「さて、どうやってあのオッサンを懲らしめるんだ?」
と、凛音に話しかけたのだが・・・アイツは、俺の方を見ていなかった。ただ、窓の外を凝視している。そして、その表情が恐ろしい程に真剣で、焦っている事に驚きを隠せなかった。俺は、彼女のそんな表情を見たことが無かった。彼女が本気になったら、どんな障害も障害たり得ず、ダンボールか発泡スチロールのように破壊されていくだけだったのだ。その彼女が、こうして焦りを顔に出しているなんて、信じられなかった。
「どうしたんだ凛音!?」
「・・・・・・逃げよう。」
「・・・は?」
凛音の言った言葉を俺は理解出来なかった。逃げる?そう言ったのか?コイツが?
「早く!!」
そう言って、凛音が視認するのも難しい速度で俺とロリっ子を抱きかかえた瞬間、それは起きた。
ボッ!!!ガガガガガ!!
窓ガラスが、吹き飛んだのだ。赤いナニカが複数飛んできたところまでは見えたが、何が飛んできたのかまでは分からない。その攻撃で、美しかったロリっ子の部屋は廃墟同然になってしまう。一体どれ位の損害が出たのかは考えたくないな、明らかに俺たちが壊した物より高価な物が沢山あったし。
「チッ・・・!こんな使い手がいるなら私達いらなかったんじゃないの?」
俺とロリっ子を地面に下ろした凛音が、苦々しそうに呟く。その視線は、破壊された窓から入ってきた男に向けられていた。
「おいおい、ここ5階だぞ?」
どうやって入ってきたのかは考えたくない。普通にジャンプして入ってきたのかもしれないし、ここより上の階から飛び降りたのかもしれない。だが、ハッキリしているのは、コイツが友好的ではないことと、凛音が警戒するほどのトンデモナイレベルの力を持っているということだ。
「悪いな、異界からの勇者よ。君たちに恨みは無いが、俺にも大切な者がいてね。そいつを救う為に、君たちを殺さなくてはならない。」
その男は、一言で言えば美男子だった。真っ赤に逆立った髪に、これまた真っ赤なコートのような服を着ている。体は細いが筋肉は鍛えられており、細マッチョだ。なにより、一番目を引くのは爛々と光を発する真っ赤な瞳。見事なまでに赤い男だった。
「槍の
バラン名乗った男が右手を突き出すと、其処に赤い光の粒子が集まった。それが、一秒もしないで、一つの物体を生み出した。
「俺の筆だ。名前は
出現したのは、長さ1メートル程もある巨大な筆。重そうなそれを、彼は軽々と振り回す。
(あれになんの意味があるんだ!?)
どう見ても、巨大なだけの筆だ。確かに、持ち手の部分で殴られたらそれなりに痛いだろうが、先程までの兵士達が持っていた槍や剣に比べればなんということはない。・・・そのはずなのに
(何だこの圧迫感は!?)
俺の本能が、奴は危険だと叫んでいた。今まで凛音と一緒に行動してきて何度も経験した悪寒。死の恐怖。あの男から発せられる殺気は、尋常なレベルじゃ無かった。
「せめて痛みを感じないで死んでくれ。―――
男の持つ筆の毛先が、真っ赤に染まっていく。
それを見た瞬間ドクンと心臓が高鳴った。
―――アレはマズイ―――
(そうだ、アレはマズイ)
世界がスローになっていく。
―――防げるか?―――
(無理に決まってるだろ・・・)
とうとう、毛先が完全に朱に染まった。
―――本当か?―――
(当たり前だろ。俺は、唯の凡人なんだぞ)
奴が筆を動かすと、それに合わせて赤い物質が空中に生まれる。
―――本当にそれでいいのか?―――
(何がだよ・・・?)
それは、真紅の槍であった。一本、二本、三本・・・次々に具現化する。
―――お前は、ただただ凛音の後を付いていくだけでいいのかって聞いているんだよ!―――
(それは・・・)
「では・・・死んでくれ。」
俺の視線の先には、体を震わせるロリっ子と・・・唇を噛む凛音の姿。
―――このままだと皆死ぬぞ?あの槍に串刺しにされて、無残な姿になった凛音を見たいのか?―――
「発射。」
大量に展開された槍が、恐ろしい速度で発射された。俺は、呆然とそれを見つめ・・・
「良い訳ねぇだろーーーー!!!」
叫んだ瞬間、両手に力が宿るのが分かった。自分の中から出てきた、暖かいナニカが自分を包み込むのが分かる。その力に背中を押されるように、俺は超人的な速度を出して凛音達の前に飛び出す事に成功した。
「え・・・?」
後ろで凛音の声が聞こえたが、何かを言う余裕は無い。俺は飛んでくる無数の槍を迎撃しようとして・・・そこで、意識が暗転した。
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口癖は「飽きた。」熱しやすく飽きやすい幼馴染と俺が、異世界に勇者として召喚された。・・・俺はオマケだったらしいが。・・・だけどさぁ、この『残念美人』を制御出来ると思ってる訳?最悪の場合、コイツに色々されて世界滅ぶんじゃないの?しょうがない、俺が手綱を握ってやるかね。