お初にお目にかかる。俺の名はカンヘルモンと言う。
本先ほど、リアルワールドから電波が来たようだ。そう、
リアルワールド――つまりは悠史からの通信を拾ったが、それを伝えるべき大神が捜し出せない。
内容はデジタルゲートが開いてる場所を捜索しろとの事だった。しかし……閉じ終わったであろうデジタルゲートの捜索など出来るのか?
そんな疑問を抱きつつ、俺は空が低いスカイロゥゾーンを飛んでいる。
スカイロゥゾーンは他のゾーンと違い空が低く空の領域が広い。よって羽を持ったデジモンや、空中戦を得意とするデジモンがこのゾーンにいる。地にあるはずの洞窟や建物等も空に浮いているという不思議な景色だ。
「ん?」
空を切るようにスピードを出して飛んでいたのだが、俺の赤い左目が雲に埋まっていたボロボロの青い羽を見つけた。
そのデジモンは怪我をしているのだろうか、と思いスピードを落として近寄ってみる。
「おい、大丈夫か?」
声は聞こえたらしく、羽がピクリと反応する。
「出れないか? ひっこ抜くぞ」
地面のような雲はどうやら柔らかくないようだ。しっかりそのデジモンを捕らえ空に浮いている。
持つところが羽しかない以上そこを持って引き抜くしかないと思い、痛んだ羽をおずおずと掴んだ。
「せーのっ――!」
力任せに上へ引き抜くと青が印象的な巨体が姿を現す。
「あんたはっ――!!」
驚きで見開いた目には、胸にはVのマーク、腕にはブレードが止まる。
「いやぁ助かったよ! 雲なのに何か抜け出せなくてさ。困ってたんだ!」
あははは、と頭を掻いて笑う姿はとてもそうは思わなかったが、俺は尊敬の意を抱いてるネットワークセキュリティ最高位、"ロイヤルナイツ"の一人と姿が同じだ。
「ロイヤルナイツ、アルフォースブイドラモン!?」
「え、うん。そうだけど、どうかした?」
「うん」とあっさり肯定された俺は次の言葉に詰まった。どうかした訳ではないが、死ぬまでには一度会ってみたいと思っていたロイヤルナイツに、こうもあっさりと、しかもこのような形で出会うとは思ってもいなかっただけの話だ。
「いや……羽に傷を負っているみたいだが、そちらこそどうかしたのか?」
適当にはぐらかし羽の事について聞いてみる。そしたらアルフォースブイドラモンは陽気にあはは、と笑ってから答えてくれた。
「ちょっと荒野みたいなゾーンで敵とやり合ってたんだけど、いきなり此処に飛ばされてさ。そしたら体中が軽く傷を負ってたんだ。移動の時の衝撃って感じか」
「飛ばされた?」
「そこんとこは良く分からないんだけど、移動の時少しデータが減った気がするんだよな……」
掌を見つめ真剣な顔をするアルフォースブイドラモン。しかしすぐに彼の顔は砕けた顔になる。
「兎に角そんな事は後でいいや! 早くイグドラシルに戻らないと!」
「イグ……ドラシルか」
「だけど俺、このゾーンは初めてだな。あ! 君って見た所究極体みたいだけど、何て名前なんだ?」
「名乗る程の者でもないが……名はカンヘルモンと言う」
「そっかそっか! カンヘルモンか! 宜し――」
アルフォースブイドラモンが急にガタンと右肩を落とした。その原因は彼の羽である。
「羽が消えている!?」
「えっ、どうして……!? これじゃぁ飛べなくなるよ!」
どこかに吸い取られるようにアルフォースブイドラモンの羽が消えていく。その吸いよせられる感覚は本人も感じたらしい。
「どこかにデータを持ってかれてる……!! マズイな……」
「持っていかれてるだって……? 一体どこに……」
そうこう言ってる内に羽は消えていく一方だ。地に降りた方がいいかと思ったが、此処は空がメインのゾーン。空を飛べなければ何かにつけても不利だ。
そう思った俺はアルフォースブイドラモンの手を取り、彼のデータを奪っている場所を探そうという判断をした。
「探そう、データを集めている場所があるはずだ! そこを見つければ何とかなるかもしれない」
「え、わわっ!?」
彼の神速には断然及ばないが、早く処置を、と思い出来るだけ速く飛んだ。怪しい場所はないか、両の目を光らせて。
最初は驚いた彼も、すぐに笑って「ありがとう」と言い、同じように目を光らせている。
データを持っていかれる所を探し始めてまだそんなに経っていないが、アルフォースブイドラモンの変化が一向に治まらない。
「うわぁ……もう殆ど消えたな」
「何を悠長に。神速を誇るあんたが飛べないだなんて致命傷だろう」
「あははは、そうだな!」
こんな状況になっても柔らかい雰囲気のアルフォースブイドラモンに俺は思わず溜息が洩れた。決して馬鹿にしているということではない。
彼の余裕なのか、彼の性格なのか、焦りを見せないアルフォースブイドラモンは流石といった溜息だ。
「それにしてもカンヘルモン」
「ん?」
「半竜だから古代種でもないっぽいし、獣竜には変わりないんだろうけど、君って飛竜だったんだな」
「は……?」
「いやぁ、中々スピードがあると思ってさ! 俺より体も小さいし、俺を引っ張って飛んでんのに」
「……まぁ、一応は……飛ぶ、な」
「?」
歯切れの悪い返事をした所為か、アルフォースブイドラモンは首を傾げた。彼に悪気がない事は分かっているが……
"半竜"
半分は龍の力。そして俺の場合、もう半分は獣の力。
究極体である以上、どんな力であろうとそれは一つの姿になり、一つの力になる。
色んな姿のデジモンがいて、色んな姿の究極体もいる。それは分かっている。
だが俺は究極体であるにも関わらず、完全体に分類されてもいいくらい、姿すらも半々。何かが"中途半端"だった。
究極体に進化した時、同じ究極体デジモンにそれを指摘された事もあった。
その時は自分の中にある"いくつかの力"を使いこなせてない時だったから余計にかもしれない。
地を蹴る"狼"の"土"、
空を駆ける"飛竜"の"風"、
そして水中を泳ぐ"水龍"の"水"。
どの力もほぼ均一にデータとして組み込まれてしまった3つの力を、この半竜半獣の姿で使いこなすには俺には難しかった。
どうしてどれか1つの力を優位に組み込まなかったのだろうか、と思った事もある。特に竜族の力が二つで、統一されていない事は力の配分的に辛いものがあった。自分が何に得意であるかが分からなくなるからだ。
だから俺は選ぶ事にした。そしたら少しは安定して、楽になるのではないかと。それはそれで難しかったが、ほんの少しだけ"龍"の力を優先させたんだ。
とまぁ変な事を思い出してしまったが、今の目的は――
「いや、何でもない。それよりコレは……!」
「どうやら此処みたいだなぁ」
データを奪っていたこの場所。今までもいくつかのデータを奪ってきたのか、チカチカとデータが集まっている。
(只のデータを集めてる場所じゃない……? もしかして悠史の探しているゲートの跡か)
「あ、あったあった俺の羽」
奪われた羽のデータを全て元に戻す作業は案外簡単に終わり、アルフォースブイドラモンは傷一つない羽を2回程羽ばたかせる。
「よかったぁ~ホント助かったよ! ありがとう!」
「礼には及ばない。それにしてもこのデータは一体どこから……」
「うーん、ほんとだな。俺だって羽しか持っていかれなかったって事は他のデジモンからも少しずつ……」
もう一度データを覗きこんだアルフォースブイドラモンがまさかの仲間のデータがある事に気付く。
「これ、デュナスモンのデータじゃないか!! どうしてこんな所に……!?」
どこかの一部じゃない、デュナスモンのデータが丸々その場所にあったのだ。
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6話http://www.tinami.com/view/449145
7話 データの場所
8・9話http://www.tinami.com/view/450296
※オリジナルデジモンデータhttp://www.tinami.com/view/446387 (p3)