No.455781

DIGIMON‐Bake 2章 16話  誘導良働

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16話 誘導良働
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2012-07-19 19:47:15 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1055   閲覧ユーザー数:1050

 DIBR本部にて直樹がデジタル反応に気づき解析し始めると、その場所は公共の場を代表する建物の一つ、学校だった。

 弐陣中学校――直樹の家からであれば比較的近く、歩いて10分程で着ける距離にある。しかしDIBR本部からは車を走らせて10分かかる距離だった。

 仕事はよくするが、何ぶん腰を上げるのは素早くない直樹とタクティモンである。デジタル反応の解析をしたところまでは良かった。だがそれからがいつも問題になる。

 

 

「で、この学校まで誰が行く? 確か他に手の空いたヤツがいただろう……?」

 

「悠史、早くしないと敵の思うツボだぞ。やりたい放題にさせるつもりか」

 

「……いいから会話しろよお前。俺は手の空いたヤツはいるかって聞いてんだが?」

 

「目立っても構わないなら私が飛んでそこに行くが? 本部には私達しかいない、対処しなければならんだろう」

 

「って俺たちしかいなのかよっ!!? 他のヤツは!? 今日出勤してねぇの!?」

 

「他方に行っている。誰がどこにいるのか把握ぐらいしておくのがお前の仕事じゃないのか、サボリめ」

 

「……ちっ、うるせぇ。こっちは積もり積もった事務処理で忙しいんだよっ!!」

 

 

 いらない事を言われた直樹はやけくそでタクティモンの横を通り過ぎる。面倒くさそうな背中を追おうとしたタクティモンだが、再び大画面が警報を発した。タクティモンは目を細めた。

 

 

「これは……デジタルゲート……?」

 

「違うところで開いているのか?」

 

 

 直樹が踵を翻して大画面の前に立つ。

 そのまま座らずして緑に光った下のボードをタイプすると、警報の画面が消え解析画面に移った。目まぐるしい英語の表記と数字、そしてデジモン文字が画面全体を行き来すると直樹の目も上下左右にぐるぐると動く。そのスピードと同じくらいの勢いで、直樹の頭の中では情報の処理と解析が行われていた。

 

 

「タクティモン、学校の方に生命反応はいくつある?」

 

 

 反対側の画面にタクティモンが立ち、同じようにボードを打つと返事をする。

 

 

「動いている人間が2、デジモンが2だ。その他は反応なし」

 

「反応なしだと? 学校なのに人数が少ないのは選ばれし者以外は意識がないということか」

 

「つまりお前は1対1で戦っていると予想するのだな」

 

「ああ、だとすればまだこちらは後回しにしても大丈夫そうだ」

 

「ほぉ……そちらの反応のほうが大変そうだという事だな」

 

 

 聞きあっているだけで話が進んでいないように見えるが、話は互いに通じている。同じだけの経験とそれだけの時間、そして同じだけの頭のキレの良さがあってこその成せる技だった。

 タクティモンが否定の言葉を発しない限り、それは直樹の読みや作戦に同意している証である。そしてタクティモンは直樹に新しい問題について問いかけた。

 

 

「して、そちらの反応は何が起こった?」

 

 

 カラン、と回転椅子が回る。コップに半分ほど残った水に手を伸ばした直樹はそれを全部飲み干してから「うん」と唸った。

 

 

「デジタルゲートが開いている事は開いているんだが……どうも意図的に開いているようだ。多分、それが出来るのはリアルワールド側からは不可能。リアルワールドからだと、リーダー以外は出来ないからな」

 

「デジタルワールド側から意図的に誰かが開けたと言うのか」

 

 

 直樹の意見を聞いてタクティモンは頭を悩ませた。

 本来、デジタルゲートは何かの歪みや大きなデジモンの力、デジタルワールドにて日食が起こった時に開くものである。デジモンの力で開いたり日食が起こることは少ないが、だからと言ってデジタルゲートが開くのは稀種という訳ではない。大概が、デジタルワールドとリアルワールドの境目で起こる「歪み」によって開かれる。

 しかし何がどう「歪む」のかは未だ分かっていないが現状である。

 

 

「デジタルワールド側から開けるにしても膨大な力が必要な筈。四聖獣が開いた可能性はないか?」

 

「まぁ、見てみろよこれ」

 

 

 直樹がタクティモンに指示する。そこには0と1で組み立てられたデータが一部破損している様子が映っていた。デジタルゲートの形は崩れ、只の数字にしか見えない。

 

 

「馬鹿な……こんな開け方が存在するのか……」

 

「だろ。こんな無茶苦茶な開け方を四聖獣がする筈ないよな」

 

「0と1だけで構成するデジタルデータを、10という構成データを作って壊しているなど……」

 

「普通ならありえねぇわな。こんなこと出来る人間はいねぇだろ。だったらこれは新手の'ウィルス'だと判断してデジモンが作ったもの、としか考えられねぇ」

 

「うむ……間違ってはいないだろう」

 

 

 直樹の予想を聞いてタクティモンも椅子に座った。

 そして直樹が口元を緩める。それからニヤリと笑って制服の袖を腕まで上げた。

 

 

「これからが仕事だ。全部、調べるぞ」

 

 

 デスクワークが本領の直樹の仕事が始まった。

 

 

 

 

 校舎を出て、学校から走り続けているのは弐陣中学校3年の西ノ宮澪である。息を切らして脚を動かしているがすでに限界を超えていた。登校時間はとっくに過ぎてはいるが、まだ下校時間でもない。丁度時間はお昼を回ったところだった。

 

 

「……っ……はぁっ……!」

 

 

 澪は思った。

 何故辺り一面が霧に覆われているのだろうと。色鮮やかな景色を見るにはどこまで行けばいいのだろうと。

 足元がひんやりとする気に襲われたのは霧のせいではない。かといってデジモンのせいでもない。只々、澪は怖かったのだ。深が、学校がどうなってしまうのかと考えるだけで足元からぶるりと寒気がする。だけど脚を進めるしかなかった。

 

 

「もうちょっと……頑張る……っ」

 

 

 すでに周りの景色がぐらりと揺れている。澪は崩れた体のまま突き当りの角を曲がろうとした。

 

 

「うぉっ!?」

 

 

 ドンッと体が何かに当たる。当たった何かからは言葉が聞こえ、澪の体を受け止めた。

 

 

「おっおい、大丈夫か!?」

 

 

 力が抜け、雪崩込むように脚を折った澪を抱き上げたのは黒のジャージだった。

 

 

「あ、あれ? あんた前に見たことある……」

 

 

 そう言われ、澪はやっとの思いで顔を上げ赤い髪を目に映した。その顔と特徴的な髪の色は最近目にしたことがある。澪は微かながら首を傾げた。

 

 

「山で見た人……?」

 

「山……あぁ! そうだ、深と一緒にいた女の子!」

 

 

 二人は一度会ったことがある。ジャージの男の子は以前、深と澪がパートナーの為に気分転換に山へ行った時に遭遇したテイマーだった。深がその男の名前を「せつ」と呼んでいたのを思い出す。

 どちらかと澪にとっては彼のパートナーの方が印象が強かった。同じ全身が黒で、目が赤の魔王型デジモン――ベルゼブモンとひと騒動あったからだ。

 澪が思い出している途中で声がかかる。

 

 

「どうしたんだ? すごく走ってきたみたいだけど、何かあったのか?」

 

 

 心配そうに契が澪の背中をさする。こんな時どんな対処をすればいいのか分からない契だったが、苦しそうに激しく呼吸する澪を見て自然と背中に手が伸びていた。

 

 

「……! ねぇ、深がっ、深が学校でデジモンに攻撃されて動けないのっ……!」

 

 

 状況を説明するよりも早く、澪の口から出たのは深の名前だった。そして契の表情が険しくなる。

 必死になりこれ以上性急に話を進めてしまえば、澪はパニックを起こしそうな気がした契はゆっくりと、荒波を静めるように声質を低くした。

 

 

「深がどうしたって? 学校で何が起こったんだ?」

 

 

 なるべく多くの質問をしないように契は訪ねた。すると辺りの霧に満ちた涼しさを身に感じるようになったのか、澪は火照った体から出る息を大きく吐き出す。

 

 

「朝学校に着くと皆が石化してて、あっという間に皆動かなくなったんだ。それがコカトリモンの所為だと分かって、動けるのは私と深だけで、コカトリモンから逃げようとしたんだけど深が私を庇って石化しちゃって……」

 

 

 今にも泣き出しそうな澪を見ながら契は説明を聞いた。それで何となくは状況が分かり、契はもう一度意識しながら、澪に質問をした。

 

 

「君、パートナーデジモンは?」

 

「あ……、もしかしてここからでも呼べた……?」

 

 

 はっと澪が気づくが、契は首を横に振った。

 

 

「いや、この霧のせいで呼べないと思う。さっきから俺も呼んでたんだけど返事もないしさ」

 

「そっか……」

 

 

 霧の中では無意味に近いパートナーとの絆の証、デジヴァイス。いくらデジヴァイスが人間とデジモンが共に行ける証拠であっても、契、澪共にパートナーとの日が浅く、心から信頼し合える程の時を過ごしていない。確実に'共に進ん'ではいるが、絆と呼ばれるモノを獲得するまでの経験を積んでいないそれでは霧の中以外でも無意味に等しい。

 それを感じ取った二人は落胆した。夢のようなパートナーとの'出会い'ではなく、成行きに事を任せた結果がこれだ。

 

 だが二人は希望を捨ててはいなかった。その希望が新たに道を作ることになる。

 

 

「とにかく学校に行こう。俺たちで出来ることはして、後のことはどうにでもなれだ!!」

 

「うん。ありがとう……助けてくれてありがとう」

 

「おう、友達を放っておく程白状じゃないぜ。俺は椎橋契、宜しくな」

 

「うん。私は西ノ宮澪、よろしく」

 

 

 無鉄砲な所が深に似てると感じた澪だったが、それに引っ張られる感じがしたのも深と同じだった。この手のやり方につくづく励まされ、弱いのだとため息に近い息が漏れる。

 しかし二人の想いは同じだったようだ。二人の希望が記した道はやがて一つに導かれる。

 

 

'友を救いたい'という気持ちは友情の紋章として、深のパートナーのレオルモンの胸中に形を作り、

'放っておけない'という気持ちは純真の紋章として、ドラコモンに伝わり、

'この状態を打破したい'という気持ちは勇気の紋章として、石川凛とリヴァイアモンの前に現れる。

 

 紋章の力は気持ちの分だけの働きを見せるのだった。

 

 

「調べが付いたな」

 

 

 直樹がそう言った頃には外は気温が一番高い時、大画面の前に1時間以上は在していた。しなる背もたれがぎぃ、と音を鳴らす。直樹が上半身を勢いよく回すと椅子も同じ向きに回転し、見えなかった後方がよく見える。後方ではタクティモンが大きな背中を見せていた。

 

 

「早いな悠史。こちらも終わったぞ」

 

 

 分担して解析をしていた二人がその結果を報告し合うために手を止めた。タクティモンも直樹と向き合い回転椅子の上で脚を組む。その姿はまさに武人の中でも'軍師'に値する風格だと思わせる。そして組んだ脚の上に両腕を置き、体の真ん中で指を組んだ。これは直樹の言葉を聞き入る体勢である。

 

 

「デジタルゲートの件、これはやはりデジタルワールド側からの圧力だ。'10'というデジタル構成が出来たのは所謂(いわゆる)、'化学反応'と同じ原理だな」

 

「化学反応? そんな単純なものなのか」

 

 机の上を漁ったが書くものが見当たらなかった直樹は水性マジックを持ち、小さなホワイトボードを散らかった床から取り上げる。さらっと書き上げたボードの上には反応式が書かれていた。

 

 

「'2H2+O2→2H2O'これだけ書けば分かりにくいが、要は結合の仕方って訳だ」

 

 

 式の隣には、Hという文字が離れて4つとOという文字が2つ書かれてある。2つのOの文字は真ん中で一本の横線により繋がっているように書かれ、そのOの文字の周りに4つのHが散りばめられ、1つのOに2つのHが繋がっているように書かれていた。

 

 

「あぁ、数字を絵や結合式にすれば分かりやすいな。この'10'というウィルスも、もとは0と1から出来ているという事だろう」

 

「そーいう事。最初は数式の並べかただと思ってたが、なんと器用な事に数字を結合してやがった」

 

「成程。これを作ったものも相当頭がキレるやつであろう。技術的にもすごいではないか」

 

 

 関心するタクティモンに直樹が「まぁな」と返事をする。

 

 デジタル世界において、まっさらな数字から作るウィルスは作ることは困難だ。そもそもリアルワールドとデジタルワールドを繋ぐゲートを壊すほどのウィルスを作ること自体も難しいので、ゲートを開けようとする者は力ずくで'歪み'を発生させこじ開けようとする。ウィルスを作るという行為は、謂わば頭の良い者もしくは人並み以上の知識を持った者でしか考えない方法だった。

 先ほど直樹が言ったように、その知識を持った者でさえ数字を結合するという方法を取るものは少なく、並べてウィルスの形を形成する方が一般的になっている。

 つまりは新しい数字を作る、数字を結合する、方法のウィルス生出は滅多にできる事ではないと言えるのだ。

 

 これらの分析結果は直樹の口から説明をしなくとも、タクティモンは自身で理解する。次に聞き入る体勢に入った直樹にタクティモンは続けた。

 

 

「このゲート、閉じる方法は簡単だ。只単純に開いてる場所に表裏から一斉攻撃――大きな攻撃を加えればよい」

 

 

 確かに単純明快な方法だと直樹は思う。しかし問題が2、3浮かんだ直樹は顎に手を当てた。

 

 

「修復の作用を活発にする作戦か? それとも攻撃した力そのものでゲートを防ぐということか?」

 

「この場合は後者になる。解析結果、いつも行っているデータの修復、データの操作ではゲートは閉じない」

 

 

 DIBRから学び行っているゲートの閉鎖方法は主に2つだった。壊れたデータの一部を修復するか、歪んだデータを元に戻すことでゲートは閉じる。

 今タクティモンが挙げた方法は確かに単純で手っ取り早いかもしれない。しかし逆に言えば力任せな方法なのだ。

 

 

「ということはリアルワールドからとデジタルワールドから同時に攻撃をするってことが条件になるな?」

 

「うむ。大神とはまだ連絡は取れんのか? 不可能ならばカンヘルモンに頼むしかあるまい」

 

「そうだな……なるべく早く、カンヘルモンがメールを拾ってくれる事を祈るぜ」

 

 

 タクティモンが出した意見を否定することなく、直樹は有言を実行に移した。

 リアルワールド側からはタクティモンがゲートを攻撃する事が確認することなく決まり、デジタルワールド側からそれをやってくれる者を探すためメールを作成する。

 

 ゲートが開いている場所と現状の説明、そしてゲートを閉じる方法を簡潔に綴られたメールがデジタルワールドに発信された。

 発信した後、ホワイトボードの乾いた黒文字を乱雑に消すと邪魔にならないように床に戻し、コーヒーを淹れようと席を立った直樹。グラスの九分目まで入ったアイスコーヒーを片手に戻ってきた時にメールの返信が入った。

 

 

「ん? 思ったより早いな」

 

 

 予想以上に早い返信にタイミングが良く助かったと安堵しながらメールを開くと、見知らぬ者からの返信だと気付く。

 

 

『DIBRとやら、簡潔且つ解り易い説明に感謝する。記載のあった場所にて同じ事が起こっているのは認証済みである。処置の解析は遅れを取ったが、あながち方法は間違いでは無い様。協力する故、こちらからも協力求む。 Royal Knights OMEGAMON 』

 

 

「おいおい……」

 

 

 直樹は目を見開いた。「Royal Knights OMEGAMON」の文字にこれ以上ない程の衝撃を受け、一字一句読み間違えがないか何度も読み返す。

 自分は英語も読めなくなったのかと錯覚を起こすほどに動揺していた。

 

 

「頼もしい協力者ではないか」

 

 

 硬直している直樹を横目に、タクティモンはフフ、と笑みを零しているのだった。


 
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