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リリカルとマジカルの全力全壊 A,s編 第六話 Legend

リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ

2012-07-08 12:39:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:6804   閲覧ユーザー数:6465

 高町なのはは考える。

 何でこんな事になったのだろうか?っと…元々、ルビーと関わってからこっち、自分の人生がまともとは言い難い物になってしまった事は自覚していた。

 なんせ、おとぎ話や伝説の中にしか存在しないような…魔術師である。

 思えば常識から遠くに来たものだと、9歳ながらに達観した思いを抱く事もシバシバだが、自分で選んで掴みとった道である。

後悔はない…後悔はないがしかし、この所の騒動はそろそろなのはの限界を超えつつあるのも事実だ。

何せ世界崩壊の危機である。

しかも二回目である。

ハイジャック程度ですら、遭遇する確率は宝くじに当たるより低いと言うのに、それが一年にもならないうちに二回、どれだけ自分の人生は嫌な意味でフィーバーしているのかとすら思う。

一歩間違えば世界が消えると言うのは、自分で言うのもなんだが子供の肩に乗せるのはハードすぎるだろう?

「えっと…なんですかこれ?」

そして、挙句の果てにはこの状況…なのはは今、空にいた。

 ただし、いつものように魔法で飛んでいるわけでは無く、海鳴で一番高いビルの屋上から、やたらと太い釣り竿に、ロープに縛られた状態で吊下げられているという…まさに、なんですかこの仕打ちは?である。

「良い質問ね?」

 そして、釣り竿の根元にいるのは、例のお蝶夫人であった。

 翠屋で、こんな事もあろうかと何処からともなく取り出したのがこの釣り竿だったのだ。

「ヴォルケンリッターが何処にいるかはわからないわ、でも彼等の行動半径を調べたところ、この世界から転移出来る世界に限定されている事が分かったの」

 つまり、ヴォルケンリッターもその主も、この世界に潜伏している可能性が高いと言いたいらしい。

「はあ、それはわかりますけど、私がこんな事になっている事と何の関係が?」

「せっかちね、女の子がガッツいたらみっともないわよ?」

 ひょっとして喧嘩を売られているのだろうかと、思わなくもない。

「ヴォルケンリッターが、なのはちゃんに興味を持っているのは確かでしょ?」

 なのはは頷いた。

いずれ謝罪をするとシグナムが言っていたのだから、再度なのはの前に現れるつもりがあるのは間違いないだろう。

 蒐集の為に用があるのか、それ以外の理由かはまだ分からないが…

「だから、こうしておけばヴォルケンリッターの方からくるんじゃない?」

「アバウトキターー!!しかも、なのはは餌なんですか!?」

『正しくは生餌ですね~』

 ルビーが補足してくるが、そんな事はどうでもいいのである。

「題して、オペレーション“ヴォルケンリッターホイホイ”!!」

 ちなみに、こういう事に反対してくれそうな高町家の皆さんは不参加だ。

 今回は特に空中戦がメインになりそうなので、遠慮してもらった。

 刀が届かなければ話にならない。

 すずかの“あれ”はある意味人外の力なので、人間の限界近いスペックもちであっても、カテゴリーヒューマン内に収まる人達に同じことを期待するのは無理がある。

「無茶ですよ!!こんな分かりやすい罠で出てくるわけが…」

「「「「ヴォルケンリッター参上!!」」」」

「「「「「「「「「「「「「「「何―――!?」」」」」」」」」」」」」」

 叫び声は、なのはだけの物では無かった。

 近くに隠れていたクロノや武装局員やフェイト達の悲鳴も混じっている。

 隠れていた意味が全然なくなってしまったが、全員が唖然とした驚きでそれどころでは無いようだ。

「盾の守護獣、ザフィーラ!!」

「鉄槌の騎士、ヴィータ!!」

「湖の騎士、シャマル!!」

「列火の将、シグナム!!」

 呆れた事に、全員集合している。

 しかも真正面から正々堂々と、封鎖結界の中に入って来て名乗りを上げて…こいつら頭は大丈夫か?偏差値はいくつだ?

「やはり現れたわねヴォルケンリッター!?」

 全員が金縛りになっている中で、お蝶夫人だけが動いていた。

 しかもノリノリで…不安しか湧いてこない!!

「いきなり町中に封鎖結界が現れたんで、何かと思えば…」

「幼い女子に対する非道…見過ごせん…」

「手前等、時空管理局だよな?」

「彼女を放してやれ!」

 ヤバイ…なのはは涙が出そうになった。

 味方よりも、顔見知り程度の相手の義理人情に感動してしまう。

「あ、あの…ヴォルケンリッターの皆さん?お話したい事が…「者ども、であえであえ~」…え?」

 不満はあるが、ヴォルケンリッター達をおびき出すことには成功したのだから、ここからは会話で問題を解決しようとしたなのはの言葉を、お蝶夫人が遮った。

 武装局員達がヴォルケンリッター達を囲む。

「こんな罠に引っ掛かるなんて無様ね!!」

「くっつ、卑怯な!!それでも法を守らせる立場の人間か管理局!?」

注)この話は管理局アンチではありません。

「勝てばいいのよ!!敗者に正義を語る資格がないという真理を知らないの!?」

「ちょっと待ってお蝶夫人、それはどう考えても悪人の台詞だと思うの!!」

注)この話は管理局ヘイトでもありません。

 一つ間違えばこの世界が破壊されるのだから、罠だろうがなんだろうが手段を選ぶ余裕などないし、負けるわけにも失敗するわけにもいかないとなのはでも分かるが…もう少し言葉を選んでもいいだろう?

 胸元の開いた体のラインがはっきり出る紫のドレスに黒マント…極め付けにこれでもかと言うくらい派手なパピヨンマスクまでつけてこの発言…正気かどうかを問いただしたくてしょうがない。

 おかげでヴォルケンリッターの皆さんがめっさ警戒している。

「まだ犯罪者の時の癖が抜けていないのか!?って言うか何で君が場を仕切ってんだ!?」

「遅い。クロノ君遅いよ!!」

 本当に今さらだった。

 まずなのはを宙吊りにする所から気付けよと言いたい。

「見ろ、武装局員の皆さんのやる気が霧散していくぞ!色々あっても管理局に残ってくれた大事な人材なのに!!」

 クロノ…キミの苦労と哀愁が透けて見えた気がしたよ。

「え~っと、ヴォルケンリッターの皆さん?私は大丈夫だから、まず落ち着きましょう。」

「フッ、安心してほしい、魔女っ子のなのは殿」

 シグナムの言葉を聞いて、なのはは逆に警戒した。

 そう言われて安心できた記憶がない。

 むしろ、より面倒な事になった覚えは腐るほどにある。

「騎士道大原則一つ!騎士たる者、弱きものを助けねばならない!!」

「うわ…」

 うめき声が出るほどに、シグナムが何を見て影響を受けたのか分かりやすかった。

 すでに瞳にダイヤモンドを輝かせている。

 あれは青春の名の下にどんどんやっちゃう目だ。

「それに、ヴィータちゃんの好敵手でもあるしね」

「友の宿敵は…友だ」

「へへ、悪いな皆…」

 いや…何でそこで全員がデバイスを構えてワクワクした顔になる?

 何所の戦闘民族だこいつら?

「くっ、不本意にも程があるが止むを得ん…」

 戦闘の意思を見せられて、ガンジーレベルの無抵抗主義と言うわけにはいかない。

 右の頬を張られたら即座に左のストレートを差し出すなんて事、現実の世界では割と良くある話だ。

「抵抗するなら、力づくで拘束するしかない」

「最初からそのつもりだったのだろう?」

「そこだけはきっちり否定させてもらおう!!」

 クロノの言葉に全員が頷いた。

 暴走しているのはあくまで…あーくーまーでお蝶夫人だけだ。

「どの道、我々は彼女に用がある(クリスマスパーティのお誘いをするために)」

「やはり、そう言う事か(魔力を蒐集する為に…)」

 両者の考えは決定的なところで致命的に、そして絶妙にずれている。

 共に、基本的な認識が一致しているだろうという思い込みから、逆にそこを問いただす事を思いつかないのだろうが…そのバランスはある意味芸術的ですらあった。

「主の為に…」

「それが君たちの意志だと言うのなら…止めて見せる」

 なのに、表面上は何処までも熱い空気が流れていた。

「み、皆やめて!!」

 なのはの言葉が、逆に開戦の鏑矢となって両者が激突する。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 自他共に認めるヴォルケンリッターの将、シグナムはその手に持つ直剣のように、まっ直ぐになのはに向かって飛んだ。

 途中包囲を突破する為に、すれ違いざまに武装局員の胴を剣と鞘で薙ぐ、鞘は勿論、剣も峰を返して打ったので、死んではいない。

 主は暴力を嫌い、蒐集ですら悪人に限定するほど…そんな彼女の意思を無視する事などできないし、そもそも魔法少女とコンタクトをとることにしたって、主の笑顔の為なのだ。

 正直なところ…シグナムを初めとしてヴォルケンリッター全員、なんでこんな事になったのかよく分かっていないのだが、成り行きとはいえ一度戦闘が始まってしまえば、騎士としての意志がそれらの疑問をひとまず棚上げしてくれる。

 戦場は考える場所では無い…戦う場所だ。

「行かせない!!」

「む!?」

 横合いから突撃してきた黒い人影に反応して、シグナムが剣を向けると、金属音の奏でる甲高い音と共に、吹き飛ばされそうな圧力が来て思わず両手で剣を保持する。

 金の魔力刃と銀の刃の起こす鍔迫り合いの火花の先に、金髪をツインテールにした少女がいた。

「やるな、私に守りに入らせた事は誇ってもいいぞ」

「ありが、とう!!」

 同時にお互いが相手を突き飛ばし、距離をとる。

「さっきも名乗ったが、列火の将シグナムと私のデバイス、レヴァンティンだ。名前を聞いても?」

「…フェイト・テスタロッサとバルディッシュ」

「良い名とデバイス、そして迷いのない良い太刀筋だ。よい師に恵まれたと見える」

『フラグ?フラグがたったと申すか!?』

「貴女とレヴァンティンも」

『Danke.』

 バルディッシュの発言はどうでも良すぎてスルーされた。

 冬まっ盛りだと言うのに、ごくごく小さな場所にだけ木枯らしが吹いている。

「なのはは…渡さない」

「それは困ったな、我々は彼女の協力がどうしても必要なのだ。っと!?」

 いきなりシグナムが身をかわした場所を、見覚えのある白い物が通り過ぎた。

「だ、誰だ!?」

「クスクスクス…」

「っつ!?」

 見れば、近くのビルのわずかな凹凸の上に、見覚えのある少女が危なげなく立っている。

 しかもシャリンシャリンと、まるで包丁で包丁を研ぐかのように左右の剣の刃を合わせ、神経を刺激する不快な金属音を響かせている。

 僅かにうつむいている為に前髪が顔にかかっているのだが、その髪の隙間から瞳の形をした赤い輝きがシグナムを見返してきているのは…下手なホラーよりよっぽど怖かった。

「クスクスクス…私からなのはちゃんを奪おうなんて悪い人…」

 これはヤンデレか?と心に問えば、おそらくこれがヤンデレだと答えが返って来た。

 しかもシグナムは彼女の地雷を踏んだようだ。

 今さら足を上げても手遅れだろう…後は爆発するしかない。

「初めまして、シグナムさん、私は月村すずか…そしてさようなら…永久に…」

 闇に、吸血鬼の末裔が飛んだ。

 後にシグナムは語る。

 力が強いとか、技がさえているとか、魔法の強さなどとは別の…できるならば関わりたくないと感じる何かを彼女は持っていたと…。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「フン!!」

「でりゃ!!」

 ザフィーラは、自然な流れでアルフと拳をかわしていた。

 素手、そしてバインドや防御系の魔法が得意等の接点が、互いに自分の敵として相手を見定めたのだろう。

「ガウ!!」

「グルオ!!」

 そして二人が似ているのはそれだけでは無かった。

 二人とも、緋と蒼の獣と化し、牙を相手につきたてようと争う。

 人と獣、両者はその姿を変えながら戦いあっている。

「やるじゃないか、あんたも使い魔なんだろう?」

「使い魔ではない。主の牙となり盾となる存在、守護獣だぁっ!!」

 二人の間には男女と言う性別の差は存在していなかった。

 拳と拳、けりとけりがぶつかり合って魔力同士の干渉による火花が、星空の輝き以上に互いの姿を飾る。

「雄嗚嗚嗚!!」

「あ、あれは!!」

 人間形態のザフィーラが、足の下にプロテクションを展開して蹴り込んでくるのを、寸前でアルフはかわした。

「…ザフィーラキック」

「や、やっば…」

 なのはのプロテクションダイブを見ていなかったら、避けられなかっただろう。

 あれは点では無く、面単位での打撃なので打撃範囲が比べ物にならないくらい広いので、全力で回避に回らなければ避けきれない。

 盾の守護獣と名乗っていたので、こういう攻撃方法も考慮しておくべきだった。

「…必殺技を出すときは、技の名前を言うんじゃなかったっけ?」

「技の名前は後で言ってもいいらしい。盲点だった」

 …元ネタはやはりあれか?

 強さに泣かなきゃならないあいつか?

「余計な知恵を仕入れてきやがって…なあ、アンタ?」

「何だ?」

 両者の距離が開いた事で、会話をする余裕が生まれた。

「あんたも使い魔…守護獣ならさ、ご主人様の間違いを正そうとしなくてもいいのかよ?」

「間違い?これ(クリスマスに魔法少女を招待するの)は我らが意志、我らが主は(サプライズイベントだから)何もご存じない」

「なんだって…そりゃ一体!?」

 ザフィーラ…言葉が少ないにもほどがあるだろう?

 全部話してしまえば、お互いの勘違いが一気に解消されそうなものだが…なぜこんなにすれ違ってしまうのだろうか?

「貴様には関係のない事だが、主の為であれば己が手や体を血に染まる事も厭わず」

 しかも何故、ザフィーラはクリスマスイベントで血に染まる必要があると思っていやがるのか謎だ…ブラックサンタの伝説でも信じているのではあるまいな?

「我と同じ守護の獣よ、お前もまたそうではないのか!?」

「そうだよ。でも、だけどさ!理由は知らないけど、あんた達の主が命令してるんじゃないとしたら…」

「だけどなんだ?何より、彼女を囮に我々を呼び出すなど、お前こそ主の間違いを正さなくていいのか?」

「ぐは!!」

 思いっきり痛いところを衝かれたアルフが呻く。

 人権侵害で訴えられたら、確実に負けるだろうと思えるくらいの自覚はある。

「あ、あれはプレシアがやった事でフェイトは…むしろプレシア殺す…」

「殺人予告とは穏やかでは無いな、悪い事は言わない。考えなおせ」

「お前に…何が分かる!?」

 あれ?…何時の間にかアルフとザフィーラの立場が逆転している?

「落ち着け、悩みがあるなら相談に乗ろう。誰かに話す事でその胸にたまったものを流すがいい。殺人と言う暴挙に及ぶ前に、やれる事があるはずだ。」

「お前…良い奴だな」

 アルフの目が潤んでいる?

 おや、敵味方を超えた何かのフラグがたったか?

 

――――――――――――――――――――――――

 

「フフ、もう逃げられないわよ」

 シグナムにフェイトとすずか、ザフィーラにアルフ、そして残りの面子は、シャマルとヴィータを包囲していた。

「いや、だから何で君が仕切るんだお蝶夫人?」

「ふん、手前が親玉か?」

 ヴィータがそんな事を言いながら、ハンマーを突きつけたのはやはりお蝶夫人だった。

 まあ、ヴィータの勘違いも致し方がないとは思うが…はっきり言ってお蝶夫人に指揮権はまるでない。

 この場の指揮者は当然クロノになるので、本当ならクロノの指示に従うのが筋のはずだ。

 なのになんでだれも文句を言わないのかと言えば、実に簡単な話で彼女が間違った事を言っていないからだ。

 ヴォルケンリッター達を確保しなければならないと言うのは本当だし、やり方はどうあれ有言実行でヴォルケンリッター達を封鎖結界の中におびき出したのも確かだし、二人を包囲している事にしたって、元々彼等もそうするつもりでいたので、彼女の言葉に従って動いても何の問題もないからである。

「わかりやすく派手な格好しやがって…歳を考えろおばさん」

 確かに、彼女の着ているドレスとかマントとか、後はやはりパピヨンマスクをつけて平然としている所とか…大きな子供のいる母親の姿として問題を感じないか?と言われれば頷くしかない。

 事実、お蝶夫人の目の前でクロノと武装局員の皆さんがそうだそうだと頷いている。

 派手と言われても全く反論の余地がないどころか、むしろ知り合いで協力者と言うアドバンテージがなければ、彼女の方こそ不審人物として逮捕されても文句は言えない所だ。

 しかし、前半はそれでいいとして…問題は後半だった。

「…何か言ったかしら?この小娘?」

 びしりと、お蝶夫人の体から電撃がほとばしった。

 マスク越しにでも分かるほどの怒気に、歴戦の猛者のはずの武装局員たちがビビる。

 忘れてはいけない……彼女の本業は技術屋だが、同時に高レベルの魔導師でもある。

 病気の治った彼女は次元跳躍魔法も使いこなし、その気になればこの辺り一帯を吹き飛ばすくらいわけない実力を持った魔導師なのだ。 

 天は二物を与えないとかは完全な嘘っぱちである。

 しかも厄介な人物に二物を与えちまったようである。

「ダメよヴィータちゃん、おばさんに現実を叩きつけちゃ~。誰だって好きで“小皺”を刻んだり“弛んだり”するわけじゃないのよ?」

「よ、容赦ねえなシャマル?あたいはそこまで言ってねえぞ?」

 小さな子をたしなめるお姉さん風だが、内容的には明らかに喧嘩を売っていた…っと言うか煽っていた。

 同じ女だけに、容赦なく同性の闇をえぐる姿は笑顔を浮かべた鬼のようだ。

 味方のはずのヴィータにまで退かれているぞ?

「オホホホ伊達にお昼のドラマを煎餅片手に見ていたわけじゃないのよ。ヴォルケンリッターの参謀役は伊達じゃないわ!!」

 きっとドロドロで女の意地とか妄執とか愛憎渦巻くドラマなのだろう。

 一体何をやっていたんだこいつ?

 きっと何もやってこなかったのでテレビばっかり見てたのだろう…このニート参謀役が…挑発する技術だけむだに高くしてどうするつもりだ?

「だ、大丈夫か?立て、立つんだお蝶夫人!傷は浅いぞ、がっかりしろ!!」

「誰ががっかりしているのよ!!私?私ががっかりって言いたいの!?」

「失礼、噛みました」

「噛んで無い!何所の蝸牛の迷子よ!?」

「失礼、本音が漏れました」

「本心だったのね!?」

 正直な心の声だったらしい…流石はクロノ・ハラオウン!!

 図太くなってからキワモノの扱いが上手くなっているぞクロノ・ハラオウン!!

 数少ない突っ込み役なのだから頑張ってくれクロノ・ハラオウン!!

「時空管理局って案外色もの集団だったんだな?」

「「「「「「失敬な!!」」」」」」

 お蝶夫人以外の全員で、異口同音にヴィータの言葉を否定した。

 色々やらかしているのは否定しないが、それは全て管理局外の人間である。

 クロノだってぎりぎりこちら側に踏みとどまっている…はずだ!!

「まったく、大人の色気も分からない小娘どもが好き勝手言ってくれるわね、果物だってお肉だって熟してからが美味しいのよ!!」

「落ち着けお蝶夫人、何が言いたいのか真面目によく分からないから、後すごく負け犬の遠吠えっぽい…大体、実年齢ならあの二人の方がはるかに上だろう?」

 

―――えるしってるか、ぷろぐらむはとしをとらない

 

 ヴォルケンリッターの二人が一発で固まった。

「は、そ、その通りよ!!」

 お蝶夫人の表情がぱっと明るくなって…すっごく嬉しそうだ。

「盲点だったわ、見た目は若く、中身はおばあちゃん。その正体は合法ロリータおばーちゃんと毒舌おばーちゃんなのね!!騙される所だったわ!!」

「騙されるなよ、一応天才なんだから…しかも言いたい放題だな?」

 誰か、こいつを大人しくさせる方法を教えてプリーズ…。

「なぁシャマル?あいつらグラーフアイゼンの頑固な汚れにしちまってもいいよな?」

「ええ、私の心も叫んでいるわ、(私にとっての)悪を倒せって…いい言葉よね?」

 二人もやる気と言うか殺る気満々だ。

 特にシャマルは()の中に本音が駄々漏れである。

「フン、勝てるかしら?私と武装局員の皆さんに!?」

「「「「「「何!?」」」」」」

「あら?何で驚くのかしら、貴方達は彼女を捕まえに来たんでしょう?」

「そ、それはそうなんだが…」

 当初の目的はたしかにそうだった。

 しかし、この場に至ってはどうにも私闘に巻き込まれた感が否めない。

 やる事は変わっていないのに、どうにも納得のいかない状況だった。

「できれば帰って寝たいと思っても責められる…だろうな、いろいろな方面と色々な人から…悪いが皆頑張ってくれ」

「「「「「はい…」」」」」

 武装局員の皆さんの士気が低すぎだ。

 あからさまに気が進まないのは理解できるが、割り切って頑張ってもらうしかない。

 たとえどんなに気が向かなくても、納得できなくてもである。

「かかって来なさい“おばあちゃんズ”、ピチピチの若さに勝てると思うなら!!」

 彼女もやたらとこだわる…最近、自分より年上の人間が周りにいなかったからだろうか?

 リンディも変わらないくらいの歳のはずだが、見た目的に彼女の方が年上に見えるし…それでもピチピチはやっぱり死語だと思うんだ。

 実年齢がばれるぞ?

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「皆やめてってば!!」

 激化する戦場を見下ろす位置で、未だになのはは宙吊りのまま、封鎖結界の中心でラブ&ピースを叫んでいた。

 ドラマならこういう時、刃物の一つでも持ちこんでいて、縄を切って脱出するのだろうが、現実はひじょーうに非情で残念である。

 こうなると、なのは本来の力で脱出するしかないのだが、当り前に世紀末覇王のごとく筋肉の膨張だけで切れたりしないし、そんな筋肉質の魔法少女は嫌だ。

『あはぁ~皆さん盛り上がっていますね~』

 ルビーの物言いにイラッとくるが、眼下の光景はまさにそうだった。

 一部で妙な事になっているようだが、あっちこっちで魔法の爆発が起こり、魔導師達が飛び交っている。

 数の差があるにもかかわらず、それと真っ向からやりあっているヴォルケンリッター達の実力は大したものだ。

『あれってギガディンでしょうか?派手ですね~』

 クロノ達のいるあたりの戦闘音と閃光が特に激しい、かなり気合を入れてやりあっているようだ。

 あの落雷はお蝶夫人のそれだろうが…非殺傷設定はちゃんと付いているんだろうな?

 ついていても命にかかわりそうな気がするのだが…ここはあえて気のせいにしておこう。

 さらにドッカンドッカンと餅つきのようなリズムで何かを押しつぶす音も聞こえるので、巨大なウサギでもいるのかもしれない。

「やめてって言っているのに!!」

『誰も聞いてませんね…なのは様、ガンバです』

 レイジングハートが気の毒そうに言ってくれるが、あの状況の中ではなのはの声など爆風にまぎれてしまって、誰の耳にも届くまい。

「止めてって…なのは…言ったよね?」

『おや?』

『なのは様?』

 ルビーとレイジングハートは、顔を伏せたなのはが妙な気配を発散しているのに気が付いて?マークを浮かべた。

 色的に…黒?

 なのはの魔力光は桃色だったはずだが?

「…ルビーちゃん、レイジングハート?」

『『は、はい!!』』

 妙な威圧感に、ルビーとレイジングハートが同時に答える。

 なのはの顔が、見たことのない無表情になっていた。

 人間、怒りが度を越しきると無表情か笑ってしまうと言うが、なのはの口元にもうっすらと笑みが浮かんでいる。

「変身だよ」

『へ、変身ですか?』

『し、しかしなのは様?バリアジャケットは既に展開されていますが…』

 お蝶夫人も、女の子の体に縄の痕をつけるのはいくらなんでもダメだと、バリアジャケットの上から縄をかけたのだ…このうえで変身などと言われると…答えは一つしかない。

「変身…いいよね?答えは聞いていないよ」

『『イ、イエッサ!!』』

 それはつまり、最後通告であって、本人が言うように確認では無い。

 レイジングハートが即座に分解し、ルビーを中心にして新たなる形に作りかえられてゆく、現われたのはルビーとレイジングハートが合体した魔法術用礼装型デバイス…同時に、なのはが七色の光に包まれ、拘束していた縄がブチッと音をたてて切れる。

 それは物理的なものだけでなく、もっと決定的な何かが切れる音だったかもしれない。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

「む!?」

「げ、何だありゃ!?」

 ほぼ同時に、全員が“それ”に気がついた。

 封鎖された結界の中を埋め尽くす様な強大で強烈な魔力のほとばしり、気がつかない方がどうかしているほどに濃密な存在感が、いきなり結界内に出現したのだ。  

 全員の視線が集まる一点…巨大なビルの頂点で、地上から空に向かって駆けあがる虹の中、魔力に包まれながら、一人の少女がその姿を変える。

「な、なのは!?」

「なのはちゃん!!」

 すらりと伸びた四肢、大人のスタイルを白と赤の着物に似た外套に包み、銀の手甲と脚甲、身の丈以上の巨大な錫杖型のデバイスを持ち、屋上の縁に降り立った彼女は…魔法使い…高町なのは。

「…ねえ、何で皆してなのはを無視するのかな?」

「「「「「「「「っつ!!」」」」」」」」」

 怒鳴り声のように大きくはない。

 むしろ呟くような小さな声だったのに、何故か聞き逃した人間はいなかった。

 そして全員が理解する。

 理解できなくても理解出来てしまう。

 彼女は怒っているのだ…この上なく怒っているのだ。

 重要なんで二回言いました!!

「私、言ったよね?戦わないでって…お話しようって…なのになんで無視して戦うのかな?なのは…さみしいな…」

 言葉と共に、なのはから息苦しいほどに強大な魔力が発散されている。

「いいよ、皆がなのはを無視するなら、無理やりにでもお話を聞いてもらうから…」

 しかも、なのはの目にハイライトがない!?

 危険度のパラメーターが振りきれている!?

『あ~なのはちゃん、無視されてほうっておかれるのにトラウマがありますからね~』

 全員の血の気が引いた。

 理屈?

 HAHAHA、子供は感情で動く生き物だよBOY。

「な、なのはちゃん、私たちなのはちゃんを無視したわけじゃないよ!!」

「そ、そうだよ!!忘れていただけ!!」

「フェイト、君はもう何もしゃべるな!!」

「あぅ…」

 あわてているため、実に正直な事を口走ったフェイトをクロノが黙らせる。

 正直だから何でも許されるわけでは無い。

「そうよ。貴女の体を張ったヴォルケンリッターホイホイ、見事だったわ!!」

「テスタロッサ家は親子揃って黙ってろ!!」

 お蝶夫人…めんどくさいのでプレシアも、なのはから感じる魔力でいっぱいいっぱいで頭が上手く働いていないようだ…やはり血か?

 以前は守護者と言う同等以上の相手に対して向けられていた力が、自分達に向けられている。

 まるで砲弾の装填された八八砲の砲口の前に立っているような緊張感だ。

「な、何だよあれ?」

 ヴィータの、信じられないという声に、全員がはっとして再びなのはを見上げ、そして絶句する。

 その光景は…まるで曼陀羅のようだった。

 なのはを中心に展開される無数の魔法陣…数は、目測で三桁近い!?

「まさか…あの全てが砲撃魔法なのか?」

「た、多分…」

 シグナムの信じられないという言葉を、シャマルが嫌な意味で肯定してくれた…誰だってそんな嫌なお墨付きは欲しくなかっただろう。

『皆さん知ってますか~?』

「「「「「「「「「「な、何を?」」」」」」」」」」

 常と変らないのんびりしたルビーの言葉に、全員が無意識に聞き返す。

『ソーラーシステムってコロニーだって融かせるんですよ~あはぁ~』

「「「「「「「「「「っつ!!」」」」」」」」」」

 全員が抱いた未来予想図はきっと正しく、ほぼ同じイメージだっただろう。

「…皆、ちょっと頭冷やそうか?」

 なのはがその手に持つ杖を構えると、もはや恥も外聞もなく全員が散った。

 だが残念…彼等は「大魔王様からは逃げられない」と言う名言の意味をその身で体験する事になるのだ。

「|大虐殺祭(ジェノサイドカーニバル)!!」

『怒りの翼を解き放て、ストライク~!!』

 その光景は正にフリーダムだった。

 降り注ぐ浄化の光…桃色の砲撃から逃げ惑う武装局員とヴォルケンリッター…黙示録の日が訪れたとしたら、きっとこういう光景なのだろう。

 |聖書にある悪人の町(ソドムとゴモラ)もかくやという勢いで、街が桃色の光に呑まれ、さら地へと変貌して行く。

 その合間に吹き飛ぶ建物…魔法無しに空を飛ぶ人影…。

「お、おいザフィーラ!!盾の守護獣、なんとかしろ!!」

「後ろに隠れるなとは言わんが、ちょっと待てヴィータ!!我にも心の準備が!!」

「ザフィーラの、ちょっといいとこみてみたい!!」

「むしろ望むところだが四肢を関節技っぽく拘束するなシャマル!!そんな事をしなくても逃げん!!」

「ザフィーラ…気高き守護獣よ…その雄姿、胸に刻む!!」

「勝手に死亡フラグを立てるなシグナム、本当に死んだらどうする!?」

 本人もちょっと駄目かもしれないと、後ろ向きな事を思っているようだ。

「くっ、仲間の命を背負い、今!必殺の!!ザフィーラシールドーーーー!!!」

 ザフィーラの前方に、強力な結界魔法が展開される。

「我等も行くぞ」

「おうさーーー!!」

「了解!!」

『『『Panzerschild』』』

 シグナムのレヴァンティン、ヴィータのグラファイゼン、そしてシャマルの手にある指輪型デバイス、クラールヴィントの電子音声が重なる。

 一歩前にいるザフィーラを中心に、残りの三人がプロテクションを重ねがけしたのだ。

 やはり騎士と言うべきか、あんな事を言っていたが、仲間を見捨てる気はなかったようだ。

 その友情パワーで作られたプロテクションは、滝の濁流をコップで受け止めるような無謀な行いではあったが、ぎりぎりの所で桃色の奔流を防ぎきった。

 ヴォルケンリッター達は、全身ほんのり焦げてダメージを負ったものの、空中にとどまり続けている。

「見たか、これぞ我等の全力全開!!」

「クスクスクス」

「…え?」

 笑ってる。

 四人が見ている先で、白い悪魔が笑っている。

「ヴィータちゃんに続き、一度ならず二度までもなのはの台詞を取っちゃったんだね?」

「吐けヴィータ!!お前あんな闇笑いを向けられるような何をした!?」

「し、知らねえよ!!あ、あたいはな…に…も…」

 ギガントハンマーで追いまわした事とかが、脳裏にフラッシュバックしてきたヴィータの声が尻すぼみになって消え、顔色が怒りの赤から真っ青へと信号機のごとく切り替わる。

「あ、あの…魔女っ子…さん?いや、様!」

 自分の意思を裏切って、ザフィーラの口調に敬語が混じり、端が笑みの形になる。

 逃げられない死の予感に、獣の本能が反応しているのだろう。

 背後にいた三人は、ザフィーラの尻尾がすでに丸くなって降参しているのをしっかり見た。

「人の台詞を勝手に取っちゃうなんて悪い子だよね?えっと…ザフィーラさん?」

「ま、待ってください!!お話をお願いします!!」

 ザフィーラが何か懇願ぽい事を言っているが、笑うだけで答えないなのはに再び魔力が集まって行く。

 広範囲殲滅型の魔法に匹敵する砲撃の嵐を降らせながらも、まだなのはには余裕があるという事実…もうそれは感心とか尊敬を通り越して恐怖の対象だ。

『あはぁ~昔の剣豪は言いました。過ぎた力ってのは時として周囲に「卑怯」と取られる事があるらしいですよ~』

 いやもう、誰の言葉か知らないが激しく同意だった。

 再び展開される曼陀羅魔法陣…この時点で世の中は不条理とか思ってしまう。

「なのはと…お話したいの?」

「そ、そうです!!」

 闇笑いしながら、なのはがコテンと首をかしげると、ここぞとばかりにザフィーラが頷いた。

 いつもの無口な彼は返上したらしい。

 今こそ交渉役ザフィーラの名前は悪役を任じる時だ!!

 皆の命…はいくらなんでも大丈夫だから…明日はキミにかかっている!!

 何かなのはに一番目をつけられている気はするけども…頑張れザフィーラ!!

「お話は大事だよね、リリンの作り出した最高のコミュニケーションだよ。そうは思わない?ザフィーラさん?」

「御尤もです!!」

「じゃあ、終わったらゆ~っくりお話ししようね♡」

「「「「■□■□■!!!!!」」」」

 交渉は失敗した。

 語尾の♡だけちょっと可愛かったが、それ以外は容赦なしの待ったなしだった。

 言葉にならない悲鳴は…数十本の桃色の光の彼方に消える…とりあえずヴォルケンリッター達に、主以外で逆らってはいけない人間の名前として、高町なのはの名前が恐怖と共に心に刻まれたのは間違いない。

 すべてが終わった後に立っていた…もとい、空を飛んでいたのはなのはだけだった。

 非殺傷設定だったため、これだけ大規模破壊を巻き起こしていながら死者は0、ただし巻き込まれた武装局員の皆さんは繰り返し同僚や友人に恐怖とともに顛末を語り、最終的には親が我侭な子供に対して「言う事を聞かないと白い大魔王様がOHANASIしにくるぞ?」っとなまはげ的な扱いをされるところまで行くことになる…そして伝説へ…生きているうちに伝説を作れる人間は稀である。

 たとえ本人が不本意極まりなくても伝説は伝説…本人が読んで字の如く伝え説かれて嬉しいかどうかは…また別の話ではあるのだろう。

 

 後日談として、何でこれほどの力を持つ礼装がロストロギア認定されないのかと言う抗議文が、グレアム提督の元に段ボール単位で届く事になり、老体に鞭打ち過ぎた彼が過労死寸前まで追い込まれる事になる……アーメン。

 


 
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