果だった。さっきまでしょぼくれていたのが嘘みたいに顔を上げて一語一句聞き逃すまいと真剣に聞き入ってくるかごめ。
こうなるともう手の付けようがない。元々わかってはいたことだから別に構いはしない、どうせここまで決意が固いのなら遅いか早いかの違いでしかないだろう。
「片手につけたままその片手を自由に扱える盾……しかも衝撃を逃がすよう丸いのがいいな。そういった盾があればもう何も心配要らないが」
かごめは俺の案を聞くと考えるようにしてしばらく俯き、突然顔を上げ嬉しそうに声を上げる。
「でき…る!」
「そうか、手伝いは必要か?」
「大丈夫、今……から…試す」
「わかった。なら頑張って来い」
激励として優しくかごめの頭を撫でてやると満足したように調練場を後にして走り去っていった。これから重量の問題をどのようにかごめが解決するのか見物である。
身体は動かしていないものの、もう目は覚めてしまったし。少し早いけど目的の場所にでも向かおうと思い立ち森へ向かう。欲しいものは腐葉土と粘土。
まぁ、今日は皆で農作業でもやろうかと思っている。正直気の鍛錬は楽ではないし、コツをつかむのも大変だろう……いつまでも鍛錬鍛錬じゃ気が滅入って仕方ないはずだ。なので気分転換と思い企画してみたのだ。農家の出の人もいるだろうしいい感じになるのでは? と思っていたりする。
それにここの農業はどうも地面へのアプローチが少ない、肥しをやるのはいいが、土の質も同等に大切なのだ。それを今回教えようとも思っている。
他にも水路を引いたりとか考えているのだがこれは一刀の知恵も借りなくては一人ではまとまらない。
荷物持ちが一人ぐらい欲しいかもと思っても周囲に手伝ってくれそうな人はいない。幼馴染の綾なら頼みやすいし、力も強いのでいいかもしれんないのだけれど、あいつは面倒なことにも鼻が利くから厄介だ、女の勘ならぬ獣の鼻。
といっても釣る事は出来る、寧ろ簡単だ。思い立ったが吉日とばかりに森への針路を厨房に変更する。
と変更したつもりだったのだけれどいつの間に何処ともしれぬ場所へたどり着いていた。あれ? 厨房ってどこだ?
もはやお約束になりつつある時雨だった。
◇◇◇◇
まだ微睡の中にいたかったものの朝から嫌な匂いがして来た為に起きざるをえなくなってしまった。とても面倒くさそうな匂いが今現在進行中で漂っている。
まだ朝早いがきっとなにか起こる……そう私の勘が告げている。
こういうときは部屋にいては危ない。とりあえず移動しなくては……とコソコソと準備をして部屋を出る。出てすぐにかごめが急いだように目の前を走り抜けていくのを見て何かの前触れかと警戒したものの特に何も起こらなかった。
それでも警戒を解くようなまねはせずにとりあえずかごめの走って行った調練場へと向かう。
恐らくここら辺なら面倒ごとを押し付けようとする賈駆はこないはずだし、時雨はもっと遅くに来るはずだ。
けれど特にここで訓練する気も起きない、何をしようかと考えてまだ朝早いのだからとりあえず寝る事にする。
見つからない様調練場の武器などが散乱している場所に横になり頬を緩める。
「にふふ……、お休みー」
発言して即座に眠り落ちる綾。訓練したわけでもなく何処でもすぐ眠れる能力は時雨に言わせればチートの領域な気がしないでもない
寝てしばらく経つといい匂いがしてきた。まだ嫌な匂いがするものの、いい匂いのほうへ行けば問題ないだろう。
そんなことを思って寝起きの綾はふらふらと厨房へと向かっていったのだった。
◇◇◇◇
やっとついた……と吐息をこばして人心地尽く、なぜか都合よく現れてくれた侍女さん達に助けられなければここにたどり着くことは出来なかっただろう。本当に侍女さん達には感謝してもしきれない。
さてさて、前世の一人暮らしで培った妙技、そしてこの世界でじじばばを骨抜きにした技を駆使て……ん? じじばば骨抜いたら死んじゃうか。訂正訂正、じじばばを虜にした技を駆使して綾をおびき出すことにしよう。
調理場にある材料を見てやはりこの時代は知ってる調味料が少ないことを思い知る。でもここで諦めたりはしない、一つ一つ味を確かめ、どういう風に使えば味が合い、引き立つのかを考えていく。
じじばばの所で培った経験が俺を強くしていると実感する。だってあそこ塩ぐらいしかなかったし、だから素材となったものの味を最大限に引き出すことを考えてかなり無茶して作ったのだ。
それに比べればこんなの容易い。そして今までよりももっと出来ることが広がったおかげでなんだか楽しい気分になってくる。
興奮を抑えられぬままに早速料理を始める。まずは調理場にあった骨だけを取り出し、一緒に保存されていた肉は置いておく。骨を鍋に入れ、塩とスパイスを少量加え出汁をとり始める。その間に置いてあったその他諸々の具材を切り刻み、少量の肉をスライスしていく。
他にも料理が必要なはずなので鍋用途は別に野菜も切っていき、ブロック状に切った肉と一緒に蜂蜜と唐辛子を少量いれて炒めていく。思ったように味が整わず、他の調味料を少しずつ加えて整えていく。
炒め終わったところで出汁をとり終えたなべの中に切っておいた具材を入れていく。後は出汁が具材に染み込むのを待つだけだ。
出来上がった渾身の作を皿に盛り付けてテーブルへと運ぼうとしたのだが、何故か目の前に恋がいる。しかもめっちゃ目がきらきらしてる。どういうことでしょうかと問いかけたい。
「時雨の料理、食べたい」
「え? ……ああ、まぁいいけど」
そういったのが運のつきだった。
もきゅもきゅとおいしそうにほうばる恋はさながらハムスター……可愛すぎる。けれど見た目にだまされてはいけない、料理の減り方が異常だ!
丹精込めて作った鍋にスライスされた肉を突っ込み、肉が煮える間に他の具材を平らげていく。その途中程よく火の通った肉を食べ、炒めものを食べていく。
あまりの速さに急いで他の料理を作り始める。これでは綾が来た時になにもなくなってしまう。釣れたとしてもこれでは最悪だ、そう思った瞬間それは訪れた。
「あーーーーーーーーーー、呂布さんだけずるい!」
「もぐ……恋でいい」
「あ、それはどうも私は綾って呼んでくださいってチガーウ!」
「?」
もぐもぐ料理を食べながら首をかしげる恋。怒る綾。そしてこれから繰り広げられるであろう大食い大会にげんなりする時雨。
「なんで恋だけ時雨の料理食べさせてもらってるの? 私小さい頃しか食べさせてもらったことないのに!」
あれ? そうだっただろうか? 正直良く覚えていないしどうでもいいのだが、何故そこまで怒るのかがわらかない。
「ちょっと時雨! 私にも作ってよ!」
「わかってるって今作ってるし、そこにある料理をとりあえず食っとけ」
何故か矛先がこちらに向いてきたので宥め、目の前の餌へと注意を逸らせる。
それにしても、たかが料理といって侮ることなかれ。今ここは戦場とかしたのは事実だ。俺はやつらの胃袋に勝つ! ……そう思っていた時期もありました。
「なんかいい匂いすると思ったら紀霊やったんか」
「ちょっとあんた料理できたの?」
「むふふ、すごいでしょー時雨は私塾に通ってた時から料理がうまかったんだ!」
「へぇ、私塾になんて通ってたんだ……」
綾が自分のことのように褒めてくれて嬉しいはずなのになぜか背中が薄ら寒い、後から合流してきた賈駆からかなり嫌な気配がする。そして賈駆に加え張遼と董卓が新たに加わったことに戦慄するのを禁じ得ない。俺はいったいこれからどれだけ料理すればいいのだろうか。
「へぅ……私より上手」
「っな! ボクは月の料理の方が好きだから!」
「はぅ……。ありがと詠ちゃん」
なんだか知らぬ間にどんどん人が増えていく、そして作る量も増えていく。そして今またさらに人の足音が聞こえてきている。もうどうしろと。
「あれ? ……時雨、いた」
「あ、恋殿! いないとおもったらまたこんな男のところへ!」
「ん? 紀霊は料理も出来るのか…私はまた負けたのか…」
俺を探していたらしいかごめはとりあえず食事をとる事に決めたようで、陳宮は怒ったまま食事をしているらしく、声から察するに何故か打ちひしがれている華雄殿。一体背後何が起こってるんだ……、そして誰も遠慮するどころか手伝う気も無いらしく気づけば皆で食事モードだ。
恋と綾の食べる量がやばい上に人数がこうも多いとやってられん。対策を立てなければいけない。
こうなったら俺も本気を出そうじゃないか! そうして手にしたるは三本の包丁……いくぜ、三刀流奥義「五月雨!」
その場で作った料理専用の技で具材を切ってゆく……空中で乱舞する食材の数々、漫画で見たことはあったものの中々にカオスだ。
底からは自分でもどこまで何をやれたのか覚えていない、ただ効率を上げ、美味しさを上げ、頭が逝かれた様に楽しみながら料理を作り続けた。どんちゃん騒ぎで集まる兵達にふるまわなくてはいけなくなり、限界を色々と突破していた。
そうこうしているうちにやっと皆が満足したらしくあるものは去り、あるものは眠り、またあるものはこの場に残って喋っていた。そういう俺も自分の分を食べて疲れを癒すためにのんびりとしていたのだが。
「ねぇ、紀霊って私塾に通ってたんだって?」
「………そうだな」
「今からボクの部屋に来てもらっていい?」
賈駆殿から明らかに危ない雰囲気がただよってくる。有無を言わせぬその言いぐさからしてどうも色っぽいイベントではないようです。どうしてでしょうか……そりゃ俺のもてなさが原因ですよね、わかってます。
あれ? 一瞬死ねって聞こえたような……賈殿だろうか? と首を左右に振ってキョロキョロとあたりを見回す者の誰もこちらを見ていない。とりあえず疑問を投げ捨てておくとして逃げの一手を打たなければならない。
「いや、その今からやろうとしていたことがありまして」
「へぇ、どんな?」
聞いてくる賈駆殿に兵士たちの気分転換に農業を教えようとしていたことを事細かに説明していく。説明が終わった所で何故か賈駆殿は笑みを深めてこちらを興味深げにみつめてくる。
「やっぱり面白いわね。あんたそれが終わってからでいいからボクの部屋に来て」
どうやら自ら退路を断ってしまったようだ。仕方ないので綾に当たる事にしよう、というより元々手伝ってもらうつもりだったし、これで手伝わないとか言ったらもう怒るしかない。
「わかった……綾! 食べたばっかりで悪いけど手伝ってもらうぞ」
「えー」
不満そうな顔をする綾に思いっきり圧力をかけます。お前食っただろ? とね。
「時雨……恋もやる」
「っな! 恋殿、こんな男手伝う価値はありませんよ!」
「それはありがたい、陳宮も文句言って手伝ってくれるんだろ? ありがとうな」
陳宮が無駄に抗議して折角の申し出がご破算になる前に軌道修正をする。その後感謝の意を込めて恋と陳宮を両手で撫でる。恋はわかっていたけれど何故か陳宮も素直に俯いてくる。文句の一つでも言われると思っていたのに……素直な陳宮も可愛い。ジュルリ……ッハ! 危ない人になるとこだった。
この波に乗れば他の人も誘えるのでは? と思ったのだけれど既に逃げ去った後で誰もいなかった。皆逃げ足が速い。
「それじゃ行こうか」
何処か不満げな顔の綾を引き連れて途中で飛影に乗り、森へと向かう。
「そういえば何をとるの?」
「粘土と腐葉土」
「そにそれ?」
「土かな」
何をとるのかという好奇心で一瞬心が一杯になった綾だったが採集するものが土だと聞いてあからさまに落胆する。それに苦笑しつつ、何故土をとるのかという攻撃的な陳宮の質問に丁寧に答えながら無事森へとたどり着く。
森に入ってからの作業は順調に進み、恋と陳宮の手伝いもあってだいぶ早く終わることが出来た。
その後は予定通りに紀霊隊を集めて農作業をやらせ、土の大切さを語って聞かせたのだが……途中から皆目がきらきらし始めて聞いているのかよくわからなかった。
農家の人間からしてみれば今までにない全く新しい手法であり、尚且つおいしく質のいい作物が取れると聞けば尊敬するのは当たり前だというのは後で気づいた。
「よし、それではここまでとする! 各自気の練習はやっておくように、解散!」
今日はなかなかに忙しくてわけのわからない日々だった、最後の気分転換の農作業はなかなかに充実した者になった。腐葉土の作り方も説明もしたし、農家の出の兵士からは大層有難られてしまったのはくすぐったくもあったが純粋に嬉しかった。
「あ、あの! 紀霊隊長」
灌漑に浸っているとあっちゃんが緊張した様に話しかけてきた。緩んでいた表情を正してあっちゃんに向き直り、話を聞く。
「実は気のことで、出来るようになったとは思うんですが、自信がないので…見ていただいてもいいでしょうか?」
「おお、いいぞ。やってみせてくれ」
精神を集中させたあっちゃんはすぐに自分の中にある気を把握すると体の中を循環させていく。もう普通に使おうと思えば使えるのではないだろうか、なかなかに優秀だ。
「ぉお、いい感じじゃないか。それじゃ次は気配の消し方だな」
「確か周りに気を散らせて溶け込むか、気を抑えて感じにくくするかでしたか」
「良く覚えてるなって、そこまで言ったかな?」
「いってましたよ、私はどうも気を散らせる方があってるみたいなんですがその後急激に疲れてしまって」
「なるほど、それじゃ散らす気をもっと少なくする事を意識してみて、これからはそれを何度か練習して。ただ無理すると倒れるから無理だけはしないでね」
「はい!」
自分の経験談から語っているだけにそこには言い知れぬ説得力がある。自分ならきっと無茶するけどと思いながらも真面目に返すあっちゃんに改めて好感を抱く。こんな部下が持てて俺は幸せだ。
「それじゃ気の把握よくできたね」
笑いながら頭を撫でてやると嬉しそうに顔を綻ばせたものの、やはり何かが物足りないような顔をしている。その足りない物が何なのかわからないが嬉しそうなのでそのまま撫でていく。
途中から何かをぼーっと考える様に表情を消していたのだが、我に返るとあっちゃんは恥ずかしそうに走って逃げていった。
日が落ちるその時の光景はなんだか青春真っ盛りって感じがした。疲れていたので一刻も早く休みたい俺はあっちゃんの後に続いて走り出す。そんなとき一瞬頭に波打ち際で駆ける恋人が見えたが下らないとすぐさま振り払い、馬鹿な自分に苦笑しながら足を速める。
早めに風呂に入り、何か面倒事が怒る前にと寝室に戻ってベットにつっぷし、寝てしまった。
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■後書き■
なんとか投稿出来た。7/19分、遅れは@1話……。
オリジナルの方もそろそろ新たに進めるので2次創作の更新がさらに遅くなってしまいますが、
そこはご理解頂けるとありがたいです。
あ゛~、色々時間が足りないよ。
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