トリステイン王国
謙虚なまでに領土が狭いが、肥沃な大地と背後に望む海が人々に恵みをもたらす。
だが……
西の海の天空には、空島アルビオン大陸。東と南には、トリステイン王国の何倍も領土が広いガリアとゲルマニアの2大国。情けないが陸地は完全に包囲されている。
挙げ句、国の頭から末端まで宗教国家ロマリアの人間が派遣されてるから、完全に押さえ込まれてる体たらく。
もし何かの拍子に戦争が始まれば…文字通り初っ端から背水の陣を宿命づけられた弱っちい国。
ぶっちゃけ、始まる前から9:1くらいで詰んでる雰囲気が漂ってる国。
こんなしょうもない国でも、オレが生まれ育った故郷だ。
そして今、色々あって首都トリスタニア………のクソ汚ェ路地裏に店を構えるしみったれた武器屋に居る。
「アンタは長年この界隈で武器屋をやってきた人間だ。昨日今日で店を始めた素人じゃァ無い。同じ商売人として素直に尊敬するよ。
ただ、試し斬りしたんだ。
この剣がそんじょそこらじゃ、お目に掛かれねぇ業物っつうことくらい分かってんだろ?んン?」
「だったら何だァ。この値段?切れ味が良いとはいえ、ただの剣が500エキュー?
ぼったくりもいいところだぜェ。
このトリスタニアじゃ、逆立ちしても200で売れるか売れないかだ。」
「いやいや、ぼったくりとは聞き捨てならねえな!
ソイツは唯単に切れ味が良いだけの剣じゃないんだよ!
この俺が心血注いで打ち上げて、剛性と軟性を兼ね備えた逸品だ!
それをたかが200エキューなんて端金でギろうなんて、アンタこそバカか?」
「いんや、バカはお前だ。タコ助。
第一に、こんなひょろっひょろの剣なんざ、戦場じゃ使いモンになんねェ-。それに売値で買うワケ無いだろ。100だ100。」
あぁん?何だぁ、この野郎!そいつは聞き捨てならねぇな!
「テメェ…オレの刀をひょろっひょろっのゴミっつったな!」
「何度でも言ってやらぁ!ひょろひょろのひょろっっひょろ!!」
「……その鼻っ柱、ナイフで根元から削ぎ落とすぞクソジジイ!」
「若僧の分際で俺に向かってクソジジイだァ~?」
「オメェみたいな頭の固いジジイには、クソがお似合いだっつうんだ!」
事の起こりは簡単だ。
首都トリスタニアで武器屋を営むジジイに呼びつけられて、ある程度の剣を見繕って行商がてら商談に来た。
そうして、いざという所でゴネて来やがった。ちぃっとカチンと来たが、まだ誠実に相手をしたんだぜ?
なにしろ鉄も切り裂く切れ味を持つ刀……大剣だから、値切りたくなる気持ちも分からんでもないしな。
懇々と刀の利点やら素晴らしさ…果ては、この武器屋の裏に有る空き地で試し斬りまでして貰って、考えを改めてもらおうと思った。
それだけやったのに御覧の有り様だ。
『若僧が口答えするな』、『若僧だから物の価値が分かって無い。『市場じゃ売れない。』だと?
幾ら大人しい野郎でも、こんだけ高圧的に言われりゃ、プッツンするだろ?
「せっかく贔屓にしてやろうと思ってたが、もう止めだ!今すぐ表ェ出て消え失せやがれ!」
「ハ、年中アル中でマトモに鍛冶場にも立てねえジジイが!
テメェが武器仕入れてえからって呼びつけておいて、表に叩き出すたぁ上等だ!
こんな店と商売するなんて死んでも願い下げだ!」
そうして、いよいよハラワタ煮えくり返って店から出ようとしたらだ…
「ハッハッハッハ!
こんなバカ野郎にマトモな剣の価値なんざ分かりゃしねえぜ。兄チャンさえ良けりゃ、ちっと話しでもしようや。」
「デルフ、この野郎め!」
「あ~~ん?」
姿は見えないが…何処からか、酷いだみ声がオレを呼び止めた。
「何だよジジイ。店の奥にまだ誰か居るんじゃねえか。」
「違うよ。ここさ、兄チャンのすぐ近くの武器樽が有んだろ?」
喋る剣ってやつか。コイツは珍しい。
けどな‥樽に突っ込んである剣の、どれもこれもが錆が浮いたゴミ。
明らかに墓場じゃねーか。
「そこに突っ込まれたまんま、ほったらかしにされてんだ。」
‥ま、あちらサンが呼び止めたんだ。
無視して通り過ぎんのも失礼だわな。
どれどれ、どいつが当たりなのかなっと。
「お、今握ってくれた剣がオレ様だ。」
「……………」
一応覚悟はしていたが、他に刺さってる商品と比べても、こりゃまた一段と……放置されてきた年季を感じさせる剣。
つーか、錆を通り越して赤錆だらけの品物じゃねえか。
「なぁなぁ~こんな居心地が悪ィ場所とはオレ様もオサラバしたいんだ。
ついでに拾ってっちゃくれないか?」
「はァァ~?」
「よォ若僧。そのボロ屑が気になるのか?
ソイツはデルフってんだが、どうしようもねえ疫病神さ。ソイツが来てからウチはみるみるうちにこのザマだ。欲しいならくれてやるぜ。
ただし、200エキューでだ。」
正直、このインテリジェンス・ソードは気になる。だが、ジジイから買い取るってのが気に食わん。
なにより、足下見られてぼったくられた末に魔法が掛かってる部分が刀身だったらなぁ。
固定化はまず最低限だとしてだ。
コイツの固有能力は何だ??
打ち直しても、その魔法が有効なのか?
それが問題だ。
それに背後に目が無いから分からんが、声の調子からジジイがほくそ笑んでるのが分かる。
しかも…ジジイの言うことが本当なら、魔法っつーか呪いの剣じゃないか!それも、笑い話じゃ済まないレベルの!
「なぁ~頼むよ。これ以上こんな墓場に放置されたくないんだ。
ここは1つオレ様…いや、オレっちを助けると思って‥な?」
それにしても、このデルフって剣‥ボロ屑の癖して、えらく図々しい奴だな。
(おいデルフ。テメェは柄に魔法が掛かってんのか?)
(あ~~、オレっち随分長生きだからなぁ。
そこら辺はサッパリなんだわなぁ。)
(バッカヤロウ!こりゃお前を買うか買わないかの判断に繋がんだぞ!)
(うーん…うーん‥‥駄目だ、思い出せねえや。)
「お~い、何ヒソヒソ話してんだぁ?
買うか買わないのか!サッサと決めやがれ。」
ああ、そういえば古代中国には死んだ名馬の骨を大金で買った逸話も在ったな‥‥仕方無い。
「ジジイ‥このデルフ買わせて貰うぜ。」
「お、お、ヨッシャー!」
このデルフは、魔法武具の打ち直しの練習台だと思えば安いもんか。
未来の商売への投資だ。
「へえ。あんまりデルフが鬱陶しいと思ったなら、その鞘に納めちまいな
(まぁ、ただ納めるだけじゃ勝手に出て来るんだがな。)」
「確かに戴いた。それじゃ、コレで本当にオサラバだ。」
駄目なら駄目で、失敗作として飾るなり、話し相手にでもしてやらぁな。
■
「どっこいせっと‥」
我が家は良い。
何が良いって商売の時みたく人の顔色を伺わなくて良いし、周りには小さい頃から付き合って来て人情に溢れる人間ばかりだから良い。
やはり、トリスタニアなんて都会は人を荒ませちまうんだ。
それに我が住処が存在する村が属する領の元締めさんは、余所の貴族よりも寛大なのか年貢や税率が甘い。
ビバ・ヴァリエール!!
「さてと、戸締まりも完璧。
後は帳簿をちゃちゃっと片付けっかな。」
帰路に着く前に、色々と商品を売りさばいて来たが…ギリギリ赤字だった。
まぁ、必要だからって魔法武具関連の本を買い漁ったオレが悪い。
「兄チャン、兄チャン!
オレっちを打ち直してくれんじゃ無かったのか?」
何かボロ屑がケンケン喚いてるな。
「うし!今日は疲れたから、帳簿書いたら寝る!!」
「そんなぁ~~」
「オレ達生物は、無機物のお前と違って腹も減るし眠くもなる。
あと、うるさいと山に捨てに行くぞ。」
「……………」
ふぅ、最初からこれぐらい空気を読んでりゃいいんだ。
さて、明日‥明日は魔法武具の本を読む。そんで、適材を見繕うかな。
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フラフラだらだら。 商人の主人公は勝手気ままにしてるけど、何故か厄介事に引き寄せられたり、巻き込まれたりしてしまう。そんな感じ。