プリネ達に人質の安全を任せたエステル達はさらに奥へと進み、終点らしき部屋を見つけ、そこから聞き覚えのある声が聞こえてきたので足を止めた。
~空賊団アジト内~
「ここは……」
「うん……ここが首領の部屋みたいだね。」
エステルの言葉を続けるようにヨシュアは言った後、エステル達は様子を見てから踏み込むことにした。
「ぐふふ……女王が身代金を出しやがるか。これで貧乏暮らしともオサラバだな。」
空賊団の首領3兄妹の一番上の兄、ドルン・カプアがこれからのことを考え、危険な瞳で笑っていた。
「兄貴、油断は禁物だぜ。身代金が入るのはこれからだ。」
「うん、まずは人質解放の段取りを決めなくちゃね。」
すでに勝利気分の兄にキールとジョゼットがそれぞれの意見を言った。
「人質解放?おいおい、どうしてそんな面倒くさいことをしなくちゃならねえんだ?」
「え……」
しかし不思議そうに言うドルンの言葉にジョゼットは呆けた。
「そんなもん、ミラだけ頂いて皆殺しにすりゃ済む話じゃねえか。生かしておく必要はねえだろう。」
「ド、ドルン兄……?」
「じょ、冗談キツイぜ……」
ドルンの予想外の言葉にキールやジョゼットは信じられない表情をして焦った。
「連中には俺たちの顔をしっかり覚えられてるんだぜ?リベールから高飛びしても足がつくかもしれねえだろうが。」
「だ、だって年寄りとか小さな子供だっているんだよ?本当に殺しちゃうつもりなの!?」
人質達を殺す気でいるドルンにジョゼットは必死で反論して、引き止めた。
「まったく、おめぇときたらいつまで経っても甘ちゃんだな。ママゴトやってんじゃねえんだぞ?」
「そ、そんな……ボク……」
しかしドルンは妹の言葉に全く耳を貸さず、それがわかったジョゼットは愕然として項垂れた。
「兄貴……悪いが俺もそれだけは反対だ。そこまでやっちゃあ混沌の女神(アーライナ)はわからないが、空の女神(エイドス)や癒しの女神(イーリュン)だって許しちゃくれん。それに……血塗れのミラで故郷を取り戻したくないんだよ。」
キールも必死でドルンを真剣な表情で引き止めた。
「…………………………………………キールよ、おめぇ……いつからそんな偉くなったんだ?」
「えっ……」
静かに怒りを抑えるようなドルンの言葉にキールは呆けた。
「なめた口叩くんじゃねえ!」
そしてドルンは手元にあった瓶をキールに投げつけた。
「がっ!」
「キール兄!?」
瓶に当たったキールは呻き声を上げてうずくまり、ジョゼットはキールの元に駆け寄った。
「がはは、なにが故郷だ!せっかく大金が入るのに今更あんなしみったれた土地を取り戻してどうするつもりだよ?ハッ、南のリゾートあたりで豪遊するに決まってるだろうが!」
「なん……だって……?」
高笑いで言うドルンの言葉にキールはうずくまったまま、信じられない表情でドルンを見た。
「それでミラが無くなったら、また飛行船を強奪すりゃあいい。それが、これからの『カプア空賊団』ってやつだぜ。ぐわーっはっはっはっ!!」
「ドルン兄……どうしちゃったの……?本当にどうしちゃったのさぁ!」
あまりにも変貌した兄にジョゼットは叫んだ。
「お取り込み中のところを悪いんだけどさぁ……兄妹ゲンカは後にしてくんない?」
そこにエステル達が武器を持って突入した。
「あ、あんたたち!?」
「遊撃士どもっ!?ど、どうしてこの場所に……」
エステル達の姿を見たジョゼットとキールは信じられない表情をした。
「フッ……薄情なこと言わないでくれ。キミたちがあの船で運んでくれたんじゃないか。」
「バ、バカな……何をふざけたこと言ってる……………………まさか。」
オリビエの言葉に最初は理解できなかったキールだったがある考えが浮かび、その考えを肯定するようにエステルが笑いながら続けた。
「琥珀の塔の前に飛行艇を泊めてたでしょ?スキを見て忍び込んで船倉に隠れてたってわけ。いわゆる密航ってやつね♪」
「ず、ずっこいぞ!この脳天気オンナっ!!」
「だ、誰が脳天気よ!この生意気ボクっ子!!」
ジョゼットの言葉にムッとしたエステルは言い返した。
「な、なんだと~っ!?単純オンナ、暴力オンナ!」
言い返されたジョゼットも黙っていられず、言い返した。
「あ、あんですって~!?」
「はいはい。口ゲンカはそのくらいで。……人質は解放したし他のメンバーも倒しました。残るは、あなたたちだけです。」
程度の低い口喧嘩に呆れたヨシュアは仲裁した後、遊撃士として宣言した。
「遊撃士協会の規定に基づき、あなたたちを逮捕・拘束するわ。逆らわない方が身のためよ。」
「うう……」
「くっ、くそー……」
シェラザードの言葉にキールとジョゼットは呻いた。
「キール、ジョゼット……。てめぇら、何やってやがる?」
「す、すまねぇ兄貴……」
「ゴメンなさい……」
ドルンの責めるような言葉に2人はすまなさそうな表情で謝った。
「ぐふふ、まあいい。大目に見といてやるよ。こいつらをブッ殺せば、それで済むわけだからなぁ。」
「あ、あんですって~っ!?」
ドルンの物騒な発言にエステルは怒って叫んだ。
「がはは、馬鹿な連中だぜ!その程度の人数でこのドルン・カプアを捕まえようとするとはなぁ!」
ドルンは高笑いをしながら机に飛び乗って、大砲のような物を取り出しエステル達に向けて撃った!
ズガーーーン!!
「きゃあ!?」
「導力砲を軽々と……!」
ドルンの攻撃にエステル達は驚いて回避した。
「がはは!逃げ惑え!!」
ドルンは高笑いをしながら狭い室内の周囲に導力砲を乱射しまくった!砲弾は爆発し、爆発によってできた煙は室内を充満してエステル達の視界を奪った。
「くっ……!」
「まずい……!これじゃあ、近づけない!」
導力砲の攻撃を回避しながら、シェラザードは悔しそうな表情をし、ヨシュアはどうするか迷った。
「ちょっ……兄貴!!」
「やりすぎだよ!ボク達まで巻き添えになっちゃうよ!!」
一方、我を忘れて味方をも巻き添えにする攻撃にキールとジョゼットは悲鳴を上げて、諌めようとしたがドルンは聞く耳を持たなかった。
「くっ……こんの……」
現状を打破するためにエステルは魔術を使おうとしたが
「がはは!隙だらけだぜ!!」
「!!」
「エステル!!」
動きが止まったエステルを逃さなかったドルンが導力砲をエステルに向け、それを見たエステルは驚いて硬直した。ヨシュアは叫んで警告したが、警告は空しく硬直した状態のエステルに向かってドルンは導力砲を撃った!
「喰らえ!!」
「やばっ……!キャッ!?」
ドルンの砲撃を避けようと動いたエステルだったが、足が縺れてその場で転んだ。迫りくる砲弾にエステルは目をつむった。その時、エステルの後ろから砲弾と同じくらいの火の玉が何個も飛んできて、砲弾にぶつかり火の玉が砲弾を押し返した後、引火した砲弾がドルンの目の前で爆発した!
ドガーーーーーン!!
「ぐわぁ!?」
目の前で起こった爆発にドルンは怯んだ。ようやく収まったドルンの砲撃に部屋内は静かになり、煙が晴れた。そして煙が晴れると、なんと今までエステルを観察した狐らしき生物がエステルを守るように、そして戦闘ができるように飛び掛かる態勢でエステルの前にいた。
「…………………………………」
「え……!?」
突如目の前に現れた狐らしき生物にエステルは驚いた。
「ほう……見事な毛並みな狐だね。」
「いや、狐にしては体があまりにも大きすぎます!それに尾が……!」
いつの間にか現れた狐らしき生物にオリビエは感嘆の声を上げたが、ヨシュアは体の大きさや何本もある尾を見て狐であることを否定した。
「考えるのは後にしなさい!首領達を拘束するわよ!!」
「う、うん!!」
「わかりました!」
「フッ……それでは反撃開始だ!」
状況を見て好機と判断したシェラザードの言葉にエステル達は再び武器を構えた。
「グッ……獣ごときがなめた真似をしてくれたじゃねえか!?キール、ジョゼット!さっさと得物を取りやがれ!遊撃士共々血祭りにあげるぞ!!」
「う、うん!」
「ほどほどにしてくれよ、兄貴!」
ドルンの言葉にジョゼットは導力銃を、キールは長剣のように長い短剣を構え、エステル達に襲いかかった………!
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第48話