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リリカルとマジカルの全力全壊 無印編 第二十一話 パンドラの真実

リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ

2012-07-08 12:14:29 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:15160   閲覧ユーザー数:14457

きっとこれでみんな良くなるだろうと・・・思っていた。

娘を取り戻した母親が、きっと元の優しい彼女に戻ると・・・いろいろな障害はもちろんあるだろうが・・・それでも不器用にでも、少しずつ家族三人・・・ああ、もう一人、使い魔の加えて四人か?

四人で良くなって行けると言う・・・これで悲しいことの全てが終わったと思っていたのが悪かったのだろうか?

気を抜いていた事は罪か?

それは、やっとわかりあう事が出来るかもしれなかった母親の胸に剣がつきたてられるほどに大それた望みだっただろうか?

 

わからない・・・わからない・・・。

 

ああ・・・そう言えば誰かが、誰が言ったのかは思い出せないが、世の中はこんなはずじゃなかった事ばかりだと言っていた。

きっとその通りなのだろう。

きっと、プレシア・テスタロッサの胸に剣が突き刺さっているのは、こんなはずじゃなかった事のはずだ。

 

―――夢は終わる。

 

唖然として、自分の胸に刺さっている剣を見降ろしているプレシアという現実がそこにある。

 

「母さん!!」

「ママ!!」

 

フェイトとアリシアの言葉が遠くに聞こえる。

その胸から生えている剣が、とても眩しく光を反射していた。

 

「貴様!!」

「おまえか!?」

 

誰もが振りかえる。

こんな事をする奴はこの場に一人だけだ。

抑止の使者・・・エミヤシロウ・・・彼はただ、黒い洋弓を構えたまま、静かに残心している。

その当然という姿に、全員の頭に血が上った。

 

「なのは!?」

 

だが、誰より早く逆上したのは他でもないなのはだった。

全員の脇を、桃色の砲弾となったなのはが通り過ぎる。

一直線にシロウの元へ、迎撃されるなどと、全く考えていない。

カウンターを放たれれば避ける事も出来ないだろう。

だが、予想に反してシロウは動かなかった。

何もせずになのはを受け入れ、そして・・・パンと乾いた音がした。

シロウの頬で・・・。

 

「「「「「ええええ!?」」」」」

 

なのは以外、その他全員の怒りは純粋な驚きに塗りつぶされた。

なのはの一発で、シロウがふらついたのだ。

ほぼ無敵と・・・否、まさしく無敵と言って差しさわりない守護者にダメージを入れた?

しかもビンタ一発で?

 

「・・・なんでかな?」

「・・・・・・」

 

頬を叩かれたシロウと、なみだをぽろぽろながしているなのはがいる。

なのはの顔に表情はなく、ハイライトが消えている。

なのに、なのはの全身から放出される意味不明な威圧感はドドドドとかゴゴゴゴとか擬音をつけたい感じだ。

それを見た全員が、本能的に感じる何かにビビる。

 

「フェイトちゃんもアリシアちゃんも、プレシアさんも・・・みんなこれからだったのに、これから始まるはずだったのに、なんでこんなひどい事するんですか?」

 

なのはの言葉は静かだ。

しかしそれは彼女が冷静であると言う事では無い。

むしろめちゃくちゃに怒っているのがわかる・・・きっとそれは憎悪というべきものに匹敵するだろう。

 

「・・・答えてください」

「・・・・・・」

 

シロウは答えない。

言い訳不要と思っているのか、言葉の自由意志すら許されていないのか、それは分からない。

なのはの目の前にただ黙って立っているだけだ。

 

『なのはちゃん・・・』

「うるさい!!ルビーちゃんは黙ってて!!」

 

今のなのはにはルビーの声も届かない。

ただ激情に任せて、シロウを睨んでいる。

 

「え~っと、お嬢ちゃん、落ち着いて」

「だからうるさい!!落ち着けるわけない!!この人はやっちゃいけない事をしたんだよ!!」

「私の事で怒って貰えるのは嬉しいんだけど、大丈夫だから」

「何を言っているんですかプレシアさん!?プレシアさんが殺されちゃったんですよ!?・・・ってあれ?」

 

何かがおかしいと、なのはも気がついたようだ。

真後ろから聞こえた声は、なのはの勘違いでなければプレシアの物だ。

そして、プレシアは死んだはずで・・・それなら、なのはと話していたのは誰だ?

 

「ええええええ!?」

 

振り返ったなのはが見たのは、薄ら笑いを浮かべているプレシアだった。

理解不能すぎたり、もうどうしようもない状況になった人間は、文字通り笑うしかないらしいが、今のプレシアがまさにそうなのだろう。

何故ならば、プレシアの胸にはいまだに剣が刺さったままだから。

 

「なんで生きているの!?」

 

失礼かもしれないが本心だ。

胸に剣を突き刺して生きている人間などいるはずがない。

どう見ても即死に見えるのに、プレシアは倒れる事さえしない。

 

『そう言えば、昔ニュースになった矢ガモって結構長生きしたらしいですね~』

「えい!!」

『痛い!!なのはフィンガーは痛い!!』

 

なのはが桃色に光って唸る手で、ルビーを鷲掴みして握りつぶそうとしている。

 

『姉さん、TPOをわきまえましょう』

『あーーずるいですよレイジングハート!?何時の間に分離しているんですか!?おかげでルビーちゃんだけが命の危機!?』

 

疑問形にするまでもなく、|壊れるかどうか(デッド・オア・アライブ)な状況である。

みしみしと嫌な音がし始めていた。

 

「ルビーちゃん痛い?痛いの?やっぱり夢じゃないんだ」

『なのはちゃん!!そう言う事は自分の体で試すものですよーー!!』

「ど、どう言う事!?プレシアさんと言い、アリシアちゃんと言い、テスタロッサ一族って不死身だったりするの!?実は人魚の肉とか食べてたりする!?三つ目の妖怪さんに魂を取られたとか!?残機はいくつ!?」

『なあーーー!!なのはちゃん興奮しないでーー!!ほんとに壊れる砕ける割れる逝っちゃうーーー!!』

「はっ、ひょっとしてフェイトちゃんもリアルで伊達にあの世は見てねえぜなことに!?」

 

バッと見れば、フェイトが涙目でプルプルと子犬の如く震えている。

前にも温泉で見た事があるが、あれは脅えている様子だ・・・一体、誰に?

なんでそんな目でなのはを見る?

 

どうでもいい疑問とか結構信じられない疑問とかがぐるぐると渦を巻き、もう何と言うか緊張していた空気がグダグダで収拾がつかない。

シリアス?

何それおいしいの?

ギャグメインの物語で何を期待してらっしゃったウサギさん?

腐ってやがる・・・早すぎたんだ。

 

「ママ?痛くないの?」

「ええ、痛くはないわ」

 

本当に痛くはないらしい。

アリシアの問いかけに普通に返している。

外見はともかく、内心ではこの場で一番取り乱しているのはプレシアのはずなのだが・・・。

 

「母さん?本当に大丈夫なんですか?」

「そうね、むしろ何か・・・あら?」

 

皆が見ている前で、剣が溶けるようにして消えた。

プレシアの体には傷一つない。

手品と違うのはこれが種も仕掛けもない事だ。

マジシャン達のそれはそう言いながら種も仕掛けもあるのだが、これは本当に種も仕掛けもなかった。

 

「ルビーちゃんせーつーめーーーい!!」

『いやーー!!裂ける捥げる潰れる千切れるーーーーー!!』

 

そろそろルビーが本気でやばそうだ。

 

『なのはちゃん!!ガタキリバ!!』

「ガータガタガタキリッバガタキリバ!!」

『ラトラーター!!』

「ラットラッター!ラトラーター!」

『サゴーゾ!!』

「サゴーゾ・・・サゴーゾ!」

『シャウタ!!』

「シャシャシャウタ!シャシャシャウタ!」

『タジャドル!!』

「タ~ジャ~ドル」

『落ち着きましたか?』

「・・・なんとか」

 

本人達以外には、なにがなにやらわからないやり取りの果てに、フーフーとダースベーダーみたいな荒い息をつきながらもなのはが落ち着いた。

ただし、なのはの目はオームの攻撃色のように真っ赤だ。

普段物分かりがよく、手のかからない子だけに一度弾けると手が付けられなくなるらしい。

なのはの暴走振りに、高町家一同も含めて全員ドン退きしている。

 

あれはなのはじゃない。

なのはの姿をした白い魔王様だ。

 

「お~け~お~け~、それでルビーちゃん?どう言う事なのカナ?なのは、気のせいかとんでもないことしちゃったって言う予感をひしひしと感じるなの?」

 

思いっきり、全力全開のビンタをシロウにかましてしまった事だろうか?

なのはの頭にでっかい汗の幻が現れている。

 

『ちょっと待ってください。今確かめますから、プレシアさん?』

「何?」

『今どんな感じですか?』

「何か重い物が抜け落ちた気がするわ、体が軽いの。これって何事?」

『あ、やっぱり?』

 

ルビーはそれだけで納得できたようだが、ほかの皆は?マークを浮かべるしかなかった。

 

『え~っとですね、多分ですけどあの剣は癒しか浄化の概念を持つ剣だったんじゃないかな~と思うんです』

 

話を聞いていた誰かがロスト・ロギア?とか呟いたが、まさにその通りだろう。

 

『英霊だからって、誰でも出来るってわけじゃないですよ?シロウさんが色々な意味で規格外だから作り出す事が出来るんです』

「でも、何でそんな物を?」

『なんか、プレシアさんって結構致命的な病気だったみたいで、シロウさんはそれを見抜いていたんじゃないかと』

「「「「「何―――!?」」」」」

 

全員の視線がプレシアに集中する。

 

「えっと、はい」

 

プレシアが素直に頷いた。

なのはが真っ青になる。

 

「えっと、つまり・・・?」

『シロウさんはプレシアさんの命の恩人って事になるのかもしれませんね~。大方、脅威が排除されたことで、世界からの制御が甘くなったんでしょう。残った魔力を総動員してあの剣を投影したんじゃないんですか?おいしい所といいところはきっちり抑えるのが正義の味方クヲリティ~?』

 

案の定、シロウはその姿を急速に薄れさせていった。

元々霊体である彼は、自分を構成する魔力がなくなれば消えてしまう存在だ。

 

「にゃーーーーー!!ごめんなさーーーーい!!」

 

なのはのやった事は、第三者から見ても責められたりする物では無い。

悪いのは、どう考えてもいきなりやらかしたシロウの方だ。

人命救助とはいえ、事情を知らなければ殺人的な事をやらかしたのだから。

 

「わ、私何にも知らなくて」

 

なのはがあわてて頭を下げたのは勿論、目の前にいるシロウだ。

たとえ自分がやった事が理屈として正しくても、知らなかったんだから仕方がないと、それで良しと出来ない潔癖なところがなのはらしいと言えば言えるだろう。

フェイトという友人の母親の命の恩人にビンタをくれてしまった事が、なのはにとってはとんでもなく罪悪感だ。

 

「・・・・・・」

 

しかも、シロウからの返事はない。

言葉を取り戻していないのか、それともかける言葉がないと思っているのか判断できない。

純粋に怒っていると言う事もあり得るか?

 

「え?」

 

その代わり、シロウの手がなのはの頭に置かれた。

びっくりして顔を上げたなのはの頭を、シロウが撫でる。

まるでよくやったと、言葉の代わりに行動で示しているかのようだ。

 

「あ、あの・・・」

『シロウさん』

 

なのはの言葉をルビーが遮って声をかける。

何時になく強引だが、ここを逃せば、もう言葉は届かないだろうと思ったのかもしれない。

 

『私はこの世界では無い別の世界で、救われたあなたを見ました』

「・・・・・・」

『あの世界の貴方は、答えを見つけ、沢山の人に囲まれていました。正義の味方にはなれなかったけど、その世界の衛宮士郎さんに料理を教えたりして、幸せそうでした』

 

消えゆくシロウには、本当にルビーの言葉が聞こえているかどうかも怪しいが、構わず語り続ける。

 

『だから、自分を責めないでください。貴方は救われていい人間なんですから』

 

全員の視線の集まる場所で、シロウの体が完全に消え去る。

まるで最初からそこに誰もいなかったかのように、何一つ残さずいなくなった。

それはまるで、冬の日に降るひとひらの雪のように・・・。

 

「ルビーちゃん?」

『・・・・・・まったく、やっぱりシロウさんはシロウさんなんですね~』

「やっぱり、あの人が前に話していた・・・」

『ええ・・・なのはちゃんは本当に気にしなくっていいんですよ?誰かの為にって、それだけを理由に戦い続けて裏切られて殺されて、それでも笑っていたようなそんな人です。なのはちゃんに叩かれた事なんて気にしちゃいませんよ』

「そう・・・なの?」

 

ルビーの独白は、どこか愚痴にも聞こえた。

なのははそれに対して何を言えば良いのかわからない。

裏切るだの死ぬだの、物騒な単語が多い。

 

『だからこそ、道化師のルビーちゃんとしては、ほっとけないんですよね~』

「ルビーちゃんはあの人の事が好きなの?」

『あはぁ~シロウさんに惚れたら火傷するぜぃ?』

 

・・・あまりそのあたりは追及してほしくないのだろうか?

あえて追求しないのがカレンな乙女のポリシー。

 

「・・・ルビーちゃん?」

『はい?』

「きっと、ルビーちゃんの言葉はあの人に届いたよ」

『どうでしょうかね~?』

「うん、だってあの人・・・消える瞬間に笑っていたもの・・・」

 

ルビーは適当に流そうとしている。

しかし、なのはは確かに見た。

完全に消える直前に、シロウの口元に浮かんでいた笑みを・・・。

 

「ルビーちゃんは間違いなく、あの人の涙を止める事が出来たんだよ。なのはにはきっとできなかった。もっと頑張らなくちゃだね」

『フフフ、その考え方は、なのはちゃんらしいですね~愛してますよ、なのはちゃん?』

「よくやったな、二人とも」

 

ポンとなのはの肩に手を置いたのは、なのはの父の方の士郎だ。

気がつけば周りに皆がいる。

なのはの家族も、アースラの武装局員も、それにプレシアにフェイトにアルフとアリシア・・・世界を敵に回して戦って、だれ一人欠けていない。

それどころか一人増えている。

それがどれだけ凄い事なのか、今は理解できなくてもきっと、時間と共に分かって行くはずだ。

今はただ、生き残れたことに感謝しよう。

 

「さて皆、準備はいいか?」

 

クロノの言葉に全員が頷く。

これからやるべきことは明確だ。

何故なら、ここまでの戦闘とか魔術行使とかで虚数空間の穴が大きくなっている。

すでに時の庭園は半分以上が重力につかまって虚数空間に落下を始めていた。

 

「走れ!!生き延びろ!!」

 

了解の言葉は要らなかった。

弾かれたように全員が虚数空間から距離をとるために駆けだし、動けない人間に関しては手を貸して逃げる。

ここで犠牲が出てしまえば、ハッピーエンドで終われない。

全ては生き残ってから考えればいい事だ。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「生きてるって素晴らしいな皆!!」

「「「「「はい!!」」」」」

「お前たちの喜びはそんなもんか!?」

「「「「「NO―――!!」」」」

 

アースラのブリッジはとんでもなくテンションが高かった。

暑すぎるくらい暑かった。

温度上昇の原因はクロノを中心としたアースラの魔導師達だ。

彼等は生きている事の喜びを享受し、感動し、そしていろんなものに感謝していた。

 

「世界は美しい!!」

「「「「「イエース!!」」」」」

「そして僕達は輝いている!!」

「「「「「オフコース!!」」」」」

 

崩壊する時の庭園から脱出するに当たって、彼等は文字通り生と死の狭間を垣間見た。

隆起し、沈下する地面を必死で蹴り、走り、何度も「俺はもう駄目だ」「諦めるな!!」ってな感じでファイト一発的な友情ドラマがあった。

たった三十分程度の時間ではあったが、小説にすれば感動巨編で一冊出来るかもしれない。

そんな視線を潜り抜けてきた彼等のテンションはウナギ登りで、衰える事を知らなかった

彼らの絆は強固になったかもしれないが、正直ちょっとウザい。

こいつら本当に元に戻るのだろうか?

 

「みんな、よく戻ってきてくれたわ!!」

「うわ、母さん!!」

 

リンディの感極まった声が響くついでに、クロノにダイブして抱きつく。

皆と言っているが、やはり息子が帰ってきてくれたことが一番うれしいのだろう。

旦那はすでに亡くなっていると言っていたので、彼女にとってのクロノは唯一の肉親かもしれない。

一人の母親としてのリンディが出てきても仕方がないだろう。

 

「なかなかに老骨には響いたのう」

 

そして全然疲れた風に見えないくせに、一人だけどこから出したのか椅子に座っているゼルレッチだ。

 

「艦の長として、部下の命を救っていただいた事に感謝の言葉もありません」

「ありがとうございました」

 

リンディとクロノがゼルレッチに謝辞を述べる。

時の庭園からの脱出に際して、ゼルレッチも少なからず手を貸してくれた。

それがなければ、流石に全員生還とはいかなかっただろう。

 

「いやいや、ワシもなかなか楽しかった」

 

命の危機さえ楽しいと言うあたりで、この老人の感覚もぶっ飛んでいるなーと思うが、勿論それを口にしたりしないのが社交辞令とか人間関係構築のクヲリティー。

ちなみに、あそこまで容赦なく時の庭園が崩壊したのは、爺の大斬撃乱れ撃ちが少なからない原因なのは間違いない。

 

「そう言えば、あの娘さん達はどうしたのかね?」

 

プレシアとフェイト、アルフにアリシアの姿がない。

 

「アリシアさんに関しては医務室に搬送しました。私達の経験上、一度完全に死亡した死者が蘇生した事例はなく、精密な検査が必要と判断しました。プレシアさんも、病を患っていたそうなので一緒に、フェイトさんとアルフさんは二人の付き添いです」

 

本当ならば、犯罪者として独房に入って貰わなければならないところだが、うち二人は病人と言うべきか悩むが、とにかく最低限の検査は必要な状態にある。

それならフェイトとアルフだけでもという考えもあるが、リンディの一存で四人まとめて医務室に放り込んだ。

今頃何を話しているのかは知らないが、あの家族に必要なのはゆっくり話す時間だと判断したからだ。

モニターで見ていた限り、逃亡の危険性もあるまい。

これでいきなり人間関係が良くなるなどと、安易で簡単で単純な事を考えているわけではないが、きっかけくらいになればいいと思う。

 

「あ、あの・・・」

 

会話が途切れるのを狙って、会話に割り込む声があった。

全員の視線がなのはに集まるが、なのはが見ているのはゼルレッチだけだ。

 

「何かな、なのは嬢?」

「なんで、ルビーちゃんを封印したんですか?」

 

それはとても直線的な問いかけだった。

 

『なのはちゃん・・・』

 

ルビーがどうにも言いづらそうな声を出す。

時の庭園でも、核心に触れそうになった所で無理やり話しを逸らしていた。

追及してほしくはないのだろうとは思う。

 

「教えてください」

 

しかし、なのはに退く気はないらしい、それを見たゼルレッチがフムと頷く。

 

「それはのう。ルビーが危険だからじゃよ?」

「危険?ルビーちゃんは、それは確かに悪戯好きですけど・・・」

「少し説明が必要じゃな、なのは嬢?君はパンドラの箱という話を知っているかの?」

「え?は、はい・・・」

 

その名を出せば、大抵の人間が知っているだろう有名な伝説だ。

かつて、この世の災厄の全てを詰め込んだ箱があった。

しかしその封印は一人の女、パンドラの手によって解き放たれる。

そのため、すべての災いはこの世に解き放たれ、世界は苦しみと貧困に満ちた。

己の罪深さに嘆き悲しむパンドラの耳に、かすかな声が聞こえた。

閉じられた箱の中から、出してくれと訴えかける声だ。

恐る恐る、声の悲痛な訴えにパンドラは再び箱を開ける。

中から出てきたのは≪希望≫・・・多くの災厄という名前の絶望が解き放たれたせかいにおいて、人間には希望が残った。

 

「なのは嬢は良く勉強しておるようじゃの?」

「あ、ありがとうございます。でもこれがなんでルビーちゃんの危険になるんですか?」

「それはのう、その話の真実にある。パンドラが希望を開放した事が美談のように思われておるが、そうではない」

「え?」

「本当は、希望は解放したが、その後に続く最悪の災厄を箱の外に出さなかった事で、人間はいまだに生き続けていられるとそう言う話なのだよ」

 

災厄の詰まった箱の中に、希望という救いが入っていたという所からしておかしいと考えなければならない。

ならば希望もまた災厄のひとかけらなのだ。

確かに人間の希望とは、出来るかどうか分からない事を前にして、曖昧なまま歩を進ませる。

その結果、引き返せない所にまで進んでしまう事もあるだろう。

希望を現実に出来なかった時、そのすべてがむだになるかもしれない。

全ては解釈次第、世界は二面性で出来ている。

 

「それじゃあ、解放されなかった災厄って言うのは・・・何ですか?」

「≪前知≫じゃよ。未来予知とも言うな」

『ルビーちゃんは限定的にではありますが、それが可能なのです』

 

話を黙って聞いていた全員がザワリと反応した。

だが、今は三人だけのターンだ。

 

『なのはちゃん?たとえばなのはちゃんが翠屋の二代目になりたいと思います』

「う、うん」

『でも、本当になれると思いますか?』

「そ、それは頑張れば・・・」

『それが≪希望≫です。そしてルビーちゃんは並行世界からなのはちゃんが“翠屋の二代目になったなのはちゃん“の可能性を引き寄せる事が出来ます。しかし、もし並行世界の何処にもなのはちゃんが翠屋の二代目になる未来がなかったとしたらどうですか?』

「え?」

 

そんな事、考えもしなかったとなのはは驚く。

 

『これが≪前知≫です』

 

並行世界はあらゆる可能性の世界だ。

その中に、夢に辿り着く可能性がないという事はすなわち、その人間の夢は絶対にかなわないという事を意味する。

占いとかそんなちゃちな物ではない。

もっと確実で断定的なものであり、そこには希望すら残らない絶対的な事実だ。

 

『ルビーちゃんを使うと言う事は、そのまま自分の可能性の限界を知ると言う事に等しいんですよ。貴方はここまでしかなれません、これ以上はどんなに努力しても無駄ですよって、はっきり線引きされちゃうんです。そしてルビーちゃんは礼装です。つまり扱える人間は魔術師ということ・・・』

 

魔術師はすべからく根源を目指し、魔法使いになることを夢見ている。

しかし、魔法使いになると言う事は喫茶店のマスターになることよりももっと難しく狭き門だ。

当然、その可能性を持つ人間も少ない。

希望を絶たれた人間は自棄になるか、それとも無気力になるか・・・魔術師は魔法使いを目指し、辿り着けなければ次代にその願いを託すものだが、どうあっても魔法使いにはなれないと断言されれば間違いなく絶望する。

根源は、魔術師にとってそうまでして追い求めるべきものだ。

中には勿論、俗物的な権力などを求める魔術師もいないわけではないが、そう言う連中はそもそも根源や魔法使いに成る事を必要としていない。

 

「ふむ、今思い返せば若さとしか言えんな」

「若さ?」

「なのは嬢?君のような若い物には理解しがたいかも知れんが、自分の辿り着いた境地を自身の死と共に失われる事を恐れたのだ」

 

根源に至る。

あるいは魔法使いになると言う事と、寿命が延びる事は同一ではない。

現に、魔法使いの一人である蒼崎は根源に辿り着いたのちに、数度の代替わりを経ている。

 

『この爺は昔から人望がなくて弟子に恵まれなかったんですよ』

「反論できんのが残念じゃの?」

 

ルビーが補足説明を入れてくる。

ゼルレッチが苦笑したのを見ると真実らしい。

つまり第二魔法は、初代魔法使いのゼルレッチの代でいきなり存亡の危機に陥っていたのだ。

 

「だから当時のワシはルビーを作ったのだよ」

 

第二魔法の結晶、カレイドステッキ。

それは第二魔法の全てを伝えるとともに、魔法使いになれる可能性を持つ人材を見出す目的もあった。

全く可能性がない人間に師事するよりは可能性がある。

魔術師らしい合理的な思考だが、同時に当時のゼルレッチの焦りをも感じさせる話だ。

 

「たとえ根源に至れる可能性を持っていても、必ずしも辿り着けるか分からんしな・・・それが焦りだったと言えば言えるじゃろう」

 

人間とはそんなに強い生き物では無い。

自分には魔法使いになれる可能性があると知れば、当然それに胡坐をかいてしまう事もあるだろう。

楽をしたいと思ってしまう。

わざわざ厳しい道を選んで進む人間はいない。

ルビーを手に入れれば、何の努力も無しに魔法使いの力を扱えるのだから・・・だが、ルビーのそれはあくまで限定的な魔法使いであり、ルビーがいなければ意味がない。

そんな物は所詮、魔法使いの紛い物だ。

あくまでフェイク、本当の魔法使いでは無い。

 

しかし、すでに老人だったゼルレッチにしてみれば、後継者が間に合わなければ、第二魔法は記録にしか残らない文字だけの存在になる。

そんな板挟みになったゼルレッチの思いを完全に理解できるのは、自身でも恭也と美由希に御剣流を教えている士郎と、母親である桃子とリンディくらいだろうか?

 

『結局その問題は、この爺が吸血鬼に噛まれて半ば不死化したことで解消されたんですけどね』

「え?ゼルレッチさんって吸血鬼なの?」

「ああ、ほれこの通り」

 

ゼルレッチが自分の長い犬歯を見せると、耐性のないアースラ組がどよめく。 

本物の吸血鬼など、見るのは初めてなのだろう。

ゼルレッチは以前、朱の月という最高レベルの吸血鬼との一騎打ちの果てにこれを打倒したが、その最中に噛まれ、吸血鬼化した経緯を持つ。

 

「それに、この世界にも吸血鬼はいるようだしの?」

 

ちらりと視線を向けられ、隅に控えていたすずかがビクリと反応する。

幸い、それに気がついたのは高町家一同のみだった。

何か言いたそうなすずかだが、人の多いこの状況では話したくても話せないだろう。

ゼルレッチは頷いた。

それを見たすずかがほっとする。

 

「しかしルビーよ?お主もやはり道具の性からは逃れられんかったようだな?」

『よけーなお世話です』

 

結局、封印を解かれたルビーは、本来の目的である魔法使いになる可能性を持つ人間を見出した。

 

高町なのは、しかも彼女は魔術師としてだけでは無い。

魔導師としての才能も併せ持つまれに見る人材だ。

魔術師であり魔導師でもあり魔法使いにもなれる。

ルビーとレイジングハートが合一した事も、なのはの力を完全に使用する為には単体では不可能だったため、魔術と魔導の融合したあたらしい系統が必要であり、それが魔導術式というわけだ。

それだけ彼女が規格外だという事を意味する。

 

「・・・ゼルレッチさん?」

「何かな?」

 

今まで黙っていた士郎が口を開く。

事は娘に関する事なのだ、父親として放っておくわけにはいかない。

 

「なのはがあなたの後継者になりうると言う事は理解しました。そのうえでお聞きしますが、貴方はなのはをどうするつもりですか?」

 

単純に考えれば、なのはを自分で育てたいと言いだすだろう。

話だけ聞いていても、なのはの才能はとんでもない物らしい。

魔術でも魔導でもない、全く新しい系統などというものに才能だけでたどり着いてしまえるほどに、これになのは本来の勤勉さが加われば、どこまでいけるか誰にも想像できない。

指導者として、ゼルレッチがなのはの到達点を見たいと思う可能性は十分に考えられるし、もしも無理やりにという事にでもなればそれを阻む事が出来るかどうかも分からない。

相手は魔術師の最高峰、魔法使いの一角であり、あの守護者を足止め出来る力の持ち主なのだ。

 

「ふむ、なのは嬢はどうしたいかな?」

「え?」

「君が望むならワシがじかに魔術を教えよう。あまたの世界をめぐり歩き、様々な物を共に見よう。君が一人で立てるようになるまで、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの名の下に、守ると誓う」

 

それは多くの魔術師が望む事だ。

破格の条件を、魔法使いの一人であるゼルレッチが保証してくれた。

魔法使いから直々に教えを受けると言う事は、直系の弟子になると言う事に等しい。

つまり、次代の魔法使いの座を約束されたようなものだ。

魔法使いを夢見る誰もが全てを捨ててでも、差し出されたゼルレッチの手を掴むだろう。

 

「・・・ごめんなさい。ゼルレッチさん」

 

だが、なのはの答えは否だった。

 

「フム、理由を聞いてもいいかね?」

 

ゼルレッチはこれと言って落胆した様子は見せず、しかし差し出した手はそのままになのはを見る。

 

「わたし、この世界に家族がいます。お友達もいます」

「ワシが言うのもなんだが、こんな好条件は二度とないかも知れんぞ?」

「それでも、です。私は誰かの涙を止めたくて魔術師になりました。私のせいで誰かが悲しむなんて嫌です」

 

なのはの答えに、高町家の面々はほっとした顔になる。

8歳のなのはを、いきなり連れて行かれるようなことはなさそうだ。

他の面子は、自分達が何かを言っていい状況ではないと判断したのか黙っている。

 

「泣いている誰かの涙を止めるか・・・それは根源に至るより難しい事かも知れんぞ?」

「それでも、決めたんです。なのはは泣いている誰かに手を差し伸べる事の出来る魔法使いになりたいって。それになのはの師匠はルビーちゃんですから」

『なのはちゃん!!』

「おっとと」

 

感極まったのだろう。

ルビーがダイブしてきたのを、なのはが驚きながらも受け止める。

 

「ふむ、そう言う事か」

 

ゼルレッチが差し出していた手を引っ込める。

 

『そう言う事です。大体、廃人か死亡の二択しかないような貴方の弟子になるなんてルビーちゃんが許すと思っていたのですか?』

「「「「「「え?」」」」」」

 

全員が声を上げた。

 

「ル、ルビーちゃん?何それ?どういうこと?」

『この爺はですね~弟子を嫌な意味で可愛がりすぎると言うかスパルタ過ぎると言うか、とにかくみんな潰れちゃうんですよ。後継者がいないって言うのも、そう言う理由です』

「軟弱な連中が多いだけの事よ」

 

ルビーの説明を聞いてけらけら笑うゼルレッチ・・・しかし、それを見る目は全員白い。

本人は全く気にしていなさそうだ。

ある意味で、危険度はルビーと変わらないかそれ以上らしい。

 

『そんなわけで、今は才能のありそうな魔術師の家系に宿題を出して、自主的に根源に至れるのを首を長くして待っているわけです』

 

吸血鬼になったからこそ、そんな悠長な手が取れるのだろう。

逆説を言えば、そうしないとまともに弟子を育てられないということだ。

魔法使いとしては優秀かもしれないが、師としての才能はないらしい。

 

「そ、そうなんだ」

 

なのはにはそう言うしかない。

数秒前にした自分の選択は正しかったと今ならはっきり言える。

少なくともルビーが師匠なら、死ぬ事も廃人になる事もないだろう。

やはり魔術師の世界というのは怖い物なのだと再確認できた。

 

「なのは、おめでとう」

「なのはちゃんよかったね」

「よかった。本当によかったよ」

 

皆がなのはの選択を祝福してくれる。

なのはを囲んで拍手してくれる。

 

「みんな、ありがとう」

『これで下が地球だったりしたら完璧ですね~個人的にはアニメ版より劇場版の方がいいと思うんですけど』

「あ、赤い海に取り残されるのは遠慮したいな~なの」

 

なのはもなかなか通な事を言う。

 

「残念だが、仕方がない。年寄りはこの辺りでお暇するとしよう」

 

ゼルレッチが懐から宝石でできた剣を取り出した。

第二魔法使いであるゼルレッチの杖、宝石剣だ。

 

「あ、ゼルレッチさん?何処に行くんですか?」

「何、また並行世界をぶらっと流れる事にする。今回はなかなかに面白い物を見れたしの」

 

本音だろうが・・・リアルに命にかかわる状況を体験して面白かったというエキセントリックな感覚は理解したくないとも思うのだ。

 

「それに、例の守護者のエミヤシロウ?その男にも興味がわいたしな」

『シロウさん逃げてくださーい!くそ爺があなたをロックオンしていまーす!!』

 

並行世界にいるシロウが、虫の知らせを聞いたかどうかは知らない。

 

「フフ、ルビーをよろしく頼む」

「は、はい。がんばりますありがとうございました」

 

なのはに倣って、全員がゼルレッチに頭を下げる。

彼がいなければ、全員の生還などありえなかっただろう。

 

『余計なお世話ですよ~』

 

そして、ルビーは変わらず悪態をつく。

全員の見ている前で、ゼルレッチが宝石剣を振るうと空間が裂け、並行世界への道がひらく。

ゼルレッチだからこんなに簡単にやってのける事が出来るが、十分に驚異的な事だ。

 

「ではな、皆の衆?また会おう」

『今度はお土産を持ってくるがいいのですよ~お菓子とかお菓子とかお菓子とか~』

「ル、ルビーちゃん」

 

生みの親との別れだと言うのに、この気楽さはルビー特有だ。

ゼルレッチが空間の裂け目に飛び込むと、斬り裂かれたハザマは自己修復するように閉じた。

これで、あの老人はこの世界の何処にもいなくなったのだろう。

ルビー同様、油断の出来ない、しかしどこか憎めない老人だった・・・・・・そして、ジュエルシードをめぐった事件は、これで一応の解決を見たのだった。

 

 

 

 


 
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