No.451297 リリカルなのは×デビルサバイバーbladeさん 2012-07-11 22:56:22 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:2304 閲覧ユーザー数:2244 |
都心郊外を、一人の少年が歩いていた。
一見すれば、何処にでもいそうなただの少年だが、一つ変わっているものがあるとすれば、その頭に着けているヘッドフォンだろうか? まるで、猫の耳のような形をしている。
ヘッドフォンから流れる音楽を聞きながら、少年――天音カイトは歩いていた。
ちなみに今の時間は平日の昼間であることから、学校をサボっていることがわかる。
とはいえ、わざわざそのことを注意するような大人は、今の時代には存在せず、カイトは周りの視線も気にせずに意気揚々と歩いている。
一瞬だが強風がカイトを襲い、その風で一枚の紙がカイトの方に飛んできた。カイトはそれを反射的に掴み取り、何の気なしにその紙に書いてある内容を読んだ。
『人々の心、未だ癒えず。東京封鎖の謎に迫る!!』
その紙……いや、新聞にはそう書かれてあった。
カイトは新聞の記事に興味が湧き、更に読んでいく、東京封鎖の被害者達が封鎖内で何が起きたのかを、事細かく書かれていた。
当然新聞には、インタビューした人間の意見も書かれている。
『東京封鎖という事件は、表向きには解決したといえるだろう。だが、封鎖内で被害者達が負った心の傷は、未だ癒えていないのだ』
なんともご立派な意見ではあるのだが、その文面を読んだ時、カイトは笑いを堪えることが出来なかった。
半年前に起きた東京封鎖での戦い。
世間一般では毒ガスのせいとされ、そこで起きたことは、毒ガスによる幻覚症状だ。というのが、政府の見解であり、社会での表の真実だ。
なるほど、説得力等はともかくとして、そう言われれば、裏の真実を知らぬ者達は、「なるほど」と納得するかもしれない。
だが、実際の所は違う。
真実はベルの王と呼ばれる者達の、王位決定戦であり、カイト……人の世のベルと呼ばれる事になる彼もまた、その戦いの渦の中に巻き込まれる事になった。
悪魔・天使、そして人。
様々な者達を巻き込んだあの戦いで、色々とあったが今はもう、命を掛けた戦い無い、平和な時代へと戻っていた。
しかし真実を知るものとして、この新聞を見ると、色々と思うことがあるのも真実だ。
「……結局被害者たちの、言葉なんて信じてないくせにさ」
カイトは新聞をくしゃくしゃに丸める、近くにあったゴミ箱に投げ入れた。丸めた新聞が音を立ててゴミ箱に入ったのを確認すると、一度ため息をついてから、カイトは再び歩き出した。
* * *
喫茶翠屋。
妙齢の未亡人(しかもとびっきりの美人)が経営する店ということと、この店が出すデザートが絶品ということもあり、この店には男女問わず、かなりの客がはいっている。
カイトは翠屋へと入ると、周りを見渡す。
ここに、カイトを呼んだ女性が居るのだが、男女が多い店(つまりは、カップル)で、キョロキョロと周りを見ている少年はかなり目立っている。
少々居心地の悪さを感じていると、一人の女性がカイトの方に手を振り、声を掛けた。
「あっ、カイトくん! こっちよ!」
その声の主は、長い髪を後ろで束ね、中々に鋭い目付きをしている、その女性の名を東海林といった。
彼女もまた東京封鎖の被害者であり、封鎖内の真実に最も近くにいる、一般人であると言える。
カイトは東海林の方へ歩み、同じ席に座った。
「こんにちは、カイトくん」
「こんにちは、東海林さん」
「はい、これ。ここの店のメニューよ。ここは私のおごりでいいから、好きなものを頼んで良いわよ?」
カイトは頷くと、メニューに目を通す。
誰もが知っているショートケーキから、聞いたことのないような、よくわからんデザートまで幅広く取り揃えている。
とはいえ、そんな分からんメニューを頼むほど、カイトは好奇心旺盛ではないので、普通にチーズケーキと紅茶を頼んだ。
「それにしても、やっぱり若い子達が、いっぱい居るわねー。あ、私もまだまだ若いけどね」
東海林は周りを見渡しながら言う。
なるほど、確かに東海林の言うとおり比較的若い女性が多く、普通の男性であれば、喜ぶ状況であるかもしれない。だが、カイトにとってそんな事はどうでも良く、さっさと本題へ移る為に、話しかける。
「それで、話ってなんですか?」
「えぇ。この前言ったでしょ? 私の記事が上で握り潰されたって」
先ほどまでとは違う、暗い声で東海林は言う。
彼女がこうまでして、真実を伝えようとするのには、理由がある。彼女の先輩に当たる人物が、東京封鎖の件で死んでしまったのだ。それも、真実に近づいたという理由で、だ。
その他にも、色々と理由はあるのだろうが、恐らく彼女を突き動かす、信念に当たるものが、先の理由なのだろう。
「聞きましたよ。予想通り、といった所ですけどね」
東京封鎖の真実の一端には、日本政府が関わっている。この真実が明らかになれば、政権が変わる等というレベルではなく、ストライキというレベルでもなく、暴動…もしくはそれ以上にひどい事が起きる可能性がある。
そんな記事を載せることを政府は当然よしとしない。だから握りつぶす。もやもやとしたものはあるが、平和を保つためには、仕方ない事かもしれない。
「だからその結果報告というやつよ。インタビューした者の責任ってやつね」
「そのぐらいメールで良いですよ。気にしてないし」
「私が気にするのよ。それに、これからの事も気になるし…ね」
「これからですか」
東京封鎖が終わり、そこから脱出した人は何パターンかの、反応に分かれる。
例えば、悪魔使いとなったものは、純粋に肉体能力が上がり、様々なスポーツの分野で活躍しているケースや、普通の生活に戻るというケース、 東京封鎖の真実を訴えかけるもの(彼らの行動は、毒ガスを吸って、幻覚を見たからだ。というのが、世間の反応)
未だ心が癒えず病んでしまっているもの。
ちなみに東海林は真実を訴える者であり、カイトは日常に戻り、惰性に生きる者だ。
「でも、変わったことをするつもりはないですよ。だって、そんな事をする気力すら湧かない状況だし」
「気持ちはわかる……とは、簡単には言えないわね。でもきっと、周りがあなたをそのままにすることはない。何故なら貴方は、ベルの王なのだから」
「それは、嫌ってほどわかってますよ」
カイトはポケットからCOMPを取り出す。
今はもう、役に立たいCOMP。けれど、カイトが何かを成したという証拠であり、一つのお守りのような物となっている。
「何時も持ってるのね?」
「俺が、何かを成し遂げた証ですから」
「悪魔召喚の端末がお守りね。ぴったりなような、そうでないような」
お互い苦笑いしつつ、カイトはCOMPをしまった。
「というわけで、何かが起これば行動しますけど、今は……ちょっと」
「そう、それじゃまた何かあれば、伝えることにするわね」
「お願いします」
話が終わったと同時に、カイトと東海林の前に注文したものが並べられる。
どうやら、カイトと同時に運んでくれ、と東海林が前もって言っておいたのだろう。
「それじゃ、辛気臭い話は終わりにして食べましょうか?」
「ですね」
お互い、頼んだケーキを一口食べる。
「おぉ! 美味い……」
「知り合いから聞いてはいたけど……予想以上ね。ヤングな子達がいっぱい居るって聴いて、私は場違いかしら? って思ってたけど、普通にリピーターになりそうよ」
頼んだ紅茶も、香りが強すぎることもなく、むしろ心地よささえ感じる。
「やばい、俺もはまりそうだ……」
「仕事がなければ……っ!! いえ、お金があれば毎日来ることも考えるわね……」
「太りそうですけどねー!」
「それは、言わないお約束。というやつよ?」
しばらく二人で談笑しつつ、十五分程経ってから二人は喫茶店の前で別れた。
* * *
「そういえば、新曲の発売日だっけか…」
D-VAというグループがある。
東京封鎖で初めて聴いて以来、カイトはCDを買おうと決めるほど、そのグループを……いや、正しくはボーカルとして歌っている女性を、カイトは気に入っていた。
「…ん?」
自身のポケットから、アラームのような音がなっている事に気づき、最初は携帯を確認するが、着信は一件もきていない。カイトはある事に気づき、ポケットからCOMPを取り出した。
COMPを見ると、一通だけではあるが、メールが着信している。
「…メール?」
COMPにメールが来ることは、もうないはずなのだ。
もしもカイトに連絡を取りたいなら、携帯に電話するなり、メールするなりすればいい。なのにわざわざCOMPにメールが着ている。
訝しみながら、カイトは届いたメールを読む。
『陽が地に沈みし時、運命が決まりし彼の地にて汝を待つ』
メールにはそう書かれていた。
「陽が地に沈みし時って事は後三時間ぐらいか? いや、もっと速い……?」
携帯の時間と、太陽を見る。
"運命が決まりし彼の地"については、もう既に心当たりがある。カイトにとって、運命が決まったのはあの場所しかないのだから。
「行かないと、色々と面倒なことになりそうか」
カイトには行かないという選択肢は、存在しない。
色々と面倒くさいという気持ちはあるけれど、恐らくここで動かなければ、これ以上に面倒くさい事が起きるに違いないから。
* * *
彼の地とはずばり、六本木ヒルズの最上階だ。
東京封鎖以後、六本木ヒルズは封鎖されているが、入り口を破壊して侵入すれば、なんの問題もない。
という訳で、カイトは六本木ヒルズに侵入し、必死こいて最上階まで階段を登っている最中だった。
「はぁ、はぁ……。くそったれめ、こんな所に人を呼びやがって」
封鎖されているということは、電気も来ていないということ。つまりは、エレベーターも動いてないのだ。
その結果が徒歩による、六本木ヒルズ踏破というわけだ。
悪魔を召喚しさえすれば楽になるのだが、東京封鎖の時とは違い、悪魔なんて召喚したらパニックが起きてしまう。
なのでカイトは、一歩ずつゆっくりと階段を登っているのだ。
「おらぁっ!!」
疲れからヤケになったように、勢い良く扉を開ける。
「あ~…どこだ?」
前もって買っておいた、ペットボトルのお茶で、喉を潤いつつ周りを確認する。だが、周りには人っ子一人いない。
「誰も居ない? てことはあのメールはいたずら……っ! な、わけねーよな?」
気配を感じ、そちらの方にカイトは視線を向ける。
すると上空から白い翼が一枚…二枚と、落ちてくるのが見え、その翼の発生源に目を向ける。
「…メタトロンか」
「久しいな。カイト…いや、万魔の王アベルよ」
およそ人が想像する天使とは違う、まるで機械のような外見をしている彼の者とカイトは、東京封鎖にて出会っている。
そしてカイトは、本来の力を発揮できぬとはいえ、この天使長を二人で撃破している。
「あぁ、久し振りだね小唯一神さん。それで? 俺に何のようだ?」
挑発するように、カイトは天使に声をかける。
以前の経験から単独で相対しても、この小唯一神を撃破することが可能である。と、わかっている事もカイトが余裕の態度をしている理由の一つでもある。
「そう牙を向くな。いや、魔王に言っても無駄なことか?」
だが、不快感を見せているのは、メタトロンとて同じである。
主神の忠実な下僕である自分が、こうして魔の王と相対しているのは、虫唾が走る思いなのだろう。
つまりは、お互い様なのだ。
「ふー……」
それがわからないカイトではなく、一回ため息をつくと、心を……頭を切り替える。
「まぁ、いがみ合うのはこれぐらいにして。で、本当に何の用だよ。こう言ったらあれだけど、俺別に悪いことなんて、してないと思うんだけど」
「……分かっている。認めたくないことではあるが、今の貴様を悪と断罪するより、他の人間を悪と断罪する方が、余程理解を得ることができよう」
「そこまで分かってんなら、本当に何のようだよ」
メタトロンが、地上へ降りてきた理由が、カイトにはさっぱりわからなかった。
「主神が…我が主人が貴様を呼んでいる」
「……は?」
鳩が豆鉄砲を食ったような表情…とは、今のカイトの表情の事なのだろう。
それ程までに、カイトの今の表情は馬鹿みたいな物になっている。
「なんでだよ。あの腹黒野郎が俺に何のようだ」
腹黒野郎。
そう言ったカイトに対して、メタトロンは何かを言おうとしたが、無駄だと即座に判断したのだろう、続きを話す。
「昨日。数体の天使が天界から消えた」
「……で?」
「四大天使。そう言えば分かるか」
四大天使。
そう言われ、少々考える素振りを見せながら、カイトは答える。
「ウリエル、ラファエル、ガブリエル、ミカエル。だったっけ? 確か。ぶっちゃけ覚えてないんだけど」
メタトロンを撃破した後、四大天使がカイトに襲いかかってきた。物の数分で撃破されているが。
「話は主から聞け。我からの言葉では信用できぬだろう」
「主神相手でも同じだけどねぇ……まぁいい。話だけは聴いてやるさ。このままだと盟約も破られそうだし、それはお互い望まぬ結果だろうし」
「ならば、数刻の時。翔門会の拠点まで来るがいい」
「翔門会の拠点…? あぁ、あそこか」
こことは違う翔門会の拠点は色々とあるものの、その場所をカイトは一箇所しか知らない。
さすがにカイトが、知らない場所を指定するとも思えない為、結果メタトロンが指定している場所は一箇所に限られる。
「巫女の力を借り、主の言の葉を伝える。返答は後日……いや、翌日だ」
「了解」
メタトロンの姿が消えた後、大きなため息を一つ付き、グルグルと回る頭をすっきりさせるために、また一つため息をつく。
そんなことを何回か繰り返してから、翔門会に向かうために、歩き始めた。
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手直ししながら投稿しているので、ちょいと投稿遅いです。