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魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 十一話

愛を叫んだケモノ

2012-07-20 11:25:00 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2504   閲覧ユーザー数:2430

クロノ・ハラオウンと名乗る少年によって戦いは止まり、一方では氷点下さえも生ぬるいほどに凍りついた雰囲気になっていた。

 

「まずは武装を解除し、地上に降りるんだ」

 

 フェイトとなのはに忠告した後、カリフやユーノたちにも黒い杖のデバイス向けて警告した。

 

「君たちも下手なマネはするなよ!!」

 

 完全に場を掌握したのだと思っているのか、上からの発言にカリフは大層驚いた表情を隠せなかった。

 

「上から目線……だと?」

「不味いよ……フェイトだけじゃなくてあたしも危ない……」

 

 色んな意味でやばくなってきたカリフに冷や汗をかきながら自分への二次災害を警戒してか、すぐに舌打ちしながら魔力弾を練り上げる。

 

「今回のジュエルシードは諦めるしかなさそうだね……逃げるよフェイト!!」

「!!」

 

 アルフはクロノに魔力弾を飛ばし、フェイトをサポートする。

 

 だが、ここでフェイトはアルフの元ではなく、ガラ空きのジュエルシードの元へと向かった。

 

「フェイト!?」

 

 主の予想外の動きにアルフは反応に遅れ、カリフはクロノが構えて魔力を練っているのを目にした。

 

(フェイトの動きを読んでいたか……だが、てめえのスピードでフェイトに当たるわけがねえんだよ)

 

 フェイトのスピードはカリフも認めてはいたので、今回も避けられるだろうと仮定していた。

 

 だが、ここでまたしても事態が変わった。

 

「う……あ……」

 

 途中でフェイトはよろめき、遂には地面に転倒してしまった。

 

「!?」

「フェイト!?」

「フェイトちゃん!!」

 

 魔力弾は避けたものの、地面に打ち付けた体は呼吸音と共に苦しそうに動くだけ。

 

 腰を下ろしていたカリフも思わず立ち上がってフェイトの元へ駆けつけた。

 

「フェイト!!」

 

 アルフも近付いてきた所でフェイトの顔を見てみると、顔が赤くなり、汗でびっしょりだった。

 

 額に手を当ててカリフは確信した。

 

(熱か……!)

 

 舌打ちをしながらフェイトに怒鳴った。

 

「……大して体が強くねえお前が飲まず食わず、休まずにいればこうなることくらい分かってただろう!! このバカが!!」

 

 カリフの叱責にフェイトは虚ろな目でカリフを見上げて呟いた。

 

「……ごめん……ごめんなさい……」

 

 返ってきたのはフェイトからの謝罪

 

 自分の不注意でアルフとカリフに迷惑をかけたのだと思い、そう言わずにはいられなかった。

 

 この言葉を聞き、フェイトの苦しそうな顔を見てカリフは内心で悪態をついた。

 

(くそ!! 地球人ってのは、なんて脆い生き物だ……!!)

 

 たった数日の無理だけでここまで壊れるとは……

 

「ど、どうしよう……フェイトが……フェイトが……」

 

 カリフとは裏腹にフェイトの容体を重く受け止めたアルフは狼狽して視線をカリフに縋った。

 

 そんなことをしている時にも関わらずに後ろでクロノが再び弾を練り上げていた。

 

 もちろん、それを見逃す程カリフは甘くなかった。

 

「アルフ、お前等はフェイトを連れて帰れ」

「え?」

「そしてフェイトをベッドに縛り付けてでも休ませろ……飯も口にねじ込ませてでも食わせろ!!」

[スナイプショット]

 

 クロノの放った魔力弾がカリフの激昂と共に放たれた。

 

「止めて!!」

 

 なのはの願いなどに耳も貸さずに複数の魔力弾はカリフに強襲した。

 

「るせえな……」

 

 向かってくる弾幕に背を向けていたカリフは振り向きざまに腕を振り払うと、強烈な突風が起こり、魔力弾を全てかき消す。

 

「ぐっ!!」

「きゃあ!!」

「うぐぐ……」

 

 そして、突風の猛威は弾幕の消去だけでは飽き足らずクロノ、なのはをも吹き飛ばさんとし、二人も踏ん張る。

 

 ユーノに至ってはなのはの服にしがみついてるのだから滑稽なことこの上ない。

 

 細い木々は折れ、大木はしなる。海は小規模の波がたつほどであった。

 

「こ、これは……」

 

 突如起こった超常現象にクロノは舞い上がる砂埃を腕で防いでいると、声が聞こえた。

 

「なあ……ちょっと付き合えよ……」

「!!」

 

 声に反応して腕をどけてみると、目の前に一人の少年が大胆不敵に両手にポケットに入れて自分を見据えていた。

 

 この突風の中を平然と仁王立ちし……

 

 目にも見てとれる狂暴な光を瞳に宿して……

 

「まあ……答えは聞いてねえけど……なぁ!!」

「ぐぼ!!」

 

 そして、おもむろにカリフはクロノの懐にパンチを一発入れてきた。

 

 威圧に呑まれていたことと不意を突かれたことによって完全に攻撃を受け、数メートル飛ばされ、木に背中を撃ちつけてへばりつく形になった。

 

 だが、バリアジャケットの恩恵で見た目は派手だがダメージと衝撃はそれほどでもない。

 

「く……どうやら君を連行せねばならないようだ……」

「ふん……それくらい威勢がなくては困る……ああそれと……」

 

 クロノの警告を鼻で笑い飛ばし、カリフは指を二本立てて言った。

 

「二十発だ」

「なにを……」

 

 カリフの不敵な笑みとは裏腹に意味不明な台詞にクロノが食ってかかろうとした時だった。

 

「ぐふぅ!!」

「「「「!!」」」」

 

 ドゴン!……と突然クロノの腹部に激しい衝撃が襲いかかり、背中の木をなぎ倒して再び吹き飛んだ。

 

 なのはたちはその現象に驚きを隠せなかった。

 

 そして、これだけでは終わらない。

 

 ドゴン、ドゴン、ドゴン……!……とそこから鈍く、重い衝撃が連鎖的にクロノの腹部を貫き、遂には木々をなぎ倒すだけでなく、地面を抉りながらクロノをフェイトたちから引き剥がしていった。

 

「よし、アルフ。さっさと行け」

「え、でも、カリフはどうするのさ!?」

「お前等に心配される筋合いはない。これから少し遊ぶだけだ」

 

 クック……とクロノの吹き飛び、土埃がたち始めた地点を見据えて笑うカリフにアルフは背筋が寒くなった。

 

 だが、それは自分たちを助ける意図だと理解し、アルフは感謝した。

 

「ありがとう……絶対に戻ってきなよ?」

「勘違いするな。オレは心底ムカついてるんだ。お前等がここにいると邪魔なだけだ」

 

 冷たいとも言える言葉だが、それに文句を言う余裕がアルフには無い。すぐにフェイトを抱きかかえて空に飛翔、時空を使って行方を眩ませた。

 

「高町なのは。お前もすぐに帰れ」

「え?……でも……」

「お前はまだ一般人だ。お前が巻き込まれたとあっちゃあオレのルールに反する。もう一度言う。帰れ」

 

 なのはに帰れと言うカリフだが、すぐに前方の気の動きに気付いて視線を戻すとそこには息使いが荒くなったクロノが腹を抑えて自分を睨んでいた。

 

「貴様……なにをした……」

「ほう……」

 

 端正な顔も苦痛で歪ませながらも誇りを捨てていない意志にカリフは少し見直しながらも無邪気な笑みを浮かべて答えた。

 

「なにを言うかと思えば……ただの挨拶だ」

「挨拶……だと?」

「ああ、咄嗟に考えた技でな、試しにお前にそれなりに速い二十発をかましたんだが中々面白かっただろ?」

「二十発? ハッタリもいい加減にするんだな」

 

 ボロボロになりながらも皮肉るクロノは時間を稼ごうとするが、カリフにはその姿が負け犬の典型的な姿にしか見えず、思わず吹いてしまった。

 

「まあいいや、どの道これで終わって貰っては困る。でないと嬲りがいがないからな」

「ふん……それなら賭けてみるか?」

「あ?」

「お前と僕……どっちが先に倒れるかを!!」

 

 そう言ってクロノがデバイスに更なる魔力を練り上げて放った。

 

[ブレイズキャノン]

 

 デバイスの音声と共に先程の弾幕よりも巨大で協力な砲撃をカリフに向ける。

 

 量よりも質できたクロノに対してカリフは動かない。

 

「ファイア!!」

 

 そして、クロノの言葉と共に魔力弾はカリフへと発射され、直撃した。

 

「カリフくん!!」

「そんな……これじゃあ彼は……」

 

 爆発の余波に耐えながらもなのはとユーノはカリフの身を案じる。

 

 そして、クロノもこの一撃でほとんどの魔力を消費したのか膝から倒れた。

 

「油断するからそうなる……ぐ……!」

 

 腹部にズキズキと痛みが走るのを感じて顔が苦痛に歪む。

 

『クロノ!! 大丈夫!?』

「母さ……艦長……はい……目標は沈黙させ……うぐ!」

 

 クロノの近くで巨大なスクリーンが現れ、そこには緑髪の女性がクロノを案じる。

 

「すいません……もう一人の参考人と使い魔を……」

『構わないわ。そこの女の子たちからでも調書はとれるから』

「それでは彼女をアースラに招き、先程の少年を連行します」

『そうね。取り調べは拘束したままで行うから油断しては……』

 

 淡々と話が進んでいたとき、何の前触れもなくクロノの背筋が凍った。

 

 なぜだか分からないが、自分の戦士としての勘が警告してきた。

 

“逃げろ”

 

 

 

 

 

 

 

「なんなんだぁ? さっきのはぁ?」

「「「!!」」」

『クロノ! 後ろ!!』

 

 クロノは艦長と呼ばれる者の声に反応し、後ろを振り向くとその直後に顔面を掴まれる。

 

「ぐぅ……ああぁぁぁぁ……!!」

 

 顔面に入る力に悶え、クロノは宙に浮かされる。

 

 そして、その掴んでいる人物は言うまでも無くカリフだった。

 

「はっはっは……さっきのは中々歯ごたえがあったぞ……だが……」

 

―――オレには届かなかったなぁ……えぇ?

「!!」

 

 歓喜でありながらどこか歪んだ声を聞いたクロノは恐怖し、もがき、なけなしの魔力で造った弾幕をぶつけるが、カリフには全く効いた様子がない。

 

「お前の魔力を見せてもらった礼だ……オレも見せてやるよぉ……」

「ぐううぅぅ!!」

 

 カリフは手に力を更に込め、悲鳴を上げるクロノを前に口を三日月状に形作り、歯を見せて悦に浸った。

 

「オレの……暴力って奴をよぉ!!」

 

 カリフは海の方向へと体を向けたとき、流石にまずいと思ったユーノは魔法陣を展開した。

 

「ストラグルバインド!!」

 

 緑のバインドが魔法陣が幾重に出現し、カリフの手足を拘束する。

 

「もう止めるんだ!! これ以上はただの暴力だ!!」

 

 ユーノの必死の叫びが公園に響き渡る。

 

 そして、その言葉を聞いたカリフは……

 

「だから? 暴力だからやるんだろ?」

「「!!」」

 

 何を当たり前な……と言いたげな表情になのはたちは戦慄した。

 

 この少年はなのはたちと違う次元で生きている……そう思わせるほどだった。

 

 ユーノの質問に興味を失ったカリフはユーノを無視し、再び悦に浸り、武空術でクロノを掴んだまま浮かぶ。

 

 バインドもまるで紙みたいに無理矢理引きちぎられる。

 

「そんな……ありったけの魔力を込めたのに……」

 

 驚愕と劣等感にユーノは悲痛に呟く。

 

『止めて!!』

 

 スクリーンの女性も悲痛に叫ぶが、それすらも無視してクロノの頭を振りかぶって一緒に海へと急降下する。

 

 クロノは抗えずに力無く体を揺らすだけである。

 

 そして、二人は海へと突っ込み、巨大な水柱と津波を巻き起こす。

 

「なのは!! すぐに上へ!」

「うん!」

 

 なのはが飛び立つと、間一髪で陸へと侵入してきた津波を避けた。

 

「……ごぼっ!!」

 

 そして、水中のクロノは強烈な水圧を受けた背中の痛みに悶えながら、カリフの指と指の間から見てしまった。

 

「……!!」

 

 拳を振りかぶるカリフを……

 

 楽しそうに、本当に愉しそうに笑いながら瞳に純粋な暗黒を秘めた瞳を……

 

 その光景の直後、痛みすら感じないくらいにアッサリと意識が途絶えた。

 

 鈍い音と共に水面が殴った時の勢いで波紋を作り、やがては消えていく。

 

 しばらくして、カリフは力無く項垂れるクロノの首筋を掴んだままゆっくりと地上へと姿を現した。

 

 その光景をスクリーンの女性も、なのはも、ユーノも歯を小刻みにカチカチと鳴らしながら脳に刻み込んだ。

 

 そして、理解した……

 

 今、胸に抱いているこの重く冷たい感覚。

 

 逃げたくても体の芯から掴んで離さない負の重り。

 

 この時、初めてその場の人間は理解した。

 

 これが……“恐怖”だと……

 

「ふ……はーっはっはっはっはっは……!!」

 

 半壊となった公園の中心でケモノは愛を叫んだ。


 
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