No.452510

恋姫外伝~修羅と恋姫たち 十ニの刻

南斗星さん

いつの時代も決して表に出ることなく

常に時代の影にいた

最強を誇る無手の武術『陸奥圓明流』

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2012-07-14 03:05:23 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4232   閲覧ユーザー数:3915

【十二の刻 孫呉の姫 ②】

 

 

 

 

 

ちゅん、ちゅちゅん…

「う、うう~ん」

翌朝、鳥の囀りと共に少女は目をさました。

「ここはどこだっけ?確か私は昨日…」

少女は寝惚けた頭で自身の状況を思い出そうと、頭を数度横に振るった。

「そうだ確か私は賊から逃げてきてそれで……はっそうだ思春達はどうなったのだ、こうしてはおれぬ早く援軍を呼びに行かなければ…て、えええ!?」

少女は昨日賊から敗走した時、部下が盾となり逃がしてくれたことを思い出し助けを呼びに行こうと身を起こそうとして、その時初めて自分の今の状況を知った。

「な、なんで私…お、男の人とだだだ、抱き合って、え?え?え?こ、これっていったい!?」

そう少女は昨夜知り合った男と抱き合うように眠っていたのだった。

「ふ、ふわ~あ、お、起きたのか。」

そこへ少女の混乱した声に起こされたか、暢気な男の声がした。

「っつ」

少女はその声を聞いた途端、緊張が頂点に達し顔を赤らめ俯いてしまった。

「さて腹減ったな飯でも、うん?どうしたんだお前。」

そんな少女に気づいたか不思議そうに少女の顔を覗き込む男に対して

「きゃあアアああああああ~~~~~~!!」

少女にできたことは大声で悲鳴をあげることと

パアアンーーーー!!

男の横面を思いっきり叩くことだけだった。

 

 

 

一方その頃少女の腹心たる部下である゛思春゛達は、部下に多大な犠牲を出しながらも賊達をうまく分断し各個撃破することにより、なんとか賊の殲滅に成功していた。

「生き残った部下はこれだけか?」

少女に思春と呼ばれている武将らしき女性が、誰に問うでもなく呟いていた。

賊退治にと百の部下を率いて出陣したが、敵の数が情報の十倍もいたことで部下達が混乱し、生き残ったのは思春も含めて十にも満たないありさまであった。

(く、本来であれば私が蓮華様にご忠告申し上げて、斥候を出すなりして賊の正確な数を把握すべきだったのに)

主たる少女の初陣ということもあり、自身もどこか冷静でなかったことを後悔したが最早あとの祭りであると意識を切り替えた。

(今はそんなことよりも早く蓮華様をお探ししなければ)

思春は一刻も早く主たる少女を探すべく、疲れきった部下たちを叱咤し少女が逃げたであろう麓に向かって山を駆け下りるのであった。

 

 

 

 

「え、え~とその…ごめんなさい!」

その頃興奮状態から落ち着き冷静になった少女は、男から事情を聞き平謝りしていた。

「私が凍えぬよう火の番をしてくれたばかりか、体で暖めてくれていたなんて」

冷静に考えれば今はもう初冬である。たとえ焚き火をしていたとはいえ、あのままでは風邪くらい引いてたかも知れない。

「その、起きたらいきなり貴方の顔が側にあったせいで混乱しちゃって……。」

と少女は起きたばかりの時とは別人のように、シュンとしおらしくなってしまっていた。

勘違いとはいえ、昨日食事をもらったりした恩人に対して平手を放ってしまったことに自己嫌悪してるようだった。

「別に俺は気にしてないよ、状況からすればお前さんの反応も当たり前だし、な。」

対して男の反応は、本当に気にしてないかのように飄々としたものだった。

「それより腹減っちまったよ、まずは飯を食おう。」

そう言って男が見せた笑顔に少女は不覚にも胸を高鳴らせてしまった。

(なんだ、この男の屈託のない笑顔を見ると胸が締め付けられるようだ…この気持ちはいったい何なのだ?)

少女は今まで感じたことのない感覚に戸惑いながらも、表面上は冷静に対応しようと勤めた。

「いや申し出は有難いが私は一刻も早く城に帰らねば、詳しい事情は省くがそうしなければ部下達が危ないだ。」

そう言って立ち上がろうとする少女だったが「痛っ!」と苦痛を訴え再びしゃがみ込んでしまった。

「そうは言ってもその足では麓まで歩けないだろう?」

そう言う男の言葉に少女は痛みの走る自らの足を見る。

昨日は必死だったので気がつかなかったが、慣れぬ山道での逃避行で足を酷く痛めてしまって歩くことはおろか立ち上がることすらままならなかったのである。

「大丈夫だこれくらい、一刻も早く私が行かないと思春達が危ないのだ」

といい再び立ち上がろうとするが、またもや激痛に顔をしかめてしまう。

「やれやれ、しかたがないな。」

そんな少女を見ていた男はそう言うと、少女の前に背を向けしゃがみ込んだ。

「なんだ?」

「ここで会ったのも何かの縁ってやつだろう、街まで連れてってやるよ。」

「い、いやしかしそこまで甘えるわけには」

少女は自分を背負うとする男に対し、さすがにこれ以上迷惑はかけられんと断りを入れたのだが、

「仲間とやらが心配なら、遠慮している場合ではないと思うが?」

と言う男の言葉に押され、顔を赤らめながら遠慮がちに男の背におぶさった。

「す、すまない」

そう誤りながらまだお互いの名前もまだ知らないことに少女は気がついた。

「そう言えばまだ名乗ってもいなかったな、私の名は孫権 字は仲謀。良ければ貴方の名も聞かせてはくれぬか?」

「俺は、陸奥 疾風」

「…陸奥 疾風」

そう疾風が名乗った名前を、大切そうに呟く孫権だった。

「それじゃ行くぞ、少々揺れるが足が痛かったら言ってくれ。」

「え、ええわかったわ」

孫権はそう返事しながらも疾風の背に身を預けながら、自らの内から湧き上がる不思議な感情に戸惑っていた。

(何なのこの気持ち?男の人に背負われるなんて初めてだけど、何か胸の内が温かくなるような気持ちになるわ。それでいて鼓動が激しくなるようなこの感覚…これは何なのかしら?)

チリン♪

と孫権が自身から発した淡い気持ちに戸惑っていた所に、鈴の音と共に聞きなれた人の怒声が聞こえた。

「貴様、蓮華様に何をしているすぐに離れろ!!」

「思春!?」


 
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