No.450608

IS〈インフィニット・ストラトス〉 ~G-soul~

ドラーグさん

弾丸のように、速く ①

2012-07-10 20:43:48 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:882   閲覧ユーザー数:847

キャノンボール・ファスト当日。

 

会場は超満員で空にはポンポンと花火が上がっている。

 

「うーん、よく晴れたわ。絶好のレース日和ね!」

 

ピットでISスーツ姿で準備運動している鈴が同じくISスーツ姿の俺に言う。

 

「ああ」

 

「ん? 何よ? 珍しくテンションが低いわね」

 

「そうか?」

 

「そうよ。普段のアンタなら『今日が楽しみ過ぎて夜眠れなかった』くらいなこと言ってるわよ」

 

「・・・・・俺って、そんなにガキっぽいか?」

 

「ISに関係することになるとね」

 

微妙にショックだ。しかし、鈴の言う通り俺はレースに集中できずにいる。

 

昨日の夜のエリナさんからの電話で亡国機業が乱入してくるかもしれないという話を聞いていたから、俺はそっちの方に意識が行ってしまう。

 

(セフィロトが二機も奪取されて、おまけにサイレント・ゼフィルスまで向こうは持ってる。攻めて来られたら一たまりもねえ・・・)

 

いくら専用機持ちが居ると言っても、亡国機業はその戦力差を簡単に埋めることができるだろう。

 

「ほらぁ! またそんなシケた顔する! もっとシャンとしなさいよ!」

 

ぐいっ

 

「いでででで!?」

 

鈴が俺の左の頬を思いっきりつねってきた。

 

「わざわざこの日のためだけのGメモリーを作ったんでしょ? そんなアンタがやる気なくてどーすんのよ!」

 

「わ、わかった。出す! やる気出すから放せ!」

 

「それならよろしい」

 

鈴はぱっと手を放してどこかに行ってしまった。ったく、相変わらず誰にも容赦ねえ・・・。

 

(でも・・・鈴の言う通りか)

 

ありもしない脅威にビクビクするほど俺も臆病じゃない。俺はパンパンと両手で自分の顔を叩き、気合を入れた。

 

「よし! いっちょやってやるか!」

 

「瑛斗、一夏を知らないか?」

 

箒が声をかけてきた。

 

「ん? 一夏? ああ、アイツならほら、あそこに」

 

俺が指差す方向には観客席の方を見ている一夏の姿があった。

 

「まったく! あんなところにいるのか! もうすぐレースが始まるというのに!」

 

ズンズンと一夏のところに歩いていく箒。歩くたびにポニーテールが揺れる。

 

『まもなく、二年生の訓練機部門のレースが始まります』

 

一夏が箒に耳を引っ張られながらこっちに来るのと、そのアナウンスがなるのがほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

わあぁぁぁぁ・・・・・!

 

ピットの向こうでは大歓声が鳴り響いている。どうやらレースはデッドヒートのようで観客も興奮しているのだろう。

 

「あれ? この二年生のサラ・ウェルキンって人、代表候補生なのか?」

 

「そうですわ。専用機はありませんけど、優秀な方でしてよ」

 

わたくしも操縦技術を習いましたわ、と付け加えるセシリアはもうすでにブルー・ティアーズを展開している。

 

「代表候補生だからって専用機をもらえるわけじゃないからな」

 

すでにフラスティアを発動している俺もセシリアの言葉に続く。

 

ピットには俺達以外にもシャルとラウラと箒、そして鈴もいる。

 

「鈴のそのパッケージ、えらくゴツイな?」

 

「ふふん、そうでしょ? こいつの最高速度はセシリアにも引けを取らないわよ」

 

増設スラスターを四基積んだ甲龍の高機動戦闘用パッケージ『風(フェン)』はそれ以外にも追加胸部装甲が大きく前に出ている。

 

(まさか・・・、あれでどつこうってんじゃないだろうな・・・・・)

 

他にも横を向いた衝撃砲もあって妨害用であることがうかがえる。おそらくキャノンボール・ファスト仕様になっているのだろう。セシリアの『ストライク・ガンナー』は本来、一撃離脱の強襲用パッケージであるから、キャノンボール・ファスト仕様の鈴の方が一歩リードしているだろう。

 

だけど、それを言ったら俺のフラスティアもこの大会のためだけに作ったものだ。鈴とも性能的にはいい勝負だ。

 

「ふん。戦いは武器だけで決まるものではない」

 

なんてカッコイイ台詞を言ったのは箒だ。

 

「戦いとは流れだ。全体を支配する者が勝つ」

 

三基の増設スラスターを装備したラウラが会話に入ってくる。

 

専用装備ではないが、新型のスラスターは性能は十分らしく、今回のレースにも自信があるようだ。

 

「みんな、全力で戦おうね」

 

そう言って締めたのはシャルだった。ラウラと同じく三基のスラスターを左右に一基ずつ、背中に一基装備している。

 

「みなさーん、準備はいいですかー? スタートポイントまで移動しますよー」

 

のんびりとした山田先生の声が響く。

 

俺達は頷いて誘導マーカーに従ってスタート地点に向かう。

 

(みんなには悪いが、優勝はいただきだぜ!)

 

『それではみなさん、一年生の専用機持ち組のレースを開催します!』

 

大きなアナウンスが響く。

 

俺達は各自スタートラインに立ち、スラスターに点火する。

 

ヒュィィィィ・・・・・・。

 

大勢の観客が見守る中、シグナルランプが点滅する。

 

3・・・・・2・・・・・1・・・・・ゴーッ!

 

「・・・・・ッ!」

 

急速な加速で景色が一瞬吹き飛ぶ。だがすぐに補助ハイパーセンサーがサポートして景色が追いつく。

 

(トップはセシリアか・・・・・!)

 

あっという間に第一コーナーを過ぎ、セシリアを先頭に列ができる。

 

(そろそろ仕掛けるとしようか!)

 

「一夏、お先!」

 

「あばよ一夏!」

 

「あ、おい!」

 

俺は瞬時全噴射(フラッシュブースト)で加速して鈴と同時にセシリアに攻撃を仕掛ける。鈴は横を向いていた衝撃砲を前に、俺はビームガン前を行くセシリアに構える。

 

「直撃コースだ!」

 

「もらったわよ、セシリア!」

 

四発分のエネルギーを使ったビームと衝撃砲の連射を躱そうと横にロールしたセシリア。

 

それを爆発的な加速で俺と鈴が抜き去る。

 

「くっ! お二人ともやりますわね!」

 

「へへん! おっそーい!」

 

「じゃあな!」

 

「―――――甘いな」

 

「「!?」」

 

鈴の加速に合わせて、後ろにぴったりと付いていたラウラが前にでる。

 

「しまった!」

 

「遅い!」

 

慌てて鈴が衝撃砲を向けるが、ラウラの大口径リボルバー・カノンの方がわずかに早く火を噴く。

 

直撃まではいかないものの、高速機動状態での被弾で鈴はコースラインから大きく逸れる。

 

「瑛斗、次はお前だ」

 

リボルバー・カノンを俺に向けたラウラがニヤリと笑う。

 

「へっ! そう簡単に食らうかよ!」

 

俺は肩の姿勢制御用の駆動式スラスターをラウラに向けて噴射する。

 

「なっ!?」

 

予想外の攻撃にバランスを崩すラウラ。その隙を見逃さず俺はカーブで再び瞬時全噴射を行い、ラウラと距離を離す。

 

(よしっ! これでトップだ!)

 

「瑛斗、僕もいるよ?」

 

「!」

 

後ろからのマシンガンの弾丸をサイドロールで躱す。

 

「ちっ! シャルか!」

 

後ろを確認すると、マシンガンをマグナムに切り替えるシャルの姿が見えた。

 

実弾だからBRFシールドの実体部分で攻撃を防ぐ。

 

しかしジリジリとシャルが俺に肉薄し、他の奴らも加速がついて再び俺達は団子状態になる。

 

ドンッ!

 

鈴の衝撃砲の流れ弾がコースの緩衝壁に当たって爆ぜる。

 

「レースはまだまだ!」

 

「ここからよ!」

 

白熱するバトルレース。それが二周目に入ったところで異変は起きた。

 

―――――上空からロックされています! 速やかに防御を!―――――

 

「!?」

 

突然、上空からビームが降ってきた。

 

咄嗟にBRFシールドで防ぐが、俺の横を走っていたシャルとラウラにまでビームが当たる。

 

「まさか・・・・・、本当に来やがったか! 亡国機業!」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

上空の襲撃者はコースアウトするラウラとシャルを見もせず、ニヤリと口元を歪めた。

 


 
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