──空から女の子が振ってきた。
根暗ハーレム君はたしかにそう言った。
いくらハーレム野郎だとしても、まるで某ジブリのようなことが起きるはずはない、とは言い切り難いのが現実である。
少なくとも俺、伏宮鳫斗には絶対にない。
まず異性とあまり交流がない。
あまり…………あまり……?
訂正。殆どありません。
そもそも奴は可笑しいのだ。
世話焼きの幼馴染みとか中学のときに助けた女の子とか姉みたいな兄とかは普通の人間にはいない。
否、いたとしたら我が全身全霊を以てして絶殺する。
バスに揺られバランスが崩れそうになる女子を見詰める。
正確には姿勢が傾くことにより僅かに翻るスカートの中身を凝視する。
それでも花園は見えなかった。
仕方なく諦め、携帯の電話帳を見始める。
そこで、あることに気付いた。
「この一年間で培った電話帳での異性登録件数が0……?」
登録されていたのは武偵高の2年の男、約80人。それだけ。
「バカな!?」
何度見返しても、電話帳に女子らしき人の電話番号はおろかメルアドは一件もない。
「あ、あった……!」
絶望の縁に立った瞬間、希望の手が差し伸べられた。
『伏宮 奈那』
伏宮?
これ、俺の苗字じゃん。
……奈那。
どこかで聞き覚えのある名前。
「……あ、母親か」
静かに携帯をしまう。
電話帳でやっと見つけた異性が母親だったという事実に泣き叫びたくなる。
ふと周りを見渡し、さっきから感じていた違和感の正体に辿り着く。
「ふっ……。皆、俺の魅力が素晴らしすぎて近付けないんだな。そうだ、そうに違いない!」
車内は人がギリギリ普通に立つことが出来るほどの人口密度。
……のはずなのに。
「……やめろ。一緒にいる俺も悲しくなる」
俺と武藤の周りは見事にエア美少女が囲んでいた。
頭の中では腕に柔らかいものが当たっていたりするんだが現実の場合、武藤というムサい男が横にいるだけ。
後ろのほうで女子がぎゅうぎゅう詰めになりながら俺から必死に離れようとしている。
「何故だ武藤! 何故俺とお前の周りには美少女はおろか女子が集まらない!」
「畜生! キンジと不知火には嫌と言うほど集まるというのに!」
魂の嘆きは女子の好感度を下げる。
証拠として、冷ややかな視線とひそひそと罵倒が飛び交っている。
だがしかし、そんなものは気にならない。
今朝は彼のハーレム野郎に復讐をしてやったのだ。
そう、それは……
「聞け、武藤」
「今度はなんだ」
「我がルームメイトたる男の敵を起こさずにバスに乗ってやっ──」
──鋼色の閃光が走った。
殺気を感じ必然的に口を閉じる。
「あっれぇー? 可笑しいな。キンちゃんはもう先に行ったってメールが来てたんだけどなぁ」
「サーセン。あれ俺です」
首筋に刀の冷たい感触。
星伽がヤバい雰囲気を出して佇んでいる。
横の武藤は苦笑いしつつも、チラチラと星枷の胸に視線を向けているのが筒抜けだ。
流石だ。抜け目がない。
「星枷、甘いな。この俺を殺れるとでも思っているのか?」
「キンちゃんのためなら神さまでも殺して見せるよ?」
「なんて式さ──」
──再び、俺は口を閉じる。
爆発音。
周囲が黙る。
俺と武藤に向けられていた視線が消える。
爆発音源、煙が立ち上っている箇所を見詰める。
「「あれさ、キンジじゃね?」」
どこかの主人公張りに巻き込まれ体質な奴がまた何かに巻き込まれたのだろう。
俺と武藤は、ほぼ同時に推理した。
「キンちゃん!?」
「……ざまぁ」
「八つ裂きと細切れとコンクリート詰めのどれがいい?」
「サーセン」
ああ、彼女欲しいなぁ……
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武偵。
彼はこの職に希望を見出だしていた。
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