皇魔は、ルルーシュとチェスをやっていた。勝負は、五分五分である。
「やるじゃないか。」
「貴様には負けん。」
盤上の駒を動かし合う二人。
「…」
かなではじっとそれを見ている。レスティーに抱かれながら。
「レスティーさん。そろそろ離してくれないかしら?」
「やーだ♪嫌なら力ずくで逃げてもいいのよ?」
「…」
嫌ではない。だが、それならとっくにやっている。しかし、
(…動けないのだけど…)
今かなではレスティーがかけた金縛りによって動きを封じられており、逃げられなかった。かなではオーバードライブによって、屈強な男性すら片手で払いのけられるほどの力を発揮できる。だが、レスティーの念動力はそれを遥かに上回っており、かなでの脱出を完璧に封じていた。ちなみに、レスティーの正体やエンズについては、既にゆりから説明を受けている。セフィロスもだ。
そうこうしているうちに、勝敗が決まる。勝ったのは、ルルーシュだ。
「チェックメイト。今回は俺の勝ちだな」
「ちっ…」
思わず舌打ちする皇魔。そこでレスティーはようやくかなでを解放し、皇魔に言う。
「かなりいい勝負だったんじゃない?」
「どこがだ。余の完敗ではないか」
「いや、そんなことはない。」
「僕から見たら、かなりの接戦だったと思うよ?」
自棄になる皇魔を、ルルーシュとスザクが励ます。
「戯言はよせ。素直に貴様は弱いと言ったらどうだ?」
しかしやはり自棄になる皇魔。それを見ていた日向は、音無に尋ねた。
「いや~いい勝負だったよな、音無。」
「ん?ああ。」
「こんなことなら、なんか賭けてりゃよかったぜ。」
そこで直井が割って入り、鼻を鳴らす。
「ふん。チェスなどルールの大半も理解していない馬鹿の貴様に、今の勝負の具合がわかるのか?どうせ当てずっぽうだろう。」
「んだと!?」
「おいお前ら!」
慌てて仲裁に入る音無。
「賭けと言えば…」
切り出したのはゆりだ。
「亀山拓也(かめやまたくや)の話は有名よね。」
ゆりが言う亀山という男は、無一文から博打、すなわちギャンブルを使って一攫千金を手に入れ、そこからさらに博打を続けて、会社を経営できるまでの財力を身に付けたという、かなり有名な人物だ。要するに成金だが。
「羨ましいよなぁ…俺もそれくらい当ててみたいぜ。」
亀山の強運を羨む日向。それに対し、皇魔は言った。
「そんなもの、ただ偶然が重なっただけだ。その亀山とやらは、賭けに頼らねばならぬほど、追い詰められていたのだろう?そうなるまで、一体どのような生き方をしておったのか…情けないやつだ。」
「…言われてみれば、確かに情けない話ではあるな。」
ルルーシュは同意する。
「何かに賭けるようでは駄目だ。常に最善を考え、それを実行し、そして確実に成し遂げるだけの力を身に付けねば。」
「で、あなたはそれだけの力を持っていたかつての自分を取り戻したいと。」
「そういうことだ。」
レスティーの言葉に頷く皇魔。音無は進み出る。
「皇魔。何か協力してほしいことがあったら、遠慮なく言ってくれ。できる限り力になる」
「…結弦がやるなら、あたしも。」
「あたしもやるわ。」
「じゃ、俺も。」
「勘違いするな。僕は貴様ではなく、音無さんに協力するんだ。」
「…よくわからないが、俺も手を貸す。」
「じゃあ僕も。」
次々に協力を申し出るかなで、ゆり、日向、直井、ルルーシュ、スザク。皇魔は、
「貴様らなど足手まといだ。だが、邪魔さえせねばよい。好きにしろ」
と、そっけなく返す。そこで、レスティーはあることに気付いた。
「そういえば、あなた達には教えてなかったわね。」
そう、レスティーはルルーシュとスザクにデザイアのこと、エンズのことを教えていなかったのだ。というわけで、いつもの通り超能力を使って教える。
「なるほど…こういうことか…」
「…」
納得するルルーシュと、なにやら黙って震えているスザク。皇魔はため息を吐いた。
「また貴様は勝手に…」
「いいじゃない別に。味方は多い方がいいでしょ?」
レスティーはそう言うが、実際には、このことを知っている者が多いと面白いことになりそうだというのが理由だ。
その時、
「すごいじゃないか!!」
スザクが突然皇魔の手を握った。どうやら先ほどの震えは、あっちの意味の震えだったようである。
「まさか君がこんなすごいことをしていたなんて!燃える!なんて燃えるんだ!僕は惜しみない協力をさせてもらうよ!!」
「わ、わかった。わかった離せ。気色悪い」
あまりの熱意に引く皇魔。
「あの皇魔が…」
「引いてる…」
日向やゆりを始めとするクラスメイト達は、珍しい光景に一斉に目を向けていた。
「…」
音無はそれを見て、何かを感じていた。
亀山拓也の息子、亀山裕一は、いつも通り夜遅くに帰宅していた。そして、いつも通りにため息を吐く。これまたいつも通りに、拓也がいなかったからだ。拓也はいつも自分が帰る前に仕事が終わっているので、本来なら家にいるはずである。だが、どこにいるかはわかっていた。また、博打をしに出掛けたのだ。拓也はかつて博打で大勝し、自分の会社を持つまでに利益を得ている。その時の快感が忘れられず、仕事のあとはほぼ毎日、博打をしに言っているのだ。
(また、か…)
と思う裕一。そこで、
「ただいま~」
拓也が帰ってきた。裕一はまたいつも通りに、拓也に注意する。
「親父…いつも言ってるだろ?賭け事はもうやめろって。ちゃんと稼ぎもあるんだから、そんなことを毎日しなくたって…」
すると、思いがけない答えが返ってきた。
「ああ、会社な、今日倒産しちゃった。」
「………はあ!?」
耳を疑う裕一。拓也は再度説明する。
「だから、今日会社が倒産しちゃったんだって。」
その説明を聞いて、裕一は拓也に掴みかかった。
「ふざけんなよ!倒産!?そんな大変なことになってたのに、賭け事やって遊んでたのかよ!?」
「こんな時だからこそだ。」
「…は?」
突然の言葉に思わず手を離す裕一。拓也は説明する。
「幸い、借金をすることはなかった。残った金を使って、また賭け事に打ち込めばいい。そうすれば、また」
「いい加減にしろよ!!」
裕一はついに激怒した。
「金が残ってんなら、それを元にしてまた仕事を始めりゃいいだろ!?なのにまた賭け事!?何で現実を見ねぇんだ!!またうまくいくとでも思ってんのかよ!?」
「大丈夫、うまくいくさ。幸運の女神は、いつだって俺に微笑んでるんだからな。」
それを聞いて、裕一は思った。駄目だこいつ。このままじゃ絶対まずい、と。
「じゃ、もう寝るわ。」
自室へ戻る拓也。裕一は必死に打開策を考え、そして思いついた。
「…あの人に頼るしかない…!!」
「なるほど、話はわかった。だがなぜ余なのだ!!」
裕一から話を聞いて、それから怒る皇魔。裕一が頼ろうと考えていた人物は、皇魔だったのだ。裕一は理由を話す。
「昨日皇魔さんが、賭け事の勝ちなんて偶然の重なりにすぎない。何かに賭けてるようじゃ駄目だって、言ってたから…」
裕一は昨日の皇魔の言葉を聞いていたのだ。
「俺、本当にその通りだって思ったから…だから、いざって時は皇魔さんに頼ろうと思って…!」
「貴様の親のことだろう?ならば赤の他人でしかない余になど頼らず、息子である自分の手で「別にいいじゃない皇魔。」…レスティー…」
唐突に割って入るレスティー。
「確かに、自分の身内の問題は自分で解決しなきゃいけない。でも、誰かに頼らなきゃ解決できない問題だってあるのよ。」
「だが「それに…」?」
レスティーは皇魔に耳打ちした。
「それだけの強い欲望…デザイアが目をつけないはずがないわ。いつデザイアが現れてもいいよう、監視くらいは付き合ってあげるべきじゃない?あなた自身のためにも。」
「…」
皇魔は考えた。他人の家庭事情など、彼にとってはどうでもいい。だが、デザイアが絡むとなれば話は別だ。今回のようなケースは、特に大きな欲望が生まれる可能性が非常に高い。大量のセルメダルを手に入れるチャンスである。
「…よし、貴様の両親の更正に付き合ってやる。」
「っ!ありがとうございます!!」
裕一は思い切り頭を下げた。しかし、皇魔は内心こう思っている。
(既に手遅れかもしれんがな)
とあるパチンコ店。拓也はここに来ていた。
今彼は、非常に焦っている。
かれこれもう三時間は経つのだが、一向に当たりが来ないのだ。台を変えてみても、同じである。
こんなことは初めてだった。今までは開始から十五分もすれば、確変大当たりが来ていたのだ。しかし、疑似連すら来る気配がない。
(何でだ…何で今日に限って…!!)
昨日までは来ていた連続大当たり。そのおかげでまだまだ打てるが、このままでは大損だ。
と、突然リーチがかかった。7のリーチだ。
「来い…来い…当たれ…当たれ…!!」
思わず口に出す拓也。しかし、リーチは無情にも外れてしまう。
「ああああああああああああ!!!!」
拓也は敗北の絶叫を上げる。
その時、
「強い欲望の気配を感じて来てみれば、素晴らしいな、ここは。欲望が渦巻いている」
人間形態のアプリシィが現れた。実はこのパチンコ店には、海馬がデザイアの襲来を阻止するために、欲望の気配を遮断する装置を設置したのだが、
「その中でも、お前の欲望はより強い気配を放っていた。」
拓也の欲望は装置のパワーを上回り、アプリシィの到来を許してしまったのだ。
「解放してもらうぞ、その欲望を。」
怪人形態となったアプリシィは、拓也にセルメダルを投入した。
「…シードの気配…」
レスティーはシードが誕生した気配を感じ取った。しかし、今は授業中だ。抜け出すわけにはいかない。と、
『授業中失礼します。先生方は、直ちに職員室へ集合してください。繰り返します。先生方は直ちに…』
放送が入った。
「そういうわけだ。各自、自習をしていろ。」
セフィロスは教室から出ていく。
「皇魔!」
「…よし。」
レスティーはそれを見計らい、瞬間移動を使って皇魔とともにシードを捜索しに行った。
街中では、見たまま氷を模した姿のシード、コオリシードが暴れ回っていた。だが、コオリシードはパチンコ店の客全員分の膨大な欲望を吸収したため、全長9メートルという巨体に成長していた。コオリシードは街を破壊しながら、さらに欲望を吸収していく。それを見ながら、アプリシィは呟いた。
「人間というのは、つくづく愚かだな。ここまでシードを成長させるほどの欲望を生み出すとは…人間など、私達にとって道具にしかならん存在だ。せいぜい、その責務を果たしてもらおう。」
逃げ惑う人々を一瞥し、アプリシィは嘲笑う。
「シードを成長させ、この世界を破滅させるという責務をな。」
「ほう…これは…」
皇魔はニヤリと笑う。そこで、レスティーは気付く。
「あのシード、中に人間が呑み込まれてるわ。」
「知ったことか。ベルトとメダルをよこせ」
「その前に…」
レスティーはコオリシードに呑み込まれている人間を、瞬間移動によって救出した。呑み込まれていたのは、拓也だった。レスティーは拓也の頭に手を置き、超能力で意識を覚醒させる。
「…俺は…」
呆然と呟く拓也に、皇魔は尋ねた。
「貴様が亀山拓也だな?」
「…そうだが、君は?」
「貴様の息子に、貴様を更正するよう頼まれた者だ。」
「更正?」
「とはいえ、実際には貴様をどうこうするつもりはない。ただ一つ言うことがあるとすれば…」
皇魔は、言う。
「全てを賭けでどうにかできるほど、世界は甘くない。ということだけだ」
そして行ってしまった。
「うまく逃げてくださいね。」
レスティーも行く。
「…」
拓也は、二人の背中を見送っていた。
皇魔はコオリシードを見る。
「なるべく急いで片付けるべきだな。」
「だったら今回は、このコンボでいきましょ。」
レスティーが出したのは、紅に輝く三枚のコアメダル。ウォントのメダルだ。
「わかった。」
皇魔はベルトとメダルを受け取り、歩き出す。そしてコオリシードの目の前で止まった皇魔は、
「…賭けるものは命。」
まず先日ウォントから奪ったマグマコアメダルを、エンズドライバーに装填。
「敗北の代償は死。」
続いてコウセンコアメダルを装填。
「勝利の報酬は力の回復、か…」
最後にホノオコアメダルを装填し、エンスキャナーで、
「これぞ真の博打よ!!変身!!」
ベルトをスキャンした。
〈マグマ!コウセン!ホノオ!マホマホ~♪マグコーホー♪〉
皇魔は全身が真紅のエンズ、エンズ マグコーホーコンボに変身した。
「うおおおおおおオオオオオ!!!!!」
光生はいつものようにケーキを作りながら、エリカに訊いていた。
「どうしても欲しいものが手に入らない時、この上ない精神的苦痛を味わったことはあるかね?」
「あります。」
「私にもある。その苦痛は、まるで業火に全身を焼かれているかのようだった。」
ケーキを完成させた光生。
「私はこう思うのだよ。エンズこそまさしく、欲望の体現者だとね。」
続いて、咆哮を上げ続けるエンズに目をやる。
「素晴らしいッ!!」
エンズのコンボは、三枚のコアメダルの力を全身に行き渡らせ、相乗効果で強化しているというものだ。つまり、肉体の部分的にしか発揮しない効果を全身で、より強力な形で発現できるのである。
例えば、
腕部だけを光速で動かせるという能力が、
全身を光速の十倍で動かせるという能力に強化されるように。
エンズはそれを利用してコオリシードの拳を避け、逆にこちらから燃える拳を叩き込む。弱点属性かつ高威力な攻撃を受けたコオリシードはよろめき、口から氷の棘を吐いて反撃する。これも回避したエンズはコオリシードの腹へラッシュを、全力で、全速力で食らわせた。
「オオオオオ!!!ウオオオオアアアアアアアアア!!!!」
カンフブヒコンボとはうって変わり、喉が潰れるのではないかと思うほど大声で叫ぶエンズ。マグマコアメダルには興奮作用があり、そのために精神が高揚し、叫ばずにはいられないのだ。
「アアアアッ!!!!!」
両手から超パワーのレゾリューム光線を放ってコオリシードを転倒させるエンズ。
〈スキャニングチャージ!!〉
それをチャンスと見たエンズはベルトをスキャン。全身に3兆度もの業火を纏い、光速の十倍、つまり最大速度で突撃する技、マグコーホーストライクを発動する。
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
大量のセルメダルとなって砕け散るコオリシード。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
エンズは一際大きな咆哮を上げ、それで落ち着いたのか、変身を解除。コンボの副作用でダメージを受けた皇魔は、倒れる。
しかし、その身体は地面に着く前に、レスティーが受け止めた。皇魔は呟く。
「一度の賭けで全てを取り戻せるなら、余は迷わず…挑むのだが……な………」
皇魔は気絶した。そんな彼を抱き締めながら、レスティーは言う。
「…きっと取り戻せる。それまで、全力でサポートするから…」
レスティーは一度家に瞬間移動して皇魔を寝かせてから学園に戻り、セフィロスに皇魔は早退したことを伝えた。
「…撤退する。」
アプリシィは人知れず姿を消した。
「なぁ裕一。」
拓也は偶然帰宅途中の裕一と出会い、一緒に帰っていた。
「…なに?」
「…俺、賭け事やめて真面目に働こうと思うんだ。」
「!!」
「全部賭け事でどうにかなるほど世界は甘くないって言われてな…こんなことを言うのは筋違いかもしれないが…また一からやり直そう。」
「…うん!!」
父は変わった。その事実を前にして、裕一は思う。やっぱり皇魔さんに相談してよかった、と。
************************************************
次回、
仮面ライダーエンズ!!
日向「来客全員が人質かよ!!」
音無(考えろ!!考えるんだ!!)
皇魔「貴様らはなぜ面倒事に余を巻き込むのだ!!」
第九話 策謀と挑戦とデスゲーム
マグコーホーコンボ
マグマコアメダル、コウセンコアメダル、ホノオコアメダルによって完成する、エンズの炎熱系コンボ。ウォントとアプリシィが双子の兄弟のような関係にあるため、カンフブヒと似通った部分がある。
3兆度もの業火を操り、任意に光速の十倍のスピードで動ける。
必殺技は、全身に炎を纏って突撃する、マグコーホーストライク。
パンチ力 250t
キック力 320t
ジャンプ力 ひと飛び360m
走力 100mを2秒
マグマコアメダル
ウォントのコアメダルで、エンズの頭部をマグマヘッドに変化させる。
興奮作用があり、精神が高揚する。他にも、口から炎を吐くことが可能。
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面倒くさくなったんでオーズ式あらすじはやめます。でも、気まぐれでやるかもしれません。