外史の狭間
ここには幾多もの外史が飛び交い、付いたり消えたりしている。
それを見つめる1つの人影があった。
「外史・・・何人もの俺が色々な物語を紡いできた・・・」
彼が見ているのは決まって、同じ人間。
自ら軍を率い、天下統一に向かい戦う彼
蜀に舞い降り、皆と共に平和を掴む彼
呉に仕え、死ぬまで幸せに生きる彼
魏に仕え、役目を果たして消える彼
様々な「彼」の姿があった。
中には、志半ばで果てる彼もあれば、自分のために覇道を歩む彼の姿もあった。
「俺と同じような『俺』がいるなぁ・・・ハハッ、こっちの『俺』は幸せそうだなぁ。こっちの俺は・・・見なかったことにしよう・・・」
なんだか自分が本当の天上人になったかのように始まっては終わり行く世界を見続けてきている。
そういう自分もこの前までは魏に仕え、最後に愛する人と別れてきたのだ。
「華琳はどこでも変わらないなぁ・・・って、なんだあれ?」
突如、まるで川を流れる石の様に外史の1つが一刀目掛けて流れてくるのが見えた。
このままでは完全にぶつかる。
「ぶつかったら・・・どうなるんだ?」
すり抜けるのかな、という安易な考えとは裏腹に、一刀に視界はその外史に包まれ、光へと消えていくのだった。
「で、君は何を望むんだい?」
暗闇の中に、響く声。
「う・・・あ、アンタは?」
その漆黒の中にいたのは自分と、白い影だった。
「僕は、君の中にいる僕であり、僕の中にいる君だよ」
「ん?・・・ん!?・・・何言ってるんだ?」
影は薄く笑いながら続けた。
「僕は君の望む事を叶えることが出来る・・・前の外史、君の働きを見てそう決めたんだ」
「決めた・・・?」
影は次に大きな笑い口を開けた。
「そうさ、君が正しく消えてくれたお陰であの外史は終焉を迎えることが出来た」
「は!?終焉・・・!?」
影が教えてきたのはこういうものだった。
一刀が消えて数日後、急に五胡が各方面から大陸を急襲。瞬く間に各地を制圧されたこと。
曹操・劉備・孫策を始めとした諸将は全員死亡してしまったこと。
そして大陸は五胡によって滅ぼされてしまったこと。
影は、それを楽しそうでも、悲しそうでもなく淡々と喋った。
だが聞いている一刀はそんな風にはとても出来なかった。
「か・・・華琳が、死んだ?・・・あの、俺との別れ際に泣いていたあの、華琳が・・・?」
「そうさ、だから僕はそれを伝えてあげようと思ってね」
一刀はあまりのショックに言葉と呼吸を失った。
しかし影はそんな一刀のことなど知らないように尚も喋り続けた。
「それに、これは残されたチャンスなんだ・・・僕は君の1部となり、外史を導いていく」
「ど、どういうことだ・・・?」
影は少し不機嫌そうに言う。
「幾つもの外史を渡った僕としても、これ以上あいつらに好き勝手されるのは我慢ならないのさ。だから
影は更にその口角を上げた。
「君と僕が、完全に一体化し、1ランク上の個体として世界に君臨するのさ」
「はぁ?それって、つまり・・・」
「ククク・・・そう、僕達は完全なる『天の御使い』となるのさ。名だけではなく、実を兼ね備えた!」
影は一刀に近寄ると、スゥッと体を重ねた。
「心配することはない、僕達は元々1つの存在だった。それに・・・目を覚ませばそこは、僕達のゲーム盤だ」
「ぅ・・・お、俺は・・・」
一刀と影が完全に重なるのと、視界が完全に白に染まるのは、ほぼ同時の出来事であった。
荒野
体を凍らせるほどの風をうけながら、一刀はその身を起こした。
「・・・・・・服装は、前と同じ制服・・・これは?」
右手には、なにやら高級そうな袋が握られている。
「これは・・・針?」
『それは支配針という針だよ』
「なッ、お前!」
『キョロキョロしても無駄だよ。僕は君そのものだ』
確かに、声は耳を通してではなく、脳に直接語りかけている感じだ。
『残り少ない”別の個体としていられる”時間だ。完全に一体化したら君の性格もちょっとは僕よりになるかもね。まぁ、その針の使い方も解るようになるから頑張ってよ』
「待てよ!オイ!!・・・・・・聞こえなくなった・・・」
影の声は聞こえなくなり、代わりに脳内に膨大な情報が流れ込んできた。
「ぐ、グアアアアァァァァッ!?」
大陸の情勢、各軍の状況、そして影のことについて流れ込んでくる。
一刀はその情報の奔流に、一瞬意識を持っていかれた。
「・・・・・・そうか・・そういうことか、僕。いや、俺自身・・・」
影は確かに北郷一刀そのものだった。
ただ、別の外史の一刀であり、自分よりもかなり傲慢な性格をしていたようだ。
だが彼は度重なる外史を彷徨っていたために激しく消耗しており、最後の希望を自分に託したというのが影の考えだった。
そしてこの支配針。
これは刺した相手を自分の目として使うことも出来る上に、相手の行動を操ったり自分の言葉を相手を通して伝えられることが出来るらしい。
それに、相手は操られているという自覚はないときている。
「なるほどな・・・良いモンくれたじゃないか」
一刀はクククと笑い、天を仰いだ。
「なら、俺は俺のやり方でこの世界を導いてやる!」
どうやら今はちょうど黄巾の乱が始まった時であるようで、そこら中に賊がいた。
「オイテメェ、良いモン着てるじゃねぇか!身包み剥いじまえ!!」
「なんだその光る衣は!それ置いて失せやがれ!!」
「ブッコロ!!」
勿論、かつて魏で猛将と共に訓練した体は伊達じゃなく、襲い掛かってくる賊を追い払う程度の力は備わっていた。
それに、技能面や対術の面では影の情報が役に立っている。
ただ、それが自分の体で再現出来るかと言うと微妙な感じではあった。
一刀は近くの村に寄り、体を休めることにした。
「ああ、旅人さんかね?随分と珍しい着物を着ているが、どこかの貴族の方でも?」
丁度散歩をしていた村長っぽい人が話しかけてくる。
「ちょっと聞きたいことがあるんだが・・・ここはどこだ?」
村長っぽい人は驚いた顔をしてこっちを見てきた。
別に一刀は嘘を言っているわけでは無い。色々な情報が入ってきたはいいが現在地だけは解らなかったのだ。
「まさか、本当に流浪の身なのかい?・・・ここは董卓様の治められる天水という都市の近くにある小さな邑じゃ。行き場が無かったら董卓様に仕えてみてはどうかの?」
董卓か、と心の中でひとりごちる。
残念ながら前の世界での董卓との面識はほぼゼロに近かったが、影からの情報でなんとか顔は解った。
「そうか、ありがとう・・・ところで、この村は随分と殺伐としてるけど何かあったのか?」
聞いて見ると、村長っぽい人は少し泣きそうになりながら答えてきた。
「この村は賊によく襲われていての・・・男共は殺され、女は攫われ、残ったのはワシら老人くらいなものなんじゃ・・・」
恐らく黄巾党の仕業だろう。
このご時世、そんな村はいくらでもあったが一刀にはこれはチャンスだと感じられた。
「なぁじいさん、俺が『天の御使い』だって言ったら・・・信じるか?」
「『天の御使い』?アンタ、あの予言に言う御使い様だってのかい?」
どうやらこの世界での『天の御使い』はこのような辺鄙な村にも伝わるほどの有名な称号らしい。
「まさか、確かに見慣れない光り輝く衣を着てはおるが、本物とはとてもとても・・・」
「なら、俺が本物の『天の御使い』だって確認させてやるよ」
黄巾党を『天の御使い』として蹴散らす。
それを見た村人が董卓軍に言えば、自分は簡単に登用されるだろう。というのが一刀の考えだった。
「賊の根城は解ってるのか?」
「あ、ああ。ここから北に3里行ったくらいにある山中の古い砦じゃ。って、もう行くのか!?」
「だって、被害は少ないに限るだろ?」
「じゃがしかし、やはり危険で「賊が出たぞーーーーー!!!!」」
旅人の風貌をした男が、血だらけで叫びながら走ってきた。
一刀はすかさずその男に駆け寄り、肩を貸す。
「大丈夫か?賊はどこに」
「うぅ・・・こっから、北に2里行ったところの村に・・・」
「その村は・・・まさか、砦とここの途中にある村か!」
村長っぽい人の言葉に、一刀は確信を得た。
(なら、このチャンスを逃す手はないな!)
一刀は何も言わずに、北の村目掛けて走り出して行った。
砦付近の村
この村は度々賊による襲撃を受けていたが、用心棒がいるために略奪が成功していないという状況にあった。
しかし、今回はその用心棒が出かけているために村は無防備となっていたのだ。
「ヒャッハー!金目の物をだせぇ!女もだー!!」
などとお馴染みと言っても良いフレーズを叫びながらあちこちを蹂躙していく黄色い布を頭に巻いた賊達。
後に言う黄巾党が暴れまわっていた。
そんな中、1人の子供が身を隠すように逃げている。
「ハァッ、ハァッ・・・うぅ・・・何で僕達だけ・・・こんな目に・・・」
その子供は肉親を失った悲しみ、そんな賊達への怒りに溢れながらも逃げ惑っていた。
「お、なんだガキ。逃げようってかぁ!?」
「ッ、そんな・・・!」
しかし、逃げているところを賊の1人に見つかってしまう。
あっという間に子供は掴み上げられ、剣を首元に突きつけられることになってしまった。
「泣けぇ!叫べぇ!俺達が楽しむためになぁ!!」
下卑た笑いを繰り返す男。
そんな男に殺される。
子供の目は絶望に満ちようとしていた。
殺される。そう思った時に、少年の体は地についていた。
「・・・・あれ?」
上を見ると、掴み上げた体勢のまま男は動いていない。
「なるほどな・・・こうして支配下に置くってことか」
見ると黄色い布を巻いた男の後ろにもう1人、白く光り輝く衣を身に纏った男がいるのも目に見えた。
「針を抜いたら意識が戻るしな・・・今の内に始末しておくか」
男から奪った剣でその男の胸を刺す一刀。
倒れたのを確認してふぅ、と息をつくとすぐ横に自分をまじまじと見つめる視線があるのが解った。
(この目・・・)
子供の目には一刀に対する畏敬の念、恩義、羨望などの全ての感情が表れていた。
「その目・・・フッ、そうか・・・君にとって俺は神か・・・」
「ぁ・・・・・・あなたは・・・」
子供は辛うじて口から言葉を発した。
10歳ほどの体から出るような元気な声ではなく、今にも消えてしまいそうな蚊ほどの声だった。
「当然だよね、なんてったって俺はこの世界の上位種なんだから・・・」
「あ、あの・・・あなたは一体・・・?」
子供のつぶらな瞳に映った一刀の口元は、ひどく笑っていた。
「俺は北郷一刀・・・世界を導くものさ・・・!!」
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この小説?は魏を終えた一刀君が傲慢な自分と会ってさらに傲慢になって自らの手で世界を導いていこうと考えた・・・
という妄想劇です。
クオリティの方はご容赦くださいな