No.451902

04 空気が“詠めません”。すずか様

秋宮のんさん

 魔術師基本智識禁忌鉄則

 一つ、土地守のいない龍脈を個人の所有物として扱ってもいいが、龍脈を利用し敵対行為はしてはいけない。
 一つ、土地守のいる龍脈に、管理者への挨拶無しに勝手な行動をしてはいけない。
 一つ、土地管理者の把握していない魔術的存在に対しての処遇は、発見者を監督責任者とし、土地内に罪科と言える物事を起こした場合、責任者に罪の追及を求む。

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2012-07-13 00:26:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1165   閲覧ユーザー数:1139

●月村家の和メイド 04

 

「来ましたか龍斗」

「ああ、……いつもの和メイドじゃないんだ?」

 龍斗は桃色の桜があしらわれた振袖に道着袴、お祭りとかで売っていそうな狐のお面を頭にひっ下げているカグヤを見て、笑みを見せます。

「義姉の遺品です。対魔力があるらしいので着てきました。ですのでカグヤの趣味ではありません。御面は認識阻害があるらしいので、接触に備えてです」

「そうなの? でもやっぱり可愛いよ」

「嬉しくありません……」

 カグヤと龍斗は今、ユーノが作った結界内にいます。今回はジュエルシードの気配が暴走前に感知できたので、カグヤが暇を貰って八束神社から霊装を漁っている時でしたので、結界が展開される前に現場に訪れる事が出来ました。なので、今は二人の少女が木の化け物と戦っているのを傍観する立場にあったりします。

「今回は白木の弓も持ってきていますし、準備は万全です」

「俺も、……こいつ持ってきたし」

 そう言って龍斗が腰に差している刀に視線を送ります。草薙ぎの剣のレプリカです。レプリカ、と言っても模造品と言う意味ではなく、劣化量産型と言うべきでしょうか? 本物の草薙の剣に比べれば見劣りしますが、それでも魔力を増幅してくれる貴重な霊装です。

「高いモノを持ってきましたね……」

「なぁ~~、これ一本で家が土地事一つ買えるって言うんだからなぁ~~」

 龍斗に恐ろしげな冗談を言われましたが、カグヤが持ってきた白木の弓も結構高い物なので他人事ではありません。

「土地の影響は?」

「今の所は大丈夫かな? まったく影響がないわけじゃないけど、この程度なら問題ない。制御できる範囲だ」

「そうですか……」

 化け木と戦う白と黒の少女を眺めつつ、カグヤはこれでいいのかと一度自分に問いかけます。その答えを自分に返そうとした時、まるでタイミングを見計らったように龍斗が質問を投げかけてきました。

「俺のやろうとしている事、やっぱり間違ってると思うか?」

「いいえ、思う通りにしてください」

 ちょうど良いのでカグヤは思うままに答えを返します。

「龍斗が間違っているかどうかなど、龍斗もカグヤも子供である以上判るわけがありません。判った気になっていたあの時のカグヤの方がどうかしていたのでしょう」

「そんな事はないと思うけど……」

「龍斗は龍斗の思う通りにしてください。カグヤは全力で援護しますから」

「カグヤ……?」

「龍落(りゅうらく)は既に突いておきました。いつでも龍脈の力、霊力を取り込む事が出来ます。必要な分だけ取り込んでください。取り込む量を間違えて勝手に暴発しないようにだけ注意を」

「いいのか? カグヤ」

「……カグヤは現実的な事しか言っていません。ですが龍斗は現実に理想を求めました。それは愚かだと言われるのかもしれません。カグヤもそう思いました。しかし、理想の無い現実に、価値などありません。それを教えてもらいましたから、だからカグヤは龍斗を全力でサポートします」

 もし理想が現実に無ければ、カグヤはすずか様に癒してもらう事はなく、すずか様もまた、カグヤでは癒える事はなかったのでしょうから、少しの理想くらい願ってもいいのだと思います。

「ありがとう、カグヤ」

「……好ましいですね、その呼び方」

「え?」

「いつの間にか『ちゃん』ではなくなっています。前よりは好ましい」

 多少は男扱いしてくれたような気がして気分が良いです。

「って、何故ここで顔を赤らめて照れたようにそっぽを向くんですか?」

「だ、だって女の子に『呼び捨てにされて嬉しい』なんて言われたら……」

「前言撤回……、何処まで行っても『残念』です。主にカグヤの身が……」

 涙が出そうな気がしましたが、泣きたくなかったので堪えました。ええ、堪えましたとも。それはもう力一杯堪えてなんとか欠伸程度に抑えましたよ。

 眺める先で、木の化け物を倒した白黒の二人がジュエルシードを封印。そして対峙しています。

「私が勝ったら、お話してくれる?」

「………」

 なのはの声が微かに聞こえた後、無言のフェイトが攻撃に転じます。それに合わせてなのはも杖を振り翳しました。

「龍斗」

「ああ、いつでも龍脈を―――!?」

 龍斗の返答は途中で途切れました。それは、恐らくカグヤと同じ理由だったと思われます。

 突然、土地内部に魔力反応。そして、激突寸前の少女達の間に何者かが出現したのです。

「ストップだ!!」

 そんな声を上げ、二人の攻撃を同時に防ぐ黒の少年。しかも見るからにこいつも魔術師の類ではないでしょうか?

「……ひくっ」

「ちょっとさすがにイラッと来るね」

 どうやらカグヤの内心は龍斗と同じだったようです。これで海鳴市の土地は無断に潜入を三回も行われたのです。これはさすがに東雲の者として関与できる度合いを超えに超えています。

「どうします?」

「待って、少し様子をみたい。幸い彼の乱入で龍脈の影響はないから―――」

 向こうに届くわけもないのですが、心持、カグヤ達は声をひそめて相談する途中、またもや少年の声が聞こえてきます。

「ここでの戦闘は危険すぎる。時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか」

 !

「時空……((管理局|・・・))だと?」

 つまり、それは……!?

「「組織介入……!?」」

 土地、それも大きな龍脈の流れる地は、それだけに『物の怪』を生み出す可能性が高く、逆に資源を裕福にする力があります。そのため龍脈の多く流れる地は、土地守という番人を付け、龍脈を守る必要があるのです。この龍脈に個人の魔術師が介入した場合、その目的た龍脈の利用、干渉であったなら、敵と看做し葬る。偶然、もしくは別の目的であった場合は、事情によっては土地内での魔法使用許可を、また制限付きの自由を与えてもいい事になっています。

 しかし、魔術師が龍脈に近づく際、最もやってはいけないタブーが三つ存在するのです。それは魔術師として学びを始める時に、必ず教えられる物の一つ。今でも教えられた文面を正確に思い出せます。

 

 一つ、心して魂に刻むべし。土地守のいる龍脈に『組織としての介入』をしてはいけない。また、管理者を指しおいた勝手な行動は『宣戦布告』と見なされる。

 

「これは今までと訳が違いますね……」

「カグヤ……サポート頼む!!」

 龍斗が地面を蹴り上げました。どうやら久しく見る本気モードのようです。龍脈の力を得て、反則級に身体能力を強化した脚力は凄まじく、こちらの返答をする暇がなかったほどです。まあ、返答は行動で示すつもりなので良いのですが。

 袖振りから四つの短刀を取り出し、それを自分を囲む様に周囲四カ所に突き刺し配置します。

「((座標固定|セット))―――」

 龍脈の力を集中的に自分に送るよう地脈に働きかけます。これでカグヤの周囲のみ、膨大な霊力が自由に扱える『霊力溜』が出来上がりました。本当はこれって諸刃の剣なんですよ。この上に居れば傷も治る魔力も常時回復と言い事尽くめですが、逆に相手に占領されると形勢不利になってとんでもない事になります。今回のカグヤの様に、龍斗をサポートするために後方支援であればこそ可能な戦術です。

「まずは二人とも武器を引くんだ。このまま戦闘行為を続けるなら……」

 依然、何か言っていた黒の少年、本人はクロノと名乗っていましたか? 彼はまだ気付いていないようですね。自分の後ろに回り込んだ龍斗の存在に……。

「誰の許可を得てそんな権利を振り翳す?」

「―――っ!?」

 少年が口を開く前に龍斗の一刀が少年を吹き飛ばし、近くの木に激突させます。

 龍斗、今手加減しましたね。龍脈の力を得ている状態なら、今の一撃で腕を薙ぎ払う事が出来たはずですよ。

 そう思ったのですが、龍斗の訝しむ様な表情を見て考えを改めます。

「あの速度を躱しましたか……」

 仮面を被る。いつでもカグがヤ龍斗の援護に周れるよう、こちらも切り札を一つ切っておきましょう。

「((八凪|やつなぎ))、((束|たば))を解きたもれば、神よ写せし鏡面の月。術式・((八咫鏡|ヤタノカガミ))」

 祝詞を読み上げ、術を発動。消費する魔力は自分の分では足りませんので、龍脈からくみ上げた霊力をふんだんに使わせてもらいます。手前に一つの鏡。そして龍斗のいる戦闘空間を中心に、取り囲むように七つの鏡が配置されます。

「龍斗、聞こえますか?」

『聞こえてるけど、いつの間に霊鳥飛ばしたの?』

「龍斗が飛び出したすぐです。八咫鏡を発動しました。龍脈の助けがあるとはいえ、これの発動時間は長くありません。敵勢力も一つとは限りませんので、早々に仕留めますよ」

『ああ、今回は理由が違い過ぎる。魔術師として戦うさ……』

 龍斗がそう宣言すると同時に、吹き飛ばされたクロノが立ち上がった様です。

 って、ちょっとこれは驚きですね……。殆ど無傷じゃないですか? 攻撃を避けたと言っても直撃を防いだだけでダメージが無いはずがないのですが、怪我らしい怪我が全く見当たりませんよ?

「一体君は何者だ!? それに今の攻撃、もし防ぎきれなかったら死んでいたところだぞ!? 管理局員に対する殺害未遂だ!」

 何を今さら……、さすがに腹立ちを覚えますよ、そのモノ言い。

「殺害未遂? そうだな。悪かった」

 龍斗は草薙ぎレプリカを構え直し、こちらにも聞こえるほどの大声で答えています。そもそも距離はそんなに離れてないんですよね。死角になるだけで。

「今度はちゃんと殺す!」

「!? それは管理局に対する宣戦布告と見なしていいんだな?」

「今更何を言っているんだ。宣戦布告をしたのはお前達だ」

「なに?」

「ここは東雲の預かる八束の龍脈、海鳴の土地。俺は土地守の管理責任者、東雲龍斗。その責任者に許可無く土地内部への侵入、および魔法の使用、更には最大のタブー『組織介入』。……もはやこれは言い逃れはできない!」

 龍斗が踏み出します。龍脈の力を借りた加速は正に神速。しかし大きすぎです。実力の弱さを単純な出力で補おうとした所為でしょうか、攻撃は空振り、クロノは上空へと逃れます。

「まあ、逃すはずもないんですが……。矢―――ッ!」

 短い祝詞を読み上げ、『矢鳴り』を鏡に向けて射ます。矢は鏡に吸い込まれると、別の鏡をゲートにして排出されます。その先はクロノの移動しようとした頭上。

「っ!? うわっ!?」

 避けられましたか。いえ、避けてもらって結構。元々飛ばれないための陣形ですし。

「く……っ!? もう一人いたのか」

「ええ、土地守は元々複数が基本ですから」

 霊鳥で向こう側に声を届かせながら『矢鳴り』の連続射撃。クロノの動きを悉く阻害します。既に配置された鏡に八方から射られては、さすがに対応しきれず時に防御をしているのが見えます。しかし、足を止めて良いんですか?

「((魔剣|ブレイド))―――!」

「なっ!?」

 ゾガンッ! と地面が大きく切り裂かれるほどの一撃が叩き込まれます。しかし矢を防御していて動きが固定された状態から、よく龍斗の一撃を躱せましたね? おっと、反撃はなしです。矢を射って止めます。

「待てっ! 君達は何か勘違いしていないか!? それに管理領地とはどう言う事だ!? 君達は管理局を知らないのか!?」

「質問が多いな、いい加減にしろよ」

「そうですね。タブーを犯した時点で話し合いも喧嘩も―――全ての勝手が許されません」

 声を送りつつ、矢を射り、こっそりジュエルシードを奪おうとしていたフェイトに警告を放ち、同時に逃げる準備をしていたデカイ犬(カグヤは初めて見ましたね? フェイトの使い魔でしょうか?)にも『動くな』と言う意味の牽制をかけておく。ついでになのはとユーノにも脅しを二、三発放っておいた。

「そうだ……、これはもう私情じゃ済まされない」

「そう、これはもはや事件ですら収められない」

 カグヤと龍斗の声が重なる。魔術師としての二人の顔が―――僕達の姿が浮き彫りとなります。

「「これはすでに戦争だ」」

 

 

 

??? view

 

「艦長……、これまずくないですか?」

「まずいわね……」

 時空管理局、アースラの艦長、リンディ・ハラオウンは、オペレーターの少女の言葉に二もなく同意した。まさか魔法技術がないと判断していた世界に魔導師が存在し、あまつさえ、その世界のルールのタブーを犯してしまったとなれば、これはかなりの問題行動だ。始末書などで済まされる事ではない。

 なんとか話し合いに持っていきたいところだが、それをする隙が見当たらない。

 クロノと闘っている少年は、先程から全力で魔力を解放して戦っているように見えるのに、いつまで経っても魔力切れどころか、衰えさえ見せていない。それを援護する弓使いの少女は、その存在している場所自体が異常だ。なんせ大地から噴き出す魔力に性質の近い謎のエネルギーが大量に溢れ、彼女の体に取り込まれている。恐らく少年の方も同じようにどこかから魔力を供給しているのだろうが、これは正直言って反則行為だ。

「無尽蔵魔力の使用だなんて……、どちらも子供だと言うのに、Sランクオーバー二人を相手にするのと同じじゃない……」

 特に、この二人にはそれぞれ厄介な部分があった。

 一つは少女が使っている矢を転送する鏡だ。アレは常にクロノの周囲に展開されていて、七つの鏡のいずれかから矢が飛び出してくるようになっている。あれではクロノの動きが制限されてしまう。ならば鏡を壊そうとして魔弾を撃っても、その魔弾も跳ね返されたり別の鏡から排出されたりと、結局意味がない。術者を攻撃すれば一番手っ取り早いが、それをさせないのが前衛の少年だ。この少年の厄介さは、接近戦に慣れているところだ。経験は薄いのだろうが、接近戦に於いてその才能はクロノ以上。明らかに圧され気味だ。

「かと言って、こちらの不手際で更に増援を呼んで―――って言うのはもっとまずいでしょうし……」

 幸いなのは、こちらが最初に観測した二人の魔導師の少女が、やはり弓の少女が放つ矢に阻まれ、一切の行動を禁じられている事だった。

「上手く落とし所を見つけて、全員から話を聞かせてもらえればいいんだけど……」

 事の重大さと難しさに、頭を悩ませるリンディ。しかし、戦闘状況を映すモニターを見て、一抹希望を見つける。

 弓を射る狐の仮面を被った少女に変化があった。明らかに疲労が出てきて肩で息をし始めている。それでも矢の正確さと援護のタイミングにまったくの狂いが出ないのは驚異的だったが、これは戦闘終了が近い事を予想させる。

「タイミングをはかって声をかけましょう。それでなんとかなればいいのだけど……」

 同じく息の上がってきた自分の息子を見つめて、彼女は好機を待つ。

 

 

カグヤ view

 

 ちょっ、龍斗!? なんですかあなた!? なんでそんなに飛ばしてるのに平気な顔で全力疾走できるんですか!? カグヤなんてもう限界近いんですよ!?

 いくら龍脈の霊力を供給しながら戦っているとはいえ、一度に人間が使用できる魔力には限界が存在します。銃だって、手入れも無しに撃ち続ければいつか銃身の方が壊れてしまうのと同じ、人間も休み無しに魔力を放出し続ける事はできないのです。

 それでもカグヤの場合は霊力溜に居ますし、身体の治癒も同時に行っているのでマシな方ではあるのです。あるはずなのです……。

「それがどうしてカグヤ以上に全力行動してバンバン魔力使ってる龍斗が平然として全力維持しているのでしょうね……?」

 やはり龍斗には才能あると思いますよ? これだけ魔力を放出し続けて平気と言う事は、元々龍斗にはそれだけの魔力を扱えるだけの器があるって事なんですから。

 まあ、今言う事ではないでしょう。それよりそろそろクライマックスにしてもらった方がよさそうです。ジュエルシードも回収せずに放っておいてる状た―――、あれ? ありませんね? ……って、なんと!? いつの間にか龍斗が回収しています!? あなたいつの間に回収したんです!? 最近の龍斗、かなり役立ちますね……、カグヤと大違いです……。

「え、ええっと……、すみません龍斗、もうこちらが限界なのでそろそろ決めましょう?」

 何だかこの提案がすごく情けない気がしてきます。足引っ張ってすみません……。

『解った……。((重装|フラクタル))―――((拡散斬激|クラスター))―――!』

 龍斗が拡散する斬激波動を撃ち、クロノの逃げ場所を消し去ります。広範囲攻撃に対して回避は不可能。よってどうしても防御に入るわけで、それは動きが止まったと言う事です。

「微動を禁ず、縛り((黙|もく))せや―――((縛|ばく))((矢|や))!」

 祝詞を読み上げ術式を構築。矢を放つ。

 鏡を通しクロノの背後から矢が排出される。

「!? おっと!」

 何と躱しました。龍斗の攻撃に当たって相殺するのを避けるため、攻撃の余波が止んでから射ったとはいえ、死角からの攻撃を避けるとは……、まあ、意味無いんですが。

 外れた矢は、待機させておいた別の鏡に吸い込まれ、再び別の鏡から排出。今度はクロノの側面、回避した方向に放ち―――直撃。矢が分散され、相手の体中に巻きつく蛇のように変換され、動きを封じます。これが縛矢。束縛の矢です。

「((魔剣|ブレイド))―――((全魔力装填|フルイグニッション))―――! ……((黒刃斬夢剣|こくばざんむけん))!!」

 刀に大量の魔力を乗せて放った斬激は、目にも止まらぬ三点同時斬激。それは光すらも引き離す故に、刃の軌跡が黒く目に映る。

 凄まじい爆音と共に、煙が上がる。直撃したクロノは悲鳴を上げる暇さえ無く、地面に落下した。どうやら終わりの様ですね。

 龍斗がゆっくり近づいてクロノに切っ先を向けます。しかし、クロノも倒れた状態でありながら杖を向けて来ました。根性ありますね。しかし……。

「「終わりだ」」

 魔術師二人の宣言。誰も避ける事の出来ない戦争の最初の犠牲者が生まれる。

「ダメェーーーーーーー!!」

 途端張り上げた声に龍斗の動きが止まりました。カグヤは咄嗟に声を出した本人に鏡を向け、いつでも射れるようにします。

「やめて! 傷つけないで!」

 そう言って駆けだしたのは『白の少女』高町なのはでした。カグヤはすぐさま矢を放ち、杖と両肩、両肘と膝を撃ち当て、その場に倒れさせると、更に地面に広がったスカートに矢を突きさし、地面に縫い止めます。動きを封じたところで三枚の鏡を彼女の周囲に配置。心臓、頭、喉の三か所を狙い矢を―――、

「撃つな!!」

「―――ッ!?」

 声に驚いて番えた矢鳴りを霧散させてしまいました。言葉に驚いたと言うより、その言葉を放った本人に驚いたのです。だってそれは、同じ魔術師の龍斗が叫んだのですから。

「彼女は敵としては認定していない! 撃っちゃだめだ!」

「……」

 正直半ば不服ではありますが、龍斗の言う通りでもあります。ここは矢を仕舞って、黒の少年の始末を優先―――、龍斗が刀を下げてしましました。

 龍斗~~~~~~~~~っ!?

『こちらの要求は三つだ。一つはこの土地への接近を組織事撤退する事。二つ目は二度とこの土地に近寄らない事。三つ目はその杖を置いて行ってもらう。色々調べたいしね』

 声が小さかったので霊鳥を使って拾いましたが、一体何を言ってるんですか? 土地に侵入した相手を五体満足で返していいわけがないでしょう!? これ以上上の連中に目を付けられるとあなたの御姉様が苦労しますよ!!

「龍斗! これ以上の勝手はよしなさい! 戦争に入った以上、情けをかけるのは―――」

『悪いけど黙ってくれ。じゃないとここで君の名前を出す』

「……」

 微妙に嫌な事を……。ここで始末できなかったら、すずか様に危険が及ぶではありません。

「しかし、その条件はいただけません。それに、その少年は組織の先兵程度の者でしょう? 長でもない者との取引は成立しません」

『それじゃあ、私の話しを聞いてもらえないかしら?』

 突然カグヤの側面に魔法陣が出現し、そこがモニターとなって女性の顔が映し出されました。霊鳥の映像を見るに、どうやら龍斗の方も同じモニターが出現しているようですね。

『誰です?』

『あなたの相方が御望みの、時空管理局アースラの艦長、リンディ・ハラオウンです。よろしければ話を聞いてくれるないかしら?』

「ずっと監視していた相手を誰が信じますか?」

 このタイミングでの通信はあまりにも都合が良すぎる。高みの見物をするような相手を信じてはいけない。そもそも本当にこの人が長なのかも怪しいところだ。

『そう言わずに話だけでもしてくれないかしら? こちらとしても今回の事は事故だったのよ。あなた達と抗戦の意思はないわ』

「人の領地で決してやってはいけないタブーを、魔術師として最初に教えられる禁じ公約をあっさり破った時点で戦争の宣告である事は明白。それを知らなかったなどと戯言を吐くおつもりでしょうか?」

『そこまで言われると言い難いのだけれど……、実はその通りだったりするのよ。だから話を―――』

「龍斗、どうやら僕達子供相手にまともな会話をする気が無いようです。やはり殺しましょう」

『待って! 私達はミッドチルダから来たの! だからあなた達の世界の常識を知らなかったのよ!』

「それが自分達の落ち度だと後悔してください。あなた達が犯したのは後戻りができなくなる故に『絶対』とされたタブーなのですから」

 矢を番え、クロノに鏡の一つを持っていき、彼の心臓目がけて射ろうとする。

『待て。カグ……』

「……~~~っ!」

 今、名前を呼ぼうとしましたね龍斗……、しかもわざと。

「まさか交渉するおつもりですか?」

『君の家をバラしてもいいんだよ?』

「……龍斗、それはあまりに酷すぎませんか?」

 それではカグヤだけでなく、月村の全員が危険に晒されてしまうではないですか。解っていて言っているのでしょう? それはあんまりと言うモノではないですか?

『ごめん……、でもお前相手じゃこれくらいしか止められる物が無いだろ? ここは俺にやらせてくれないか?』

「……あなたを信用できなくなりそうです」

『ごめん。……確かに言い過ぎだとは解ってるけど』

「……後で見返りでも貰うとしましょう」

 龍斗が悪い人間ではないと分かっているつもりです。ですが、ちょっとこれには傷つきました。まるで龍斗がカグヤの事を切り捨てようとしたみたいで……、友人として、今のはさすがに辛いと思いました……。

 ですが……、カグヤもまた龍斗の友人として、ここは信じなければいけないのでしょうね。

「日時と場所はこちらが指定させてもらいます。日時は明日の正午、場所は八束神社。そちらの交渉者はあなたを含め三名まで。こちらは僕と龍斗が御相手します」

『そっちの女の子達は?』

 視線を龍斗に送ります。っと言っても、霊鳥越しでは龍斗に伝わりませんが、たぶん放っておいても彼から提案するような気がしました。

『なのはは同行させます。えっと……』

 龍斗がフェイトに視線を送りましたが、彼女の方は後ずさっています。どうやら何も話す気が無い様ですね。龍斗は「彼女達は土地内での活動を黙認していますが、指示下にあるわけではありません。ですから個人の自由とさせていただきます」と言ってフェイトに笑いかけます。あっ、逃がすんですか、そうですか。

 龍斗の視線で逃げていいと悟ると、フェイトは犬の使い魔と一緒に立ち去ってしまいました。クロノが何か言って止めようとしていたみたいですが、カグヤの配置した鏡が正面に来た事で黙りました。……しかし、この鏡の発動時間がそろそろリミットなんですが。

『……、仕方ないわね。それでいいわ。それじゃあ、ウチの執務官は返してもらえますか?』

「僕としては人質に―――龍斗はどうします?」

『別にいらないと思うよ。今はね』

 なるほど、『今は』てすか。それならカグヤも納得です。

「では、詳しい話は明日。それと、武装は許さないのでそのおつもりで」

 

 

 話を終えたカグヤは、一足先に月村の家に帰りました。あまり長居してもやる事ありませんし、詳しい話は明日ですし。今夜もすずか様と御一緒する予定が既に入ってしまっていますので。

「また何かあったの?」

 そしてまた速攻でバレました。

「友人と喧嘩みたいな事を……、というか謝ってもらったのですが、どうも釈然としていないと言いますか、その時の嫌な気持ちを引きずっているような気分です」

 隠しても無駄だと分かっていますので即バラしました。

 すずか様、本当に勘が鋭いお方ですよ。

「仲直り、ちゃんとできる?」

「大丈夫ですよ。仲違いしたわけではありませんし、友人の気持が全て分からないわけではないのです……、そうですね……? 自分より早く大人になって、自分の道を歩もうとする姿に、焦りを覚えているのかもしれません」

「焦り?」

「ええ、最初は同じ場所に立っていたはずなのに、ふと気付くと先を行かれてしまっていて、それが何だか嫌で、怒ってしまったり悪口を言ってしまったりしているのかもしれません」

 同じ所にいたはずなのに、龍斗はドンドン心を育んでいく。それに対してカグヤは一体何を学んだのでしょう? カグヤが学んでいる事は龍斗に追いつけている事なのでしょうか? 友人であるからこそ、それがとてつもなく不安になるのかもしれません。

 そう思い悩んでいると、すずか様が突然クスリッと微笑まれた。

「何だかカグヤちゃん、そのお友達に嫉妬してるみたい」

「嫉妬……、ですか? これが?」

 楽しそうに笑うすずか様に、カグヤは大そう可笑しな顔を見せていたのかもしれません。すずか様は「きょとんとした顔してますよ」と言ってまた笑われた。すずか様が笑顔なのはよろしいですが、何だか妙な気分になりますね……。

「しかし、これが嫉妬だと言うなら、どうすれば良いのでしょう? まったく対処法が解りません」

「ん~~……? 嫉妬って求めているモノが手に入れば満足すると思うけど……? これはどうする事もできないよね?」

「そうですね。……ふむ」

 一つ思い出した事があったカグヤは、試しにすずか様の隣に座り方を引き寄せてみました。

「か、カグヤちゃん……!?」

「いえ、以前はこれで癒されたので」

「し、嫉妬が、私で癒えるの?」

「……結構心がすっとします」

 以外にも効果がありました。

「すずか様は心の万能薬なのですね」

「そ、そうかな……? でも、カグヤちゃんが嬉しいなら、よかった……かな?」

「……はい」

 そのままカグヤとすずか様は二人寄り添って寝所に付きました。最近二人で寝るのが定例化してきましたね。

 

 

「また狐と桜の着物なんだ」

 八束神社にて、管理局と高町なのはを待っていると、境内から出てきた龍斗に言われました。

「相手は組織です。カグヤが正体を晒すと月村の皆様に迷惑がかかります」

 仮面越しに睨んで言うと、龍斗は「やっぱり可愛いよね」と笑いかけてきました。怒っているのですが仮面越しには伝わらないと見えます。

「カグヤの……、いえ、僕の事は形式上『狐』とでも呼んでください。間違ってカグヤなどと御呼びしたら……、解っているでしょうね?」

「もう解ったって。機嫌直してくれよ」

「今回の交渉次第です。……御姉様は来ていらっしゃらないのですか?」

「来てるよ。でも向こうに非があるんだからこっちまで『本物』を見せてやる必要はない」

 言った傍から魔術師モードになって見せてくれますね。どうやら今度の内容は期待してもよさそうです。

「あ、なのは来た」

「こちらも来たようですね」

 石段から高町なのはとユーノが、境内では魔法陣が出現してリンディとクロノ、それからもう一人女の人が現れています。さて、揃ったところでこちらも色々始めましょうか。

「絶」

 人差し指と中指だけを立てる簡単な印を結び、短い祝詞によって結界魔法を発動。これでこの神社内は外部と完全な拒絶空間に入りました。誰も出る事も入る事もできません。龍脈も利用していますので、まず誰にも破る事が出来ないでしょうね。カグヤが自ら術式を解かない限り。

「さて、管理局の皆様方、御話の前にまずは武器の提出と、こちらの用意した服に着替えてもらいます」

 カグヤはそう言って、あらかじめ用意しておいた八束神社特性の拘束式巫女装束を差し出します。見た目はただの袴ですが、この服その物が術式として成り立っており、着た者の魔力を吸収して拘束する力があります。拘束と言っても身体を縛るのではなく、服の重量が軽く八十倍に跳ね上がるだけです。あと絶対脱げません。しかも当人の魔力を利用しているので魔法も使用できなくなります。故に別名『神社の囚人服』なとど異名があったりもします。

 これを作ったのが義姉様と龍斗の御姉様だと知った時は、何故こんなモノを? と戦慄したモノです。まあ今回は役に立ちましたけどね。

 先方は何か言いたげではありましたが、負い目がある以上従わないのであれば即戦争です。和平を求めているのなら逆らう事もないでしょう。

「白の少女には―――」

「いらないよ。そのままでいい」

「……まあ、良いですけどね」

 龍斗に止められたのでここは従う事にしましょう。実際彼女一人が暴れたところでどうこうできるわけありません。こちらには御姉様がいらっしゃいますからね。

 準備ができたところで中に入ってもらい、適当に御茶と御茶菓子を全員に配ります。

「えっと、狐? 別に君が全部やらなくても?」

「む?」

 そうでした。月村での癖でつい雑用を担当してしまいました。

 まあ、過ぎた事はどうでもいいですね。交渉へと入るとしましょう。

「まずは自己紹介と行こうか? 俺は東雲龍斗。ああ、東雲って言うのは本当の性じゃないんだけど、一応ここで魔術師としてはこれで通ってるんでよろしく。こっちの彼女は狐。ええっと……」

「狐と申します。龍斗の友にあたる東雲の関係者です。それ以上の詮索は不要に願います」

 龍斗がナチュラルに『彼女』と紹介したのでここは『女』として通す事にしましょう。顔隠しても女として認知されるのはどうかと言いたくもありますが……。誰も違和感を感じていないようですし、考えるのは止めましょう。

「ご丁寧にありがとう。改めて自己紹介させていただくわね。時空管理局巡察艦艦長のリンディ・ハラオウンです」

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ」

「同じく時空管理局執務官補佐のエイミィ・リミエッタで~す。よろしくね」

「高町なのはです」

「ユーノ・スクライアです」

 自己紹介が終わったところで議題に入ります。少々長い話しになるので割愛させていただき、とりあえず現状把握だけをまとめますと次のようになります。

 ジュエルシードを発掘したのはユーノの一族、スクライア家が係わったらしいです。

 ジュエルシードは全二十一個確認され、それを管理局へと輸送中、原因不明の事故により海鳴市に落ちたと言う何とも嫌な偶然があったそうです。

 ユーノはジュエルシードを単独で回収しようとしましたが力及ばず、結局高町なのはに協力を仰ぐ結果となったそうです。

「つまりそこのフェレットが一番悪いのではないですか? よくも危険物を海鳴にばら撒いてくれましたね? 土地守がいて、龍脈が安定していたから良いモノの、龍脈が乱れた場所にでも落ちれば災厄規模の『物の怪』が発生している所ですよ」

「モノノケ?」

「知らなくていい事です」

 クロノが質問を投げかけましたが一蹴します。相手が唸り、龍斗が「まあまあ」と宥めてきました。

「物の怪とは自然災害と思ってください。ここで一から説明してもたぶん理解できない」

 龍斗の言葉に仕方なく相手も頷きました。

 その後は管理局と言うモノが一体何なのかを向こうに説明してもらいました。

 まあ、要するにこことは違う異世界があって、その異世界間での交流を管理する組織。軍と警察が一つになった様な物だと理解すればよさそうです。

「大変無能な組織ですね。土地の魔術師に気付く事が無かったとは」

「だぁから狐!」

 カグヤの発言に苦笑いする面々。龍斗は相手の事を気遣っている所為か多少怒ってしまわれたようですね。そろそろ自重しましょう。話が進みませんし。

 話を戻し、現在ジュエルシードについての方針に話はシフトします。

 まずはジュエルシードがとても危険なものである事を説明されました。過去に何らかの目的で作られた遺産、それがロストロギア。ジュエルシードはその一部らしいですね。

「ジュエルシードは次元干渉型のエネルギー結晶体でね、いくつか集めて特定の方法で起動させれば、次元空間内に次元震を引き起こして、最悪次元断層さえ引き起こす危険な物なの。四日前には小規模ながら次元震も観測したし」

 エイミィさんが空中に魔力で作ったと思しき画面を展開し、四日前……あの龍脈を盛大に歪められた時の話をしてくれます。

 ……ああ、装束の効果ですが、今は特別に魔法の使用ができる様にしてあります。最初は展開しようとしてまったく魔力が使えず困っていたので、黙って束縛を緩めました。教えるつもりはありません。

「その日は僕達も相当な被害を受けました。ギリギリ龍脈への影響は抑えましたが、危うく災害級の『物の怪』が発生するところでしたし、無傷とは行きませんでしたよ」

「正直抑え込めたのは奇跡です。俺達としてもジュエルシードは早めに回収してもらいたい」

「どうやら私達の目的は同じようね。それなら一つ提案なんだけど?」

「なんです?」

 む、まさか後の事は自分達に任せて引いて欲しいとか言い出すのではないでしょうね? もしそうなら二度目のタブーですよ。

「ジュエルシードはとても危険なもの。扱いには細心の注意が必要です。それなら本来は私達管理局が全権を預かり、責任を持って回収。他の皆さんには元の生活に戻ってもらいましょう、っと言うところなのだけど……、続きがあるので、狐さん? その今抜こうとしている剣を仕舞ってくれないかしら?」

 話の途中で切りかかろうと思いましたが、何だか妙な言い回しだったので様子見として固まっていたら、これが思いの外威嚇になったらしいです。大人相手に多少怯えさせる事が出来たのは子供なりに優越感ですね。あまり良い傾向ではない気がしますが。

「だから君もその溢れる魔力を抑えてくれないか? 僕達が勝手に仕切ると言ってるわけじゃないんだ?」

「え? あれ? なんか勝手に魔力吹き出てる?」

 おや? 龍斗も案外切れておいででしたか。無意識で魔力解放がされています。

 傍においでの白の少女とフェレットが大変怯えていますが、まあ、ここは無視ですね。

「それで提案なんだけどね? 私達はジュエルシードを探す。土地での許可を受けた少数の者が現場で封印回収を行う。っと、言うのはどうかしら? 後は話に出てきた黒い少女、フェイトさんについてもこちらが調べておきます。もちろんそれらの情報はすべて開示するわ。どうかしら? 私達をこの土地での行動を許可していただけないかしら?」

 つまり協定って言う事らしいですね。管理局はジュエルシードの探索と、フェイト・テスタロッサの調査。こちらは土地内での行動許可とジュエルシードの現地封印。っと言ったところでしょうか? まあ、筋は通ってますね。しかし―――、

「「お断りします」」

「うわっ! 今度は二人がかりでっ!?」

 エイミィさんが驚いて声を上げていますが当然の事です。

「残念ですが、管理局は事前調査が疎かで、この世界の『絶対』にやってはいけない禁止事項(タブー)を既に犯しています。そんな相手に何の条件も無しに信頼して、探査だけとはいえ、行動の自由を与えるのは、他の土地守が黙っている訳がありません」

「これは間違いなく内紛や内戦の切欠に繋がると思われます。特に土地守とは言え、子供の僕達だけが勝手に決めたとあっては信用問題にもなります。あらゆる面で御前達の利しかなさ過ぎる。到底了承はできません」

 龍斗に続いて補足するようにバッサリ切ると、相手側は多少困ったような表情をするが、さすが大人、どうやらまだカードは出しつくしたわけではなさそうだ。

「そう、それなら余計な混乱を避けるために、こちらは情報収集と、封印時のみの協力、と言うのはどうかしら? 私達も管理局として無礼に対する謝罪と同時に、責任もある。ここでどっちかが退くと言うわけにはいかないでしょう?」

「僕としては知った事じゃない。っと言うところですが……」

 一応意見を述べたが、たぶん龍斗は違うだろうと思って視線を向ける。

「リンディさんの提案は悪くないですよ。ただ、それは言い訳としては成立しても、信頼と言う意味では結局子供の判断として切り捨てられてしまうんです。だから結局同意はできません。……落とし所としては間違っていないと思いますが、それでは足りないですし、そもそもその程度の協力ならスッパリ出て行ってもらった方が土地としては安心できる」

 おお、カグヤより深く踏み込んだ内容ですね。魔術師としてだけでなく、個人としても踏み込んだ、第三者的視点からの意見です。これは交渉として話す余地が出来ましたね。

「それじゃあ、どうすればいいの? この土地の人達は何をすれば信用してくれるの?」

 ちょっと頭が痛そうにエイミィさん質問を投げかけます。これに対しては多少難しいですね。納得させる方法はありますが、それには色々覚悟してもらわないとですね。

「……えぇ~~っと」

「おや? どうしました龍斗? 条件を述べないのですか?」

「え!? いや、だって……! ほ、他に方法はないかなって?」

「はい? いえ、良いでしょう? 別に可笑しな条件でもありませんし、普通のモノを述べればいいでしょうに?」

「ああ~~、いや……、そのさ? なんと言うか……、ここ女の人率高いから?」

「……すみません龍斗、本気で解らないのですが?」

 シリアスな状況から突然始まったコントに、周りの全員が混乱しているのですが、どうしたモノでしょう? 龍斗は一向に口ごもっていますし。……仕方ありませんカグヤが代わりに言う事にしましょうか。

「要するに信頼の証としてこちらが望んでいるモノを渡していただきたいと言う事です。もし裏切れば、それなりの対価を払う事になると言う意味で」

「つまり、人質と言う事か……」

 険しい顔をするクロノに、カグヤは首を振って訂正します。

「いえ、苗床です」

 おや? 急に周囲との温度差が出来ましたよ? もしかして遠回し過ぎて意味が伝わりにくかったでしょうか?

「つまり母体を預けて欲しいのです」

 おやおや? 更に温度差が開きましたよ? しかも今度はなのはの方まで凍りついていますね。これはどうした事でしょう? まだ意味が伝わり難いのでしょうか?

「平たく行って女を差し出せと―――」

「もういいから狐は口閉じて!!」

 何故か真っ赤な顔をした龍斗が仮面越しにカグヤの口を押さえます。

 なんでしょう? 何か問題があったのでしょうか?

 心なしか皆さん顔がドンドン赤くなっていきます。一体何が起きていると言うのでしょうか?

「え、ええぇえ、えっと……、それってつまり、……お嫁さんを差し出せって事?」

「もっと正確には子供を産ませるための女を―――」

「正確に説明すんなぁーーー!!」

 なのはの質問に答えようとしたのですが、これもまた龍斗に押さえられて止められました。だから何がいけないと言うのですか!?

「龍斗お願いです。何がいけないのかはっきり申してください。そうでないと何がいけないのか解りません。むしろ注意が不愉快でしかありません」

「それをはっきり言えないから困ってるんだよ! 空気を察しなよ!」

「空気ですか……?」

 なんだか難しい内容ですね……。龍斗はそれを解っていると言う事でしょうか? っと言うよりこの状況、どうやら空気とやらが解らないのはカグヤだけの様です。これは困りました……。

「まあどの道、条件は提示しないといけないのですから、ここはむしろ『空気』を無視する方向で行きましょう。女を要求する理由は単純で、もし約束を破ったらその女性を○○して、魔術師の子供を作らせるためだからです。人質となった女性は苗床と言って一生○○され続け、魔術師の子供を大量に作る役目を強制される事になります」

「うわ~~~~~!? AKY(敢えて空気読まない)にも程があるだろう!! もう会議って雰囲気じゃなくなってるよ!? どうしてこんな内容を恥も無くスラスラと口にしちゃうの!? いつも思ってたけどカグ―――狐はもっと女の子としての自覚もてよ!!」

 危うく名前を呼ばれそうなほど怒られてしまいました。そんな事言われても結局言わなければいけないんですし、何をどう恥しがれと言うのでしょう?

「この子は……、今初めてこの子達が子供だと言う自覚が持てたわ……」

 リンディさんが何やら頭を抱えて呟いていますが、一体何だと言うのでしょう?

 しばらく場が落ち着くまでカグヤは黙っているように言われ、数分後に話が再開されました。

「言いたい事は解りました。つまり約束を破らない為に人質となる女性を差し出し、約束を守れば返していただけると言う事かしら?」

「はい。後、今回はタブーの件がありますから、相手は強制的に位の高い人、この場合はリンディさんになってしまうんですが」

「なっ!?」

 その言葉に何故かリンディさんではなく、クロノの方が驚きの声を上げました。

「構いませんよ」

「母さ―――いえ、艦長!」

「ああ、母親でしたか……、それは大変都合―――」

「ちょっともう少し黙ってようか狐?」

 叱られてしまいました。……しゅんっ、

「まあ安心してください。俺個人としては信頼していますから拘束はしません。ただ念のため形式上、全てのジュエルシードがこの土地から無くなるまではここにいてもらいますが、基本外部との連絡も許します。でも、何があっても指定された場所から出ないでください。その時点で契約違反になりますから」

「解りました……。私もあなた達を信じて従うとしましょう」

 かくして、管理局側は土地内のジュエルシード探索および、フェイト・テスタロッサの身辺調査。東雲は土地内での現地ジュエルシード封印を行う事になった。

 これらについて、高町なのはには抜けてもらっても構わないと言う話も上がったが、どうやら本人達が今更抜けるつもりが無いのと、フェイトに関して思うところがあるらしく東雲の協力者として、封印に参加する事となった。当面はアースラにいた方が都合が良いので、そちらに移るそうです。

「もう喋っていい?」

「そんな寂しそうな声出さないでよ。もういいから」

 ほっ、やっとカグヤも解禁してもらったようですね。

 そんな風に胸を撫で下ろして、そろそろすずか様の元に帰らないとと思い、終了の提案をしようとした時です。クロノが思い出したようにユーノに告げました。

「君も、さすがにアースラでは元の姿でいてもいいんだぞ? それが本当の姿と言うわけじゃないんだろう?」

「え? ああ、そうか! いつもこの姿でいたから……」

 は? 何でしょう? 東雲組みが疑問符を頭に浮かべていると、突然フェレットが光に包まれ、あっと言う間にカグヤ達と同じくらいの少年になってしまいました。

「ふぅ……、なのはにこの姿を見せるのは久し振りになるのかな?」

 そうなんですか?

 ……固まっていますよ?

「ゆ、ゆゆ、ユーノくんって!? ユーノくんって―――!?」

「フェレットじゃなかったのか!?」

「……っと、二人が大変驚いておいでですが?」

 なのはと龍斗が慌てる中、カグヤが本人に問いかけます。

「え、ええっとなのは? 初めて会ったときって、僕はこの姿じゃ……?」

「ち、違うよ! 最初からフェレットさんだったよ!」

「え? ん~~~~……、あっ! ああ! そうだったそうだった!」

「だよね! だよね~~!」

「……って言うかユーノ? お前温泉の時女湯に行きかけてたよな?」

「え? 龍斗!? あ、アレは未遂だったじゃないか!? ちゃんと僕も君と一緒の方に入っただろ!?」

「そうだけどさ……、あれ、俺が何も言わなかったらもしかして……」

「なんだよその目は!? そう言う龍斗なんかフェレットでもないの誘われてたじゃないか!?」

「お、俺は断ったから良いんだよ!!」

「じゃあ、僕だって未遂なんだから良いだろ!!」

「何の話しで白熱してるんですかあなた達は……」

 思わず溜息を吐くカグヤですが、この争いはしばらく終わりそうにありません。

 何を言っても無駄そうだったので、カグヤは皆様に解散の意図を伝えて勝手に帰る事としました。

 ……ん? ああ、こう言う事ですか、空気を読むと言うのは。

 カグヤ『空気を読む』の意味を知りました。

 ……つまらない事を覚えましたね。

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

カグヤ「いつになれば男として見てもらえるのか………」

龍斗「だからカグヤちゃんはカグヤちゃんだろ?」

ファリン「カグヤちゃんは性別『秀吉』ですか………?」

龍斗「は?」

カグヤ「すみません、全く意味がわからないのですが?」

 

 

 

感想あればお待ちしております


 
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