No.449636

真・恋姫無双 EP.101 光明編(3)

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2012-07-09 01:34:22 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3902   閲覧ユーザー数:2687

 崩落に注意をしながら、土砂をどかして穴を大きくすることになった。

 

「日暮れまでには、何とせねばのう」

「そうですね。璃々ちゃんの体調を考えたら、あまり時間は掛けられません」

 

 美羽たちの話によれば、ずいぶんと衰弱しているようだ。何度か声を掛けたが、璃々には返事をする気力もないようで、わずかに反応を示すばかりである。

 

「中からも掘った方が早いのではないか? 妾たちも手伝うぞ」

 

 美羽がそう提案してきたが、風は断った。

 

「万が一の事もあるので、そちらは何もしないでください。出来れば、少し入り口から離れていた方が安全かも知れません」

「わかったのじゃ」

 

 祭が大きな岩を動かし、稟が大きめの石をどかしてゆく。風と小蓮は土砂を布袋に詰めて、穴を広げていった。日が傾いて、周囲が赤く染まり始めた頃、ようやく子供が通れるほどの穴に広げることが出来たのである。

 

「念のため、風が宝譿を使って中の様子を見てきます。安全そうなら、美羽様たちを外に出しましょう」

「わかった」

 

 承諾を得て、風は意識を集中する。すぐに頭の上の宝譿がピコピコと動き始めた。そして広げた穴から、美羽たちの居る中に入って行ったのである。

 中は真っ暗で何も見えない。宝譿を通して見ているとはいえ、その視力は普通の人と変わらない。人形の目が慣れるというのも妙だったが、あくまでも見ているのは風の目だ。慣れるのにしばらく待ち、やがて確認するように周囲の岩肌を見回した。

 

 

 差し込む光でぼんやりと見えるだけだったが、何とか穴周辺の確認をすることが出来た。

 

(少し崩れやすそうですね。傾いた岩が気になります)

 

 だが、あの大きな岩を動かすにはかなりの時間を要する。不安は残るが、子供はわずか三人だ。慎重に行えば、問題ないだろうと判断した。

 一度、宝譿を戻した風は祭に伝える。

 

「子供たちを外に出します」

「問題なさそうか?」

「不安はありますが、慎重にすれば大丈夫でしょう。一応、宝譿で岩を支えておきます」

「よし」

 

 風は再び宝譿を操って、穴の中に入った。そして奥で待機している美羽たちを呼んでくる。

 

「もう、いいのかえ?」

「出られるのかにゃ?」

 

 声を出せない宝譿は、肯定するように大きく頷いた。美羽と美以は璃々を抱えるようにして、再び穴の近くに移動する。

 

「聞こえますか? それじゃ、順番に一人ずつ、ゆっくりと出てきてください」

 

 稟が外から声を掛け、まず、動けない璃々を先に出すことになった。とはえい穴は小さく、祭や稟では体を入れることすら出来ない。そこで小蓮が半身を穴の中に入れ、璃々の体を引っ張り出すことにした。

 

「よし、いくよ!」

 

 横になった璃々の腕を掴み、上半身を穴に入れた小蓮がゆっくりと引っ張って行く。中では宝譿が、璃々の足を掴んでゆっくりと押していた。

 

「もうちょっと……よし!」

 

 体が周囲の壁にぶつからないようにしながら、小蓮は無事に璃々を助け出すことが出来た。

 

 

 璃々を安全なところまで運び、続いて美以が出て来ることになった。

 

「いくにゃ」

 

 美羽がそう言って、出ようと穴に近づいた時だ。傾いていた大きな岩が、滑るように横に動いたのである。その衝撃でかろうじて支えていた部分が折れ、岩がまだ穴の中にいる二人の少女の上に倒れて来たのだ。

 

「おわっ!」

「にゃっ!」

 

 思わず頭を抱えてしゃがみこんだ美羽と美以は、悲鳴を上げて目を閉じた。だが、倒れて来たはずの岩が二人の頭上にやってくる気配はない。恐る恐る目を開けると、目前で岩は停止していた。

 

「何が起きたのじゃ?」

 

 美羽が確認するように見ると、岩の下の方で宝譿が倒れそうな岩を支えていたのである。

 

「風!」

 

 驚いた美羽が宝譿に近づこうとした時、穴の外から声が掛けられた。

 

「二人とも早く!」

「そうにゃ! 美羽、行くのにゃ!」

「……わかったのじゃ」

 

 支える宝譿を美羽が見守る中、美以が穴から出るため横になる。

 

「宝譿、がんばるのじゃ。妾もすぐに出るからの」

 

 小さな体でピクピク震えながら、宝譿が大きな岩を支える姿を、美羽は懸命に励ますように声を掛けた。宝譿は話せなかったが、その声はしっかり風に届いていた。

 

「よし、最後は袁術じゃ!」

「うむ。では、行くからの」

 

 祭の声に応え、名残惜しそうに宝譿を見ながら、美羽は穴に身を差し入れた。

 

 

 岩が崩れそうな瞬間、風は宝譿を使ってそれを支えた。

 

(くっ……さすがに辛いですね)

 

 通常よりは力を出せるとはいえ、岩を支えるのはかなりの負担になる。それだけ意識を集中し、精神を消耗するのだ。

 

(ですが、力を緩めるわけにはいきません)

 

 これまでの疲労もあり、風自身の限界も近い。だが手を抜く訳にはいかなかった。

 

(せっかく生きて再会出来た美羽様を、こんなところで失うわけにはいきません。必ず、無事に連れて帰ります)

 

 強い想いがある。風にも、少し不思議な気分だった。

 そもそも、最初は北郷一刀の援護のために行った行動だったのだ。袁術に近づいたのも、打算的だった。だが一緒に過ごし、話をするうちに気持ちが変わっていったのである。

 

(守ってあげなければいけないという、妙な義務感が生まれました。彼女自身の性格もあるのでしょうが、その素直さと周囲の環境を考えた時、そばに居てあげたいという気持ちが芽生えたのです)

 

 美羽の笑顔を守りたい。風はそう、強く思った。だから、自分がどうなろうとも美羽を助ける。

 風の額に、汗が滲んだ。

 

「風、大丈夫ですか?」

 

 稟が心配そうに声を掛けてくる。それに無言で頷いて、風は微笑んで見せた。

 

「妾は、鳥になりたかった」

「どうしてですか?」

「鳥になれば、自由に空を飛べるのじゃ。どこにでも、好きな場所にいけるではないか」

「でも美羽様、自由な鳥には鳥なりの、不自由があるものです」

「自由なのに、不自由なのかえ?」

「みんな何かに縛られ、生きているのですよ」

「風もかえ? 風は何に縛られておるのじゃ?」

「風はですね……」

 

 あの時、何と答えたのだろうか。遠のく意識で、思い出そうとする。けれど、思い出せない。

 

「風! 風!」

「しっかりするのじゃ!」

 

 稟と美羽の声が聞こえる。ぼんやりとする視界に、二人の顔が見える気がした。

 

(大丈夫ですよ、美羽様。稟ちゃん……)

 

 光が、降り注ぐ。風は最後に微笑んで、意識を失った。

 

 

 祭たちは、無事に璃々、美羽、美以を助け出すことが出来た。だが、倒れる岩を宝譿で支えるために力を使った風は、あの場で倒れて意識を失ってしまったのである。街に戻っても、風が意識を取り戻すことはなかった。


 
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