最初に断っておく。
この聖杯戦争において勝者はただの一人も存在しない。
「聖杯戦争――それは六十年おきに繰り返される七人のマスターと七人のサーヴァントの殺し合いである」
彼女たちは屋敷を出る前に先代に手渡された手紙の一文を思わず口に出して読んでいた。
「意味が分かりますか?姉さん」
「勿論あなたよりはね」
ふふ。
彼女たちはお互いを見て笑った。
傍から見ている人間にはさぞ不思議な光景に見えることであろう。
彼女たちは笑いながらお互いを貶しあっているのだ。
もっともフィンランドのこの街に住む人間にとっては日常茶飯事の光景であり、誰も気にする人間など存在しないのだが。
『エーデルフェルトの双子姉妹』
仇名でもなく二人はそう言われていた。
双子と言われても方や姉は髪は茶色く緩めに巻いてあり、勝ち気そうな目が特徴的だった。
そしてもう片方の妹はというと、色素は薄く、目も少し眠たそうに目じりが下がっている。
対照的という言葉は彼女たちの為にあるような言葉だった。
姉に言わせると『神様はどちらが優勢な遺伝子を受け継いでいるのか理解していたから私の方が素晴らしく生まれてきたのよ』ということらしかった。
妹はそんな姉を見ても、ただの頭の可哀想な人と憐憫の眼差しを向けるだけであった。
そんな彼女たちなのだが、肩書きはエーデルフェルト家の当主なのである。
二人も当主がいる。
その事実は、エーデルフェルト家は二人でようやく一人前の存在なのだと他の魔術師達に陰で揶揄されていることを彼女たちは知っていた。
そしてその噂を聞くたびに彼女たちは笑うのであった。
「そういえば、姉さん。この間また私たちが半人前だから当主を二人立てるしかなかったと噂されているのを聞いてしまいしたわ」
「あら、その方は可哀想なお方ですね」
彼女たちはまた顔を見合わせて笑った。
エーデルフェルト家が二人も当主を立てたのはそんなちっぽけな理由などではなかったのだ。
この二人は仲が悪い。
いや、仲が悪いという言葉を彼女たちに当てはめるのは無粋といえよう。
例によって先代、つまり二人の父親が当主をどちらかに決めようとすると決まってどちらかが不平を言い出す。
口だけなら可愛いものだが、彼女たちは実力行使に出るのだ。
当主の座を自分のものにするために。
このままでは、内紛でエーデルフェルト家が崩壊してしまう。
そう危惧した先代が苦肉の策として、二人に当主の座を与えてとりあえず二人を立てたのだった。
正直な話代々エーデルフェルトは当主を二人立てているのだが、その事実をまだこの時点では双子は知らない。
「ねぇ、姉さん」
「なに?妹?」
「私ね、聖杯が欲しいわ」
「あら、奇遇。珍しく意見があったわね」
「姉さんもなんですか?やっぱり双子ですね。気が合います。では、一時休戦ということで」
どちらも微笑みを崩さない。
「妹。それは名案ね」
それじゃ、と姉は小指を差し出す。
妹も意図を理解したのか小指を組む。
「なんだか私達仲良い姉妹みたいですね」
そうね。と姉は答えると二人してフィンランドを旅立つ。
聖杯を得るために。
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――第五次聖杯戦争の七十年前、第四次聖杯戦争の六十年前、冬木の街で一つの戦争があった。
――日本が欧米列強の攻略、大東亜共栄圏の創設を画策していた時
代、魔術師達の戦争があった。
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