No.453722

夜天の主とともに  8.始まりの刻

森羅さん

連続投稿っす

2012-07-15 23:23:47 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2086   閲覧ユーザー数:1933

夜天の主とともに  8.始まりの刻

 

 

 

6月3日(土) PM:9:05

はやてside

 

いつものように図書館に行ったけど、けん君も来てなかったみたいでしばらく待ってみたが結局今日は来なかった。

なんかあったんやろか‥‥。

 

ついでだったので帰り道に本を買ってから帰宅した。

 

「ただいま~‥‥って何やってんやろ私…」

 

誰もいない家に私の声が空しく響く。

 

それにわずかばかり寂しさを感じながらも私は家に上がった。

リビングに入ると留守電を示す明かりがついていた。

 

≪留守電メッセージが一件です≫

 

 

ピーッ

 

 

『もしもし?海鳴大学病院の石田です。えっと、明日ははやてちゃんの誕生日だよね。明日の検査の後お食事でもどうかなぁと思ってお電話しました』

 

私の足を診てくれている石田先生だ。いつも私のことを親身に思ってくれている人だ。

 

『明日病院に来る前にでもお返事くれたらうれしいな。よろしくね』

 

 

ピーッ

 

 

≪メッセージは以上です≫

 

私はそれを聞いて少しうれしくなり頬が緩んだ。

 

車椅子の向きをくるりと変え部屋に戻ろうとした。その時ピンポーンと呼び鈴が家の中を響いた。動きを止めて玄関の方へ首をめぐらす。そしてもう一度呼び鈴が鳴った。

 

(こんな時間に誰やろ?変な勧誘だったらビシッと断らなアカンな)

 

『どちらさんですか?』

 

『どうも~時野宅配便で~す』

 

『けん君!?ちょ、ちょっと待っててな』

 

インターホンにまさかのけん君が来ていたことに驚きながらも慌てて玄関に向かった。

ドアを開けると手に何か箱を持ったけん君が笑って立っていた。

 

「よっ、はやて」

 

「けん君!!どしたんやこんな時間に。歩いてきたん?」

 

「まぁね。確か今日はやての誕生日だろ?だからケーキだよ」

 

けん君は手に持った箱を示すように上げたのを見て私はわぁ~と言ってしまった。

 

「とりあえず入って。外寒いやろ」

 

「じゃあお言葉に甘えて、お邪魔しま~す」

 

「邪魔するなら帰って~」

 

「はいよ~‥‥ってお願い入れて!!」

 

「冗談やて。じゃあ入ろ」

 

「はやてェ‥‥」

 

はやてsideout

 

 

 

 

健一side

 

家の中に入ると電気は消えていてリビングも薄暗かった。

 

「今電気つけるな~」

 

「ありがと、省エネですかな?」

 

「そうや、余分な電気は消しとかな。もったいないやん」

 

「料理もできて家計のことも考える。はやてはいいお嫁さんになりそうだな」

 

「そやろ、超優良物件や。けん君が私のこともらってくれてもええんで?」

 

「俺たちの歳で何言ってんの」

 

9歳、いやまだ8歳なのにませたことを言うのでちょっと強めにでこピンをする。

 

「いった~‥‥。ええやんか、若気の至りや」

 

「はいはい。それはいいとしてはいこれ、ケーキ」

 

そう言って俺は箱を開けた。中身はショートケーキで昼の間に喫茶翠屋で買っておいたものだ。

 

「ありがとぉな。これあの翠屋のケーキやろ。一度食べてみたかったんよ」

 

「それはよかった。俺自身が作れればよかったんだけどどうもお菓子を作るのは苦手で‥‥」

 

「ええんよ別に、来てくれただけでもうれしいし。にしても相変わらずお菓子作るのは苦手なんやなぁ。他はうまくできるのに」

 

「ほっとけ。」

 

「でも、ほんまによかったん?」

 

ケーキから目を離してちょっと心配そうな表情で聞いてくる。少し考えてみたが心配される理由が思いつかなかった。

 

「なにが?」

 

「こんな時間に来てもよかったんかってことや」

 

「あぁそれね。前に言わなかったっけ?いま父さんも母さんも海外出張中でいないんだよ。なんでもお店の海外進出の話が出たんだってさ」

 

そう、現在俺の家には誰もいない。俺一人だ。

父さんと母さんのレストランの評判はあれからさらに広まり雑誌で見かける数も増えてたんだよね。それでついに海外からもお声がかかったらしい。

 

それでも少し2人は迷っていた。理由はやっぱり俺だ。俺は喘息のことがあるからついていけれないから行くには俺を置いていくしかなかったんだよね。

 

「ん~そういえばそんなことも言ってたかも」

 

「まぁそういうこと」

 

「にしてもよぉ歩いてきたな~。特訓の成果か?」

 

「そりゃあんだけひ弱ひ弱言われたら少しぐらいやらなきゃって思って」

 

以前よりはやてに「ひ弱やなぁ。」と言われてくやしくなり数年前から始めていたのだ。体に響かない程度の筋トレらしきものを始めたのだがいつのまにか習慣になってしまい喘息で走ったりできないのに体そのものは強くなるという妙なことになってしまったのだ。

 

「ふ~ん。じゃあケーキ食べよ。せっかく持ってきてくれたんやし」

 

「そうだな。その前に‥‥‥誕生日おめでとう、はやて」

 

「ありがとぉ、けん君」

 

それから俺とはやては一緒にケーキを食べ、テレビを見て、はやてが買ってきた本についても話したりした。

そうこうしているうちに時間は0時になろうとしていた。

 

「もうこんな時間か。」

 

「そやね、もう遅いしけん君泊まりな」

 

「いいのかな?」

 

「ええよええよ。私のために来てくれたわけやし、これぐらいさせて」

 

「じゃあよろしく。んじゃ空いてる部屋借りるね」

 

「なんでや?一緒に寝たらええやん」

 

さらっととんでもないことを発言に俺は思わずブッとちょうど飲んでいたジュースを吹き出してしまった。

 

「わわっ!?けん君汚いって。」

 

「ご、ごめんっていうかそんなの無理に決まってるでしょ!!」

 

「なんで?」

 

首を傾げながらいうはやてを見て思わずため息をついた。昔から時々天然発動するんだよな、こいつ。そう思ってたらはやてが何やら得新顔でニヤニヤし始めた。

 

「ハッハ~ン、わかったで。けん君いま照れとるやろ。そこも相変わらず初心やな~」

 

「……照れてない」

 

「そう照れ隠しせんと」

 

「‥‥‥‥‥」

 

「ん?急に黙ってどしたn、いたいいたい!?私が悪かったから無言で頭グリグリすんのやめて~」

 

ちょっとばかりお痛がすぎたようだったので秘技頭グリグリを使用。はやての苦手なことの一つである。

10秒ほどやったところでやめてやると、う~と言いながら頭を押さえるはやて。

 

「いい?俺は空いてる部屋、はやては自分の部屋。オーケー?」

 

「ちょっとしたジョークやないか。ホンマにけん君初心なんやかrわかりました、わかりましたから」

 

もう一度やるべく近づこうとしたところで訂正したので今日はこれぐらいにしとくことにしよう。それにしてもそんなに苦手かな~。

 

「毎回毎回懲りないんだから」

 

「だってけん君おもろいんやもん」

 

「はぁ‥ベッドがある部屋ってどっちだっけ?車椅子押すよ」

 

「それぐらいいつもやってるからええよ」

 

「せっかく動ける奴がいるんだから使えって。今日ははやての誕生日なんだし」

 

「そぉか~?じゃお願いな」

 

車椅子を押して部屋に入った。

久しぶりに入ったはやての部屋は以前と変わらず机にベッド、本棚があるだけという質素なものだった。枕のいくつかが可愛らしい物だったが。

 

あとは机の方に鎖で縛られた変わった本とその鎖に括り付けられた金属製の腕輪のようなものがあるぐらい。

 

「はやて。前から思ってたんだけどあの本何?」

 

「ん?あぁあれな。私も分からんのよ。いつの間にかあったってことぐらいしか。」

 

「そっ。」

 

「ありがとぉ。あとはできるよってきゃ!?」

 

ベッド横に車椅子を付けたところではやては自分でベッドの方へ乗り移ろうとしたが俺はそれをしたから抱え込むようにして持ち上げた。まぁ俗にいうお姫様抱っこというものだ。

 

「ななななにするん、いきなり//////」

 

「暴れるなって。だからせっかく人がいるんだから使えって言ったじゃん。慣れてるといっても大変なんでしょ?」

 

「それでも心の準備というものが‥‥」

 

「いろいろ悩んでるとこごめんだけどもう降ろすよ、意外にきついし」

 

いくら筋トレで筋力が普通の子より少しばかりついたからと言って同じ体格の子を長時間も抱えてることはさすがに無理なのだ。

そう言ってベッドに降ろすとはやてが目を細めてジーッと見てきていた。

 

「な、なに?」

 

「抱えてもらって言うのもなんやけど女の子抱えてきついって言うのはレディに失礼やで」

 

「ご、ごめんって。はやてが重いわけじゃなくてむしろ軽いっていうか。だけど俺の体格じゃあちょっと無理があって」

 

あわあわと言いながら慌てて弁解するが、はやては俯き肩を震わす。

 

「ごめんって」

 

「‥‥‥‥ふふふ。冗談や、わかっとるそんなこと。ちょっとからかっただけや」

 

「‥‥‥‥はやてェ~」

 

思わず脱力する俺。昔から泣かれるのだけは苦手なのだ。どうやらまた一本取られたようだ。

 

「堪忍や。ありがとな、けん君♪」

 

「あ~うん、どういたしまして。じゃあ寝るね」

 

「うん、お休み」

 

お休みを言ってから俺は部屋から出ようとしはやてもベッド横の電灯を消して寝ようとした。

 

その時だった。急に部屋が何かの光で照らされているのを背中で感じた。なんだろうと思ってもう一度部屋を覗くと俺は驚愕した。

あの鎖で縛られていた本が異様なオーラを放ちながら紫色に発光していたのだ。

 

 

 

 

 

得体のしれないものが目覚めようとしていた。

 


 
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