~マノリア村~
「は~っ。やっと人里に着いたわね。なんだか、白い花があちこちに咲いてるけど……ここって何ていう村だっけ?」
ボース市から長い道のりを歩いてきて、ようやく人里に着いて一息ついたエステルは周囲の風景を見て呟いた。
「マノリア村だよ。街道沿いにある宿場村さ。あの白い花は、木蓮の一種だね。」
「ええ、いい香りです。おそらくあの白い花の香りなんでしょうね。」
「ふーん、キレイよね~。それに潮の香りに混じってかすかに甘い香りがするような。うーん……何だかお腹が空いてきちゃった。」
ヨシュアの説明を聞いてプリネは息を大きく吸って漂ってくる白い花の僅かな香りを楽しんでいたが、エステルは違う事を言った。
「あはは、花の香りで食欲を刺激されるあたりがエステルらしいって言うか……。まさに花よりダンゴだね。」
エステルの言葉にヨシュアは苦笑した。
「だって、育ち盛りなんだもん。ちょうどお昼だし、休憩がてらにランチにしない?」
「賛成~。関所から歩いてきたから、エヴリーヌもお腹がすいてきちゃった。」
「いいけど……何か手持ちの食料はあったかな?」
「あ、ちょっとタンマ。どうせだったら落ち着ける場所で、できたての料理を頼まない?せっかくルーアン地方に来たんだし。」
「そうだな。地方独特の郷土料理を楽しむのも旅の醍醐味の一つだしな。早速宿酒場を探すぞ!」
エステルとリフィアの言葉に頷いたヨシュア達は村中を歩き回って宿酒場を探した。
~マノリア村宿酒場・白の木蓮亭~
「ようこそ、『白の木蓮亭』へ。見かけない顔だけど、マノリアには観光で来たのかい?」
酒場のマスターは村では見かけないエステル達を見て尋ねた。
「ううん。ルーアン市に向かう途中なの。」
「ボース地方からクローネ峠を越えて来たんです。」
「クローネ峠を越えた!?は~、あんな場所を通る人間が今時いるとは思わなかったな。ひょっとして、山歩きが趣味だとか?」
エステルとヨシュアの答えにマスターは驚いて聞き返した。
「うーん……。そういう訳じゃないんだけど。ところで、歩きっぱなしですっごくお腹が減ってるのよね。」
「何かお勧めはありますか?」
「そうだな……今なら弁当がお勧めだけど。」
「お弁当?」
マスターのおススメの意外な料理にエステルは首を傾げた。
「町外れにある風車の前が景色のいい展望台になっていてね。昼食時は、うちで弁当を買ってそこで食べるお客さんが多いんだ。」
「あ、それってナイスかも♪聞いてるだけで美味しそうな感じがするわ。」
「それじゃ、そうしようか。どんな種類の弁当があるんですか。」
マスターの言葉にエステルは楽しそうな表情で頷き、ヨシュアも同意してメニューを聞いた。
「スモークハムのサンドイッチと魚介類のパエリアの2種類だよ。どちらもウチのお勧めさ。」
「うーん、あたしはサンドイッチにしようかな。」
「それじゃ、僕はパエリアを。」
「まいどあり。しめて120ミラだよ。」
エステルとヨシュアはそれぞれお金を払って弁当を受け取った。
「そこのお嬢さん達は何にするんだい?」
マスターはリフィア達がまだメニューを頼んでいないことに気付き、聞いた。
「ふむ。外の風景を楽しみながら食べる弁当も悪くないが余はこの『魅惑の魚介畑』とやらが気になるな。」
「私はこの『頑固パエリヤ』という料理が少し気になっています。」
「エヴリーヌは甘いお菓子が食べたいから、この『季節限定・フルーツケーキ』が食べたいな。」
「まいどあり。お嬢さん達の注文は今から作ることになるけど、いいかい?」
「ええ、私達は空いた席に座って待っているのでお願いします。」
リフィア達を代表して頼んだ料理のお金を払ったプリネはマスターの確認する言葉に答えた。
「リフィア達はここで食べるようね。じゃあ、あたし達は外の展望台で食べているから。」
「わかった。余達はお前達が食べ終わってここに来るのを待っている。」
エステルの言葉にリフィアは頷いて答えた。
「ああ、そうだ。ついでにサービスでハーブティーもつけておいたよ。これもウチの名物でね。」
「わ、ありがと♪」
マスターのサービスにエステルは喜んだ。
「それじゃ、展望台に行こうか?」
「うん!」
そしてエステルとヨシュアは宿酒場を出た。
「ここはさっき調べたばかりね。雑貨屋さんにも居なかったし……困ったわ……どこに行っちゃったのかしら。」
宿酒場の前で制服を着た少女が何かを探していた。
「ヨシュア、ほらほら早く!」
「ちょっとエステル。前を向いて歩かないと……」
そこにヨシュアの方を見ながら前を見ず、宿酒場から出たエステルが少女にぶつかった。
「あうっ……」
「きゃっ……」
ぶつかった2人は地面に手をついた。
「あいたた……。ご、ごめんね、大丈夫!?あたしが前を見ていなかったから……」
「あ、いえ、大丈夫です。すみません、私の方こそよそ見をしてしまって……」
少女はエステルに起こされながら謝罪した。
「あ、そうなんだ。じゃあ、おあいこって事で♪」
「まったく……エステル、何やってるのさ………………………………」
早速人にぶつかってしまったエステルに呆れたヨシュアは制服の少女を見ていきなり黙った。
「???」
「ヨシュア、どうしたの?」
ヨシュアの様子に少女は不思議そうな表情をし、エステルも不思議に思って尋ねた。
「い、いや……。ごめんね。連れが迷惑かけちゃって。どこにもケガはないかな?」
「はい、大丈夫です。私も人を捜していて……。それでよそ見をしてしまって。」
「え、誰を捜してるの?」
少女の言葉が気になったエステルは尋ねた。
「帽子をかぶった10歳くらいの男なんですけど……。どこかで見かけませんでした?」
「帽子をかぶった男の子……。ヨシュア、見かけたりした?」
「いや、ちょっと見覚えがないな。」
「そうですか。どこに行っちゃったのかしら……。私、これで失礼します。どうもお手数をおかけしました。」
エステルとヨシュアの言葉を聞いた少女は軽く頭を下げた後、去って行った。
「ヨシュア?ねえ、ヨシュアってば。」
去って行く少女の後ろ姿を見て、呆けていたヨシュアをエステルは肩をゆすって気付かせた。
「え、ああ……どうしたの。」
「どーしたもこーしたも……あ、もしかして……。なるほど、そーゆーことか♪」
ヨシュアの様子に呆れたエステルだったが、突然一人で納得した。
「……なんか、激しく勘違いしてない?」
エステルの様子から何か勘違いしていることを悟ったヨシュアは呆れた表情でエステルを見た。
「照れない、照れない♪一目会ったその時から恋の花咲くこともあるってね。」
「ち・が・い・ま・す。ただ、昔の知り合いにほんの少し似ていただけだよ。それで、ちょっと驚いただけさ。」
案の定勘違いしているエステルにヨシュアは溜息をつきながら答えた。
「へえ、ほう、ふーん。昔の知り合いに似ているね~。口説き文句としては30点かな?」
「ところでエステル。あの子の制服、見覚えない?」
全然信じていないエステルにヨシュアは弱冠怒り気味の口調で言った。
「そういえば……。ジョゼットが変装に使ってた何とか学園ってところの制服!?」
「ジェニス王立学園だよ。このルーアン地方にあるらしいから見かけても不思議じゃないけどね。」
「ふーん、今のが本物なんだ。なんか清楚で礼儀正しくて頭も良さそうだったわね~。生意気ボクっ子とは大違いだわ。」
「何言ってるんだか。ジョゼットと最初に会った時、完全に騙されていたくせに。」
「うっ……」
ヨシュアの言葉が言い返せず、エステルは黙った。
「そういや、あの時も僕の事をからかっていたよね。ま、それでまんまと騙されたら世話ないんだけど。」
反撃するかのようにヨシュアは正論を言って、エステルに笑顔で言い返した。
「ううう……」
何も言い返せないエステルは唸るだけで反撃の言葉は出なかった。
「人をからかう暇があったら、もうちょっと観察力を養った方がいいんじゃないの?」
「わかった、わかりました!もう、からかったりしません!」
「分かればよろしい。」
ようやく降参して謝ったエステルをヨシュアは許した。
「さてと、それじゃ展望台でお昼ご飯にしようか?」
「ふあ~い。」
ヨシュアをからかって、手痛い反撃の言葉を受けて精神が回復しきっていないエステルは元気がなさそうな返事をしてヨシュアと共に展望台に向かった………
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第57話