No.451183

BIOHAZARDirregular PURSUIT OF DEATH第三章

※注意 本作はSWORD REQUIEMの正式続編です。SWORD REQUIEMを読まれてからの方がより一層楽しめるかと思います。
 ラクーンシティを襲ったバイオハザードから五年。
 成長したレンは、五年前の真実を知るべく、一人調査を開始する。
 それは、新たなる激戦への幕開けだった…………

2012-07-11 21:02:26 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:721   閲覧ユーザー数:709

 

第三章 『激戦!シェリー救出大作戦!』

 

 

「……以上の点に置いて、この状況下での生物の生存が立証されます。何か質問は?」

 

 クラスの中で誰も手を上げないのを確認してから、シェリーはレポートの発表を終える。

 ちょうどその時に授業終了のチャイムが鳴り、クラスメートは荷物をまとめて帰り支度を始めた。

 

「シェリー、ちょっといいかしら?」

 

 シェリーも荷物をまとめ、廊下に出た所で担任の中年女性教師に呼び止められた。

 

「なんですか先生?」

「この間の件、考えておいたかしら?」

「ああ、国立への特待編入の件ですね?出来ればもう少し考える時間を頂きたいんですけど…………」

「そう、分かったわ。でもなるべく早く返答をもらえるとうれしいんだけど」

「すみません」

 

 女性教師に一礼して、シェリーはその場を離れる。

 この五年間で伸ばした髪がポニーテールとなって揺れているのをしばらく女教師は見ていたが、その姿が廊下の角に消えると、素早く物陰に隠れて特殊な電波変換パターンの組み込まれた携帯電話を取り出し、登録されている番号へと掛けた。

 

「こちらシーカー2、シェリー・バーキンが目標と接触した様子は未だ見られない。監視を続行する」

『了解した。いいな、相手は対BOW用のスペシャリストであるレオン・S・ケネディだけじゃない。黒いキモノを着たサムライと一緒との話だ。乗客の証言通り、回収されたネメシス―I型は彼の手によって一撃で斬り殺されている』

「一撃?ネメシスタイプを?」

『ああ、恐ろしいまでの使い手だ。厳重に注意しろ。何としてもシェリー・バーキンと接触させるな』

「了解……」

 

 

 

「彼女か?」

 

レンは覗いていた双眼鏡の視界の中に、レオンの言っていた特長と一致する少女を見つける。

 

「間違い無い。彼女がシェリーだ。髪伸ばしたんだな………」

 

 同じように双眼鏡を覗いていたレオンが肯定する。

「それにしても、よりによって作戦司令部の基地の中とはな………」

 

 覗いていた双眼鏡を下ろしながらレンが溜息をつく。その眼下には厳重な警戒が敷かれた米軍作戦司令部のあるオファット軍基地の姿が在った。

 

「オマケにざっと見だけでも監視が3人は付いてるな」

「どうにかして監視を掻い潜るしかないか………」

「取り合えず、夜を待つとするか…………」

 

 

 

「で、こんな所に何の用なんだ?」

「ちょっとしたツテを頼ってみる」

 

 ネットカフェに来たレンを不思議そうにレオンは見たが、当人は空いている席に座ると平然と飲み物を頼んでいた。

 

「何をする気だ?」

「ちょっとな」

 

 レンに習って自分も飲み物を頼んだレオンが、店員が離れるのを見計らってレンへと話し掛ける。

 レンはそれに適当な返事を返しながら、パソコンを起動、覚えているアドレスを打ち込んだ。

 

「……オカルト系サイトに来てどうするつもりだ?」

「これからだ」

 

 レンは更にそこにパスワードを入れてサイト内部に入ると、チャットに入室した。

 誰もチャットに入っていないのを確認してから、レンは発言した。

 

 

来訪者>我、真理を求めし者なり

 

 すると、誰もいないはずのチャットに返答が表れる。

 

>汝、信ずる真理は何ぞ?

 

 レンはそれに答える。

 

来訪者>我信ずるは五つの源にて構成されし真理なり

>汝、仕えし者は?

来訪者>我仕えしは日ノ本にて闇を見張りし姫君なり

>汝、名を告げよ

来訪者>我が名はミズサワ レン。水鏡の剣にて闇を斬り裂きし者なり

 

 

 最後の質問に答えると同時に画面が暗転、そこには薄暗い部屋でまるでゲームの魔法使いのようなロープ姿の人影が映し出された。

 

『久しいな、術者ミズサワ』

「お久しぶりです、導師ルーフェ」

 

 パソコンのスピーカーから肉声と寸分の違いも無い音質の低い男性の声が響く。

 レンはそれにマイクも使わず返答した。

 

『して、何ようか?そなたには借りが在る故にこの国への入国は大目に見ていたはずだが?』

「分かっております。組織に属する術者は自国からみだりに出てはならない、との定まりに従って私も自らの術を封印しております故に」

『……何か問題でも?』

「オファット軍基地にいる、シェリー・バーキンという少女に付いている監視を極短時間で構いません、外してもらえないでしょうか?」

 

 レンの真剣な言葉に、画面の男性はしばし沈黙した。

 

『………また無茶を言う物だな。我々は必要以上に国家に干渉してはならない事を知らぬ訳ではあるまい』

「不可能でしょうか?」

 

 画面内部の薄暗さと頭から被っているロープの為に、画面の中の人物の表情は見えなかったが、その声は呆れた雰囲気が幾分混じっていた。

 

『……いいだろう。今晩22:00から15分だけ監視が外れるように取り計らおう。これでそなたへの借りは無しだ』

「感謝致します、導師」

『くれぐれも無理はするでないぞ。他組織の者とはいえ、そなた程の術者失うのは惜しいからな』

「承知しております」

 

 そこでまた画面は暗転、最初のオカルト系サイトのページが映し出された。

 

「何だったんだ、今のは?」

「フリーメーソンの幹部だよ。今の人は」

 

 レンが届いた飲み物に口を着けながら平然と言った。

 

「フリーメーソンだって!?あの宗教系政治結社の!?CIAですら関与出来ないのにお前どうやって!?」

 

 意外な名前にレオンが驚愕するが、レンは平然とした顔で飲み物を啜るとようやく口を開いた。

 

「闇の事情って奴さ」

 

 レオンは呆気に取られたまま、しばし呆然としていた。

 

 

 

同日 夜半

 

 腕時計が短いアラーム音を鳴らし、予定の時間が来た事を告げる。

 

「行くか」

「ああ……」

 

 二人は基地の側で写真を取っていたミリタリーマニア達の中に紛れ、時間と同時に行動を開始した。

 

「それじゃあオレ達は行って来る」

「おう、気を付けろよ!」

「とっ捕まって記憶操作されんなよ」

 

 彼らの事をこの基地で行われている秘密実験を探りに来た陰謀マニアだと思っているミリタリーマニア達が、冷やかしとも取れるような別れの挨拶を彼らの背中に向けた。

 それを背に、二人はその場から潜入ポイントへと向かった。

 闇夜で目立たなくする為に再び墨色の小袖袴に着替えたレンは、ミリタリーマニア達に教えてもらった巡回のもっとも少ないポイントの手前のフェンスの前で立ち止まる。

 

「さてと、どう侵入する?上には赤外線センサーまで付いてるが……」

「ちょっと下がってろ」

 

 レンはフェンスから少し離れると、腰の刀に手を掛け、ゆっくりと腰だめの構えになりながら息を整える。

 四度目の息を吸い込むと同時に、レンは抜刀した。

 抜き放たれた白刃が、円を描くような軌道で闇を斬り裂き、再び鞘へと納まる。

 刀が鞘へと納まると同時に、綺麗に円状に斬り抜かれたフェンスが倒れようとするのをレンが掴んで止める。

 

「やるもんだな」

「在日米軍の基地に潜入する時に従兄が使った手を真似したんだ」

「………一体日本で何をしていたんだ?」

 

 感心から一転して疑惑の表情を浮かべているレオンを尻目に、レンが斬り抜かれたフェンスを潜り、レオンもその後に続くと、斬り抜いたフェンスをはめて予め買っておいた瞬間接着剤で目立たないように継ぎ目を張り合わせた。

 

「時間は?」

「ちょうど22:00になった所だ」

「急ごう、あと15分だ」

 

 

 

「あんたら、ちょっと聞きたいんだが」

 

 夜間発着シーンを収めたネガを現像する為に自分のキャンピングカーに向かったミリタリーマニアの一人に、ある男が話し掛けてきた。

 

「この男を見掛けなかったか?」

 

 そういって男は一枚の写真を指差した。

 そこには、その目の前の男と金髪の女性、そしてさっき別れたばかりの自称、陰謀マニアの一人が映っていた。

 

「……知らねえなあ」

「第一、 その日本人に何の用だよ」

「オレはこいつが日本人だなんて一言も言ってないぞ」

「あ………」

 

 うっかり口を滑らせたマニアの一人が、周囲に集まっていた仲間達に罵られながら小突き回される。

 その様子を見た男は、彼がここに居る事を確信した。

 

「今の内にここから離れていた方がいいぞ。多分とんでもない事が起きるだろうからな」

「何でそんな事が分かる?」

「そいつがオレの親友だからさ」

 

 そう言って男は首を傾げているマニア達に背を向けた。

 

 

 

「ここだな」

「間違い無い」

 

 レンとレオンの二人は、ミリタリーマニア達から教えてもらった情報を元に、時には隠れ、時にはやり過ごしながら警備の網を掻い潜って昼間の内に調べておいたシェリーの住んでいる住居の外壁へと辿り着いた。

 

「時間は?」

「残り5分」

「ギリギリだな」

 

 レンは周囲に人がいないのを確認しながら、窓枠から中を覗き込む。

 生憎とそこからは中の住人を見つける事は出来なかった。

 

「まさか出掛けてるって事は無いだろうな?」

「人見知りする子だからそれは無いと思うが………」

 

 レンは窓へと近付くと、その中央に瞬間接着剤を塗り付け、そこに接着剤の容器を立てて接着した。

 

「何を?」

「ちょっとな……」

 

 レンは窓から数歩下がり、ゆっくりと刀を抜いた。

 そして、窓枠へと向けて目にも止まらぬ動きで正確に4回、刀を振るう。

 刀を鞘に納めながら、レンは接着剤の容器を掴み、ゆっくりと引っ張った。

 枠を少しだけ残した状態で斬り抜かれたガラスが、それに続いてゆっくりと外れていった。

 

「こうすればセキュリティは働かない」

「食い詰めたら泥棒になれるな」

「あくまで余技なんだがな」

 

 変な所を感心しているレオンを差し置いて、レンはゆっくりと斬り抜いたガラスを地面に置いた。

 そして、なるべく物音を立てないように窓から住居の中へと侵入した。

 

「さてと、ここにいないとすると……」

「気配はするからこの建物内にいるのは確かだが………」

 

 一人暮らしにしては広い住居の中を、レオンとレンはそれぞれ別々のドアを開けた。

 そこで、レンとタオル一枚だけを体に巻いたシャワー直後のシェリーの目が合った。

 

「あ……………」

「き、キャアアァァァァ!!」

 

 一瞬の沈黙の後、シェリーの悲鳴が周囲一帯に響き渡る。

 

「まて、オレは…」

「変た…」

 

 慌ててレンがシェリーの口を塞ぐ。

 その手を剥がそうとシェリーがもがこうとするが、声を聞きつけてこちらに来たレオンの姿を見つけるともがくのを止めた。

 

「シェリー、こいつは味方だ。痴漢でも変態でもない」

「へ、ヘホン!(レ、レオン!)」

「説明は後だ!すぐに脱出するぞ!」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 シェリーが慌てて脱衣場へと戻る。

 レンとレオンそれぞれ玄関と窓枠の影へとへばりついた。

 

「まずいな、今のは確実に響いたぞ」

「異変を感じて、通報を受けたMPが来るのにどれく…」

 

 そこで、玄関のチャイムが鳴った。

 ビクリと二人が硬直する。

 

「悲鳴が聞こえたが、何か合ったのか?」

「ゴ、ゴキブリです!ゴキブリが出たんです!」

 

 シェリーが着替えながら答えるが、向こうの返答は予想外の物だった。

 

「この基地に軍事機密を狙っている者が侵入を試みているとの情報が入っていてな、済まないが入らせてもらうぞ!」

(まずい!!)

 

 レンとレオンが同時に自分の武器に手を伸ばした時だった。

 

「窓が破られているぞ!」

(他にもいたのか!)

 

 レンはとっさに窓からこちらを覗いている兵士の鼻の下の急所へと向けて、正確に刀の柄を突き出した。

 

「ひぐぅ……」

 

 意味不明の悲鳴を上げながらその兵士は昏倒したが、すぐさま別の兵士達が近寄ると一斉に銃口を向けた。

 

「くっ!」

 

 レンは窓際に置いてあったソファーを蹴り上げ、窓を塞ぐと窓の脇に身を隠した。

 途端に、猛烈な銃撃がソファーへと炸裂する。

 しばらく続いた銃撃が一段落すると同時に、レンは最早原型を留めていないソファーを突き飛ばしながら、素早くサムライエッジを抜く。

 外からこちらを見ている兵士達と目が合った瞬間、レンは立て続けにトリガーを引いた。

 放たれた弾丸は、兵士達が再びトリガーを引くよりも速く、その腕や肩を貫いていた。

 

「動くな…」

「そっちがな」

 

 玄関を破って侵入してきた兵士の鼻先にレオンがデザートイーグルを突き付ける。

 

「オレ達は彼女を迎えにきただけだ。他に用は無い」

「貴様そんな言い訳が…」

 

 兵士の言葉は、鼻先に更に押し付けられた銃口で中断させられる。

 レオンはそのまま一歩歩を進め、兵士はそれに応じて一歩後ろに下がった。

 レオンが再び前に進み、兵士は下がる。

 何度かそれを繰り返し、兵士の体が外に出た所でレオンは兵士の体を外に待機していた別の兵士へと突き飛ばした。

 そのままもつれ合って倒れた兵士達へと向けて、レオンは予備用のH&K・VP70を懐のショルダーホルスターから素早く抜いて未だもがいている兵士達の手足にかすらせるように発砲した。

 

「逃げるぞ!」

「待って!」

 

 着替え終わったシェリーが脱衣場から飛び出すと、クローゼットから背中に天使の描かれた赤地のベストを着ながら外へと急いだ。

 兵士達が乗ってきたらしいジープにレオンが乗り込み、シェリーがそれに続こうとした時、突然先程突き飛ばされた兵士が何を勘違いしたかシェリーへと掴みかかった。

 

「くそっ!」

 

 最後に出てきたレンが兵士に峰打ちを食らわせようとしたが、それよりも早くシェリーの右フックが兵士の顔面へと炸裂した。

 

「えっ……?」

「ゴメンナサイ!」

 

 続けて左のアッパーカットが兵士の顎を打ち上げ、体勢が崩れた所で駄目押しの右回し蹴りが炸裂、兵士の体は数m程吹っ飛ばされた。

 

「………………シェリー?」

「マーシャルアーツ習ったの。結構強いのよ」

「結構ってレベルじゃないような………」

 

 ガッツポーズを取るシェリーに呆気に取られながら、レンが完全に失神している兵士を横目で見る。

 取り合えず車へと乗り込みながら、レンはレオンにそっと耳打ちをした。

 

「本当に彼女がシェリーか?何か話と大分違うような気がするんだが…………」

「五年前はもっとおとなしい子だったんだが……」

「来たよ!」

 

 背後からこちらに猛スピードで向かってくるヘッドライトの群れを見たレオンが慌ててアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

『エマージェンシー!エマージェンシー!基地内に侵入者在り!侵入者は男性二人組で居住区から少女一人を人質に取って現在逃走中!繰り返す!………』

「人質って?」

「シェリーの事だろ」

「人を勝手に凶悪犯にしやがって………」

 

 基地内は今や騒然としていた。

 エマージェンシーコールと号令、怒号が基地のあちこちから聞こえ、スポットライトが夜闇を切り裂いていた。

 

「覚悟はしていたが、予想以上の大事になったな………」

「レオンがアポも無しに突然来るからいけないのよ!」

「取ってる暇が無くってな」

「来たぞ!」

 

 前方から迫ってくる複数のヘッドライトを見たレンがジープの座席に有ったM4A1アサルトライフルを手に取ると、セーフティレバーをフルオートにセット、前から来るジープのタイヤを狙ってトリガーを引いた。

 連続して発射された弾丸によってタイヤを撃ち抜かれたジープが次々と横転、レオンがその間を巧みなハンドルテクニックで通り抜けた。

 

「頼むから人死には出るなよ………」

 

 レンが横転したジープを見ながら呟く。

 

「こっちも来た!」

 

 後ろからもヘッドライトが近付いてくるのに気付いたシェリーが、足元の箱からスタングレネードを見つけると、ピンを抜いて後ろへと投げた。

 

「えいっ!」

 

 数秒後、爆発したスタングレネードが閃光と轟音を周囲に撒き散らす。

後ろから迫っていたジープはそれをまともに食らってしまい、次々とスピン、クラッシュした。

 

「事故ったな、あれは………」

「前方不注意ね、きっと」

 

 平然と言うシェリーに何か薄ら寒い物を感じながらレオンが建物の角を曲がった時、突然側の地面が轟音と共に吹き飛んだ。

 

「な、何!?」

「まさか!」

「冗談だろ………」

 

 角を曲がった先には、一台の戦車がこちらへと薄く煙の立っている砲身を向けていた。

 

『停車せよ!さもなくば発砲する!』

「もう撃ってるだろうが!」

 

 レオンが毒づきながらジープを横滑りさせて戦車の射程から逃れようとするが、砲塔は的確にその後を追って旋回した。

 

「逃げれない、か。やるしかないか………」

「どうやって!?ロケットランチャーでも持ってるの?」

 

 シェリーからの質問に、レンは少し難しい表情をしながら答える。

 

「向こうはこっちに有効的な攻撃方法がないと思い込んでいる。それを逆に利用する」

「どうやってだよ?」

 

 レンは答えず、シェリーの方を見た。

 

「シェリー、スタングレネードまだ有るか?」

「?一応まだあるけど……」

「レオン、車をギリギリ相手に近付けて交差させてくれ」

「撃ってくれって言うようなもんだぞ!」

「警告をしたって事はよっぽどの事をしない限り撃ってはこないはずだ!チャンスは一度きり!スタングレネードの爆発のすぐ後に交差させてくれ!行くぞ!」

 

 有無を言わさぬ強い口調で言うと、レンは不安定な座席上でバランスを取りながら立ち上がる。

 呼吸を整えながら刀を抜き、それを胸の高さで真横に構えるとその峰に左手を添える。

 

「5!」

 

 シェリーがピンを抜いたスタングレネードを思いっきり前へと投げた。

 

「4…」

 

 レオンがハンドルを微調整しながら、猛スピードで戦車へと近付く。

 

「3」

 

 レンが戦車の砲身に狙いを定めてそれを見据えた。

 

「2!」

 

 シェリーが目と耳を塞ぎながらシートの影に隠れる。

 

「1」

 

 誰かが唾を飲み込む音が聞こえた次の瞬間、閃光が辺りを覆った。

 レンは即座に目を閉じ、開いた瞬間には砲身がすぐ目の前に有った。

 

「はあああぁぁぁぁ!!!」

 

 レンは刀を水平に振るい、切っ先が砲身に突き刺さると同時に左の拳を刀の峰へと叩き付けた。

 ジープはそのまま戦車の脇を通り過ぎ、スタングレネードのダメージから回復した砲手がすぐさま砲塔を旋回させて狙いを定めた。

 

『警告無視と見なし、発砲する』

 

 轟音と共に砲弾が発射されるが、それと同時に砲身から真横に炎の列が吹き出し、砲弾はさほど飛ばずに力を失って地面へと落ちた。

 

「な、何だあ!?」

 

 慌てて砲手がハッチを開けて砲身をライトで照らす。

 そこには、先端から根元近くまで綺麗に切れ目の入った砲身の姿が有った。

 

「冗談だろ………オイ…………」

 

 

「光背一刀流、《残陽刻(ざんようこく)》」

 

 レンは刀を鞘に納めながら座席に着いた。

 

「一体何をしたんだ?」

 

 バックミラーで後ろで起こった事の一部始終を見たレオンが首を傾げる。

 

「斬ったんだよ、砲身を」

 

 平然と言うレンにシェリーが絶句する。

 

「………まるでアニメみたい……」

「ビルまでは斬れないがな」

 

 レンはそう言いながら微笑した。

 

「フェンスが見えたぞ!」

「来た時と同じ手を使おう!少しは時間が稼げる!」

 

 レオンはジープをドリフトさせながらフェンスの側へと停め、真っ先にレンが降りるとフェンスを来た時よりも大きく斬り抜いた。

 

「走れ!向こうに車が停めてある!」

「ちょっと待って!」

 

 シェリーがジープに積んであったスタングレネードを幾つかポケットに捻じ込んで、先を行くレンの後に続き、レオンがその背後に続いた。

 

「急げ!すぐに追っ手が来るぞ!」

 

 三人はあらん限りのスピードで走る。

 基地からそれなりに距離が離れた所で、停めておいた車が見えてきた。

 

「もう少し…」

 

 ところが、彼らの背後から空を切り裂きながら何かが通り過ぎ、車へと命中、爆発四散させる。

 

「ミサイル!?」

「まさか……」

 

 三人が振り向いた先には、一機の戦闘ヘリがこちらへとサーチライトを向けた所だった。

 

「戦闘ヘリまで持ち出したのか!?」

「しかもあれはAHシリーズの最新型だぞ!」

 

 戦闘ヘリはホバリングしながら、ゆっくりとこちらへと近づいて来た。

 

『君達に逃げ場は無い。それともまだ抵抗するかね?』

「イエスだ!!」

 

 レンが懐からサムライエッジを抜いて立て続けにトリガーを引いた。

 だが、分厚い風防ガラスは発射された9ミリパラペラム弾を簡単に弾いた。

 

 

 

「馬鹿か、あいつは?」

「諦めが悪いだけだろ」

 

 戦闘ヘリのガンナーの漏らした呟きに、パイロットが苦笑交じりに答える。

 警告の為にガトリングガンの狙いを微妙にずらし、トリガーを引こうとした所で突然画面が暗くなった。

 

「何だ!?故障か!?」

「違う!ライトをやられた!さっきの銃撃はもう一人から目を逸らす為だったんだ!」

「ガッデム!」

 

 ガンナーはスターライトスコープの画像をスコープディスプレイ全面へと切り替えた。

 

 

 

「やっぱり暗視装置付きか!」

 

 レンが舌打ちしながらサムライエッジを懐に仕舞い、刀を正眼に構えた。

 

「ええぃっ!」

 

 シェリーが持ってきたスタングレネードをヘリへと投げ付ける。

 すぐ後に閃光が戦闘ヘリを襲ったが、平然と彼らを追い回す。

 

「効かないの!?何で!?」

「最新型の閃光遮断装置付きだ!そんなの効くか!」

「そういう事は先に教えろ!」

 

 レンは正眼に構えた刀をゆっくりと脇へと降ろしながら考えた。

 

(せめてもう少し近付いてくれれば………)

 

 その時、レンはガトリングガンの隣にある大きな銃口に気が付いた。

 その銃口が微妙に動き、レンへとポイントするとそこからロケット弾が発射された。

 

「ぐっ!」

「レン!」

 

 すぐ側の地面に命中したロケット弾の爆風でレンは吹き飛ばされたが、何とか受身を取って地面に転がる。

 

「大丈夫!?」

「生きてるよ………」

 

 レンは何とか小さく呟きながら立ち上がるが、途端に体に激痛が走る。

 

(外傷は……無い。ショック性か……)

 

 レンは自分の体に走る激痛を堪えながら刀を構える。

 痛みは直に引くだろうが、それまで相手が待ってくれる事は有り得ない。

 

「ガトリングガンとロケットランチャーの並列装備だと?何をコンセプトにしてるんだか………」

 

 戦闘ヘリがその機首をレンから外した時だった。

 戦闘ヘリのテールローターに一瞬赤い光点が点り、次の瞬間テールローターが小さな爆発を起こした。

 

「何だ…………?」

 

 蛇行を始めた戦闘ヘリに三人が疑問を抱いた時、突然横手から走ってきた一台の4WD車が側へと停まった。

 

「乗れ!」

「お前ひょっとして……」

 

 車からの声に聞き覚えのあるレンが問い質すよりも早く、ふらつきながらも戦闘ヘリがこちらへと向き直ろうとするのが見えた。

 慌ててレンが車に乗り込み、他の二人もそれに続いた所で車はホイールスピンをしながら猛ダッシュを始めた。

 

「何やってんだよ、レン」

「それはこっちのセリフだ、スミス」

 

 ハンドルを握っていた男―スミスが苦笑しながら助手席のレンを見た。

 

「何でお前がここにいるんだ?」

「何、ミリィやユメちゃんから頼まれてな、お前が何かしでかすつもりらしいから手伝ってくれって。それでお前らしい痕跡を追っていたらここに辿りついたって寸法さ」

「黙ってろって言っといたはずなんだがな……」

「誰だ?」

「五年前オレと一緒にラクーンシティを脱出した友人だ。信用出来る」

 

 二人の会話をいぶかしんだレオンの問いに、レンは断言した。

 

「来た!」

 

 後部座席に座っていたシェリーの悲鳴と同時に、戦闘ヘリから発射されたロケット弾が車の前方に着弾、大きなクレーターを穿った。

 

「何の!」

 

 スミスは急ハンドルを切り、そのクレーターをギリギリで迂回する。

 

「わあああぁぁぁ!!」

 

 横Gでレオンの体が押し付けられたシェリーが更に悲鳴を上げるが、構っている暇は無かった。

 

「まずいな、このままじゃ逃げ切れないぞ」

「迎撃するか?」

 

 スミスがハンドルを握りながら左手でデザートイーグルよりも一回り大きい巨大なオートマチック拳銃をホルスターから取り出した。

 

「何だそりゃ!?」

「ガンスミス ジョー・ケンド、オリジナルハンドメイド454カスールオートマチック“ゾンビバスター”。口径は454カスール、弾頭は水銀炸裂弾頭の化け物だ」

「さっきテールローターを撃ち抜いたのはそいつか………」

 

 バレル下部にタクティカルライトとレーザーサイトまでもが組み込まれた非常識なまでに巨大な拳銃にレンとレオンは絶句した。

 

「出来れば人死には出したくないんだがな………」

「そいつでもう一度テールローターを撃ち抜けないか?」

 

 再度発射されたロケット弾が側で爆発、車体が大きく揺れた。

 

「難しいな。さっきは奇襲でなんとかなったが、こうも暗いと…」

「これ照明代わりにならない?」

 

 シェリーがポケットからスタングレネードを1個取り出して見せた。

 

「一瞬だけだろ?そいつは」

「自信が無いのか?」

 

 レオンの挑発的な物言いにスミスがぴくりと反応する。

 

「あんたは?」

「趣味だけでこいつを使ってる訳じゃない」

 

 レオンがデザートイーグルを構えながら、言い切る。

 

「決まったな」

 

 レンがサムライエッジを抜く。男三人がそれぞれの銃を持って目配せした。

 

「行くぞ!」

 

 スミスがドリフトさせながら急激的に車をUターンさせた。

 

「5!」

 

 シェリーがスタングレネードのピンを抜いてヘリと反対側の方向に投げる。

 

「4!」

 

 スミスがハンドルを握りながらセーフティを外す。

 

「3…」

 

 レンがウインドゥを開けながらサムライエッジを戦闘ヘリの方へと向けた。

 

「2」

 

 レオンが周囲をかすめるガトリングガンの銃撃に舌打ちしながらデザートイーグルのセーフティを外した。

 

『1!』

 

 男三人の声が同時に同じ数字を唱え、車が戦闘ヘリに並んだ瞬間、閃光が一瞬だけ戦闘ヘリを照らし出した。

 3つの銃口が、その一瞬を逃さず同時に同じ場所へと弾丸を吐き出した。

 三種類の弾丸が狙い違わず、テールローターの中心へと命中する。

 そして、完全にその機能を廃棄したテールローターが止まり、戦闘ヘリはゆっくりと高度を下げながら墜落した。

 慌ててコクピットからパイロットとガンナーが飛び出し、その直後にヘリは火に包まれた。

 

「さよ~なら~、お世話になりました~」

 

 シェリーが後部座席から手を振るが、それを見たヘリのパイロット達が大声で何かを(恐らくは罵詈雑言の嵐)喚き立てる。

 そのまま四人を乗せた車は猛スピードでその場を後にした。

 

「さてと、これでこの国にいられなくなったな」

 

 レンがマガジンを抜いて残弾をチェックしながらぼやく。

 

「これからどうするんだ?」

「まずシェリーを何処か安全な所へ匿いたい」

「それなら日本にいるオレの従兄を頼るといい。きっと力に…」

「待って!」

 

 シェリーの声が会話を中断させた。

 

「レオン!クレアの所に行くんでしょ!私も連れてって!」

「駄目だ。危険過ぎる」

「でも!」

「悪い事は言わないから大人しくしていた方が身の為だぜ、嬢ちゃん」

「私知ってるの!ラクーンシティをあんな風にしたのが私のパパだって事!」

『何!?』

 

 驚いたスミスがハンドルを切り損ね、車体が一瞬蛇行するが、なんとか体勢を立て直す。

 

「………シェリー、どこでそれを………」

「アンブレラのサイトを調べてたらパパの研究データを見つけたの。パスワードはパパとママの使っていたのを入れてみたらあっさり入れたわ。それで知ったの、T―ウイルスの事やパパが作ったG―ウイルスの事、そしてラクーンシティが何であんな事になったのかも…………」

「そうか…………」

 

 車内を重い沈黙が降りる。

 

「………それは本当か?」

 

 その沈黙を、スミスの硬い声が破る。

 

「間違い無い。オレは彼女の母親から直接聞いたんだ」

「そうか…………」

 

 音がする程強く、スミスがハンドルを握り締める。

 

「スミス…………」

 

 レンが掛けるべき言葉を出そうとするが、スミスの硬い表情を見て口をつぐんだ。

 

「……ごめんなさい………」

「あんたが謝る必要はねえよ」

 

 シェリーの呟きを、スミスが固い口調のまま否定した。

 

「でも…」

「謝らなくていいって言ってるだろ!第一、五年前つったらアンタ何歳だ!?親の失敗を子供に取ってもらう程オレはバカじゃねえ!」

「スミス」

「悪い、言い過ぎた………」

 

 レンに窘められ、スミスは荒げていた口調を戻した。

 そのまましばらく沈黙が続いた所で、再びスミスが口を開いた。

 

「なあレン、お前これからどうするつもりだ?」

「STARSがイギリスで事件の全容を追っているらしい。それに合流するつもりだ」

「オレも行く」

「危険だぞ」

「危険がなんだっていうんだ!そのTだかCだか言うウイルスが原因だってんならそれを根絶してやる!親父の敵討ちだ!」

 

 スミスの真剣な表情に、レンはそれ以上何かを言うべき必要が無い事を察した。

 

「レオン、STARSに二人追加だがいいか?」

「いや、オレも加えて三人だ」

「四人よ」

 

 四人はお互いに視線を交わし、無言で頷いた。

 

「行こう、イギリスへ」

『おう!』

 

 

 

次の日 オファット空軍基地内部の一室

 

「だから、何も知らねえって言ってるだろうが!あの二人とはちょっと話をしただけで何も聞いてねえよ。それとも何か?あいつらが言ってたみてえにここでX―ファイルみてえな妙な実験が行われてるってのか?」

 

 昨夜から続いているこの尋問に、彼はとっくの昔にうんざりしていた。

 昨夜あの自称陰謀マニアの二人がいなくなった後、突然基地内が騒がしくなり、目の前でいきなり本物の戦車や戦闘ヘリが動き出した為に、夢中でシャッターを押していたら兵士達にとっ捕まり、基地内に連行されてネガを没収された挙句に延々とこの有様だった。

 

「いいか?もう一度聞く…」

 

 そこで、尋問部屋に一人の兵士が入ってきて何事かを尋問をしていた兵士に耳打ちした。

 

「そうか。おい、お前もう帰っていいぞ。くれぐれもこの事は他言しないいようにな」

「馬鹿野郎!こんな事されて誰が大人しくするか!今日からオレは国家陰謀説の支持者になってやる!ローンガンメンばりに有る事無い事言い触らしまくってやるからな!」

 

 

 

同時刻 オファット空軍基地 第二会議室

 

「以上が、昨夜起きた事の全容です」

 

 会議室に集まった将校達が説明された内容にほぼ同じ疑問を抱いていた。

 

「もう一度聞こう。本当に彼らは重火器を所持していなかったのかね?」

 

 将校の一人の質問に、説明していた兵士は首を縦に振った。

 

「間違い有りません。負傷した兵士達の証言や、破壊された戦車とヘリを詳しい分析からも彼らは拳銃及び強奪した銃器以外の物は一切使用していない事が裏付けられています」

「そんな馬鹿な事があるか。戦車が銃弾程度で破壊出来る訳があるまい」

 

 別の将校が反論するが、説明していた兵士は苦い表情になった。

 

「それなのですが、戦車に搭乗していた者達の証言によれば、どうやら犯人の一人が所持していたニホントウで破壊されたらしいのです………」

「それこそ信じられん。いつからこの基地はジャパニメーションの世界になったのだ!?」

 

 別の将校が反論するが、信じられないのはその場にいる全員が同じだった。

 

「とにかく、だ。シェリー・バーキンは唯一のG―ワクチン保有者だ。何としても他国の手に渡るのは防がねばならん」

「ただ今諜報部とCIAが共同で全力を持って犯人達の行方を追っております」

「発見出来ても戦車を斬れるような奴を相手に何が出来るかだな………」

 

 将校の一人が皮肉気に言う。

 

「一体彼らは何処にいるのだ?」

 


 
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