~聖side~
町長さんの家で御飯を頂いた後、俺は町長さんと娘さんの二人と話していた。因みに残りの人は後片付けをしている。
「もう夜も遅い。今日は家に泊まっていってくだされ。急ぎの用が無ければじゃが…。」
「急ぎの用は無いですよ…。でも、良いんですか?」
「今日は楽しい時間を過ごせました。これもあなた達のお陰…。これぐらいしないとバチが当たりますじゃ。…それに…家族を家に泊めるのに許可なんて必要なのですかな??」
「…いらぬ心配と言うことですか…。では、お言葉に甘えさせて頂きます。」
「では、準備はしておきますので…。」
「ありがとう…。ちょっと出てきますね…。」
「はい…。ただ、あまり長いこと出かけてるとお供の方々が心配しますよ。」
「大丈夫です…。少しだけ風に当たってくるだけですから…。」
「…では、いってらっしゃいませ…。」
俺は町長さんの家を出て、城壁の所に行く。
城壁には警備兵の人たちがいたが、町長さんとの一件を知っている人だったので、特別に許可を頂いて、俺は城壁上からこの町を眺めていた。
決して大きな町ではない。と言ってそこまで小さな町でもない。大きさで言えば広陵の町と同等かちょっと大きいくらい。
そんな大きさも影響してか、家同士は隣り合い、町の人たちは付き合いが深い。
家族同士で付き合いがあり、まるで町の人全員が全員家族みたいになっている。だからなのか、この町の人たちは人付き合いが良い。そして、人を信じれる…。
正直かっこいいと思う。というか人として尊敬できる。
人が出来てると言うか、器が大きいと言うか…。俺にはちょっと出来そうに無い。
こういうところは、漢の名家であっても学ぶべきところだよな…。
今の時代の名家や高官たちは、自分のことしか考えていなく、自分の利益にならない付き合いはしようとしない。
故に民たちの気持ちを知らない、考えられないのだ。それが政事に反映されるのだから、根本から破壊されていく…。結果、今のような腐敗した政治になり、町は荒れ、民たちは貧窮し、発起する…。
ところがどうだ。この町は自治が確りしている。
町の人同士が仲が良いのだから、隣人が困ってたら助け合い、余裕があれば手伝い、そしてより深く繋がる…。
この町で問題が起こることは少ない。あるとすれば、他国から来た人がなじめずに起こる問題だが、それも人付き合いの上手さにより、時間次第で解決する。まさに『和を以って貴しと為す』俺の理想とする町がここにあった。
…だからなのだろうか。俺はこの町に凄い親近感が湧く。
家族と言ってくれたこと…初めこそ驚きはしたが、今は…なんとも心地よい…。この町の雰囲気もあるのだろうが、凄く安心感がある…。
「俺もこの町の一員…家族になって良いのかな…。」
~芽衣side~
私たちは、町長さんの家で、夕飯の後片付けを終えた。
「あれっ? 町長さん。聖様はどちらに行かれたんですか~?」
「そういやお頭がいないな…。」
「あぁ、彼ならちょっと風に当たってくるといって外に出て行ったよ…。しかし、ちょっと長いやもしれませんな。」
「では、私たちで探してきますです!!」
「そうですか。では私どもは家で寝床の準備でもして待ってますわね。」
「そうしてください~。」
そう告げた後、私たちは夜の町に出て行った。
町は静かで少し不気味…。しかし、月と夜空一杯の星たちが、優しく町を見下ろし、暖かな光を届けてくれて暗さはあまり無い…。
とりあえず町を一回りしてみよう、ということで歩き始めた。
「まったく、聖様も一言言ってから出かけてくれれば良いのに…。」
「そうだぜ、まったく。こっちの心配も少しは考えろっての…。」
「ふふっ。先生も愛されてますね…。」
「そうですね~。でも橙里、逆もまた然りなんですよ~。」
「どういうことですか?」
「もし、私たちの誰かが、こうして姿が見えなくなったら。お頭は、必死になって探してくれる。そういうことだろ?」
「愛されてるから逆もまた愛される、ってことですね…。」
「ふふふっ。そういうことです~。追っては追われて、この付かず離れずの関係が大事なのです~。」
「とりあえず今は、あたいたちは追わなきゃいけないってことだろ?」
「そうですね。早く見つけるのです。」
「それにしても…どこに行ったのでしょうね~??」
「この町に来てそんなに経ってないから、案外道に迷ってたりするかもな。」
「でも先生には衛星視点がありますです。よほどのことが無い限り迷子は無いのです…。」
「確かに…。じゃあどこに行ったってんだ??」
「皆目見当が付かないですね~。」
「あっ!!」
「「どうした(どうかしましたか~)??」」
「あんまり関係ないかもしれないのですが…先生は、寿春に居た時に一度、城壁に登って町を眺めていました。もしかしたら今回も…。」
「町を見渡せながら且つ風に当たれる場所…あながち間違いでもなさそうですね~。」
「よしっ!! 行ってみようぜ!!」
私たちは城壁を目指して進む。暗がりの中に城壁の影が見えてきた頃…。
「んっ?? なんか聞こえないか??」
奏が、急に何か聞こえると言い出した。
「えっ!? 何か聞こえますか~??」
「ん~…。何も聞こえないのです。」
「いやっ、確かに聞こえる…。 これは…歌…??」
「「歌??」」
「あぁ。めちゃめちゃ綺麗な歌声だ…。ほらっ、二人とも耳を済ませてみ。」
私と橙里は耳を済ませる。
「……~♪~……。」
「っ!!? 聞こえました~!!!」
「この声は…先生です!!」
「どこから聞こえるんでしょう~??」
「ん~…。これは…城壁の上からだな…。行ってみよう!!」
「「はい!!」」
私たちは急いで城壁に行きました。
城壁下では、さっきよりもはっきりと歌が聞こえます。城壁の傍には兵士が二人いましたが、二人ともその歌に聞き入ってるようでした。
「あの、すいません~。」
「はっ!!どうしましたか??」
「あの~、ここに男の人は来ませんでしたか~??」
「それは、御使い様ですか??」
「あぁ。お頭の事だ。」
「いらっしゃいましたし、まだ上にいらっしゃると思いますよ。」
「分かりましたです。私たちも上に行っても良いですか??」
「どうぞ。御使い様のお供の人たちと存じております。」
「ありがとうございます~。」
私たちは城壁の階段を登り、城壁の上に出る。
そこには、目的の人物が、欄干にもたれかかりながら歌を歌っていた。
「闇夜に浮かぶ望月と 光る数多の雫
眼下に見える街並に 映る自身の心
家族と言う二文字の音 信じられずただ驚くばかり
暖かな皆の気遣いに 心に刻む思い
乱世を鎮め 平和を願う 民の声が聞こえる
心に決めた 決意と共に 地に足付け進む。」
……それはまるで精霊…。
儚げで、それでいて力強い歌声、心に響くその言霊。
眼前に広がるのは、まさに幻想としか表現できない光景…。
私たちは、しばらく瞬きも忘れてその光景を見つめていた。
「んっ?? なんだ、皆か。そんなとこにいないで、こっちに来たらどうだ??」
「…はっ!!! しっ失礼します。」
「どうしたんだ、皆??」
「どうしたもこうしたも無いぜ!! お頭の姿が急に見えなくなったんだ、心配するのは当たり前だろ。」
「そうです!! もう少し、こっちの気持ちも考えて欲しいのです。」
「あれっ…。もうそんなに時間が過ぎてたか…。ゴメンな、心配かけちゃって。」
「…これからは、ちゃんと一言言ってくださいね~。」
「…分かった…。」
「それにしても…お頭がこんなに歌が上手いとは思わなかったな。」
「そうですね~。聞き惚れました~。」
「私は聞いたことがありましたが…今日の歌は聞いたことが無かったのです。」
「あぁ、さっき歌ってたのは、俺が勝手に作ったやつだからな…。……変な歌だろ??」
「そんなこと無いです~…。素敵な歌でした~。」
「あぁ。なんか、胸を打つようなそんな感じの歌だったな。」
「前の歌も良かったですが、今日のも良かったのです。」
「そんなに言われると恥ずかしいな…。さぁ、じゃあ戻ろうか。明日も早くから移動しなきゃいけないし、確り休もう。」
聖様は、そういうと帰路に立ちました。
私たちはその後ろに付いて行きながら、先ほどの歌の歌詞について話してました。
「さっきの歌、どう思います~??」
「…お頭の心の声って所か…。」
「そうですね。思いの強さを感じたのです。」
「ふふふっ。私は安心しました~。聖様は聖様ですね~。」
「ん?? どういう意味だ、芽衣??」
「分からなくて良いですよ~奏。」
聖様は聖様。あの方の決意にブレは存在しない。そこに私は惹かれたのだから…。
聖様、何があっても付いていきますよ。改めてそう、心に誓う…。
~聖side~
町長さんの家に着いた俺たちは、明日も早いと告げて先に眠りに付いた。
明日は朝にこの町を出て、山道を抜け、北を目指す。次の目的地は首都洛陽。
本当は、荊州刺史劉表さんのところに訪問に行きたかったが、病によって床に臥している、ということを蓮音様から聞いていたので、行くことを自重することにした。
「さて、そろそろ寝るか…。」
そう思って寝返りをうった所で、枕元に人影があることに気付く。
上目遣いで見てみると、よく見知った人物。橙里の姿がそこにあった。
「……橙里?? どうしたの。」
「なかなか…寝付けなくて…困ってるのです…。( ///)モジモジ」
グホッグハッ…。とっ吐血が!! 吐血が止まらない!! 誰か、血を!! 血を分けてくれ~!!!!
「大丈夫、みんな傍に居るから安心して(ニコッ)。」
「先生…。一緒に寝てくれませんか…。」
ひでぶっ!!! …こっこれが北斗神拳か…。流石の破壊力だぜ…。だが、俺はこんなところで死ぬわけにはいかんのだよ!!
「そっ…そこまで橙里は子供じゃないだろ??」
「子供じゃないですが…。」
「そうだろ。なr『先生…。』んっ??」
「…先生は私と一緒に寝るのはお嫌ですか…?」
「嫌とかそういうのじゃなくてだな…。」
「…駄目ですか?(ウルウル)」
チ~ン…。父さん、母さん…。先立つ俺を許してください…。
俺はこの世界で死にます。死因は萌え死です…。でも、未練はない…かな。
「先生!! 先生!! 大丈夫ですか!!先生!!」
「お花畑が見えるよ…。」
「戻ってきてください!!」
ガクンガクン!!
「ぐおぉぉぉ…。首!! 首が~!!!!!」
「良かった…。戻ってきたのです…。」
「殺す気か!!」
「ついさっきまで、先生が死にそうだったのです!!」
「まぁ…そうだが…。」
「でも、何で急に…。」
「それは、橙里に萌えて…と言うか、橙里のせいじゃないか!!」
「えぇ!! 言いがかりです。後、『萌え』ってなんですか!?」
「萌えってのは……。」
「何なんですか!! はっきり言ってくださいです!!」
「……萌えって言うのは、女の子が可愛く思えたときに使うものなんだよ…。( ///)」
「えっ…。」
「だから、さっきの橙里の行動が可愛かったから…その…。」
「かぁ~~~。( ///)ボッ」
顔を真っ赤にさせて、橙里はモジモジしている。
そんなところも可愛い、何て言ったら倒れるんじゃないだろうか…。
しばらく顔を真っ赤にしていた橙里だったが、急に何かを決心したかと思うと俺の布団に入ってきた。
「ちょっ!!」
「先生は駄目とは言ってないですよね??」
「ぐっ……仕方ない…今日だけだぞ。」
「えへへっ。ありがとうなのです。」
「はぁ~…。ちゃんと明日、芽衣たちに説明してくれよ…。」
「はぁ~い、なのです♪」
「どこまで分かってるのやら…。」
「…先生。」
「んっ??」
「手を出してください。」
「こうか??」
俺は片手を橙里の顔付近に出した。
「両手共です。」
そう言われて両手とも出す。
「へへっ、よいしょっと!!」
橙里は、俺の左手を枕代わりに寝転んだ。なるほど、腕枕をして欲しかったってわけね…。
「もう片手はどうすれば良いのかな…?」
「もう片手は……こうするのです。」
橙里は俺の右手を両手で包み込むように握ると、首の辺りに持って行って…。
「今日はこのまま眠るのです…。」
と一言漏らした。
「これじゃあ寝辛くないか??」
「いいえ、これだと先生の温かさが感じられて安心できますです。」
「ふぅ~ん。まぁ、橙里がそれで寝れるんなら、それでも良いか…。」
「♪」
「よしっ、じゃあ今日はもう寝よう!! 明日も早いしね…。」
「…分かったのです。先生、お休みなさいなのです。」
「お休み橙里。」
俺は、橙里が寝付くまで、彼女の髪をゆっくりと撫でてあげた。
しばらくして橙里から寝息が聞こえてきた。ただでさえ可愛らしい橙里の顔なのだから、寝顔は格別。
「本当に、こんな可愛い子が俺の元にいてくれるなんて…。」
俺はそっと、橙里のおでこにキスをすると、寝るために目を閉じるのだった。
「…ここまでしても、先生は、私のおでこに口付けをするだけ…。手にかけてはくれないんですね…。」
彼女のか細い声は俺には届いていなく、少し複雑で、寂しそうな女の子の顔が、俺の腕の中にあるだけだった。
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どうも、作者のkikkomanです。
前話なのですが…。
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