~奏side~
ふと目を覚ます。
もしかしたら隣にいるはずの彼が消えているかもしれない恐怖に襲われて…。
しかし、隣には愛して止まない彼の姿が確りとあった。
気持ち良さそうに寝息をたてている。
「良かった…。 お頭…あたいは何があってもお頭の傍に居続けるからな…。 …ちゅ…。」
額に口付けをして彼の腕枕に頭を乗せる。
彼は一瞬笑ったように見えたが、どうも気のせいのようだ…。
「こんな幸せがあっていいのかね…こんな乱世に…。」
そう思いもするが、今はこの幸せに浸っていたい…。
私は再び夢の世界へと旅立つのだった。
さて、どうしてこうなったかというと、前日の夕方に遡る。
私はその日、賊の討伐の命を孫堅様から受けて遠征に行っていた。
相手は賊。数は多くとも孫家の精兵に適うはずも無く、賊討伐は予定よりも早く終わった。
私はその報告を孫堅様にするため、玉座の間に来ている。
「…というわけで賊討伐は成功、こちらの被害は負傷者数名程度です。」
「そう、ご苦労だったわね、凌統。」
「ありがとうございます。」
「はぁ~…。まったく、聖のところは優秀な将が多くて良いこと…。」
「もったいなきお言葉にございます。それに孫堅様のところにも優秀な将ならいるではないですか。」
「将の数はいても、その質の点ではなかなか困ったものなのよ…。」
「孫策様や黄蓋様など質の高い将はいると思いますが…。」
「こと武に関しては…。我が呉には優秀な文官が少なくてね…。めいr…周瑜にまかせっきりなのよ…。このままだとあいつが倒れてしまうぐらいに…。今は、あなたのとこの徐庶が手伝ってくれているから良いものの…。問題は山積みよ…。」
「成程…。そう言えば諸葛瑾殿はどうなのですか?あの子も文官だったはずですが…。」
「あぁ~あの子も良く働いてくれているわね。でも、あの子は孫呉の将にはならないだろうから…。」
「?? どうしてです?あの子は孫堅様に仕えるために来たはずですが…。」
「最初はそうみたいね…。でも、今は仕える主を迷ってるように見えるわ…。」
「じゃあ、あの子は他に行ってしまうということですか…。なんだかちょっと寂しいですね。」
「私は…ね。」
「??」
「あらっ?気付いてないの?? あの子は私か聖かで悩んでるのよ?」
「!!?? そうなのですか!!」
「あぁ、どうもそうみたいね…。呉の王として君臨している私につくか、まだ小規模勢力ながら何かやってくれそうな聖か…まぁそれ以外にも理由はありそうだけど…。」
「…と言いますと…。」
「どうもあの子、聖のことを好きになったみたいで…。」
「なっ!!」
「なんでも今は、聖に先生役をお願いして、兵法などの授業を受けているんだって。 …ふたりきりでね♪」
「!!!!」
「あらあら、気になっちゃう?」
「…別にあたいはそんなこと…。」
「う~ん、もっとはっきりとした方があなたのためよ…。あなた聖のこと好きなんでしょ?」
「くぁzwせxdrc!!!」
「見てれば分かるわよ。徐庶といいあなたといい諸葛瑾といい、聖の話をするときは目が輝いているからね…。」
「…。( ///)」
「はぁ~。罪な男よね~聖も。三人の女を誑かせておいて自分は気付いてないなんて…。」
「それについては同感です。あの鈍感さと天性の女たらしはどうにもならないようで…。」
「ふふふっ。でも、ちゃんと気付いてるときもあるのよね。まぁ、そこ等辺も聖の魅力の一つなんだからしょうがないわね…。惚れた女の弱みって奴かしら?」
「そうかも…しれないですね。」
「あ~あ。私も呉の王じゃなかったら聖に告白するのにな~…。」
「えっ!!」
「こういうのは早い者勝ちよ♪ あなたもグズグズしてると諸葛瑾に遅れを取るわよ?」
「でっでも、お頭とは…その…。」
「徐庶だってしたんでしょ?だったら大丈夫でしょうが、何をそんなに怖気づいてるのかしら…。」
「告白して…お頭に断られたら…あたいはどうすればいいのか…。その後が気まずいってのは嫌で…。」
「告白と言うのは、自分の思いを思いっきりぶつければ良いの。その思いの丈を全て…ね。そうすれば、必ず相手の心に届くわ。…聖なら断るなんてことはしないと思うし、愛してくれると思うわよ? 英雄は色を好むからね♪」
「は…はぁ…。」
「善は急げね!! 今日の夜、聖のとこに行って告白してきなさい!!」
「えぇ~!!!!」
「ふふふっ。“報告”楽しみにしてるわね♪」
とまぁ、こういう会話を孫堅様と繰り広げ、断るに断れられなくなり……私は、今部屋で悩んでいる…。
「お頭はあたいのことをどう思ってくれてるのかな…。」
旅の仲間…と言うのは嫌だ、私は…私は…。
「何になりたいって言うんだろうね…。」
―――――――――
今私は、着替えて彼の部屋の前にいる。
彼が、私のためだけに買ってくれた服。彼はこれを、似合ってると言ってくれるかな…。
胸のドキドキが止まらない…顔が上気した様に熱い…。緊張で汗ばむ体…。
たった一歩、後一歩踏み出せば、部屋の扉に手が届くのに…その一歩がなかなか踏み出せない…。
「やっぱり、明日にしようかな…。そうだよ!! 今日はお頭も疲れてるかもしれないし、また明日に…。」
その時になって孫堅様の言葉が脳裏を掠める。
「(…グズグズしてると諸葛瑾に先を越されるわよ…先を越されるわよ…越されるわよ…。)」
「嫌だ!!そんなの絶対嫌だ!!」
お頭と会ったのは私の方が先だ!! そして、私の方が先にお頭を好きになって…だから私の方が先じゃないといけないんだ!!
…私は意を決して一歩前に踏み出し、扉に手を掛ける。が、それより一瞬早く扉が開く。
「ん!?なんだ、奏か…。脅かすなよ…。」
「へっ!! おっお頭!!! 何で突然扉を開けるんだよ!!」
「だって…なんか声が廊下から聞こえたから…何事かと思って…。」
どうやら、先ほど思っていたことが口に出ていたらしい。
「それより、どうしたんだ奏? 何か用事か? まぁここじゃなんだし、とにかく入りな。」
「…はいっ、お邪魔します。」
「ははっ、お邪魔されます。」
部屋に入ると書簡が詰まれた机が見える。どうやら政務をしていたらしい。
「お頭はまだ仕事中なのか??」
「いやっ、あれは明日分になるだろう物を先にやってるだけだよ。今日分はもう終わってるかな。で、どうした?何か悩み事か??」
「…実は…私…の友達にこっ恋で悩んでる奴がいるんだけど…。そいつに相談されてどうしようかと思ってたんだ…。」
「へぇ~。因みにどんな奴なんだ?その恋してる奴とその相手ってのは。」
「…相手は、そいつなんかよりも立場がはるかに上で…格好良いから多くの女性から好かれていて…でもそれに気付いてなくて…そんなところも、実は魅力の一つって言う感じの男の人だよ…。でも、その相手に対して、本人は可愛くもなくて…素直になれなくて…自分に自信も持てなくて…。ただずっと傍に居たいのに…告白も出来ないような残念な女なんだ…。」
友達と言ってしまったが間違いなく自分の話。お頭は何て答えるのかな…。
「成程…。俺は告白をさっさとして欲しいと思うけどね…。」
「どうして…??」
「だって好きなんだろ、そいつのことを友達は…。立場や見た目とかそんなのは恋愛には必要じゃないんだよ…。必要なのはそいつのことを好きだという情熱だけだろ? だったら早く告白しなきゃ他の人に取られるかもしれないじゃん!! だったらはやk…!!」
私はお頭に抱きつく。
お頭の言葉に勇気付けられた…。流石お頭だね…。
「もう良いよ…お頭…。あたいは決意が固まった…。お頭…あたいはお頭の事大好きだよ…。心の底から、誰にも負けないくらい…。」
「奏…。ありがとう。俺も好きだよ奏の事、それこそ誰にも負けないくらい…。」
自然に二人の顔は上がり、唇同士が重なる。熱い熱い口付け、お互いの気持ちをぶつけるように…。
「奏、俺は嬉しいよ…。奏が俺をこんなに好きでいてくれたなんて…。」
「あたいも嬉しいよ…。お頭にこの気持ちを伝えることが出来て…。」
「そういえば、奏。よく似合ってるよその服。」
「そっそうかい( ///)」
「あぁ~。眩しいぐらいだ…。」
「ありがとなお頭…。あたいにこんな服をくれて。」
「俺は似合うと思ったから買ったんだよ。そしたら想像以上に似合ってたってだけだよ。 …そうだ!! そういえば奏に贈り物があるんだ。」
「贈り物??」
「あぁ、これなんだが…。」
そこには、綺麗に装飾された可愛らしい腕飾り。
銀色を基調とした色使いで、赤い薔薇と緑の蔦、日の赤と海の青とを対比させた意匠に、私は完全に心を奪われた。
「喜んでもらえたかな??」
「あぁ。お頭…。これ綺麗だな…。」
「喜んでくれたようで何よりだよ…。」
「…お頭。あたいは、これからもずっとお頭の傍に居ていいんだよな…。」
「あぁ。もし離れるって言っても俺が近くに寄ってやる。離れることになっても直ぐに追いかけてやる。」
「ふふふっ。嬉しいよ…。」
私はこの後、お頭とその…あの…し…してしまったわけだ…。
その結果が冒頭…。あたいは幸せ者だね…。
私の右腕につけられた腕輪が、きらりと淡く光るのだった…。
~聖side~
ある日、朝議終了後に蓮音様に呼ばれる。
「聖!! 悪いんだけど後で部屋に来てもらえる? ちょっと話したいことがあるの。」
「分かりました。じゃあ二刻後くらいに伺いますね。」
「そうして頂戴。」
そう言うと蓮音様は軍師たちのもとへと行き、なにやら深刻な話をしている。
まぁ、その場に居てもしょうがない俺は、部屋へと戻ると机の上の書簡に目を通し始める。
なになに…。『農地規模の関係で、貧富の差が大きくなっています。貧しい私たちでは、今年の年貢も納めれるかという状態です。何とかなりませんか?』っと…。
う~ん、農地の広さの差か…。金持ちが土地を多く持っているというのは結構当たり前だしな…。だからと言って、貧しい人たちが貧困にあえぐのをただ見ているだけってのはありえないよな…。
どうせならいっその事、政府で土地を全て買い占めて、農民たちに一定料金で貸し出すっていう仕組みのほうがいいかもな…。班田収授法だっけ…?? 蓮音様に提言してみるか。
さて、次は…。『ここ最近盗賊が増えていて、安心して旅が出来ない!! どうにかしてくれ。』っと。
う~んまぁ、ここは軍部に話をして、出来るなら国境くらいまで警護兵を出すとかした方がいいかもな。これも蓮音様に聞いてみるか…。
次は…ん?? これは民からの意見書か…。
なになに…。『実は、団子屋の看板娘の子を好きになっちまったんだが、どうすることも出来ずにいる。なにかいい案は無いか?』…。
う~ん…。団子屋の看板娘ってことはあの子か…。あの子は町でも人気の子だからな~…。
『高倍率必死だね。まぁ恋は焦らずじっくり行けよ…。』っと。これで良いか…。
さて次は…。『私は団子屋で看板娘をしているんですが、実は好きな人が出来たんです。…が、その人は急に姿を現したと思ったら、私を救って直ぐに消えてしまいました。どうにかその人を探したいのですが…。』…。
う~ん…。そんな奴を探すのはなかなか容易じゃないんだけどな…。
というかその前の奴、乙!! お前に春は来なさそうだ…。
『待っていればきっとまた会えますよ。』…っと。
そんなこんなで書簡を片付けていたら、いつの間にか三刻程経っていた。
俺は、一時中断して蓮音様の部屋へと向かう。扉の前でノックして相手の所在を確認してから部屋へと入る。
「もう!! 聖遅いじゃない!!」
「ごめんなさい。ちょっと仕事を片付けてたら…。」
「仕事よりも王様の用事のほうが大事なのよ!!」
「まぁ…胸に刻んどきますんで許してください。」
「まぁいいわ。でね、話っていうのは…。」
「はい、なんでしょうか?」
「あなたも色を好むのかしら?」
「…へっ??」
「英雄色を好むって言うじゃない。だからあなたも色を好むんだろうなって思ったの。」
「いや、流石にそれは…。」
「でも、徐庶と凌統は抱いたのよね??」
「ぶふっ!!! なっっなんでそれを…!!」
「あらっ、カマをかけたら見事にかかったわ。」
「…勘弁してくださいよ…。」
「まぁ、凌統が腕輪をしてたから、そうなんだろうなと思ったのよ♪ それに英雄なら仕方ないわね。」
「はぁ~…。で、それで話は終わりですか??」
「いえっ、これはあくまで雑談よ。本題はここから。」
「じゃあ本題から始めてくださいよ…。」
「まぁ面白かったんだし良いでしょ?」
「良くないわ!!」
「ふふふっ、さて真面目な話ね。」
「はい。」
「実は、私の遺書と思いを受け継いで欲しいの。」
「えっ!!!」
「実はね…―――――――――――――――――。」
「……。」
「分かってもらえたかしら?」
「はい、まぁ一応は…。」
「よろしく頼むわね。」
「でも、俺には荷が重過ぎます。どうして俺にこんなことを…。」
「あなたを信頼してるから!!」
「……。」
「あなたなら、きっとこの役をやりきってくれる。私にはそう思えるの…。」
「分かりました…。全力でやらせていただきます。ただ…。」
「ただ…?」
「簡単に死ぬなんて言わないでください。蓮音様はもっと生きて、もっと世界を良くしていかないといけない使命があるんですから。」
「ふふふっ、そうね…。あなた自身はどう思うの?」
「えっ!?」
「あなた自身は、私が死んだらどう思うって聞いたのよ。」
「俺は…。悲しいです。せっかくこうして同盟も結んでこれからって時に亡くなられたら…。」
「それだけ??」
「…こんな素敵な人が、亡くなるのを見てることなんて出来ません…。」
「ふふっ、ありがとね。そんな事言われたら、おちおち寝てなんていられないわね…。」
「どうにかならないんですか?」
「……どうにもならないからお願いしたんじゃない。じゃあ聖、頼んだわよ。」
「…はい。」
こうして、俺は蓮音様と大切な約束を結んだ…。
その後を心配した蓮音様との約束…。絶対に守ってやる!!!
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今話では、諸葛瑾の真名『橙里』がようやく出てきましたね。
諸葛亮の『朱里』と関連付けての『橙里』…。ちょっと安直過ぎますかね…??
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