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魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 十三話

非力、弱小、嘆き

2012-07-20 11:34:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2490   閲覧ユーザー数:2400

 いきなりのことだった。

 

 私は今日もいつものように誰とも話さず、誰とも遊ばず、誰とも繋がることもなく……

 

 いつものように味気ない一人っきりの生活を送る。

 

 知っている人といえば病院で私を診てくれている石田先生くらいなもんや。

 

 知っている人が一人でもいてくれるだけまだ幸せだとは思うし、私も充分やった。

 

 でも、欲を言えば同い年の子とも知り合いたいし、仲良くもなりたいという気持ちもある。

 

 だけど、学校にも行けないこんな体では無理があった。

 

 神様は残酷や……なんでこんな体にしたんやろうか……

 

 もし、神様がいるなら一つだけ叶えて欲しいことがある。体は一生このままでいい、歩けなくてもいいから……

 

 友達を……ください……

 

 

 

 

 

 

 

 

 出会いというのはいつも唐突である。

 

 一度だけそんな台詞を図書館の本で読んだことがあって、私の好きな言葉でもあった。

 

 本の話でも私を勇気づけてくれた言葉でもあった。

 

 そして……

 

「あ~らあらあららら~~? 駄目じゃないおじさ~ん♪」

 

 その言葉は本当だったのかと今現在、進行形で本気で思った。

 

「弱い者イジメはしちゃいけないんだよ~?」

 

 怖いおじさんに絡まれていたところに、突然おじさんの背中を蹴って転ばせた男の子が倒れているおじさんに近付いている。

 

 多分、私と同じか少し上かと思う。

 

「んじゃお前は!!」

 

 おじさんはいきなり立ち上がって男の子の胸倉を掴んで持ち上げよった。

 

 アカン! あの子危ない!!

 

「あの! いくらなんでもそれは!!」

「じゃかあしい!! ガキはだまっちょれ!!」

 

 私の制止におじさんは全く応じない。完全に頭に血がのぼっとる!

 

「なんかバナナマンの日○みてえ」

 

 なんか言ってるーーーーーーーー!!

 

 なんやこの子、状況わかっとるんか!? 今現在、進行形で胸掴まれてもちあげられとるんやで!? 絶体絶命なんやで!?

 

「このガキャア……」

 

 ほら! 完全に頭に血がのぼっとる!! 最初からのぼってたけどもうさっきとなんか違う!!

 

 さっきまでなんか爆発しそうやったのに、もう核爆発にまで発展したような感じや!!

 

「まあ、とりあえずあっちの路地裏にでもいきませんか? あそこなら人もいないからゆっくりお話できますよ?」

「ほう……ならちょっと話そうやないか? え?」

 

 いや、だからなんでそんな自分から墓穴掘るようなことするん!? 自分から虎穴に入ってどうするんねん!!

 

 あ、前に本で読んだ『虎穴に入らずんば子虎を得ず』ってこういう意味……ってバカ!!

 

 ていうかアホなこと考えてたらあの子が連れてかれてもうた。

 

「えっと……えっと…………どないしよう……」

 

 私を助けて人が怪我するところなんて見たくない。私はそう思いながらもどうやってあの男の子を助けるかどうかを頭の中で何度も考える。

 

 周りの人も私の時と同じ様に憐れみの目を向けてはだれも行動に移そうとはしない。

 

 せめて人でも呼んでくれたってええやん!

 

「って、そうや、まずは警察……!!」

 

 いつも持ち合わせている携帯電話を取り出して110番通報しようとした時だった。

 

―――ゴキ!!

 

「え?」

 

 なにか、鈍い、それでいて嫌な音が響いた。

 

 しかも、路地裏から聞こえた気がした。

 

『鼻が……わしの鼻がおぶらぁ!!』

 

―――ベキ!!

 

『うるせえな~……ちょっと黙ってろ。何か食わしてやるから』

『おい待て!! それなにかカビむぐぅ!!』

『どうだ? 美味いだろう?』

 

―――ミシ!!

 

『ん―――んんーーーーーーー!!』

 

―――ペキ、コキコキコキコキ……!

 

『むぐーーーー!! んんーーーーーー!!』

 

―――ドスドスドスドス!

 

「…………」

「あ~、怖かった」

 

 なんやろう……なんかとてもよくないことが起こってたような……あの影で一体なにが起こったのだろうか……

 

 男の子は怖いと言ってるけど……その頬についている血は一体……

 

「ふ~……とりあえずはすっきりした」

 

 物思いにふけっていた私は男の子の呟きを聞く事はできなかった。

 

「ん?」

 

 男の子は頬の“なにか”を拭いながら周りを見渡し、自分が注目されていることに気付いた。

 

「失せろ」

 

 男の子の一声で野次馬の人はそそくさとその場から離れてしもうた。

 

「……」

 

 それを見届けた男の子は何事もなかったかのようにその場から立ち去ろうと私に背を見せた。

 

「ま……待って……」

 

 私は知らずにその子を呼んでいたが、聞こえてないのかそのまま人影の中に入りかけている。

 

 どうしよう……ここで見失ったらお礼ができなくなる……

 

 だけど、再びの喧騒で声も届かないし追いかけようにも人ごみのなかそう速くは行けない。

 

 ここで見逃したらアカン!

 

 何故か私は思った。ここで何もできなければ一生このままだと……

 

 もしかしたら運命の出会いかも、と思っていた私はその子を追いかけ、そして聞いた。

 

―――ク~~……

 

「……腹減った」

 

 その子のお腹から聞こえた可愛らしい音を。それが幸いし、男の子は立ち止まってお腹を押さえてた。

 

 その子の困ったような顔を少し可愛いと思ったのは愛嬌として、私はこのチャンスを見逃しはしなかった。

 

「あの……」

「?」

 

 呼びかけにその子はキョトンと首を傾げ……

 

「これから晩御飯なんやけど……よかったら一緒に食べへん?」

 

 一瞬で目を輝かせた姿はすっごい可愛く思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時の庭園

 

「…………」

 

 誰にも感知できえないこの空間内でプレシアは不安に心を蝕まれていた。

 

「遂に管理局が動いたのね……」

 

 目の前にサーチャーで映していた地上の光景を見直して危惧した。

 

 これでフェイト、アルフ、そしてカリフの顔も割れた。となれば、近い内に自分の存在も知られてしまうだろう。

 

 だが、プレシアの危惧する点はそこではなかった。

 

「もっと早めにフェイトに手を退かせるべきだった……完全に出鼻を挫かれたわ……」

 

 頭を抱えて後悔した。これではフェイトが犯罪者と間違われてしまうではないか……と。

 

 全ては自分が元凶なのに……

 

「カリフは問題……大アリね。執務官をあそこまで痛めつけたのなら目を付けられるはず……」

 

 これでは幾ら次元漂流者でも傷害罪は免れない。それどころかあの暴力に訴える行動と発言でかなり危険視されたと言っても良い。

 

 だけど、それこそが本人の狙いなのかもしれない。今までのカリフとの会話で最近知ったのだが、彼は知識はないのだが頭はいい。

 

 主に相手を怒らせることや嫌がらせや罵倒に特化しているのが残念なのだが、その他にも組織関連については理解が早かった。

 

 なんでも、銀河系の犯罪組織を残虐、かつ屈辱的に潰すために身に付けた能力とか……もうわけワカメ。

 

 とにかく、あの子はその後マンションには帰らずに出鱈目な所へ逃げたのはフェイトたちにとって大きなアドバンテージとなった。

 

 これならもう少し時間も稼げるわ。

 

 この間に私はやらねばならない。

 

 フェイトたちの罪を死にゆく私が担ぎ、地獄までその戒めの十字架を背負う覚悟はできている。

 

 その前に……

 

「あの子に一つ聞いてから……そこから全てを始めよう」

 

 私は誓う

 

 あの子たちの人生は私が守る

 

 たとえ、フェイトが傷つくことになろうともあの子ならきっと立ち上がれる

 

 だから、私は鬼になろう……

 

 全てを偽り、全てを憎む魔女を演じて……

 

 最期に華々しく散ろう……

 

「どうか、あの子たちが幸せでありますように……」

 

 私は憎んでいたはずの神さまに祈った。

 

 母親の資格なんてない私の我儘が叶うのなら

 

 この日だけ、魔女でも科学者でもない……母親の私でいさせて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時空管理局所有・L級次元航行艦船アースラ

 

 次元世界を航行する船の中で高町なのはとユーノ・スクライアは選択を迫られていた。

 

「この事件は君たちに手に負える問題ではない。後のことは管理局に任せるといい」

「え……でも……」

 

 先程にカリフに重傷を負わされたクロノは体中に包帯を巻いてなのはに忠告する。

 

 だが、既にこの事件に深く関わってしまったなのはは今更引っ込みがつかなくなっていた。

 

「まあ、急に言われても整理がつかないだろうから一晩考えてからでも遅くはないわ」

 

 そんななのはに助け舟を出したのはこの船の最高責任者であり、クロノの上司兼、母親のリンディ・ハラオウンである。

 

 彼女の権限は非常に強く、今現在なのはたちを招いている和式かぶれの部屋も彼女の発案とだけは言っておく。

 

「あの……一つ聞きたいことが……」

「はい? なんでしょう?」

 

 なのはは挙手してリンディに恐る恐る聞くと、リンディは笑顔で応じる。

 

「あの……フェイトちゃんとアルフさん……それとカリフくんはどうなるんでしょうか?」

 

 その問いにリンディとクロノは眉を顰めた。

 

「そうねぇ……とりあえずは二人共を確保して事情を聞くのが私たちの見解よ」

「そうですか」

 

 なのははとりあえずは三人が悪いようにされないことに安堵する。

 

 少しばかりなのはの緊張が薄れたところで一人の女性が部屋に入ってきた。

 

「失礼しまー……って今話してた?」

「いや、もうこっちも終わりそうだったから。それよりどうした? エイミィ」

「うん。あの時の戦いの解析終わったよ?」

 

 エイミィと呼ばれるアースラのオペレータの入室に全員の目が集まる。

 

 解析という言葉にリンディは反応してエイミィに向き直った。

 

「御苦労さま。それで、どうだったの?」

「あ、それが~……」

「「「「?」」」」

 

 その問いにエイミィは少し言いづらそうに答えに渋っていた。その様子に皆は首を傾げる。

 

「どうした? 何か問題でも?」

「いや、そうじゃなくて~……これはその~……口で説明できないっていうか~……」

「いいからはっきりしてくれないか?」

 

 今イチ要領を得ないエイミィにクロノはイラつきを見せるが、エイミィはスクリーンを皆の目の前に映す。

 

「えっとね、クロノくんが殴られた時をもう一度見てみて?」

 

 そう言って映しだすのはついさっき、公園の上空でクロノが最初殴られた時の光景だった。

 

 最も、本人は良い気はせずに顔を歪めた。

 

「ほら、ここのこの子の拳」

 

 そう言ってズームアップして再生を繰り返す。だが、それでも不審な点は見つからなかった。

 

「……ここの解析を頼んだのよ? 魔力の反応も見られなかったのにクロノのバリアジャケットを貫いた攻撃がなんだったのか……をね」

「ええ、私たちは最初、感知できないほど小さい魔力弾をクロノくんに当てたと思ってたんですが……実際はもっととんでもなかったんです」

「? というと?」

 

 リンディの催促に応えるようにエイミィが今度はスローにする。

 

 なのはたちはそこを食い入るように見ていると、そこには予想外な出来事が起こっていた。

 

 クロノの腹に入ったパンチは止まらず、何度も何度も繰り返す様にクロノを貫いていた。

 

「まぁ……これは……」

「そんなバカな……」

 

 その光景にリンディとクロノは絶句し……

 

「……これをあの一瞬で?」

「これってスロー……だよね?」

「うん……一コマ1000分の一秒で写すスーパースローだよ……」

 

 いつの間にか人型になっていたユーノとなのはは何度も確かめるようにシーンを繰り返し見返し、そしてエイミィはもう驚き疲れたようだった。

 

「しかも、一発一発にはこの世界のトラックの衝突時と変わらない、いや、少し強い力も検出されたの」

「え、でもカリフくんは手加減したって……え?」

 

 なのはの言葉を思い出した全員はゴクっと息を飲んだ。

 

 魔道師でもなければ魔力もない。

 

 本来なら一般人であるはずの謎の少年。これほどの実力者をクロノはおろかリンディでも知らない。

 

「それなら尚更、彼を野放しにはできませんね」

「でも、カリフくんは悪い人じゃないと思うんですけど……」

 

 なのはがおずおずと言いながらあの公園の時のことを思い出していた。

 

 あの時、思念体からの攻撃から守ってくれたことを。

 

 それに対し、クロノはやはり納得はいかないようだが、リンディはなのはを安心させるように笑顔を作る。

 

「大丈夫。今のところは重要参考人だから何も逮捕するわけじゃないわ。ただ、抵抗してきたら確保はしますけど」

「そう、ですか……」

 

 とは言っても、完全にカリフを要注意人物として見ている節が見られ、なのはの不安は完全には拭えない。

 

「なのは……」

 

 少し俯くなのはをユーノは複雑な心境で見守るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出してアルフ!! ドアを開けて!! バルディッシュを返して!!」

「駄目だよ!! こうでもしないとフェイトは休んじゃくれないじゃないか!!」

 

 遠見市のフェイトのマンションでは二人は対立していた。

 

 アルフはフェイトからバルディッシュを取り上げて寝室にフェイトを閉じこめている。

 

「行っても今の体調のフェイトじゃどうにもできないよ! 管理局だって探してるんだよ!?」

「でも、速くしないとカリフが捕まっちゃうよ!!」

 

 フェイトは自分が起きた時、公園の出来事を思い出していた。

 

 そして、すぐに助けに行こうとしたのだが、アルフに羽交い締めにされて今に至る。

 

「そのカリフが言ったんだよ!! だからここでフェイトが治るまで絶対に出さない!」

「そんな! アルフはカリフがどうなってもいいっていうの!?」

「そんな訳無いじゃないか!!」

「!!」

 

 ドア越しに聞こえてきたアルフの声はフェイトを抑えるのに充分だった。

 

「私だって行きたいけど、そんなことしたらカリフの努力も無駄になっちゃうし……約束も守れなくなっちゃうよ……」

「……」

「だから……今は休んでよぉ……」

 

 聞こえてくる嗚咽にフェイトは崩れ落ち、涙を流す。

 

「ぅ……く……ひっく……」

 

 後悔からくる涙は止まることを知らず、器から溢れるばかり。

 

 結局は無力

 

 何も守れず

 

 何も得ず……

 

 負の感情がリンクしてアルフも後悔と自分の非力さに涙を流す。

 

 二人はドアの垣根を通し、背中合わせに後悔に涙を流すしかできなかった。

 


 
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