ルーアンに向かいながらクラムに追いつこうとしたエステル達だったが、姿を見る事もできずルーアンに到着した。ルーアンに到着し、ようやくクラムの姿を見たエステル達だったが運悪くラングランド大橋が跳ね上がる直前にクラムは南街区に向かい、クロ―ゼは呼びかけたがあまりにも距離があったため制止の声はクラムには聞こえなかった。困り果てているクロ―ゼにエステルは街を案内してもらった時、ホテルの裏手に貸しボートがあったのを思い出し、ボートを管理している老人に頼みこみ、運良くボートを使う事に許可をもらい急いで『レイヴン』がアジト代わりにしている倉庫区画に向かい、ボートを止めた後倉庫に向かった。
~ルーアン市内・倉庫区画最奥~
「……とぼけるなよ!お前たちがやったんだろ!?ぜったいに許さないからなっ!」
「なに言ってんだ、このガキは?」
「コラ、ここはお前みたいなお子ちゃまが来るとこじゃねえぞ。とっとと家に帰って母ちゃんのオッパイでも飲んでな。」
「ひゃはは、そいつはいいや!」
クラムはロッコ達を怒鳴ったが、ロッコは首を傾げ、ディンはクラムの怒りを流して馬鹿にし、レイスはディンの言葉に同意して下品に笑った。
「ううううう……。わああああああああああっ!」
「な、なんだ……?」
「このガキ……なにブチギレてんだぁ?」
相手にされないことに怒って叫んだクラムはロッコ達に飛び掛かって体をぶつけた。ロッコ達はクラムのいきなりの行動に戸惑い何もしなかった。
「母ちゃんが居ないからってバカにすんなよっ!オイラには先生っていう母ちゃんがいるんだからなっ!その先生の大切な家をよくも、よくも、よくもおっ!」
「ちっ……」
「あうっ……」
ロッコは面倒くさそうな表情でクラムを突き飛ばした。突き飛ばされたクラムは悲鳴をあげた。
「黙って聞いてりゃあいい気になりやがって……」
そこにディンが近付き、クラムの首を持ち上げた。
「黙って聞いてりゃあいい気になりやがって……」
「どうやら、ちっとばかりオシオキが必要みてえだなぁ。」
「お尻百たたきといきますか?ひゃーっはっはっは!」
「やめてください!」
「お、お前たちは……」
クラムに暴力を振るおうとしたロッコ達だったが、クロ―ゼを先頭に乱入してきたエステル達に気付いて素早く短剣を構えた。クラムを持ち上げていたディンもクラムを後ろに投げ飛ばし短剣を構えた。
「けほけほ……。クローゼ……姉ちゃん?」
「子供相手に、遊び半分で暴力を振るうなんて……。最低です……。恥ずかしくないんですか。」
クラムは咳込みながらクロ―ゼを見、クロ―ゼは哀れそうにロッコ達を見て言った。
「な、なんだとー!」
「ようよう、お嬢ちゃん。ちょっとばかり可愛いからって舐めた口、利きすぎじゃないの?」
「いくら遊撃士がいた所で、この人数相手に勝てると思うか?」
クロ―ゼの言葉にディンは怒りの声をあげ、お気楽なレイスも怒り気味な声を出し、ロッコは余裕の笑みを浮かべた。
「クローゼさん、下がってて!」
「僕たちが時間を稼ぐよ。その隙にあの子を助けて……」
エステルとヨシュアはクロ―ゼに警告した。しかしクロ―ゼは首を横に振って答えた。
「……いいえ。私も戦わせてください。」
「へ……」
「本当は使いたくありませんでしたけど……。剣は、人を守るために振るうように教わりました。」
クロ―ゼはスカートにベルトを撒いて止めていた鞘からレイピアを抜き、構えた。
「今が、その時だと思います。」
「ええっ!?」
「護身用の細剣(レイピア)?」
クロ―ゼの行動にエステルとヨシュアは驚いた。
「その子を放してください。さもなくば……実力行使させていただきます!」
「か、かっこいい……」
「……可憐だ……」
レイピアを構えたクロ―ゼの姿にレイヴンの下っ端達は見惚れた。
「可憐だ、じゃねえだろ!」
「こんなアマっ子にまで舐められてたまるかってんだ!」
「俺たち『レイヴン』の恐ろしさを思い知らせてやるぞ!」
見惚れている下っ端達にディンは渇をいれ、レイスは怒り、ロッコは下っ端達に命令した。
「「「ウイーッス!」」」
下っ端達はロッコの命令に呼応し、エステル達に襲いかかった!
「相手は6人か……こっちの数もちょっと増やしたほうがいいわね。はぁぁぁぁ!旋風輪!」
「「「ギャッ!?」」」
「うわ!?」
襲いかかった下っ端達とレイスをエステルはクラフトを使って吹き飛ばした。ロッコはヨシュアが相手をし、ディンはクロ―ゼがレイピアで応戦していた。
「………来て!テトリ!!」
そしてエステルは味方の数を増やすためと後方の援護を任せられるテトリを召喚した。
「あなたの力を貸して、テトリ!」
「はい!」
召喚されたテトリは足元の木の根から弓を形造り、魔力の矢を片手で形成して弦に矢を通して構えた。
「「「な!?」」」
「な……一体なんだってんだ!?……って今はそれどころじゃねぇ!お前等、何を呆けて嫌がる!増えたとは言え、相手はアマだ!一気にたたみかけるぞ!」
「「「ウイーッス!」」」
「元、神殺しの使い魔を舐めないで下さい!やぁっ!!」
「「「「うわっ!?」」」」
テトリは牽制代わりにレイスや下っ端達の真横をクラフト――2連射撃を放ってレイス達を驚かせ、動きを止めた。
「………大地よ、怒れ!地響き!!」
「「「ぐわっ!?」」」
「いてっ!?」
続けて撃った手加減した魔術は地面から衝撃波が起きて、レイス達にダメージを与えた。
「………吹き飛びなさい!黒の衝撃!!」
「「「「ぐはっ!?」」」」
テトリに続くように放ったエステルの魔術に当たったレイス達は、吹き飛んで壁にぶつかり立ち上がらなくなった。
「おらっ!」
「甘い!朧!!」
「ぐっ!?」
ヨシュアはロッコの攻撃を回避し、一瞬でロッコの背後に移動して背中を攻撃して止めにSクラフトを放った。
「いくよ!ふん!はっ……はっ………せぃやっ!」
「く……そ……」
Sクラフト――断骨剣を全て受けてしまったロッコは跪き、立ち上がらなくなった。
「せいっ!」
「おわっ!?」
クロ―ゼのレイピアによる鋭い突きの攻撃にディンは驚き、のけ反った。
「チッ。やってくれるじゃえか。お返しだ!」
ディンは反撃に短剣をクロ―ゼに突き出したが、クロ―ゼは華麗に回避してさらに攻撃を加えた。
「えぃ!やぁ!やぁ!」
「ぐ……マジ……かよ……」
続けるように放った華麗な連続攻撃をするクラフト――シュトゥルムを回避できず受けてしまったディンは信じられない表情で跪き、立ち上がらなくなった。
「こ、こいつら化け物か……?」
「遊撃士どもはともかく、こっちの娘もタダ者じゃねえ……」
「それになんだよ、そのアマは!?いきなり現れた事といい、そいつ人間じゃねえな!?」
戦闘が終了し、膝をついたロッコやディンはエステル達の強さに驚き、レイスはテトリを見て叫んだ。
「いや、まあ……実際私は人間ではなくてユイチリですし……」
レイスの叫びにテトリは苦笑しながら答えた。
「ありがとう、テトリ。一端戻って。」
「はい。また何かあったら呼んで下さいね。」
そしてテトリはエステルの呼びかけに応じてエステルの身体に戻った。
「す、すごいや姉ちゃん!」
「確かにクロ―ゼさん、凄かったわね。プリネとはまた違ったレイピアの使い方をしているけどクロ―ゼさんも凄いわね♪」
「その剣、名のある人に習ったものみたいだね。」
「いえ、まだまだ未熟です。それに同じ細剣使いならプリネさんの方が上手いですよ。」
クラムやエステルはクロ―ゼの強さをはやしたて、ヨシュアも感心し、クロ―ゼは照れて答えた。
「あの、これ以上の戦いは無意味だと思います。お願いします……。どうかその子を放してください。」
「こ、このアマ……」
「こ、ここまでコケにされてはいそうですかって渡せるかっ!」
クロ―ゼの言葉に逆上したロッコとディンは叫んだ。その時
「……そこまでにしとけや。」
エステル達の背後から聞き覚えのある声がした。
「だ、誰だ!?」
「新手か!?」
エステル達以外の声に驚いたロッコ達は再び身構えた。そして声の主がエステル達とロッコ達の前に姿を現した。
「やれやれ、久々に来てみりゃ俺の声も忘れているとはな……」
「ア、アガットの兄貴!」
「き、来てたんスか……」
「………………………………」
声の主――アガットにディンやレイスは驚いた。驚いているロッコ達にアガットは無言で近付いた。
「ど、どうしてあんたが……。ていうか、こいつらの知り合いなの!?」
「……レイス…………」
エステルの疑問には答えずアガットは静かな口調でレイスを呼んだ。
「は、はい、なんでしょう?」
レイスはアガットの雰囲気に恐れながら答えた。するとアガットはレイスの腹に強烈な拳による一撃を叩きこんだ!」
「ふぎゃっ!」
「お前ら……。何やってんだ?女に絡むは、ガキを殴るは……。ちょっとタルみすぎじゃねえか?」
腹を抱えてうずくまるレイスを無視して、アガットはロッコ達を一瞥して言った。
「う、うるせえな!チームを抜けたアンタにいまさら指図されたく……」
「フン!」
「ぐぎゃっ!?」
アガットに反抗したロッコだったが、アガットは有無も言わさずロッコを殴った。殴られたロッコは悲鳴をあげて壁にぶつかり気絶した。
「……何か言ったか?」
ロッコを殴ったアガットは何もなかったのように言った。
「あ、兄貴、勘弁してくれ!ガキならほら、解放するからよ!」
自分もレイスやロッコのようになりたくないと思ったディンはクラムを解放した。
「クローゼ姉ちゃん!」
「よかった……。もう大丈夫だからね……」
解放されたクラムはクロ―ゼに駆け寄り、クロ―ゼはクラムを抱きとめて安心した。
「フン、最初からそうしときゃいいんだよ。」
「まったく乱暴なんだから……。第一、どうしてあんたがタイミングよく現れるわけ?」
「ジャンのやつに聞いただけだ。どこぞのヒヨッコどもが放火事件を捜査してるってな。さてと……」
エステルの疑問に答えたアガットはクラムの方に向いた。
「おい、坊主」
「な、なんだよ……?」
「1人で乗り込んで来るとはなかなか気合の入ったガキだ。だが少々、無茶しすぎたようだな。あんまり、おっ母さんに迷惑をかけるんじゃねえぞ。」
アガットは入口の方を見て、クラムに言った。アガットにつられたクラムは入口にいた人物を見て驚いた。
「え……」
「クラム……」
「せ、先生!?」
「どうしてここが…………」
入口にはテレサがいて、マノリア村にいるはずのテレサにクロ―ゼは驚いた。
「ギルドで事情を伺ってそちらの方に案内していただきました。クラム、あなたという子は……」
「こ、今度だけはオイラ、あやまんないからな!火をつけた犯人をゼッタイにオイラの手で……」
「クラム!」
強がったクラムだったがテレサの怒鳴りに飛び上がって黙った。
「テレサ先生……。どうか叱らないであげて下さい。」
「いいえ。叱っているのではありませんよ。ねえ、クラム……。あなたの気持ちはよく判ります。みんなで一緒に暮らしたかけがえのない家でしたものね。でもね……。あなたが犯人に仕返ししたとしても燃えてしまった家は戻らないわ。」
クロ―ゼのクラムを庇う言葉に首を横に振ったテレサはクラムを優しく諭した。
「あ……」
「あなたたちさえ無事なら先生は、もうそれだけでいいの。他には何も望まないから……。お願いだから……危ない事はしないでちょうだい。」
「せ、先生……。……ううううううう……。うわああーーーーん!」
クラムはテレサに抱きついて泣いた。
「グス……。こういうのには弱いかも……」
「はい……。本当に、無事でよかった……」
クラムとテレサのやり取りにエステルは感動して目を拭い呟き、クロ―ゼも同意した。
「ったく……。これだから女子供ってやつは。おい、小僧。院長先生たちを連れてさっさとここを引き上げろや。どうもこういうのは苦手でな。」
「構いませんけど……。アガットさんはどうするんですか?」
アガットの言葉に頷いたヨシュアは聞き返した。
「決まってんだろ……このバカどもが犯人かどうか締め上げて確かめてやるんだよ!たっぷりと急を据えてからな!」
「ひえええええっ。か、勘弁してくださいよ~!」
ヨシュアの疑問に答えたアガットはディンに近付き睨んで答え、ディンはアガットの睨みと言葉に顔を青褪めさせ震えあがった。
「なるほど……。そういう事ならお邪魔したら悪そうですね。」
そしてエステル達はロッコ達の事はアガットに任せ、ヨシュアはボートを返しに行き、エステルとクロ―ゼはテレサとクラムをマノリア村まで送った……
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第66話