テメンニグル学園。
白宮光輝は、自分の机の上に頬杖をついていた。今は卒業シーズン真っ盛りであり、彼は高等部三年生。そして、もうすぐ卒業式だ。
「この学園とももうすぐお別れかぁ…」
光輝はこの学園で、それから風都で今まで起こった出来事を思い出す。異世界での戦いに巻き込まれたり、古代帝国の末裔と戦ったり、テロリストが襲撃してきたり、両親の仇を討ったり、挙げ句の果てにはつい先日現れた仮面ライダーを名乗る巨大な怪物を倒したり、本当にいろんなことがあった。
「何センチメンタルに浸ってんだよお前は。」
「…ダンテ。」
光輝はツッコミを入れてきた親友の名を呼ぶ。
「お前に辛気臭いのは似合わねぇから、明るくしろっていつも言ってるだろ?」
「このシーズンに明るくはなれないよ。ダンテじゃあるまいし」
「そりゃどういう意味だ?」
「能天気という意味だろう。」
そこへ、バージルが現れる。
「バージル。お前まで…」
「はっきり言っておくが、光輝は至って正常だぞ?お前が異常なだけだ。」
「何だと!?お前だってその異常な俺の兄弟のくせに!」
「だが俺はまともだ。双子でもここまで違いが出るんだな?」
「てめぇ…!!」
ついにエボニーとアイボリーを抜くダンテ。兄弟喧嘩が始まるかと思いきや、
「はいはいストップストップ!」
レディが止めに入った。
「ダンテはどうしてそう血の気が多いのよ?バージルも煽らない。」
「ちっ!」
ダンテはエボニーとアイボリーをしまう。とりあえず騒動が治まったところで、トリッシュと照山が光輝に言う。
「気持ちはわかるけど、あんまり沈むのもよくないわ。明るくね」
「まぁ気楽にやれよ。つっても、やることなんてないけどな。」
照山の言う通り、式関係は他の者がやるため、光輝がやることは何もない。あるとすれば、式の予行練習か、学園内の掃除くらいのものだ。
「うん、そうするよ。」
光輝は頷いた。
卒業式が近いため、高等部の三年生は午前中で授業が終わる。下校した光輝は、帰宅前にこの街の象徴、風都タワーへ行くことにした。このどうにも晴れない気分を晴らすためだ。
風都タワーの屋上に着いた光輝は、少し冷たい風都の風を全身に浴びる。
(気持ちいい…)
ここは光輝にとってお気に入りの場所の一つだ。光輝は風を浴びながら、目を閉じてそう思った。
「光輝。」
そんな彼に声をかけたのは、長い金髪の、まさしく絶世の美女という言葉がふさわしい女性。
「フェイト。」
光輝は彼女の名を呼んだ。
女性の名はフェイト・テスタロッサ・ハラオウン。光輝にとって誰よりも大切な人であり、まぁ早い話が光輝の彼女だ。二人は通り魔事件をきっかけに触れ合うことが多くなり、様々な事件や戦いを通して、両想いとなった。両親を殺され、家を焼かれ、全てを失った光輝は多くの人々に支えられてきたが、フェイトの存在はその中でも特に大きいと言える。そんな彼女に、光輝は尋ねた。
「どうしたの?」
「光輝がここに来るのを見たから。」
「…そっか…」
短い会話をして、沈黙する二人。やがて、静寂はフェイトの方から破られる。
「光輝、最近元気がないよね。」
「…まぁこんなシーズンだし、きっとみんなとも、もう会えなくなるんだなって思うと…ね…」
「…その気持ち、わかる気がする。」
「でしょ?いつかまた会えるってことはわかってるんだけど、結局はお別れだから…」
仕方のないことだ。人にはそれぞれ自分の選んだ道があり、その道を進まなければならない。その過程で、別れなければならないこともある。
「光輝は進路、どうするんだっけ?」
「僕は大学に進学するよ。風都大学」
「光輝も?私もなんだ。」
「じゃあ、また一緒だね。」
「うん。」
光輝にとって唯一の救いは、一番大切な人であるフェイトと進路が同じなことだ。これでまた、長い間一緒にいることができる。
そして二人はまた黙り、またフェイトの方から光輝に話しかけた。
「…本当は、それだけじゃないんでしょ?元気がない理由。」
「…」
黙りながら、さすがフェイト、と思う光輝。彼の気分が晴れない理由は、卒業して仲間達と別れてしまうことだけではないのだ。フェイトは自分が思い当たる要因を挙げてみる。
「無限の使徒関係のこととか?」
光輝は全ての世界を構成し、ありとあらゆる奇跡を起こす無限にして万能の力、アンリミテッドフォースの使用権限を与えられた究極の存在、無限の使徒だ。しかし彼の存在はそれだけにとどまらず、当初彼が変身する仮面ライダー、クロスの強化形態であるクロスアンリミテッドでなければ完全な運用が不可能だったアンリミテッドフォースを、クロスへの変身自体を行わずに使えるようになったり、無限の使徒のさらなる覚醒体である神々の帝王、神帝に覚醒したりと、進化を続けた。しかし、神帝になってしまえばこの世界で生きる権限を失い、神の国で永遠に世界を観測し続けなければならない。実際光輝はその影響で、一度この世界から消えた。だが、彼の親友ドナルドの活躍により、帰還することができたのである。ゆえに光輝は、人間のまま神帝と同じ性質の力を得た。といっても今までとの相違点は、どんな手段によってもアンリミテッドフォースが無効されなくなる、ということだけであり、あとは生身の人間と同じように歳を取り、普通の生活を送れる。神帝は不老不死の存在だが、それは覚醒後、神の国での数年に渡る生活を経て肉体が変質した結果であり、光輝は数日程度しか生活していないため、肉体が変質することはなかった。
帰還してからは、これまでと同じように街の平和を守るべく戦い、つい数ヵ月前は仮面ライダーを名乗る巨大な怪物、仮面ライダーコアを一撃で葬ったばかりだ。まぁ状況としては、
『我が名は、仮面ライダーコア!!』
『エンドレスレジェンド!!!』
『ぐわあああああああああ!!!!』
といった具合だ。
話が反れたが、とにかく、今のところ光輝の身体に問題は起こっていない。だがフェイトは、自分が知らないだけで、光輝の身に何か起こっているのではないかと思っている。なので光輝は、
「大丈夫。なんともなってないよ」
と安心させた。光輝が悩んでいるのは、別の問題である。
「ただ…」
「ただ?」
「…最近、何か大切なことを忘れているような気がするんだ。」
光輝とフェイトは両想いとなり、その後も交流を深めていったが、光輝の方はフェイトのことを好きになれば好きになるほど、自身の記憶の中に違和感を覚えていった。何か、自分達に関わるような大切なことを忘れているのではないかと。
だが、
「光輝も?」
「えっ、『も』ってことは、フェイトも?」
なんと、フェイトも同じ悩みを抱えていたのだ。さすがに、光輝のように露骨に表に出るほどではなかったが。
「アンリミテッドフォースを使えば?」
フェイトは解決法を言う。確かに、アンリミテッドフォースを使えば、思い出すことができるだろう。光輝も最初はそれを考えたのだが、
「…怖いんだ。」
彼は、思い出すことを怖がっていた。自分が何を忘れているのか興味はあるが、もし思い出してはいけないことだったら?そう思うと、怖くて仕方がなかったのだ。
「大丈夫だよ。私が一緒にいるから」
怖がる光輝を勇気づけるフェイト。フェイトの言葉を聞いて、光輝はようやく勇気が出た。彼女と一緒なら、恐れるものなど何もない。
「わかった。じゃあ、どっちから思い出す?」
「私は後でいいよ。きっと、光輝が忘れてることの方が大切だから…」
「…うん。」
一瞬迷った光輝だったが、すぐ思い直す。僕も男なんだから、決まったのならやらなければと。
アンリミテッドフォースを発動しようとする光輝と、それを見守るフェイト。
と、
「?」
何かの気配を感じて、フェイトは辺りを見回す。しかし、何もない。光輝に視線を戻そうとするフェイト。その瞬間、彼女の視界の端に、何かが入った。
「待って。」
フェイトは光輝にアンリミテッドフォースの発動を中断させ、自分が見つけたものが何なのか、確かめに行く。そして、それを拾い上げた。
「これ…ガイアメモリ?」
ガイアメモリとは、かつて光輝がこの街を守るライダー、Wやアクセル、ソウガとともに壊滅させた組織、ミュージアムが開発していたアイテムだ。様々な地球の記憶を組み込まれたそれは、起動して生体コネクタに挿すことで発動し、使用者を怪人、ドーパントへと変化させる。光輝が使っているクロスメモリもその一つなのだが、こちらはライダー専用に改良を加えられた純正型。生体コネクタに挿しても発動せず、ドライバーというベルトを介した場合のみ、効果が発現する。ガイアメモリは表面に表記されたアルファベットのイニシャルによって種類や効果がわかるのだが、それ以外にもライダー専用の純正型、ミュージアムの市販用は、区別ができるようどちらも見た目が違う。また光輝達が知っている純正型メモリは数えられる程度しかなく、知らないのは市販用メモリのみなのだが、フェイトが拾ったRと書かれているこのメモリは、奇妙なことに純正型だ。二人が知るメモリの中には、T2メモリというまた違う種類のガイアメモリも存在するのだが、それとも一致しない。全く未知のガイアメモリだった。フェイトはメモリの正体を知るべく、起動してみる。
〈RETURN!〉
響き渡るメモリの起動音、ガイアウィスパー。
すると、突然メモリが発光を始めた。光はどんどん大きくなっていく。
「な、何これ!?」
フェイトはメモリを捨てようとするが、なぜか手が離れない。その間にも、フェイトは光に包まれていく。
「フェイト!!」
恋人の窮地を救うべく、飛び出した光輝。二人はメモリの光に包まれ、
消えた。
「あれ?はやてちゃん?」
高町なのはは、八神はやてと出会っていた。
「なのはちゃん。こんなところでどうしたん?」
「風都タワーの屋上から変な光が見えて…」
「私も見えた。あれは絶対ただ事じゃあらへん」
「はやてちゃんもそう思う?」
二人は風都タワーから発された奇妙な閃光に、胸騒ぎを覚える。
「行こうなのはちゃん。真相を確かめるんや!」
「うん!」
二人は風都タワーへ向かった。
「……うっ」
いつの間にか気絶していたらしい光輝は、隣に倒れているフェイトに気付き、その身体を揺さぶる。
「フェイト!起きて!フェイト!」
「…うーん…」
フェイトは目を覚ます。
「…ここは?」
「わからない。そのメモリの光に包まれたと思ったら…」
フェイトは辺りを見渡し、光輝はフェイトの手に握られているメモリを見ながら言う。今二人は、街中のどこかにいた。風都タワーの屋上にいたはずなのにだ。
その時、光輝はすぐ近くにあった家に気付く。
「これ、僕の家だ。」
「えっ…」
あまりに唐突な発言に面食らってしまったが、フェイトも反射的に建物を見る。なるほど、確かに光輝の家だ。
「本当だ…」
「どうして?僕達は風都タワーの屋上にいたはずなのに…」
困惑する光輝。
すると、彼の困惑をさらに駆り立てるかのように、二人の人物が光輝の家から出てきた。
光輝はその二人を見て、呆然と呟く。
「父さん…?それに母さんまで…?」
光輝は目の前で起きていることが信じられなかった。彼の父、白宮隼人と母、白宮優子は、二年前に死んだはずなのだ。
「じゃあ行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」
優子に告げて出かける隼人。優子はそれを見送ってから、家に戻った。
「父さん!」
隼人に駆け寄って叫ぶ光輝。しかし、なぜか隼人は知らんぷりで、歩みを止める気配もない。
「父さん!!」
隼人の手を掴んで無理矢理にでも止めようとする光輝だが、その手は隼人の身体をすり抜けてしまった。
「どういうことだ?」
再び困惑する光輝。と、
「?」
頭がついていかず硬直していたフェイトの足元に、何かが転がってきた。それは、新聞だった。新聞はちょうどいい具合に、日付を見せる。フェイトは日付の、年号の部分を見て驚いた。
「この年号…十年前!?」
「えっ!?」
反応する光輝。
死んだはずなのに生きている両親。十年前の年号。これらの要因から、光輝は推測する。
「ここは…十年前の風都!?」
そうとしか考えられない。
「でも、どうして私達が?」
「きっと、さっきのメモリのせいだ。」
フェイトが起動したメモリのガイアウィスパーは、リターンと発音していた。メモリの名前は、リターンメモリで間違いないだろう。効果は恐らく、使用者を任意の過去に飛ばすことができるというもの。
「でも私には生体コネクタなんてないし、ドライバーにも挿してないよ?」
「ガイアメモリの中には、生体コネクタやドライバーがなくても、起動するだけで効果が発動する特殊タイプがあるってドナルドが言ってた。きっと、リターンメモリは特殊タイプのメモリなんだ。」
「そんなメモリが…」
フェイトは自分が知らなかったメモリに驚く。
その時、今度は優子が出てきた。
「あれって光輝のお母さんだよね?さっきお父さんが出ていったのに何で…」
「あの頃、父さんと母さんは研究で忙しかったからね。本当は二人でかからなきゃいけないから一緒に行くはずなんだけど、僕の世話を最低限やってからっていう理由で、母さんはいつもあとから行ってたんだ。」
隼人と優子は高校時代に知り合い、若気の至りから学生結婚をした。それから互いに元々得意であった科学部門の進路を進み、その名はわずか数年で業界に知れ渡る。やがて優子が身籠った頃、二人はミュージアムに引き抜かれ、ガイアメモリの研究をさせられることに。
二人の研究はミュージアム一を誇り、より強力なガイアメモリの開発に貢献した。しかし、とある事件をきっかけに二人はミュージアムを退社する。
今光輝とフェイトが見ているのは、ちょうど隼人と優子がミュージアムを退社する前の時代だ。ちなみに、光輝は二人がミュージアムを辞めた理由を知らない。
優子が出かけてしばらく経つと、家から少年が出てきた。ドアに鍵をかけ、どこかつらそうな面持ちで歩いていく。
「あれ、僕だ。」
光輝は呟いた。
「あれが…十年前の光輝…」
少年光輝はどこかへ歩いていく。フェイトは光輝に訊いた。
「光輝。この頃の光輝はどこに行こうとしてたの?」
「確かこの頃、僕はよく公園で遊んでた。多分今日も…」
「追いかけよう!」
「うん!」
二人は少年光輝を追いかけた。
『あーあ…退屈だなぁ…』
少年光輝は呟いた。隼人と優子が忙しいのだから、構ってもらえないのは仕方ない。しかし、この頃の光輝はダンテ達とも知り合っておらず、また少し内気だったため、そして人があまり寄り付かない公園であるゆえに、友人が一人もいない。今日もどうせ一人だ。少年光輝はそう思って公園にたどり着く。
だが、公園には先客がいた。
金髪ツインテールで瞳の赤い少女が、ブランコに乗って遊んでいる。
『…』
少年光輝は少女から目が離せなくなり、少女をじっと見つめていた。やがて少女は少年光輝の視線に気付き、少年光輝を見る。
見つめ合う二人。数秒の沈黙の後、先に口を動かしたのは、少年光輝だった。
『…君、一人?』
『…うん。』
『そっか…僕も一人なんだ。父さんと母さんが遊んでくれなくて…』
『…私も、母さんが構ってくれないんだ。忙しいって』
『…隣、いい?』
『いいよ。』
少年光輝は少女の隣のブランコに座った。少年光輝は訊く。
『僕、光輝。白宮光輝。君、名前は?』
少年光輝に訊かれ、少女は少し遠慮がちに名乗った。
『…フェイト。フェイト・テスタロッサ』
「あれって…小さい頃の…私…?」
フェイトはとある世界で、少女時代の自分に会っている。しかし、それは別の世界のフェイトであり、今目の前にいるのは紛れもなくこの世界の彼女。
その時、
「うっ!!」
光輝は頭を抱えて苦しみだした。
「光輝!?あっ!!」
フェイトも自分の頭を押さえる。少しの間、頭痛に苦しむ二人。頭痛が治まった頃、光輝はとある言葉を口にした。
「…思い出した。僕はこの頃、もうフェイトに会ってたんだ。」
この頃はまだ、フェイトの産みの親、プレシア・テスタロッサが引き起こしたプレシア・テスタロッサ事件は起きていない。フェイトはまだ八歳であり、なのはとも出会っていないのだ。しかし、光輝とは出会っていた。二人はこの頃から知り合いだったのである。
「私も思い出した。」
フェイトも忘れていた記憶を思い出す。この日を境に二人は友人関係となり、毎日一緒に遊ぶようになったのだ。
「でも、どうしてこんな大切なこと、忘れてたんだろう?」
フェイトが疑問に思った時、場面が切り替わった。どうやら、リターンメモリがフェイトの心情を察して、時間を進めたようである。
二人の前にいたのは、プレシアと隼人。光輝とフェイトの交流を皮切りにして、互いの親も親交を始めたらしい。だが、隼人の顔はかなり焦っている。対するプレシアは、無表情のまま。二人はこんな会話をしていた。
「あんた…自分の娘に何やらせてるかわかってるのか!?」
「もちろんわかっているわ。でもね、もう立ち止まれないの。」
プレシアはフェイトに、ジュエルシード集めをさせ始めていたのだ。正史ではジュエルシードは異世界の遺物だが、このクロスの世界では、魔界の遺物ということになっている。
「ロストロギアの違法収集は犯罪だ。あんたは自分の娘に、犯罪の片棒を担がせてるんだぞ!!例えあの子がクローンでも、あんたの娘に変わりはないだろうが!!」
「それが何?フェイトはアリシアじゃない。人形をどう使おうが私の勝手でしょう?」
「クローンの製造…ロストロギアの違法収集…挙げ句は自分の娘の人形扱い…どれだけの禁忌を犯せば気が済むんだ!!」
数々の禁忌を犯したプレシア。しかし、隼人にとって一番許せないのは、自分の娘を人形呼ばわりしたことだ。一児の父親として、当然の反応ではある。だが、プレシアはそれを何とも思っていない。
「私の娘はアリシアだけよ。それに、親は娘に対してなんでもできるものなの。どんな禁忌だろうとね」
プレシアもまた、娘への愛情を持っている。しかし、それはアリシアに対してだけであり、フェイトへの愛情は持ち合わせていない。
「…あんたとは縁を切る。二度と俺達に関わるな!」
隼人はプレシアに背を向けて帰っていった。
「ふん…」
プレシアも転移魔法を使って帰っていく。
その後帰宅した隼人は、少年光輝をある装置に座らせた。これは記憶消去装置。隼人と優子はガイアメモリだけでなく、様々な部門に引っ張りだこであり、同じ科学者の山城博士と知り合った結果、二人は記憶消去装置を造ることができた。隼人が少年光輝から消し去るのは、フェイトの記憶。
「嫌だよ父さん!僕、フェイトちゃんのこと忘れたくない!!」
装置に拘束され、抵抗する少年光輝。
「…許せ、光輝…!」
隼人は断腸の思いで装置を起動した。
「うわあああああああああああああ!!!」
少年光輝は激痛に絶叫する。徐々に消えていくフェイトとの思い出。
「フェ…イ……」
やがて、少年光輝は気絶した。
プレシアはバインド魔法で空中に拘束した少女フェイトを、鞭で拷問する。
「何で…何で光輝のこと…忘れなきゃ…いけないの…?」
既に傷だらけの少女フェイト。
「あなたは私の言う通りにすればいいの。お母さんのこと、嫌いかしら?」
プレシアは全く表情を変えることなく、フェイトを鞭で打つ。
「うあっ!くっ!…嫌いになるわけないよ…でも…光輝のことだけは…忘れたくない…初めての…友達だから……」
「お黙り!!」
「ああぁっ!!」
反抗するフェイトを鞭で打ち付けるプレシア。その後も拷問は続き、
(光輝……助けて……)
友達に助けを求めながら、フェイトは心を閉ざした。
こうして二人は、互いのことを忘れたのだ。
隼人は自室に籠ってうなだれていた。そこへ、優子が入ってくる。
「あなた…」
声をかける優子。返ってきたのは、
「…俺は最低の親だ。」
自分への罵倒だった。
「他人の親には禁忌を犯すなと言っておいて、自分は平然と禁忌を犯す…俺はなんてことを……!!」
ひたすら自分を責め続ける隼人。
「俺にはあいつの父親を名乗る資格がない。」
「そう自分を責めないで。あなたはあの子につらい思いをして欲しくなくて、あんなことしたんでしょ?」
フェイトが犯罪者だと知ったら、光輝は間違いなくショックを受ける。隼人は自分の息子のそんな姿を見たくなかったからこそ、光輝からフェイトの記憶を消したのだ。優子はそれがよくわかっている。
「守りましょう。二人であの子の未来を…」
我が子の未来を守るのは、親にしかできない。自分達が親だからこそ、息子を守るべき。優子はそう言った。
「…ああ。」
まだ立ち直ることはできなかったが、隼人はそれに同意する。
そこでメモリの効果が切れ、光輝とフェイトは現代に戻ってきた。
「…思い出せないわけだ。」
光輝は呟く。あんな風に忘れてしまったら、簡単に思い出せるはずがない。
フェイトと再会したのは、光輝がテメンニグル学園に入学してから。今思えば、光輝は初対面であるにも関わらず、前からフェイトを知っているような感じがしていた。忘れていたとはいえ、十年も前に会っていたのだ。記憶を失っても、心が覚えていた、という感じなのだろう。
「さて、どうする?僕が忘れていたことは全部思い出したけど…」
「うーん…私も思い出したし…」
これが、二人がずっと思い出せなかったこと。それを思い出した今、もうリターンメモリに用はないのだが…。
「…そういえば、光輝のお父さんとお母さんは、どうして仮面ライダーになろうと思ったのかな?」
フェイトは尋ねた。よく考えてみると、光輝は二人がライダーであることは知っていたが、ライダーになったきっかけは知らない。
「何だか気になってきたな…」
「じゃあ…」
「…うん。」
今度は光輝がリターンメモリを持ち、
〈RETURN!〉
起動させた。
ささやかな欲望に背中を押されて、過去へ飛んだ二人。
そして二人は、隼人と優子が仮面ライダーになった理由を知ることになる。
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リターンメモリ
『回帰の記憶』を宿したガイアメモリ。使用者を任意の過去へ飛ばすことができる。しかし、過去の世界の住人には姿が見えず、触れることもできない。
周囲の人間と一緒に行くことも可能。
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まずはクロス編ですが、変身は次回になりますので、ご了承ください。
ちなみに、MOVIE大戦CORE終了後という設定です。