~聖side~
「…んっ…んん…うん!??」
目が覚めると、見たことも無い天井が目に映る。
辺りを見渡すが、見覚えの無い部屋…どうも、どこかの屋敷にいるらしい。
体には包帯が巻かれ、傷の手当がされてあった。服は着替えさせられていて、中華っぽい服を着ている。
この家の主は、俺を助けた上で寝台で寝かせてくれたのだろう。
「核○は…あった、机の上に並べてあるな…。」
パタパタパタ。
すると、扉の付近で足音が聞こえ、誰かが近付いてきてるのが分かる。
キィッ…。
「あらっ?? お気づきになりましたか??」
「はいっ、おかげさまで…。」
「お気づきになられた様でよかったですわ。」
「わざわざ、ありがとうございます。 ここは…あなたの屋敷ですか??」
「そうですわ…とは言え、今はこの屋敷は塾になってますの…。」
「そうですか、塾に…。 俺を助けてくれたのはあなたですか?」
「私はここに運んだだけ。見つけたのは、私の塾生の一人ですわ。」
「そうですか…とりあえず助けてくれてありがとうございます。」
「礼ならあの子に言ってあげてください。あなたが目覚めるまでの二日間、体に包帯を巻いたり、服を着替えさせたりと、色々やってくれたのはあの子で…私は、ほとんど何もしてないのですから。」
「二日も…。それは色々と助けられました。 …その子の名前は…??」
「彼女の名は孫乾。会ったらその時に礼を言ってあげてください。」
「孫乾!! …すいませんが、あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「私ですか?? 私は司馬徽、字は徳操、号は水鏡です。」
「水鏡!! ってことはここは…水鏡塾!!?」
「あらっ!?ご存知なんですの?? こんな小さな私塾ですのに…。」
「あぁ…実はその…。 なんと言いますか…。」
「なにか言いづらいことでも??」
「はい、まぁ少し…。」
「そう、お若いのに大変ね。え~っと…。」
「あっ、すいません。俺は徳種聖です。字はありません。」
「徳種…変わった名前ですのね。もしかして、天の御使いさん??」
「そう呼ばれてることもありますが、どうしてそれを…。」
「見慣れない服、見慣れない持ち物、そして聞きなれない名前。 そこから、もしかしたらと思ったのです。そうですか、御使いさんですか。一度で良いのでお会いしたく思っていました。」
「何故…俺に…??」
「あなた様の噂はかねがね…。なんでも、県令としてとても実績高く、街づくりに税制に工業に何でも手広く行えたとか。それに、その徳高き心と理想は、皆に希望を与え、人々がその後ろを着いて行きたくなるとか…。」
「そんな大それ『ぐぎゅるぅぅぅ~~』…。」
「あらあら、クスクスッ。そういえば二日も寝たきりでしたね。何か食べるものを用意しますわね。」
「あっ、でもまだ話が…。」
「話は食事が終わった後でも出来ますでしょ?? 私は教室の方に居ますから、後でお伺いください。」
「…分かりました。すいません、食事までご馳走になって。」
「良いのですよ。ここはそういうところですから…。食事は直ぐに持って来させますわね。」
そう言って、水鏡先生は部屋を後にした。
「水鏡先生…。諸葛亮や龐統、そして橙里を見出し、推挙した人物…。そんな偉大な人に俺は出会ったんだな。」
水鏡先生に全てを聞いてもらいたい…。先生ならこんなときどう考え、どう臨むのか教えてもらいたい…。この押しつぶされそうな不安を、人に聞いてもらうことで楽になりたい…。
そんな自分のエゴだが、水鏡先生は、そんなエゴまでも包み込んでくれそうな、そんな雰囲気があった…。
機会があったら…聞いて欲しいな…。
ギィ!!
「んっ!?」
ふと、音がした扉の方を見ると、女の子が部屋の中を伺っている。
「…どうしたの??」
「っ!!…あっ…あの…その…あうぁぅ~。」
見ると、皿を持っている。食事を運んできてくれたのだろう。
「もしかして、水鏡先生に頼まれて、食事を持ってきてくれたのかな??」
「は…はいっ…。」
「ありがとう。良いよ、遠慮せずに入ってきて。」
少女は、おずおずとした感じで部屋の中に入ってきた。
背は低く、見た目は中学生くらいかな…。おとなしそうで、栗色のセミロングな髪とオレンジの帽子、そしてオレンジのコートが特徴的な子だった(何故この時代にコートがあるのか不思議だが…。)
少女は食事を机の上に並べ始める。
テキパキと仕事をこなしてるところを見ると、役人として働けそうな、そんな雰囲気が醸し出されている。
少女は一息つくと、大きく息を吸い込んで。
「あの…食事の用意が…出来ましたので…その…お召し上がりくだしゃい!!」
あっ…噛んだ…。
当の本人は、噛んだ事に酷く動揺して、顔を真っ赤にして俯いている。舌かんで痛そうだな…。
「準備ありがとう。なにをそんなに緊張しているのか分からないけど、もっと肩の力を抜かないと大変だよ?」
「ひゃい…。」
「後、もっと普通に喋って欲しいな。」
「そんな…私みたいな人が…天の御使い様に…そのようなこと…。」
「天の御使いねぇ…。 じゃあ、御使いからの命令で、普通に話すように命じる。これで良いかな??」
「…変わった…人ですね…。」
「はははっ、そうかもね。そういえば自己紹介してなかったね。俺の名前は徳種聖。呼びたいように呼んでね。」
「はい…。 私は…名は孫乾、字は公祐…です…。」
「君が孫乾か…。 助けてくれてありがとう。恩に着るよ。」
「そんな…!! 偶然川の傍を…歩いていたら…その…人が倒れていたから…。」
「偶然でも何でも、俺は、君が見つけてくれなかったら死んでたかもしれないんだ。だから、ありがとう。孫乾ちゃん。」
「そんな…勿体無き…お言葉です…あうぁぅ…。」
さっきから思ってたが、あうぁぅって口癖なのかな~…。と心で思いつつ口には出さない。
個性だ!! 萌えるじゃないか!!
俺は、俯いてる孫乾を見ながら、用意された雑炊みたいなものを食べる。
「…っ!!」
「あの…いかがですか??」
「…これ君が作ったの??」
「…はい…。」
「すっごく美味しい!! 失礼な話、こんなに美味しいなんて思わなかった!!」
「良かった…お口にあったようで…。」
「孫乾ちゃんは料理が上手いんだね…。良いお嫁さんに為れるよ!!」
「おっ…お嫁さん?! …あうぁぅ…。」
真っ赤になって俯いてしまった。良いねぇ、可愛いね~…。
俺は雑炊を食べきると、孫乾ちゃんと一緒に教室に移動する。
教室は一つしかないらしく、そこでは現在5人の子供が授業を受けてると孫乾ちゃんから聞いた。
「あらっ、お食事は済みましたか??」
「はいっ、ご馳走になりました。」
「ほらっ、皆さんもお客様にご挨拶なさい。」
「「「「「こんにちは!!」」」」」
「こっ…こんにちは。」
授業を受けている子供たちは、皆中学生ぐらいの子供たち。
まったく、中学生は最高だぜ!! …はっ!! 俺は決してロリコンでは…ない…と思う…。
「皆さん。 この方は、かの有名な天の御使いさんです。」
「「「えぇ~~~!!!!」」」
「あの有名な天の御使いさん!?」
「管輅さんの卜の!?」
「あのあの!! 先生、質問よろしいですか!?」
「はいはい、皆さん静かに…。よろしいですか??」
「助けてくれたお礼代わりに、答えれる範囲なら答えます。」
「「「はいはい!!」」」
「皆、順番を守りなさいね。じゃあ、まずあなたからね。」
「ありがとうございます!! 私は簡擁と申します。天の御使い『徳種聖…。』へっ…??」
「俺の名前は徳種聖だよ。だから、天の御使いじゃなくてこっちで呼んで欲しいんだ、簡擁ちゃん。」
「そっ…そんな、天の御使いさんに畏れ多い…。」
「じゃあ、これは命令だ。俺を名前で呼ぶこと。良いね?」
「…分かりました。」
「よろしい。皆も同様にね。」
「ごほん、では、改めて…徳種さん。 天の国と言うのは、どういったところなのでしょうか?」
「う~ん。なんていったら良いのかな…。 まぁ、天の国…俺の居た国でも、ここと同じように人が生活してるよ。ただ、技術的にはもっと発展してるけどね…。」
「具体的にどんなものが発展してるのでしょうか?」
「う~ん…。 まぁ、まずエネルギーが違うかな…。」
「えねるぎー???」
「あぁ、燃料のこと。 ここでは、灯りは油を使用するけど、俺の居た国では、油とか無しで明るく照らすことが出来るんだ。」
「しかして、それは一体…。」
「もぉ~!!! 簡擁ちゃん質問しすぎ~~~!!! 次は私のば~ん~~~!!!」
「わわわっ!!!分かったわよ。 分かったから揺するのやめて~~~~!!!!」
「へへっ、やったぁ~!! じゃあ、次は私で良いよね、先生?」
「えぇ、どうぞ。」
「じゃあ、徳種さん。 私は馬謖、よろしくね♪ 質問なんだけど、どうやって天の国からこの国にやってきたの??」
「う~ん…。俺も実は良く分かってないんだ。 たまたま、俺のいた国で空を見ていたら、やけに明るい星があって、それを見ているうちに気が遠くなって…。気付いたら広陵の近くの荒野で倒れてたんだ。」
「星…。やっぱり、流星に乗ってやってきたのね…。じゃあ、その流星は一体どこに…。そもそも流星は墜ちたのかしら…。墜ちたのならもっと騒ぎになっても……。」
「あ~ぁ…馬謖ちゃんがいつもの思考の渦に飲まれてしまいましたね…。次は私ってことで良ろしいですか?」
「どうぞ。」
「ありがとうございます。私は馬良。以後お見知りおきを…。 質問なのですが、徳種様は広陵の地で県令をなされていたとか…。では何故、今このような地に居るのでしょうか??」
「県令に関しては、俺の部下に委任されてるよ。だから、あの町は大丈夫。 俺は今後、あの町をより良くしていきたい。その為に俺は、色んな町の様子を見て参考にしようと思った。だから今は、こうして旅をしているって所かな。」
「為る程…。」
「…。(スッ)」
「次は…伊籍ちゃん。何か質問ある??」
「…。(コクッ)…質問しても良い??」
「良いよ。」
「…ありがとう。 …私は伊籍。 …徳種さんの理想って…何??」
「理想は、『和を以って貴しと為す』 皆が平等に、手に手をとって歩んでいく。力を合わせて生き抜いていく。俺はこの国をそんな国にしたい。」
「…良い理想だと思う。」
「では…一つ…私も聞いても…良いですか?」
「どうぞ、孫乾ちゃん。」
「…噂を…聞いたのですが…。 天の御使いは…その…助けを乞うた人も、武器を持たぬ人も、構わず…みっ…皆殺しにした…とか…。 その数は千人強…。 その噂は…本当なのですか?」
瞬間、その場の雰囲気が変わる。
妙に張り詰めた息苦しい場…。俺の顔も引きつっていただろうな…。
「…。」
「あっ、私は…話しにくいことを…聞いてしまったのでしょうか…。 あうぁぅ…。」
「…いやっ、俺が迷ってたんだ…。 …うっ!!」
俺は少しふらついてしまう。
「あっ!! 病人に長いこと話しをさせてしまいましたね…。 皆、今日はここまで。 また明日にでも続きをしましょうか。」
「「「「「はい、先生。」」」」」
「では、御使いさん。お部屋に戻りましょうか…。付いて来てください。」
水鏡先生の後について、部屋へと戻る。
「本日はありがとうございました。色々と質問の答えをいただいて…。あの子達にも良い勉強になったと思います。」
「お役にたてたなら良かったです。 ただ、あんな形で終わることになってしまってすいません。」
「いいえ、大丈夫です。また明日にでも続きをしてくだされば…。泊まるところは無いのでしょう?」
「はい、実は…。」
「では、しばらくはここに泊まって療養なさると良いでしょう。ただし、これだけは覚えておいてくださいね。」
「はい?? なんでしょうか??」
「ここは、水鏡女学院塾。 女の子しかいませんから、くれぐれも襲わないようにお願いしますよ♪」
「ちょ…!!?」
「あっ、でも同意の上なら別に構いませんよ?」
「……しませんよ…。」
「ふふふっ、ならば良いのですが♪ では、後であなたの世話係をよこしますね。そのお体だと大変でしょう。」
「重ね重ね、ありがとうございます。」
「ごゆっくり…。」
水鏡先生は部屋を出て行った。
寝台に横たわりながら、白い天井をおぼろげに見つめる。
「俺は…孫乾ちゃんの最後の質問に…答えれるのだろうか…。」
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どうも、作者のkikkomanです。
第五話の投稿となります。
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