■11話 紀霊内定か
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恋につれられて、というより半強制的につれられて城門をくぐった後街で一番大きな建物へとそのまま突き進んでいく。
建物の前に立っていた衛兵たちは特に気にした様子もない。あれ? それって問題じゃ!? と思ったのだが恋ならいいと思っているのか反応はこれといって特にない。さすがは天下に名高い飛将軍呂布と行った所だろうか。
とはいってもそんな呂布の連れでも建物内ではさすがに馬はご法度、当然飛影から降ろされてしまった。この後厩舎に連れて行ってくれるらしい。
「飛影。必ず迎えに来るからなーーーーー!」
「ヒヒーンッ!」(いつまでも待ってます! と言ってるように感じる)
お互いにヒシッと抱きしめあって別れの挨拶を交わす。
そんな馬鹿をやってると恋に「……変」と言われてしまった……多少のショックは隠せなかった。でもいつか演劇というものを教えてやろうと思いました。たぶん理解してくれないだろうけど
城の中ってのは初めてはいったけどなかなか広いんじゃないかと思う。呂布について行きながら無駄に広さを感じいる。思わずキョロキョロしながら歩いていると、気づいけばここが何処で、どこをどう行けば外に行けるのかもわからなくなっていた。
これが俺を逃がさない為の罠だとするなら、恋……なんて計算高いんだ。これが孔明の罠ではなく呂布の罠だという事に驚きを禁じ得ないよ。
仕方ない、というよりこの際流れに身を任せるしか方法がない為そのまま恋について行く。暫く歩いていて急に足を止めた恋に少しぶつかったものの気にした様子は見られない。
「……ついた」
そういって扉の前で恋がこちらを向いてじっと見つめ続けてくる。長い事その状態が続き、満足したのか恋がまた口を開く。
「……一緒に入る」
「わ、わかった……」
いまいち掴みきれない恋の調子に戸惑いながらこの先で待ち受ける人物について考えてみる。というか詠って賈駆の事だったか、と時雨は今更ながら思い出す。
といっても好きな恋姫キャラを忘れるなんて胸が痛い、黄巾党と死闘を繰り広げた後だっただけにまだ混乱していたことにしよう。と勝手ないいわけを自分に言い聞かせていた。
そんな時雨を無視して恋が扉を開き入っていく。ギギ、ギーとどこかの戦闘員の出すような甲高い声を一介の扉如きが出したことに驚きながら己も部屋へと入っていく。
「詠……連れてきた」
そこにいるのはメイド服じゃない賈駆文和………。俺はその顔に失望の色が浮かぶのを必死に抑えた。賈駆のメイド姿には未練たらたらだが日の出を浴びるのはまだ先だと自分に言い聞かせ、真面目な顔を必死に保つ。
「へ? ……ボク誰か呼んだっけ?」
「え?」
「え?」
見詰め合う2人……ここからはじまるラブロマンスなんてものはなく、すぐに恋へと視線を戻す賈駆。俺も戸惑いつつ恋に視線を向ける。
「恋? この人は誰?」
「詠探してた……強い人」
恋の答えに得心がいった2人はそれぞれ頷き合う。
「俺は紀霊、しがない武芸者だ」
状況を理解し、これは好都合とばかりにすかさず名乗る。そんな俺を賈がじろじろ見定めてくる視線は容赦がない。
「ふーん、じゃあ力を見るために誰かに相手をしてもらいましょうか……そうね」
ッドーーーーン! と凄い音を立てて閉じたはずの扉が開かれる。こうやって扉がダメになってさっきの音を醸し出していたのかと妙な納得をしてしまう。
「なんやここおもろい匂いがしてんで!」
そういって元気一杯しっぽふりふり、張遼が部屋の中へと突入してきた。遠慮も何もあったものではないが、その姿は憎めない物がある。
恐らく毎度の事なのだろう、やってきた張遼を見て眉を引くつかせる賈駆。相変わらずの苦労気質だ。
「っはぁ……、丁度いいから霞に相手をしてもらいましょう」
「ん? なんや?」
自分で突っ込んできておきながら状況のわからない霞はさながら迷子の子犬といった所か。犬耳と尻尾が生えている様な仕草で何事かと周囲を伺う。その姿が可愛らしいなと思いつつもいわなければならないこともあるのでここは我慢我慢。
「すまないが仲間がいる。俺には劣るが一人中々強いのがいる」
「そうなの? 恋」
恋は無言で首を縦に振って肯定の意を表す。
「おー、恋がそういうんならほんまもんやろな! ウチ、戦ってみたいなー」
「霞にはそこにいる紀霊って人の相手をしてもらうわ」
「へ? そこのあまり強そうに見えない兄ちゃんか?」
「……時雨、強い」
自分ではまだまだ力が足りないと思っているが、天下無双の恋にそう言ってもらえるとやはり嬉しくなってしまう。嬉しさ余って頭を撫でてしまうが、嫌がる様子もないし、大丈夫だと思う。……若干周りが驚いているけど気にしたら負けだろう。
「へー……恋がそういうんならさっきのあんたの発言もあながち嘘じゃなさそうやな」
「今は本調子じゃないけどな。腕を見せるぐらいなら大丈夫だ」
最初のへーは何に関しての関心かはわからないが良くない印象は与えていないようだ。
「いうてくれるやん! それじゃはよ始めよかっ」
「ちょっと、あんたたちちゃんと調練場でやりなさいよ! ボクの部屋で暴れたら許さないんだから!」
「わかっとる! はよいくで紀霊」
叫びながら走っていく張遼。あ、見失ったら道わからないじゃんと思い出し、急いで後を追う。
時雨と張遼がその場を去っていくのを見送り恋は1人呟く。
「変……」
「?」
何かを呟きながら手を頭に乗せる恋のいつもとは違うその様子を賈駆は目ざとく見ていた。一体何をしているのか興味が湧いて問いかけようと思った所に部屋に迫ってくる陳宮の声が聞こえ、思わずため息をつくのだった。
◇◇◇◇
「恋殿〜〜〜〜〜、どこにいってしまわれたのです〜〜〜」
叫びながら陳宮が宮廷内を走り回る。そしてそれを勝手がわからない綾、一刀、かごめは追って行く。時雨が連れ去られた為に追っているのだがなかなか見つけることが出来ない。
「時雨どこまでいっちゃったのかな?」
「さぁ、でも時雨さんって考えてることが分からないとこあるよね。今回も抵抗できたのに何もしないで呂布さんに連れて行かれてたし」
「抵抗しても無駄だったからじゃないの?」
天下無双の呂布に対して抵抗することがナンセンスであることは誰の目から見ても明らかであるが、3人は時雨ならもしかしたらと思っている事もある。
「時雨……飛影、いる」
「そっかそれなら一人なら逃げられるよね?」
「もしかして俺たちのためなのかな?」
「かも……」
こうしてまた一つの誤解が生まれた。今回の時雨の行動基準は董卓達を守るという事に一貫して行われている。それは時雨は主に誰かを守る場合か、危険の事に直面しない限り何も考えていないからなのだが、今の3人にはそれがわかるはずもない。
そうこうしている内に陳宮がある部屋に入っていったのでもちろん3人は一緒に入っていった。
「恋殿ーーーーーーー!!」
陳宮が呂布に勢いよく飛びつく。それをさして気にした様子もない恋は陳宮をぶら下げたまま扉の外を目指す。
「ねね……見に行く」
「恋殿またどこかにいくのですか?」
相変わらず言葉足らずな恋の言葉に賈駆は呆れながらも親切に説明する。この役は自分が担うと分かっているからこその行動である。
「今さっき恋がつれてきた紀霊とかいう男を審査するのよ。それで霞が相手することになったから大方それを見に行こうといってるのでしょ」
賈駆が言っている事に首を動かす事で肯定する。するとそれを見た陳宮が烈火のごとく怒りだした。
「なっ! またあの男のことを………恋殿あんなのほっといてご飯を食べに行きましょう。あんなのを見ていては恋殿の目が腐ってしまいます」
食べ物の事について語られるその言葉に少しばかり迷った恋だが「見に行く」といって未だに抱きついている陳宮を引きずって部屋から出て行った。
「そんな〜。恋殿〜〜〜」という叫び声が廊下からエコーして響いてきたが一同は無視することにした。
「それであんたたちはどうするの?」
当然綾達もついて行こうとは思っていたのだが、どうやら恋達の上司らしい人を無視するわけにもいかずその場にとどまっていた。
「よければ時雨を見に行きたいんだが……」
「そう、それならボクについて来て」
声をかけると賈駆は立ち上がり、呂布たちがいった先へと向かっていく。慌てて3人も追いかけ、長い通路を再び歩いていく。
その中で一刀はこれからどうなるのかと不安を感じずにはいられなかった。
◇◇◇◇
張遼に引っ付いて調練場までやって来たのだが張遼は些か気が早すぎるのか既に臨戦態勢だった。
「ほな、はじめよか」
「いや、賈殿に見てもらわないと……」
歩いてきただけなので多少体力は回復しているが、黄巾党と戦った疲れはまだ抜け切っていない。賈駆に見定めしてもらうだけの体力はあるつもりだが余分に動ける気はしない、だから時雨は冷静に答える。
「そんないけずやわぁ」
「すぐ来るだろうしちょっとだけだからさ」
「ほんまやな! ちょっとだけやで」
なんで俺がこんな配慮しなきゃならんのだろう……それにしても待てといわれた動物の気持ちをその動作で的確に表現しているな張遼。もう尻尾を振って餌を心待ちにしている犬の様で大変可愛らしい。
「まだなんかー?」
「まだそんなにたってないよ…」
「んーーーーー」
こんなやり取りをこの短時間でどれだけやったかわからなくなった頃、やっとのことで恋と陳宮を皮切りに心配していた綾、一刀、かごめ、を引き連れて賈がやってきた。
「あれ? ボクはてっきり始めてると思ったのに」
「いや、見てもらわなくちゃいけないんだからわざわざ待ってたんだが……」
「それってボクたちがつくまでには決着するってことかな?」
言われて気づいたが確かにそういう事になる。張遼の本気は未知数だが見た感じ1対1で負ける気はしない。
「そんなんどうでもええやん、詠たちもきたんやしさっさとやろ!」
「ん、わかった」
返事をした俺を心配そうに綾達3人が見つめ、声をかけてくる。
「時雨は黄巾党と戦ったばかりなんだからあんまり無理させない方がいいんじゃないのか?」
「そうだよ! あれほどの量を相手にしたのに」
「え? それってどういうこと? ボク聞いてないんだけど……いったいどういう事なの恋?」
事の重要さから真剣に問いかける賈駆に同じように真剣に答える恋
「……一緒に戦った」
「え? それって洛陽近くに出没した黄巾党? 確か3万はいたと思うんだけど。大規模な兵が出たなんて聞いてないわよ?」
賈駆から言わせれば黄巾党の対策はこれからだったし、腰の重い十常侍のせいでなかなか事が進まずイライラしていたのだ。むやみに大規模に兵を動かせば叱責は免れず、それで受けた被害は当然軽微と言えど賈駆や董卓の立場を危うくする。
だから手を拱いていたのだが、それが片付いているというのは純粋に助かるし嬉しい。けれど報告に上がってきていない以上まだ確実な情報ではないし、それが批難の対象になるかどうかもまだわからない。
賈駆にとって恋が信用できないという訳ではないけれど、さすがに3万相手に呂布軍だけで勝てたというのは天下無双名高くとも難しいはずだ。
「それなら私たちとそこにいる呂布って人で壊滅させたよ」
「っな」
そのあまりに率直な事実を聞いて改めて絶句するしかない賈駆。これが普通の反応ではある。あの戦は元々も恋達だけでは荷が重かったのだが、時雨の突撃や鬼神の如き活躍もあって相手の体制が崩れていた。恋はそれを広げて部下に簡単な指示を出したに過ぎない。
実戦経験が多く、英断が出来る恋だからこそできたことではあるが、時雨達の貢献は火を見るより明らかであることは確かだ。
「まったく本当なら恋殿がすべて独り占めに出来たはずなのに邪魔なやつらなのです」
「ちょ、ちょっと待ってよ。それが本当なら彼は相当疲労してるんじゃ?」
「だからそう言ってるんだが……」
あの恋以外に対して悪辣極まる陳宮すらも彼らの実力を多少認めている様だ。本当に邪魔なら喚き散らしているだろう、それに彼女は軍師だ、戦の推移を見て時雨達の働きをきちんと理解しているのだろう。
「なら無理しなくていいわ。実力はわかったし」
「そんな〜」
賈駆の言葉を聴いたとたんにしゅんとする張遼。時雨としてはかわいそうだから相手をするのもやぶさかではない。それに元々やる気ではあったのだから今更やめようと言われても困る。
「大丈夫だよ、ちょっと休んだおかげで張遼殿との一戦ぐらいは体力持つからさ」
「ほ、ほんまか!」
時雨の言葉に目を輝かせて張遼が賈駆を見つめる。あまりに見つめてくるのでさすがの賈駆も目を逸らして渋々認める。実際目の前で本人の技量が見れるならそれに越したことはないのだ。
「本人がいっていうんだったら別にボクが何かいえた義理じゃないし……」
「ありがと、それじゃやろうか」
張遼がどう猛に目を光らせ武器を構える。時雨はと言えば今回体力を考慮して小刀だけで応戦することにする。
「そんなちっこい武器でたたかうんか?」
「え? まぁそうだな」
「遠慮はせえへんで」
「それは望むところだから」
言うが早いか張遼と俺は動き出す。張遼は必殺の一手を最初から惜しげもなく出してくる。
「っはぁぁああああ!」
張遼が振り下ろす偃月刀は鈍い音を立てながら襲いかかってくる。けれど時雨はそれを小刀の最小限の動きだけで軌道をそらし、懐に飛び込んでいく。
「ふんっ」
結構いい感じに切り込んだと思ったのだがそこはさすがの張遼というべきか、いとも容易く偃月刀の柄で拳を止めてみせる。
「なかなかやるやんか!」
「そういう張遼殿こそ……ですが体力もそこまでないのでそろそろ終わらせてもらいます」
「そんな簡単にいくと思うなや!」
言葉どおりに簡単には受けきれない一撃を放ってくる。けれどそれが張遼にとって裏目に出る事はさっきの事で証明済みだ。
小刀で軌道をそらし再度懐に飛び込むまでは一緒、そしてここから夏侯惇でもうためし終わった合気道の応用を仕掛ける。
小刀を回転軸にし、手を振り下ろされた偃月刀にそえ、力を加え回転させる。ものの見事に飛んでいく偃月刀は弧を描き壁に突き刺さった。だが張遼は飛んでいなかった。
それを瞬時に理解すると同時に少しばかり後ろに飛ぶ。
ッシュという空気を短く裂く音が耳元を掠める、辛うじて回避に成功した後はもうこちらの勝ちだ。
横で伸びきった腕を引っ張ると同時にまた前に飛び出し、もう片手で何かをする前に小刀を張遼の首へと這わせる。
「そこまで!」
「っふ〜〜〜〜〜」
賈駆の掛け声がかかり試合が終わると同時に緊張をとく、小刀もきちんと鞘に戻して一息つく。
「初めて男に負けてもうたわ!」
負けたはずの張遼はどこか嬉しそうに笑っている。戦闘狂なのだろうか、この世界は戦闘好きが多すぎる気がする。
「まぁ、これでも半端な鍛錬はしてないしな……それより寝たいんだがどこか……」
場所を尋ねようと思っていたのだがどうやらもうもたないらしい、また心配をかけることになるな。そう思いながら時雨は闇へと倒れながら落ちて行った。
◇◇◇◇
「あ……」
誰かが漏らした声は驚きから出たものだった。気づいた時にはもう体が動いていた自分に驚いたのだ。
時雨が倒れる前に身体を支えてやるとそこには眠りこける顔があって、自分が何をしたのかわかり思わず苦笑してしまう。
「また無茶して……私たちのことも考えてよね」
照れ隠しで小さく呟いていると一刀とかごめが心配しながら近づいてきた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫、疲れて眠ってるだけだから」
「よかっ…た」
そう3人で安心しているとさっきまで嬉しそうにしていた張遼とは打って変わってばつが悪そうな顔をして近づいてきた。
「大丈夫なんか?」
この場にいる誰もが考えることが一緒だったと分かり、何処かおかしくて3人で笑ってしまう。
「大丈夫ですよ。疲れて眠ってるだけです」
「倒れるまで頑張るなんて呆れた奴ね」
いつのまにか賈駆が褒め言葉ともつかない言葉を投げかける。それに続いて呂布、陳宮まで近くに来て時雨の顔を覗き込む。
「この程度倒れるなんて軟弱なのです! 恋殿ならこれぐらい……」
「ねね……ッメ」
疲れ切って眠っている横で声高に避難する張遼をこつんと人意を叩きいさめる呂布。
「れ、恋殿〜〜〜」
「そういうこといっちゃダメ……」
呂布に言われて自分でも言い過ぎだと思っていただけに素直に引き下がる。少し涙目なのは呂布に叱られたせいだ。
「わ、わかったのです」
しゅんとする陳宮をよそに事態はいきなり動き出した。
「ウチのせいや! ウチが面倒見たる!」
瞬間綾とかごめに緊張が走る………ついでに呂布もちょっぴり反応していたりする。
「それは私たちに任せてください! 時雨のことをちゃんと理解してあげられるのは私たちです!」
「いや、ウチが無理いって戦ったのがまずかったんや。ならウチが面倒見るのが筋ってもんやろ」
「恋、助けるの遅れたから……恋が一緒に寝る……」
「「「寝る!?」」」
もちろんそこは呂布だから所謂放送禁止の意味ではない、もちろん張遼も詫び以上の感情はないがそれを素直に受け止められる綾とかごめではない。ため息をはく賈駆をよそに今ここに三つ巴の戦いが始まったのであった。
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■後書き■
結構なスピードで編集投稿中。見直しておりますがミスがあったら報告お願いします。
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