No.456251

戦う技術屋さん 七件目 VSギンガ

gomadareさん

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魔導師?えっと……なんだっけ、それ?

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2012-07-20 15:45:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2463   閲覧ユーザー数:2337

機動六課活動開始前日の夜。

スバルとティアナがカズヤへかけた電話はまだ続いていた。

 

「アンタの体を見ればどんな結果だったのかは分かるけど……。具体的にどんな具合だったのかは知りたいわね」

『頑張ったよ。うん、頑張った』

 

ティアナに尋ねられ、模擬戦風景を思い出してか、遠い目をするカズヤ。何やらトラウマが刻まれたようだった。

 

『詳しくは映像データを見てくれ』

 

そう言ったカズヤが画面の向こうで操作をし、スバルの端末にメールと共に映像データが届く。

 

「「……」」

 

ゴクリと生唾を飲み込んで。スバルは映像データを再生。

始まった映像。背景に見えるのは訓練ルームでは無く屋外演習場。カズヤが準備体操をして、ギンガがローラーの具合を確認しているシーンからであった。

 

 

 

***

 

 

 

屈伸や伸脚やら。基本的な準備体操を終え、背伸びをしているカズヤの前で、ギンガは足を止めた。

 

「どんな具合ですか?」

「いい感じよ。それにしても何て言うか流石ね。この短時間でここまで調整出来るなんて」

「ギンガさんが特別なんですよ。スバルと戦い方が似てますし、データもありましたから」

「それでもよ。私の細かい癖も何ヶ所か補われてるのは」

「そこら辺は元々ギンガさんが使っていたローラーの消耗具合と戦闘記録、調整しながらのプロファイルから自分なりに推察してみました。上手く噛み合ったのでしたら何より」

「……」

 

デバイスマイスターの資格は伊達では無いと言う事だろうかと、詳しい知識の無いギンガはそう思うしかない。

 

「それじゃあ、ぼちぼち始めますか?」

 

準備体操を終えたらしいカズヤが、A-20αとβを装備する。次いで、発動したのはバリアジャケット。スバルとティアナの一度目のB級昇格試験の際に着ていた袖の長い黒のインナーに枯葉色のズボンに加え、やはり二人と同型だが、袖の無い白いノースリーブのジャケットとこれは彼だけである茶色のポーチを腰のベルトへ装備。

更に発動済みのA-20αとβ、S-04が本来着いている左右の親指と右手人差し指以外に待機状態のデバイスを嵌めれば、現状出来るカズヤのフル装備の完成である。

 

「なら、始めましょう」

 

そう言い、カズヤから離れるギンガは、10m程の距離で停止。カズヤの方へ向き直る。腕を降り、屋外演習場の操作パネルを出現させ、少し操作すると信号のような三つの円がある仮想ウィンドウが表示された。

 

「合図ね?」

 

ギンガの言葉にカズヤが了承の意を込め頷いて返すと、満足そうに頷き操作パネルを消した。

ギンガが、右手を倒し左手を引いて僅かに腰を落とすのに対し、カズヤの方はギンガより深く腰を落とし、右手を引いて左手を顔の高さまで上げる至ってメジャーの構えを取る。お互いが思い思いの構えを取るなか、ブザー音と共に円が一つずつ消えて行き――一際大きな音と共に最後の円が消えた直後、カズヤとギンガが同時に動いた。

 

 

 

***

 

 

 

二人が動く、丁度その場面で映像データが一時停止された。行ったのはスバルであり、そんなスバルに、なぜ止めたのかとティアナが詰問すると、

 

「だって何かドキドキしちゃって」

 

とスバルが答えた。

 

「言いたい事はなんとなくわかるけど、いきなり止めないで」

「ごめん、ティア。でも、その前に何か飲み物とか持ってこない?」

「長丁場になるってことは無いんだし、いいんじゃない?」

『どういう意味だ、てめぇ』

 

しれっと言ったティアナの言葉に、画面の向こう、電話中であるカズヤが反応した。そんなカズヤにティアナは「え?」と首をかしげて返す。

 

「瞬殺でしょ?」

『其処まで酷くねぇよ!!』

「五分位は持つよね?」

『スバルも大概容赦ないな!?さっきドキドキしてとか言ってたのに!』

「で?どれくらい持ったの?」

『……』

 

画面から視線をそらし。言いづらそうに言い淀んでから。

 

『七分』

 

ぼそりと呟く。

 

「五分みたいなもんじゃない」

『四捨五入したら十分だし!』

 

五分も四捨五入したら十分である。

 

「まあ、いいわ。スバル。さっさと見ましょう」

「そうだね」

 

そう言って、スバルが一時停止ていた映像データを再生して。

画面の中のカズヤとギンガが再び動き出した。

 

 

 

***

 

 

 

開始合図と共にローラーに魔力を流し、地面を蹴る。モーター音と共に駆動を開始。いつも以上の加速に若干振り回されながらも、ギンガは直ぐに体勢を立て直し、カズヤへ向かう。一方のカズヤは模擬戦開始時から一歩引き、それも構えを左右逆転させただけ。

開けていた距離は10m。クロスレンジ主体の近代ベルカ式打撃系魔導師であるギンガにとっては、ミッドチルダ式全距離対応(オールラウンド)型魔導師のカズヤより不利な距離。にもかかわらず、距離的なアドバンテージを捨ててまで待ちを選択したカズヤに対し、ギンガは瞬く間にその距離を詰めて、リボルバーナックルに包まれた左拳を振るう。

 

「はぁああっ!!」

 

風を切り、向き合う者を圧倒する威圧を込めて。スバルより余程錬磨された一撃。その一撃に対し、カズヤは左足を跳ね上げる前蹴りを拳の進行方向めがけて放つ。

それにギンガは当然気がついた。カウンターを狙うにしても自分の体には届かないであろうその蹴りの狙いを探り、腕を狙っていることに気がつき、慌てて動きを変える。ローラーを軸に回転を左の拳を相手に叩き付ける時計回りから半時計回りへ。無理な機動に体が軋むのを感じながら、しかし左手は自然に引かれ、カズヤの前蹴りは空を切った。

驚きからか僅かに目を見張るカズヤ。そんなカズヤへ回転のまま右の拳を叩きつけようと動き、それに気がついたカズヤは、振り上げられたままの左足を、勢い良く振り下ろしながら、軸足になっている右足で地を蹴り、後ろへ下がろうとし、逃がすまいとギンガは更に迫る。

 

「ギンガさんの間合いにしても近すぎません!?」

「あら?ゼロレンジなら蹴り技のみの貴方よりは得意なんだけど?」

「……ごもっとも!」

 

下がるのに合わせての左足の踵落としも、進撃され打点を殺された時点で威力はなく、ギンガの猛進が止まる事は無く、右の拳はカズヤの顔面を捉えようとしていた。

明らかに直撃コース。バックステップ途中で足が地面に着いていないカズヤに回避という選択肢は存在せず、カズヤの選択は――僅かに首を引いてから、拳に対してのヘッドバット。頭突きである。

 

「―――っ!!」

 

予想外の衝撃に声にならない悲鳴を上げるギンガにバランスを立て直したカズヤが、若干眩んでいる視界を無理矢理整える為に首を振り、今し方ダメージを与えた拳と同じ、ギンガの右側からハイキックを狙う。痺れて動かない右腕でのガードを諦めたギンガが、左手でプロテクションを発動しハイキックを防御するも、此処まではカズヤの予想通り。

 

「カートリッジ!」

 

音声認証。叫んだカズヤの言葉に答え、A-20βはカートリッジを一発ロード。自身のハイキックを防いだギンガのプロテクションを破ろうとは考えず

 

「ぜぇぇりゃぁぁぁあああ!!」

 

プロテクションごと蹴り飛ばそうと考えた。カートリッジシステムにより増加した魔力の全てを身体能力の強化に回す。それに気づいたギンガは防ぎながらも踏ん張る事は止め、カズヤが蹴り飛ばそうとしている方向へ跳ぶ。抵抗が無くなったのと同時にカズヤは足を振り抜き、あえてダメージを減らす為に自ら跳んだ事もあってか、十数メートル飛び地面へと叩き付けられた。

舞い上がる砂埃。暫し蹴り抜いた体勢のまま、そちらを眺めていたカズヤは、やがてゆっくりと足を下ろす。追撃はせず、顔をしかめながら額をさすり、空いた手にはT-03を起動し、握る。

 

「ギンガさん、バリアジャケットに鋲をつけないでください。痛いです」

「ベア・ナックル時代のボクシングみたいな戦い方しなければいいじゃない」

「これは本局時代に武装隊の人から仕込まれたんです。対打撃型の有効戦術ってことで」

 

言いながら、カズヤはT-03を砂埃の向こうにいるギンガへ向けるも、それより早くギンガは動き出した。砂埃から飛び出し、真っ直ぐカズヤへ向かう。それに対し、銃口前に出来たカズヤの物と同じジェイドグリーンの魔力光の魔力弾を作り、幾分の狙いを定めてカズヤが引き金を引けば、魔力弾は簡易誘導に従い、放物線を描きながらギンガへ迫る。だが、ローラーで加速したギンガを魔力球一発で足止め出来るとは、カズヤも露ほども思わない。A-20βが再びカートリッジをロード。二発三発と続けて放つ。

それらの弾丸をギンガは速度を落とす事無く、カズヤが大型スフィアの光線を避けた時と同じ要領でぎりぎりの所を避けながら進み、弾幕を突破。それならばと、カズヤは一旦攻撃の手を止め、後ろに下がりつつギンガを見る。

 

(攻撃を見切って、カウンター。其処から流れを作る)

 

幸い、相手は数年来の相棒と同じタイプ。それなら攻撃の起点はローラーであり、リボルバーナックルに包まれた左拳だろうとそちらに意識を集中するも、カズヤに迫る腕は何故か右腕。おまけに拳ではなくひじ関節であり、見えているのは肘の外側ではなく内側で。

 

「は?」

 

思わず呆けたカズヤにギンガのラリアットが炸裂した。

 

「ゲフゥッ!?」

 

完全に油断していたカズヤの首にラリアットが直撃する。息が無理矢理吐き出され、呼吸が止まる中、ギンガはローラーの回転を急停止させ、慣性の法則までフルに利用しながら右腕を振り抜いてカズヤの体を宙へ浮かせる。

首への衝撃に意識が飛びかけていたカズヤは抵抗する事無く宙を舞い、そんなカズヤへギンガはローラーを始動。加速と共に飛び、ついでとばかりにカートリッジを一発ロード。

 

「はぁあああああ!!!!」

「ゴフゥウウ!!??」

 

カズヤのどてっ腹に左拳をつき立る。その一撃で飛びかけていたカズヤの意識が無理矢理引き戻される中、その体は地面へ叩きつけられ、再び意識が飛びそうになり

 

「でえぇええい!!」

「ガブフラ!!??」

 

ローラーを履いたままの踏みつけと地面に横たわるカズヤへ叩き込む。再びほんの一瞬、意識を引き戻され、意に関わらず、カズヤの体が衝撃にくの字に曲がる。

下手すればスプラッタ一歩手前なのだが、バリアジャケットの恩恵はありがたいもので、カズヤの体は何とか原形は留めていた。口元からよだれを垂れ流し、白目をむいて。地面に陥没していたが、ぴくぴくと痙攣する指先が何とかカズヤの生存を知らせていた。

その脇で満足したと言わんばかりに、すがすがしい笑みを浮かべながら額の汗をぬぐうギンガがとても印象的だった。

 

 

 

***

 

 

 

ブツンと、再び映像データを消すスバル。今度はティアナも文句は言わなかった。

 

「カズヤ……」

「良く生きてたわね?」

『……』

 

画面の向こう。カズヤは何も言わず、机に向かって勉強をしていた。よくよく見れば、目尻に光る何かが見え、スバルとティアナは何も言えなくなる。

暫く無言の時が続き、スバルがふと映像データのある事に気がついた。

 

「カズヤ。このデータ。まだ続いてるみたいだけど?」

『……この後、覚醒した俺がギンガさんのローラーを調整してぼこられて。以下エンドレス』

「……」

 

それならローラーの調整をしなければいいのにと思うスバルであったが、カズヤにそれを言っても無駄な事はそれなりに長い付き合いから自覚していた。だから言わない。ついでに私の姉がこんなキャラなわけがないとか思うも口には出さない。

 

「えっと……ギンガさんもテンション上がってたとか、そんな感じよ……多分」

「そ、そうだよカズヤ!ギン姉もデバイスの調子が良くて、嬉しかったんだよ……きっと」

『……ならいいけどな。明日から自重してくださいって泣き土下座したら、とりあえず今日が特別って言ってたから』

「「……」」

 

ブワッと涙があふれた。退院直後に下手したら再入院するはめになりそうになったカズヤへ。原因に対しての結果の酷さに。そして、386部隊同様、新部署でも扱いの酷そうなカズヤへ。

 

「カズヤ。今度会ったら奢ってあげるね?」

「そうね。私も出すわ」

『ありがと……。とりあえず、気晴らし出来たし、そろそろ勉強に戻るわ。じゃあ、スバル。ティアナ。またな』

「うん。おやすみ、頑張ってねカズヤ」

「頑張って」

『ああ』

 

通信が切れ、椅子の背もたれに溜息とともに寄り掛かったスバルが、ティアナを呼ぶ。

 

「何?」

「どうする?このデータ。見る?」

「……見ましょう。今日一日分のカズヤの頑張りの証ってことで」

「そうだね」

 

恐る恐る再生ボタンを押して。

 

全て終わった一時間後、二人は耳に残るカズヤの奇声を振り払うようにベッドに入る。

 

「……ティア」

「何よ」

「私達も頑張ろうね。ああならないように」

「……そうね」

 

しかし、と二人は思う。

 

あれだけされて、何事も無かったかのように勉強する耐久力があるのだから、フォワードトップで防御系魔法練習してるとか言ってたけど必要無いだろ、と。

 


 
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