No.453487

Angel Beats! ~if~ 第3話

東条優さん

AngelBeats!~if~第2話の続きです。

2012-07-15 18:26:51 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1970   閲覧ユーザー数:1953

 

「アオバさん、ご心配おかけしてすいません。」

ベットから上半身だけ起こした遊佐の頬は紅潮しており、眼も潤んでいた。口元からは吐息が漏れている。

下半身には白いシーツが掛けられている。

ここは保健室。窓は開け放たれ、清潔感溢れる白いカーテンが風で靡いている。棚には数種類の薬品と、絆創膏などの治療道具が置かれている。

 

保健室内には遊佐以外の人間の姿は無く、保険医は出払っているようだ。

保健室独自の消毒液の匂いが鼻孔を刺激する。

 

「気にするな。それより、遊佐が倒れたと聞いた時はびっくりしたぞ。」

先程まで、校長室で授業をサボっていた俺は慌てた様子で駆け込んできた日向の「遊佐が倒れた。」と言う言葉を聞いて、いても立ってもいられず、大急ぎで来たのは内緒だ。

 

「大丈夫なのか?」

俺はそう言って、熱を測ろうと何の気なしに遊佐のおでこに手を当てた。

 

「...あ。」

遊佐から声が漏れる。手のひらから伝わる温度は、やや熱い。若干、遊佐が俯き気味だが、きっと風邪がキツイのだろう。

 

「熱いな。ちょっと待ってろ。」

俺は遊佐のおでこから手を放し、プラスチックの桶に氷と水道水を入れ、そこに保健室に置いてあったタオルを入れる。

それを遊佐の枕元に持って行き、桶の中でタオルを絞り、その冷えたタオルを遊佐のおでこに載せてやる。

 

「...気持ちいいです。」

冷んやりとして、気持ちいいらしくどこか嬉しそうだ。桶をテーブルの上に移し、近くにあった丸椅子を音を立てないように遊佐の寝ているベットの隣りに持って行く。

その椅子に腰掛け、改めて遊佐を見た。出会った当初に抱いた儚げな印象はここ最近遊佐と話して大分変わっていた。彼女は自分の感情を表に出すことが苦手なようだ。というよりもその表情の変化を他人が読み取ることが難しいのかもしれない。

 

それはきっと彼女の性格、というよりも生前の記憶が影響しているのではないかと容易に推測できるのだが果たしてそれが何なのか知らない。知ろうと思えば知れるのかもしれないが、生憎、面と向かって遊佐に記憶を聞くような度胸を俺は今のところ持ち合わせていない。ましてや、俺自身の記憶さえ思い出せていないのだ。

詰まる所、俺は彼女の外側については知り得ているが、内面、遊佐の核に迫るところは何一つ知らないということである。

 

「どうしましたか?アオバさん。」

難しい顔をしていたのだろうか?遊佐が不思議そうにこちらを見つめてくる。

 

「いや、何でもない。そうだ、何か食べたいものはあるか?売店で買ってくるよ。」

気まずく成りかけた雰囲気を振り払おうと俺は席を立った。しかし、歩き出そうとした俺はその動きを止めることになる。

くいくいと俺の制服の裾を遊佐が引っ張っていたのだ。シーツから延びた、健康的な肌が視界に移る。

制服を引っ張る力は弱い者のその存在を感じるには十分なものだった。

 

「もう少し、いてくれませんか?」

ぽつりとつぶやかれた言葉が俺を椅子へと誘導した。とんと縫いとめられるように椅子に座る俺の姿を確認すると安心したように目を閉じた。やがて、数分後、すぅーすぅー、という寝息が聞こえてくる。

目の前に晒された寝顔はやはり儚い印象を抱かせる。すーと、無意識のうちに遊佐の頬を撫でていた。身じろぎするが起きるまでには至らない。

 

売店に今のうちに行こう。そう思い席を立つ。保健室を出る時、遊佐が寝返りをうった。

 

遊佐の風邪が治った頃、

「武器が不足しているわ。」

ゆりにそう言われ、ギルドに行くことになった俺たち戦線メンバーは体育館にいた。

 

「...見送りにきました。ギルドの最深部までは遠いですががんばってください。」

遊佐が言った。

 

俺は「あぁ。」といいギルドに入っていた。

 

 

 

 

そして時間は過ぎて、生き残っているのは俺とゆりと音無と椎名の4人のみ。

天使が来たため対天使用トラップが作動。

 

その結果、

ハンマーにぶっ飛ばされた野田。

鉄球に潰された高松。

レーザーに切り刻まれた松下五段。

落ちてきた天井に潰されたTK。

床が抜け,、落ちていった大山と日向(落とされた)。

溺死した藤巻。

散々な結果だった。それに今だに天使に出くわしていない。

 

「ちょっと止まって。」

ゆりが言う。

 

「どうした?」

俺が聞くと、

 

「天使よ。」

ゆりが指を指す。そこには天使がギルドの地下目指し進んでいる姿が。

 

「どうする?」

音無が聞く。するとゆりはしばらく考えて,

 

「誰か一人が囮になるのが得策ね。」

 

全員の間に沈黙が訪れる。

 

「...なら、俺が行くよ。」

俺はそう言い、ショットガンに弾を込める。

 

「そう、ならこれを。」

ゆりは自分のナイフを渡す。

 

「これは普通のナイフより強度があるから天使のハンドソニックにも打ち負けないわ。それじゃぁ健闘を祈る。」

ゆりは手榴弾を投げ爆発を起こす。その土煙に紛れてゆりたちは先へ進んでいった。

 

残された俺は天使と向かいあう。天使と1対1は初めてだな。

 

俺はショットガンを天使の脚目掛けて撃つ。

見事に足に当たり膝をつく天使。だが...

 

「ガードスキル、distortion。」

天使の傷がみるみるふさがっていく。

 

そんなのありかよ!!俺は数発撃つが全弾弾かれる。

 

「handsonic。」

天使が白刃を右手に出現させる。

 

俺は自分のナイフを取り出し突っ込む。

それを天使が紙一重で避ける。

 

2、3度ナイフと白刃やぶつかる。その度に火花と数字が舞った。

 

俺は蹴りを天使の右手に食らわせ、少し隙が出来たところをナイフで刺しにいくが、

 

「ガードスキル、delay。」

完全に直撃だった筈なのに天使の姿が無かった。一瞬何が起こったか分からなくなるが後ろから殺気を感じ、咄嗟にしゃがむ。上空では天使の刃が掠ったため、髪が数本宙を待っている。

 

一瞬で俺の背後に回り込んだ天使が再び白刃を振るう。俺は手にしていたゆりのナイフをぐっと握ったところで、

グサッ...

俺の左胸に天使の白刃が突き刺さる。激痛が走る。

 

だが俺は、

「やっと...捕まえた...。」

左手で天使の腕を掴み、白刃が抜けないようにする。

右手のナイフを握る力をいっそう強めて天使の首に刺した。

 

鮮血が舞い、ギルドの土壁を紅に染め上げていく。それと同時、俺の意識も薄れていく。

それは天使も同じようで2人一緒に地面に倒れた。

最後に誰かが天使に駆け寄って行くのが見えた。

 

 

 

『馬鹿共、お目覚め?ギルドを破棄,天使ごと爆破したわ。総員につぐ、至急オールドギルドへ。武器の補充はそこで急ピッチで行われてる。天使が復活する前に総員、オールドギルドへ。繰り返す。急げ、馬鹿共。』

スピーカーから響くゆりの声で目を覚ます。

俺は自分の左胸に手をあて傷が治っているのを確認してほっとする。

 

よしじゃぁ行くか。オールドギルドへ。

ってオールドギルドってどこ?

 

俺はこの後数時間ギルドをさまようのであった。

 

 

「明日は、学園祭ね。」

ゆりは窓から運動場で学園祭の準備をしている一般生徒達を見ながら行った。生徒会長の天使を始め、副会長や大仁田らNPCの面々がテントを張っている。

 

「ゆりっぺ、参加するのか?」

日向が言った。

 

「えぇ、参加するわ。ただし乱入と言う形でね。」

 

「乱入?」

俺は思わず言ってしまった。良い印象はこれっぽちもないが。

 

「そうよ。学園祭は生徒により出し物や出店をだせるの。それはあらかじめ生徒会に報告しておかないといけない。なぜなら売り上げで順番を出すためよ。」

 

ゆりはこちらを振り返って、

「私達は学園祭当日に乱入し、天使の出し物や出店を妨害さらに緊急で出し物や出店を行う。天使の売り上げを最下位に突き落とし、我々の売り上げを一番にするのよ。」

ビシッと人差し指で、俺達を指す。

 

「それに何の意味がある?」

俺は聞いた。

 

「私達の日ごろのストレス発散の場を設ける。ただそれだけよ。」

ゆりはそう言った。嘘だな。他にも何か企んでやがる。

 

「それじゃぁ、各自チームを組んでどんな出店や出し物についてやるか考えておいて。あと一番売り上げの少なかったチームには死よりも恐ろしい罰ゲームね。」

その言葉に意外とみんなのリアクションはなかった。

 

 

 

 

「俺は誰と組もうか。」

自販機の前でkeyコーヒーを買いながら言った。

 

「ワイと組まへんか?」

いつの間にか隣にいた鶴野に声を掛けられた。

ってお前かよ。お前のことだから女と組むと思ったぜ。

 

「ワイだって男なんかより女と組みたかったわ。だけどなぁガルデモと遊佐ちゃんは何時の間にか組んでるし、ゆりっぺは別の作戦があるとかで駄目だし、椎名ちゃんはどこおるか分からん。」

鶴野がぶつぶつと言う。

 

「とりあえず、もう一人探そうか?」

 

「異議なしや。」

と言うわけでもう一人を探すことになった。

 

「まずは松下五段を仲間に加えよう。」

俺の提案で松下五段を誘いに食堂に行った。温厚でしっかり者、仲間からの信頼は厚く、そして体格もガッチリしているので是非とも協力して欲しい。

 

食堂には松下五段が肉うどんを食べる姿が。その席の周りは高松や野田などの姿があり、松下五段は懐柔されたようだ。

「先を越されたか。」

俺たちは松下五段をあきらめることにした。

 

 

 

校舎の周りをぶらついていると、ストリートライブをしている少女がいた。

八重歯が特徴的な子である。その少女は可愛らしい外見とは裏腹に手錠や悪魔の尻尾のようなパンクなアクセサリーを身に着けている。

 

なかなかの腕前のようだ。曲はガルデモのようで、拙いながらも迫力がある演奏だった。

 

その少女がこちらを振り向く。

「凄く上手かった。」

そう言うとその少女は少し照れて、

「ありがとう。」

そういった。

 

今気づいたのだがこの子も戦線のメンバーの格好をしている。

「なぁ君...。」

 

「君じゃないよ。ユイって名前があるんだよ。」

ユイはそう言ってギターをベンチの上に乗せる。

 

「俺の名前は小田桐アオバだ。よろしくなユイ。」

「ワイは鶴野鉄平や。」

 

「よろしくお願いします。先輩。」

ペコリと頭を下げる。

 

「ユイは誰かと学園祭の出し物を何にするか決めてるのか?」

俺が質問すると、ユイは首を振り,

「まだ決まってないよ。」

と言った。

 

「なら俺たちと組まないか。お前の力が必要なんだ。」

「別にいいけど。」

こうして俺と鶴野とユイは一緒にチームを組むことになった。

 

「取り敢えず、ユイのライブをやるとして、マイクとか機材とか必要だろ?放送室とか軽音部から盗ってこないとな。」

「あ、先輩。その必要はないと思います。ガルデモのライブが体育館でありますから、そっちは使えませんが、グラウンドにも小さい特設ステージを作るって学園祭の実行委員の皆さんが言っていました。そこにも一通りの機材は準備されると思いますよ。」

 

「なら、いいか。じゃあ今日は解散。」

 

 

 

学園祭当日...

 

「ついに始まったわね。」

ゆりが校長室の窓から運動場を見下ろして言う。その手には双眼鏡が握られている。

 

「みんなはちゃんとやってるかしら。」

 

 

 

 

 

運動場には既に沢山の生徒たちで溢れかえっていた。

たこ焼き、焼き鳥、ヨーヨー、金魚すくいなどの出店が並ぶ中、一際客が一際集まっている店があった。

高松・松下五段・野田の3人による焼きそば店だ。

 

何故人がそこまで集まっているかというと...

 

スパスパスパ...

野田が見事なハルバード捌きで空中に投げた野菜を切り刻んでいるのだ。それを松下五段が調理(3割摘み食い)している。高松は何故か、上半身裸でレジを担当していた。

一方、その隣には黒色のテントが張られていた。中を覗くと、大量のぬいぐるみが棚に並べられていた。その中に気絶している大山君が紛れ込んでいるが誰も突っ込まない。

そして、今日も無口な椎名は黙々と稼ぐのだった。

 

そのころ俺たちは、特設ライブ会場にいた。グラウンドの一角を貸し切っており、そこには即席の舞台が出来上がっていた。

放送室や軽音部から提供された音響設備、照明らが配置されている。

舞台の前には、縦5×横10にパイプ椅子が並べられており、生徒の姿もちらほら見える。

「いいか、ガルデモの後からユイが演奏しても多分人は集まらねぇ。だから早いうちにやるぞ。」

 

もちろん俺たちは生徒会には参加することを伝えてないので、ゲリラライブという形になる。

「ユイ、頼んだぞ。」

俺は本来、次に演奏する予定の生徒達が準備しているうちに行くようにユイに促す。

 

「任してくださいっ!!」

ユイが緊張した足取りでステージへ上がる。鶴野がスポットライトをユイに当てる。

観客がざわめく。

 

ユイが軽く自己紹介して歌いだす。

曲は確か、『My Soul,Your Beats!』だ。

 

思ったよりも観客が集まってきた。好評なのかもしれない。

そして歌い終わりマイクパフォーマンスへ移る。

 

「イェーイ!!皆,今日は来てくれてありがとーっう!!」

回転しながら勢い良くマイクスタンドを蹴り上げると、ケーブルが足に引っかかり、

「ぐへっ!!」

後ろの壁に顔面からぶつかった。俺は急いでユイを回収しステージから降りた。

 

 

 

体育館では、

「じゃぁ始めようか。」

岩沢の声と共にガルデモメンバーが所定の位置に着く。

そしてメインのゲリラライブが始まった。

 

「ガルデモだ!!こうしちゃいられない。」

ユイはそう言うと体育館へ走っていった。

俺も遊佐との約束を守るため体育館へ向かった。

 

 

 

 

「遊佐、待った?」

観客席の後ろに立っていた遊佐に声を掛けた。

 

「...少しだけ。」

遊佐が少し俯き言った。

 

「ごめん。これで許して。」

俺はそう言って、さっき買ってきたわたがしを渡す。

 

「もしかして甘いもの嫌いだった?」

 

「いえ、むしろ好きなほうです。ありがとうございます。」

遊佐はわたあめを受け取り千切って食べる。

 

「...甘くて美味しいです。」

そう言うと遊佐はもう一度わたあめを千切り、俺の口元に寄せてくる。

 

「へっ?」

 

「あ~んしてください。」

これは世の男性なら喜ぶであろう展開。

だが俺は素直に喜べない。いつもの遊佐らしくない。

 

これはドッキリか。ドッキリなのか。ドッキリ成功の札はどこにある?

周りを見渡すが怪しいところは無い。

 

「あ~んです。アオバさん。」

もっと近づけてくる遊佐。遊佐の白い指に体温でほんのり溶けた綿菓子が付着してキラキラと輝いている。

 

「あ、あ~ん...。」

口を開け、わたあめを食べさせてもらう。甘い。

 

「おいしいですか?」

「うまい。」

「...良かったです。」

遊佐はそう言いライブを見始める。

俺もガルデモのライブを見ることにした。いつもなら天使が止めに来るのだが今回はどういうわけか来ていなかった。

 

 

 

 

 

そのころゆりは、職員室に忍び込んでいた。

「誰もいないわね。」

ゆりは奥の席に行き、そこにあった紙袋の中身を確認すると、それを持ち出して職員室を後にした。

 

 

 

 

 

結局天使はライブに来ることは無かった。

その後、遊佐と一通り学園祭を回って、途中から関根と入江も加わって回った。

 

最後に後夜祭のイベントとして行われる花火大会に戦線メンバー総出で乱入。ギルドのリーダー、チャーさんお手製の花火玉を半ば無理矢理、夜空に放ち、学園祭の幕を閉じた。

 

後日談だがこの作戦の目的は先生に没収されたものを奪還するためだったらしい。

あと大山がなぜかうつ状態になっていた。

 

 

 

 

 
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