「少し、落ち着いた?」
「うん。ごめんね、急に取り乱して」
「大丈夫、だから謝らないで。なのはは何も悪いことなんてしてないから」
「……優しいね。リリスちゃんは」
(それは……貴女の方でしょ?)
口には出さなかったが心の中でそう思った。
「それで、せっかく落ち着いたのに悪いのだけど……」
「あの時のこと……だよね? クロノ君からも出来れば説明してあげてくれって言われてるよ」
「焦ってるわけじゃない……辛いなら話さなくても大丈夫だから」
「うん、でも大丈夫。たくさん泣いてすっきりしたし、それにリリスちゃんに抱きしめてもらえたから」
「えっ!? あっ、それは、その」
私は以前なのはにしたように確かに抱きしめた。
不安が少しでも和らいだらいいなと思って。
確かにしたんだけど――
(何でそんなに本人の前で堂々と、しかも不意打ちぎみに言えるの!?)
私は本来こんなことしない。
だから一言で言うなら、恥ずかしいのだ。
今も前と同じで顔がすごく赤くなってるのがわかる。
「にゃはは! リリスちゃん、顔が赤いよ?」
「なのは……狙って言ってる?」
普通なら彼女はこんなからかうような言い方はしない。
だからわざとそんな言い方をしてるとしか思えない。
「うん、そうだよ。ごめんね、こんな言い方して。でもこれでわかってくれた?」
「こんな風にからかうことができるぐらい元気になったっていいたいんでしょ? わかってるけど私のことも考えて気をつけて」
「うん、気をつけるね。でも、さっき私が言ったことは全部嘘じゃないから。それだけはわかってもらえると嬉しいな」
そう話した時のなのははとても綺麗な笑顔だった。
(……うん、きっとこれはなのはの性格なんだ。だからたった今、気をつけてと言ったのにも関わらずこんなことを言えるんだ。だったらしょうがない、私が我慢しないと。そう、私が我慢……もしくは慣れればいいんだ)
自分でもはっきりとわかるぐらい私は慌てていた。
「リリスちゃん、どうしたの? あ、あれっ、私なにか変なこと言ったかな?」
(なのはのせいでしょ!)
なんて本人に自覚がないのなら言えるはずもなく――
「いや、なんでもない。心配しないで……」
そう答えるのが精一杯だった。
「そうなの? でも……」
「大丈夫だから。気にしないで」
むしろ今は放っておいてもらえるぐらいの方が助かる、というのが本音だった。
「うん、わかった。でも何かあったら言ってね。リリスちゃんは大切な人だから!」
「……大切な、人?」
「あっ、えっと。その大切な人っていうのは、大切な友達って意味で!」
なのは……わかってる。
つい言い間違えたってことぐらい。
でも、なのはもわかるでしょ?
自分が言った言葉でそんなに赤くなっているなら――
「なのは……もう、許して」
言われた私はどんな状態になるか……
「リリスちゃん!? し、しっかりして~!」
恥ずかしさが限界に到達してしまったあまり布団に潜り込んでしまった私に返事を返す気力などあるはずもなかった……
「もう、大丈夫だから。なのは、そんな落ち込まないで」
「で、でも~」
あれから30分程たった。
その間、悪いとは思ったけどなのはに少し席をはずしてもらっていた。
理由は一つ、心の整理をする時間がほしかったから。
そうしてとりあえず落ち着けた頃になのははまた来てくれたのだけれど、最初に来てくれたときとは別の理由で落ち込んでしまっていた。
だから私がまた慰めている、今はそんな状況だった。
「私がいいって言ってるんだから、気にしないで」
「だけど、私がおかしなことを言ったから、リリスちゃんが……」
それは、違う。
なのはが言ったことは私にとって恥ずかしかったことだけど、おかしかったわけじゃない。
(なんて本人に言っても、多分納得しないだろうな。でも……仕方ないかな?)
優しすぎる、それがなのはの性格なのだから。
でも落ち込まれたままにするわけにもいかない。
(どうしようかな……?)
その時、ふと一つのことを思い出した。
(……試してみよう)
私はおもむろになのはの頭の上に手を伸ばし優しく撫で始めた。
「ふぇ! リリスちゃん!?」
なのはと出会った頃、私は最初落ち込むことが多かった。
それまでと全く違った環境になったことで、色々とついていけないことが多かったのだった。
そんな時、なのはは決まってこうしてくれた。
そして次にこう言ってくれたのだ。
「元気を出して、大丈夫だから」
……自分でも単純だったと思うけど、当時の私はたったそれだけで充分だった。
不思議と元気を取り戻すことができていた。
だから、私は真似をしてみた。
今度は私が少しでも、なのはを元気付けられるように。
「前は……私がよくこうやってたね」
「うん……私はよくこうしてもらってた。それで立ち直ってた」
「でもこれって、確かに元気になるけど少し恥ずかしいね」
「そう? 私はそうでもなかったけど」
恥ずかしがりやな方の私が、頭を撫でられても恥ずかしいと感じたことはなかった。
むしろずっとしててほしいなんて思ったことだってあるぐらいだ。
……なんだか不思議なもんだと思う。
そしてどれだけ時間がたっただろう。
不意になのはが話しかけてきた。
「えーと、リリスちゃん。 これっていつまでやるの?」
「もしかして、嫌?」
「嫌じゃないよ。で、でも……」
なのはの顔が少し赤くなってることに気づいた。
……ふと私の中に少しのイタズラ心が芽生えた瞬間だった。
「じゃあ、このまま撫でても大丈夫でしょ?」
「えっ、えっと……」
「それともやっぱりやめてほしい?」
「そんなことないよ!」
「じゃあ、このまま続けるから」
「う、うん」
こんな会話を何回か続けた頃、さすがになのはにも限界がきたことに気づいた。
なにせ顔がさっきの私ぐらいまで赤くなってきてるし、だんだんと喋り方もおかしくなってきてる。
(ここら辺で、もういいかな?)
これ以上やりすぎると、なんだかいけない気もしてきた私はそろそろ許してあげることにした。
「ねぇ、なのは。私が今やってることを覚えてたなら……“もう大丈夫?” この言葉も覚えてる?」
悩むそぶりも全くせず、目の前に少女は答えた。
「覚えてるよ、リリスちゃん。だから私はこう言うね。“もう大丈夫だよ”」
その言葉を聞いた私は、撫で続けていた手を離した。
「さっきも言ったけどただ撫でてもらってただけなのに、こんなに元気になったり落ち着いたりするものなんだね」
「これを最初にしたのはなのはなのに、わかってなかったの?」
「だって私はしてあげることしか無かったもん。してもらわないと効果がどれほどあるかわからないもんだよ」
「そう……じゃあ何かあったらまた私がしてあげる」
「にゃはは。じゃあ、お願いするね」
「わかった」
とは言ったものの、今回みたいに些細なことでまた毎回落ち込まれたりしないでほしい、というのも私の思いなのだけれど――
(まぁ、しょうながないかな……)
強い心を持っているが、優しすぎるがゆえに実はちょっとしたことで悩んでしまうことがある。特に私の前では。
なら仕方ないと思うことにする。
何故ならそういうところも全部含め、なのはという少女の性格なのだから。
だからそんな少女の弱さも受け入れてあげるべきなんだと私は思う。
ふと時間を見ると、意外と話し込んでいたことがわかった。
なんとなく眠気も出てきた気がする。
その証拠にみっともないから我慢はしたが欠伸をしそうになった。
「リリスちゃん、ちょっと眠そうだね。少し休んだほうがいいよ」
(……我慢はしたし眠そうな素振りを見せたつもりは無いのに)
全くこういうことには鋭いんだなと、改めて認識した。
「うん……少し、休む」
とりあえずお言葉に甘えることにした。
不思議なもので、眠いと一度感じたらどんどん眠くなってきた。
これならすぐに眠れそうだ。
「お休み、リリスちゃん」
「お休み、なのは……」
程なくして私は眠りについたが。
自分の頭に確かな温もりを感じながら……
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第十九話です。ずっとほのぼのぎみです。