その後展望台につき、景色を楽しみながら食事をし終えたエステル達はリフィア達と合流するために宿酒場に行こうとした所、少女が探していた男の子らしき人物とエステルがぶつかった。その時、男の子に遊撃士の紋章を盗まれたと気付いたヨシュアはエステルにその事を指摘し、男の子を探して村の住民に聞いて廻った結果、近くの孤児院に住む男の子とわかり、遊撃士の紋章を取り返すためにエステルとヨシュアはマノリア村の近くにある孤児院に向かった。
~マーシア孤児院~
エステルとヨシュアが孤児院の土地に入ると、そこにはエステルのバッジを盗んだ男の子を含め3人の子供がいた。
「クラムったらどこに行ってたのよ、もう!クローゼお姉ちゃん、すごく心配してたんだからね!」
3人の中で唯一女の子のマリィが帽子を被った男の子――クラムを怒っていた。
「へへ、まあいいじゃんか。おかげでスッゲェものが手に入ったんだからさ。」
「なんなの、クラムちゃん?」
得意げにしているクラムにもう一人の男の子――ダニエルが首を傾げて尋ねた。
「にひひ、見て驚くなよ~。ノンキそうなお姉ちゃんから、まんまと拝借したんだけど……」
「……だ~れがノンキですって?」
「へっ……」
ダニエルとマリィに自慢しようとしていたクラムだったが、聞き覚えのある声に驚いて振り向いた。振り向くとそこには遊撃士の紋章の持ち主であるエステルとヨシュアがいた。
「ゲッ、どうしてここに……!」
エステルの顔を見てクラムはあせった。
「ふふん。遊撃士をなめないでよね。あんたみたいな悪ガキがどこに居るのかなんてすーぐに判っちゃうんだから!」
「く、くそー……。捕まってたまるかってんだ!」
「こらっ、待ちなさーい!」
クラムが逃げ出し、エステルが声を上げてクラムを追いかけ回した。
「あのう、お兄さん……。どうなっちゃてるんですか?」
「クラムちゃん、また何かやったの~?」
エステルに追いかけ回されているクラムを見て事情を知っていそうなヨシュアに2人は尋ねた。
「ええっと……騒がしくしちゃってゴメンね。」
尋ねられたヨシュアは苦笑して答えた。そして逃げていたクラムがついにエステルに捕まった。
「ちくしょ~!離せっ、離せってば~っ!児童ギャクタイで訴えるぞっ!」
エステルに捕まえられたクラムは悪あがきをするかのように、暴れて叫んだ。
「な~にしゃらくさい事言ってくれちゃってるかなぁ。あたしの紋章、さっさと返しなさいっての!」
「オイラが取ったっていう証拠でもあんのかよ!」
「証拠はないけど……。こうして調べれば判るわよ!」
反論するクラムにエステルはクラムの脇腹をくすぐった。
「ひゃはは……!や、やめろよ!くすぐったいだろ!エッチ!乱暴オンナ!」
「ほれほれ、抵抗はやめて出すもの出しなさいっての……」
少しの間、クラムの脇腹をくすぐっていたエステルだったがその時、少女の声がした。
「ジーク!」
少女の声がした後、白ハヤブサがエステルの目の前を通り過ぎた。
「わわっ!?なんなの今の!?」
エステルは目の前に通った白ハヤブサに驚いてくすぐる手を止めて、声がした方向を見た。するといつの間にか白ハヤブサを肩に止まらせたマノリア村でぶつかった制服の少女が厳しい表情をエステルに向けていた。
「その子から離れて下さい!それ以上、乱暴をするなら私が相手になりま………………………………あら?」
少女はエステルの顔を見ると目を丸くした。
「あ、さっきの……」
エステルも同じように目を丸くした。
「マノリアでお会いした……」
「ピュイ?」
「助けて、クローゼお姉ちゃん!オイラ、何もしてないのにこの姉ちゃんがいじめるんだ!」
肩に乗った白ハヤブサと共に首を傾げている少女――クロ―ゼにクラムは助けを求めた。
「な、なにが何もしてないよ!あたしの紋章を取ったくせに!」
「へん、だったら証拠を見せてみろよ!」
クラムの言葉に頭に来たエステルはまた捕まえようとしたが、クラムは素早く避けた。
「あ、くすぐるのは無しだかんな。」
「うぬぬぬ~……」
エステルは悔しそうな表情でクラムを見た。
「やあ、また会ったね。」
「あ、その節はどうも……。すみません、私てっきり強盗が入ったのかと思って……。あの、それでどういった事情なんでしょう?」
クロ―ゼは事情を知っていそうなヨシュアに困った表情で尋ねた。
「クローゼお姉ちゃん。そんなの決まってるわよ。どーせ、クラムがまた悪さでもしたんでしょ。」
「ねー、おねえちゃん。もうアップルパイできた~?」
そこにマリィが口をはさみ、ダニエルは今の状況とは関係のないことを言った。
「あ、もうちょっと待っててね。焼き上がるまで時間がかかるの。」
ダニエルにクロ―ゼは微笑みながら答えた。そしてエステルとクラムが言い争いを始め、どうするべきか迷っていたヨシュア達のところに女性が孤児院から姿を現した。
「あらあら。何ですか、この騒ぎは……」
「テレサ先生!」
姿を現した女性は孤児院を経営するテレサ院長だった。
「詳しい事情は判りませんが……。どうやら、またクラムが何かしでかしたみたいですね。」
「し、失礼だなぁ。オイラ、何もやってないよ。この乱暴な姉ちゃんが言いがかりをつけてきたんだ。」
「だ、誰が乱暴な姉ちゃんよ!」
テレサに自分の事を言われたクラムは言い訳をしたが、エステルがクラムの言い方に青筋を立てて怒鳴った。
「あらあら、困りましたね。クラム……本当にやっていないのですか?」
「うん、あたりまえじゃん!」
困った表情で近付いて尋ねたテレサにクラムは笑顔で答えた。
「女神(エイドス)様にも誓えますか?」
「ち、誓えるよっ!」
「そう……。さっき、バッジみたいな物が子供部屋に落ちていたけど……。あなたの物じゃありませんね?」
「え、だってオイラ、ズボンのポケットに入れて……はっ!」
テレサの言葉にクラムは無意識に答え、誘導された事に気付いて気不味そうな表情をした。
「や、やっぱり~!」
「まあ……」
「見事な誘導ですね……」
バッジを盗んだ事を口にしたクラムにエステルは声を上げ、クロ―ゼとヨシュアはテレサを感心した。
「クラム……。もう言い逃れはできませんよ。取ってしまった物をそちらの方にお返ししなさい。」
「ううううううう……。わかったよ!返せばいいんだろ、返せば!」
クラムは悔しそうな表情でバッジをポケットから出して、エステルに放り投げた。
「わっと……」
「フンだ、あばよっ!」
エステルにバッジを放り投げたクラムはその場から走り去った。
「あっ、クラム君!」
「大丈夫、頭が冷えたらちゃんと戻ってくるでしょう。」
クラムを呼び止めようとしたクロ―ゼにテレサは落ち着いた表情で諭して後、エステルとヨシュアに言った。
「それより……ここで立ち話をするのも何ですね。詳しい話は、お茶を飲みながら伺わせていただけないかしら?」
そしてエステル達はテレサに孤児院の中に招き入れられた…………
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第58話