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リリカルとマジカルの全力全壊  無印編 第十五話 魔法少女は急には止まれない

リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ

2012-07-08 11:00:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7406   閲覧ユーザー数:7074

覆水不返、あるいは覆水盆に返らずという諺を知っているだろうか?

まき散らされた盆の水を再び元のように戻すことは無理であり、一度やってしまったものは取り返しがつかないという意味である。

 

―――――――――――――――

 

カチリ・・・カチリと言う音が、静かな室内に響く。

 

「ふ・・・ふふ・・・」

「ユ、ユーノ君?」

「なのは?あっちょっと待ってね、もう少しなんだ」

 

もう少しと言われたのは何度目だろうかとなのはは考えて、数えるのを止めた。

今のユーノは集中している。

 

「えっと、ユーノ君ってジグソーパズルとか得意そうだよね?」

「うん、まあ発掘なんてやってると壊れ物の修復とかも結構やらされるんだ。よし、ここ」

 

かちりとまた音がした。

ユーノは、その片目にルーペをつけ、フェレットの体で器用にピンセットを持っている。

時計技師、あるいは宝石の鑑定人のような有様だ。

そして、そんな彼が今取り組んでいるのは・・・。

 

「じ、順調そうだね?」

 

ユーノの前には、菱形の青い宝石が据えられている。

見間違えようもないジュエルシードであるが、その姿は散々だった。

 

まず全体にひびが入っている。

そして所々欠けている。

 

前回、あの理不尽なネコアルクの暴力に、粉々に砕けたジュエルシードだった。

目の前で砕けたのに諦めがつかないのか、かけらを全部回収してきてから、ずっとかかりきりで、目の下にクマまで作って組み立てている。

なのはにしてみれば、どうしてあの欠片からここまで元の形に持ってこれるのか理解できない。

 

「ユ、ユーノ君?」

「何?」

「・・・何でもないよ」

 

・・・言えない。

あのジュエルシードからは魔力が感じられない。

正真正銘ただの石になっている。

組み立てた所で魔力は戻るまい。

 

ユーノがそれに気づいていないわけがないが・・・しかし、そんな残酷な現実をユーノに叩きつける事など、なのはにはできなかった。

今回の件は少なからずなのはにも責任がある。

 

・・・せめてこのまま、もう少しだけ夢を見せてあげたいの。

 

なのはの優しい目に気づかずに、ユーノは黙々とジュエルシードを組み立てている。

しかし、平穏が崩れることなど一瞬だ。

 

「は、フェイトちゃんとジュエルシードの魔力!?」

「あああ!!!」

 

いきなり、背後からの大声に、ユーノの手元が狂った。

ずれたピンセットの先は、復元中・・・あくまでユーノの中では復元中・・・に当たり、突き崩す。

 

「ノ、ノオオオオオ!!!!」

「あ、ご、ごめんねユーノ君」

 

ユーノの努力も何もかもが無駄になった瞬間だった。

なのはは悪いとは思ったが、真っ白になったユーノをひっつかみ、ルビーと合流して魔力の放出を感じた場所へと向かい、辿り着いたのは、海のそばにある公園だった。

 

『ジュエルシードは触手プレイ好きなんじゃないかと言う件について~?』

「ルビーちゃん、しょくしゅぷれいって何?」

「ハハハ、なのは?そういう時はわかんなーいって言うのが正解なんだよ」

 

ルビーが話を振り、なのはが天然(ボケ)、そしてユーノが突っ込む・・・いいシンクロ率だ。

そして三人の見ている前では触手プレイと言うかなんというか・・・今回のジュエルシードは木に取り付いたらしく、ファンタジーっぽく怖い顔を幹に付けて大暴れしている。

ドラクエ辺りに、こんなモンスターがいなかっただろうか?

 

そして、攻撃はポケモン風味(つるのむち)っぽい奴、ルビーの言う所の触手である。

最初の毛むくじゃらと言い、ジュエルシード自身は基本的に触手系なのだろうか?

 

そして、そんなモンスターに襲われているか弱い・・・っと言うと語弊がありまくる少女はフェイトとアルフだ。

強制発動したのだからいて当然だが、今回は結界を使うという気遣いを忘れなかったらしい。

 

「フェイトちゃん」

 

なのはは、迷いなく戦場に飛び込んでいった。

 

―――――――――――――

 

フェイトに迫る蔦を、桃色の砲撃が凪いで、一掃する。

 

フェイトはそれだけで、自分をだれが助けたのかを理解した。

数度の接触、出会ってから短い時間、しかし自分と濃密な関係になった彼女だ。

 

「なのは!?」

「フェイトちゃん、大丈夫?」

 

現実は予想を裏切らなかった。

そこにいたのは、見間違いようもなく白い彼女、黒い自分の正反対のような彼女は、いつもと同じ笑顔を浮かべている。

 

・・・敵であるはずの自分に向けて。

 

「まずは封印だよ!!」

「わかった。タイミングは任せる」

「りょ~かい!!」

 

なのはとフェイトがそれぞれのデバイスを構える。

 

「ディバイン・・・」

「サンダー・・・」

 

筒先に宿るのは、黄金と桃色の魔力光、なのはとフェイトの色だ。

 

「バスター!」

「スマッシャー!」

 

二色の魔力が絡み合い、螺旋を描いて飛んでゆく。

一人でも十分なところを二人分だ。

ジュエルシードモンスターにあらがえる道理はなく、余波がはれたそこには、封印状態のジュエルシードが浮いている。

 

・・・今回も、封印は同時に行われたようだ。

 

―――――――――――――――――

 

『成長速度のインフレって残酷ですよね~初期の強敵が雑魚キャラ扱いで目にもされてませんよ?』

「なのはは最初っからジュエルシードモンスターなんか相手にしていなかったじゃないか?」

 

ルビーの言葉に応えながら、ユーノは内心で同意する。

確かになのはは最初から強かったが、ここまで歯牙にかけないほどではなかった。

この成長はなのは自身の才能ももちろんあるが、フェイトと言う目標あってのものだ。

友人として二人が出会っていたら、ここまでの急激な成長はあり得なかっただろう。

 

・・・それを運命と感じるのは、いささか感傷的(ロマンチック)すぎるだろうか?

 

「なのは・・・来たんだね?」

「うん、やっぱりフェイトちゃんとお話したいから」

「そ、そう・・・」

「・・・フェイトちゃん?お父さんなら来ていないよ?」

 

なのはの言葉を聞いた瞬間、フェイトが何で!?と言う顔になった。

人間は言葉を用いなくても理解できると証明された瞬間だ。

 

「あ、あのね・・・結界が張ってあったから・・・」

 

なのはやユーノなら問題ない。

同じ様に魔力を持っているルビーも可だ。

しかし、魔力を持たない士郎達は最初から取り込まない限り、展開された封時結界の中には入れない。

今回ばっかりは、連れてくることができなかったのだ。

 

「そ、そう・・・」

 

落胆するフェイトには悪いが、士郎は最初から来ていない。

意識して連れてこなかった。

フェイトのそれは、彼女の事情は分からないが父性に対するあこがれだとは思う。

というか思いたい。

 

士郎がいるとフェイトの気が散るだろう。

今は自分だけを見てほしい・・・と言うとなんか危ない言い回しになってしまった。

 

「そ、それにねフェイトちゃん!?」

「・・・うん?」

 

なのはに応えるように、フェイトがバルディッシュを構える。

とりあえず目的は見失っていないようなので一安心・・・武器を向けられてほっとするなんてかなりの末期だが気にしない。

 

「今日は・・・誰にも邪魔させないつもりできたの」

「・・・・・・」

 

たとえ、彼らが結界の中に入ってこれても連れてこなかっただろう。

ルビーとユーノの二人なら、アルフを押さえる事も出来るはずだ。

なのははあくまでフェイトとのお話を望んでいる。

 

「ジュエルシードと・・・ねえ、フェイトちゃん?やっぱりルビーちゃんを賭けなきゃだめなの?」

「・・・うん」

 

一度バルディッシュを構えたフェイトだが、もう少し話を続ける気になったらしい。

なのはに向けていたバルディッシュを下ろす。

 

「貴女にとって・・・あの杖はなに?」

「何って・・・」

 

問われた内容に、なのはは下方を見る。

 

『なのはちゃんもフェイトちゃんも頑張ってくださーい』

 

どっちの味方なんだろうな応援に、ちょっとだけむかっと来た。

あの杖は誰の為に、なのはが頭の痛い思いをしていると思っているんだろう?

 

「ルビーちゃんは私の恩人で、師匠で、お友達なの・・・」

「迷惑しているように見えた」

「め、迷惑していないって言えないけど・・・ルビーちゃん、あんなハチャメチャだし・・・」

「貴女も・・・」

 

ルビーのとんでもダイジェストを脳内再生していたなのはだが、フェイトの言葉に?マークを浮かべた。

 

「え?」

「砲撃をジュエルシードに当てて封印を吹き飛ばすあなたも十分ハチャメチャ」

「ニャーーーー!!」

 

黒歴史と言うか、忘れたい事を掘り返されたなのはが猫のような悲鳴を上げた。

 

「話を戻すけど・・・いい?」

 

フェイトは何処までもドライだ。

 

「う、うん・・・望むところだよ」

 

本当に望むところだった。

このまま掘り返され続けられるほうが、なのはとしてはきつい。

 

「貴女が迷惑しているというのなら、手放しても問題ないはず?」

「手放す?」

 

なのはが考えもしなかったという顔になる。

迷惑の元凶であるルビーがいなくなれば、気苦労などが減るのは間違いない。

 

「う~ん、ごめんねフェイトちゃん。それはないや」

 

にゃははと笑ってなのははきっぱり断った。

ほとんど悩む時間もなかった。

 

「やっぱりね、ルビーちゃんがいないのって考えられないし、フェイトちゃんのお母さんはあとでルビーちゃんを返してくれるのかな?」

「それは・・・分からない」

 

フェイトがうつむく。

なのはから見ても、フェイトは素直すぎだ。

ここは嘘でもYESと返すべき所だろう。

 

「それじゃあ・・・」

「・・・仕方ないよね?」

 

再び、互いのデバイスが構えられる。

 

「行くよ。フェイトちゃん?ルビーちゃん達には手を出させない」

「私も、アルフに手を出させない」

 

これで付き添いは手出し無用だ。

 

「・・・前のようなのは嫌だから気をつけて・・・」

「うう、フェイトちゃんが意地悪だよぉう」

「そ、そんなつもりじゃ・・・」

 

フェイトがワタワタする。

無垢と言うかなんというか・・・もう少し世間にもまれた方がいいな。

 

さて・・・そろそろ話す事も尽きた。

 

「正真正銘・・・」

「・・・二人だけで決着をつけよう」

 

二人のデバイスに魔力が宿る。

 

「レイジングハート!!」

『プロテクション、行きます』

 

なのはの目の前に魔法陣の盾が展開された。

本来防御用の魔法だが、この状態から攻撃できる技術をなのはは確立している。

 

「バルディッシュ!!」

『アークセイバー』

 

・・・思いっきり嘘(ダウト)だった。

現われたのは魔力刃、しかしアークセイバーではない。

それを見たなのはが目を丸くする。

 

「斧?」

 

どちらかと言えばハルバートの形状が近いだろう。

重さでぶった切るとか、押しつぶすとかいう感じだ。

 

「私も、何もしてこなかったわけではない」

 

そう言う事らしい。

アークセイバーの刃が、分厚い斧状に展開されている。

攻撃力重視の形だろう。

 

・・・何故だろう?

あの斧・・・鬼神でも|打(ぶ)った斬りできそうな気がするのだが?

 

「・・・ねえフェイトちゃん?その斧なんだけど、魔人狩りって名前じゃない?」

「・・・・・・」

 

フェイトが赤くなってコクンと頷いた。

なるほど、元ネタはやはり魂食いのあれか・・・鎌つながりと言うわけだ。

偉大なるかな、褒めたたえよジャパニメーション・・・思いっきり塩を送った形だ。

味方のはずのルビーが一番足引っ張っていないか?

 

「・・・行くよ」

「え?う、うん」

 

それはそれ、なのはとフェイトは今、敵として相対している。

不意を打たれても文句は言えない。

 

・・・気を引き締めないと。

 

「「スウーーー」」

 

大きく息を吸い。

 

「「っつ!!」」

 

同時に相手に向かって飛んだ。

彼我の距離が、二倍の速度で削られてゆく。

守りの攻撃と、攻撃力を高めた攻撃が接触する。

 

「ストップ、そこまがふううううう!!」

「「あ・・・」」

 

なのはとフェイトの声が重なる。

二人の見ている前で、黒い何か人間っぽい物が錐揉み回転して飛んだ。

 

なのはとフェイトは相手だけを見ていたために、避ける事はおろか、反応すらできなかった・・・飛び出すな、魔法少女は急には止まれない。

 

―――――――――――――

 

沈黙が痛かった。

なのはもフェイトも、何も口にしない。

いや、口にできないと言うべきか?

 

視界の外で、はじき飛ばしてしまった何か・・・声が聞こえた所から、認めたくはないが人間であろうそれが、悲鳴をドップラー効果で置き去りに飛んでゆく。

人間跳ね飛ばしコンテストなどと言うものがあれば金賞だろう。

 

「にょぼぼぼぼぼ!!」

 

愉快な悲鳴ついでに生々しい音が聞こえてきて、なのはとフェイトは揃って真っ青になった。

 

『なのは様?』

 

レイジングハートの声に、なのはが正気に戻る。

 

『悪いお知らせと良いお知らせがあります』

「悪いお知らせからお願いします」

 

そっちの方がダメージは少なそうだ。

 

『はい、私たちの魔法に非殺傷設定と言うものがあるのはすでにご存じと思われますが?』

「うん」

 

だからこそ、なのは達は遠慮なく魔法を行使できるともいえる。

自分の放った魔法で人が死ぬかもしれないとわかった上で、それでも全力全開で戦える人間はすでに狂人だ。

 

『その非殺傷設定ですが、主に砲撃や魔力刃のためのもので・・・』

「つまり?」

『プロテクションには非殺傷設定なんてありません』

 

真っ青になったなのはが急降下する。

 

「良いお知らせは!?」

『日本の法律には人身事故のための法律がありますが、人間同士による空中衝突の為の法律はありません』

 

そりゃあ、こんな状況など想定していないのだから当然だ。

航空法だって飛行機相手のものである。

 

「違うよ、それはいいお知らせじゃないから!!」

『デバイスは何時だってマスターの味方です。弁護はおまかせください。勝ち目はあると判断します』

「すでに裁かれる事前提!?」

 

レイジングハートは、案外腹黒い。

なのはは涙目になりながら、哀れな・・・と言うべきか自業自得というべきか・・・とにかく跳ね飛ばされた被害者の下に急ぐ。

 

「い、いた!?」

 

乱入者はすぐに見つかった。

植え込みにから足が二本、天に向かって生えている。

頭から突っ込んで犬神家になったようだが、前衛芸術っぽい。

 

「だ、大丈夫ですか!?ってはにゃーーー!!」

 

ずびっとばかりに、大根の如く引っこ抜いたなのはが悲鳴を上げる。

植え込みから救出された人物は白目をむいていた。

しかも頭にはマンガにしかないような特大のたんこぶが鎮座している。

地味に気持ち悪い。

 

『脈拍正常・・・生きています』

 

どうやら気絶しているだけのようだ。

バリアジャケットを着ているので、これでダメージが軽減されたのだろう。

 

「こ、こういう場合どうしたらいいの?」

『そうですね、気絶しているだけですから・・・姉さん?何しているんです?』

「え?」

 

言われてやっと、なのはは気がついた。

いつの間にかルビーが地面に何かしている。

 

『事件は会議室で起きてるんじゃないんですよー現場で起きているんです』

 

何をしているのかと思えば、何所から取り出したのかチョークで地面に倒れている犠牲者の周りをなぞっている。

 

「いやー殺人現場みたいになってるのー!!」

『姉さん・・・勝手に殺さないであげてください』

『あはー冗談ですよ冗談』

 

ルビーはあっさりとチョークを捨てる。

 

「いや、それ洒落になっていないから」

 

やっと駆けつけてきたユーノが突っ込みを入れるが、それで収まるようなら誰も苦労はしない。

 

『心配なら回復魔術でもかけときます?』

「そ、それだよルビーちゃん!!」

 

ルビーは以前、重症の士郎の怪我を完治させた前例がある。

この程度の怪我、何と言う事もない。

なのははあわててルビーを手に取ると、魔術回路を起動させてルビーに魔力を送った。

 

『きたきたきましたよーー!!ひっさびさのルビーちゃん大活躍ぅ~!!』

 

ルビーに満ちた魔力が形を取り、放たれた。

この至近距離で、しかも気を失っている相手に外すわけもなく命中、たんこぶが徐々に小さくなって行き、白目をむいていた顔も安らかなものになる。

 

「な、なんとかなったなの」

 

ほっとしたなのはは、安堵の溜息を吐く。

 

「・・・ん?」

 

しかし、改めて冷静になって見れば、違和感を感じて声が出た。

 

「ねえルビーちゃん?この子何か変じゃないかなの?」

『何がですか?』

「え~っと・・・うーん」

 

パニックになって視野狭窄になっていた為に気づかなかったが、なのはと同じくらいの背丈の娘だ。

黒髪を短く刈った中性的な寝顔をしている。

黒いバリアジャケット・・・多分バリアジャケットも元通り?になっているようだが・・・何だろうか?この違和感は?

 

「ってあ、フェイトちゃんは!?」

『申し訳ありませんなのは様、すでに反応が消えています』

 

ついでにジュエルシードも・・・彼女の目的の半分は果たしたことになるので退いたのだろう。あえて轢逃げとは言わない優しさ。

 

「あうう~フェイトちゃんとの決着が~」

 

これで何度目だろうか?

二人気決着をつけようとすると、邪魔が入ったり有耶無耶になったりする・・・今回の邪魔者は地面に寝ている娘と言う事か?

 

「はあ・・・しかあないの。それで、この娘は誰なの?」

『結界に入ってきたことから、魔導師なのは間違いないでしょうね~』

 

ルビーの言うとおり、それプラスどういう理由かなのはとフェイトの戦いを止める必要性を持っている人間だ。

 

『ストップとか言いかけていましたから、おそらく止めようとしたんだとは思いますけど、なのはちゃんとフェイトちゃんの魔法の威力が予想外すぎて潰されたってとこでしょうかね?』

 

この場合、被害者の間抜けをあざ笑えばいいのか?

それとも、なのはとフェイトの高魔力をほめるべきなのか?

判断に苦しむところだ。

 

少なくとも、自信があっただろうこの娘のプライドはズタズタだろう。

 

「う、ううん」

 

そんな事を考えていたら、目が覚めたようだ。

 

「父さん・・・何で死んだ父さんがいるの?」

「目を覚ませ!」

 

得体の知れない危機感を感じて、ユーノが強制覚醒を促す。

 

「・・・胸が痛い」

 

目を開けての第一声がそれだったが、鳩尾にフェレット式ドロップキックがクリーンヒットしたためで、別に恋の悩みじゃない。

ユーノも結構な無茶をするようになったものだ。

 

「あ、あの・・・大丈夫ですか?」

「え?ああ・・・大丈夫だ」

 

そう言って、直ぐに立ち上がろうとするのを見たなのはがあわてた。

 

「だ、だめだよ。さっきまで気絶していたんだから」

「心配ありがとう。これでも鍛えているからね」

「で、でも女の子が無理しちゃ」

「は?」

 

虚を突かれてぽかんとした顔がなのはを見返して来る。

 

「・・・ちょっと待ってくれ、誰が女の子?」

「え?貴女が」

 

なのはの指はどうしようもなく、彼女が言う所の貴女を指していて・・・。

 

「僕の何処をどう見れば・・・ってなんじゃこらーーー!!!」

 

彼女もとい、彼が自分の恰好を見て、殉職する熱血警察官のような悲鳴を上げた。

 

彼の恰好とは・・・黒のゴスロリである。

フリフリである・・・レースである・・・ヘッドドレス付きである。

恰好だけを見れば女の子以外の何物でもない。

なのはが引っ掛かっていた違和感の正体はこれだったのだ。

 

だってどう見ても女の娘だから・・・あるいは作品自体の男女の書き分けが甘いせいか?と思ってみる。

なるほどこれなら子が娘になるわけだ。

 

『イエーーー!!大成功ですよ~!!いっつあノベルマジック!!』

 

新たなる犠牲者爆誕!!

ルビーに表情があれば、きっとどや顔だ。

 

「ルビーちゃん、知ってたの?男の子だって?」

『ふ、愚問ですよなのはちゃん!面白そうな事があればやらずにはいられない。それがルビーちゃんクヲリティ!!』

 

どこぞの山男のような持論を振りかざすルビーだった。

 

・・・10分後。

 

「時空管理局?」

 

聞き覚えのない名前に、なのはが首をかしげる。

 

『時空管理局とは、簡単にいえばこの世界で言う警察に当たる組織です』

 

レイジングハートが補足説明をしてくれた。

 

『警察が犯罪者を取り締まるように、次元世界の犯罪を取り締まるのが時空管理局です』

「その通り、僕は時空管理局アースラ所属の執務官クロノ・ハラオウンだ」

 

そして彼が自己紹介する。

 

「ああ、だからバリアジャケットが黒い・・・」

「なんか文句あるのか毛玉?名前は関係ないぃぃぃぃ!!」

「ひぃぃぃぃ!!」

 

思った事を口にしようとしたユーノが、いきなりのクロノの豹変にビビった。

なんか石仮面の吸血鬼みたいだ。

どうやら地雷だったようだが、最近地雷持ちな人間が周りに多い気がする。

いつの間に地雷原になった?

 

「「クロノだから黒ね」ってなんでみんなそんな安易なんだ!?リーゼもロッテも事あるごとに「黒のクロノ」とか「まっくろくろ助出ておいで」ってからかうもんだから、いつの間にか二つ名になって、部下もそう呼ぶし、母さんもそれならバリアジャケットは黒にしましょうって僕の意思なんか無視ですか?ああそうですか?」

 

ブツブツとつぶやき出したクロノは怖かった。

リーゼとロッテがだれかは知らないが、ジブリ通?

きっと耳に残るほど言われたに違いない。

 

「な、なのは~」

「わ、解ったよ」

 

ここでユーノからなのはにタッチ、話の方向と空気を変えなければならない。

 

「え~っと、あの・・・」

「ん?」

「あ、その服ですけど、何時まで着ているんですか?」

「脱げないんだよ!!」

 

彼女改め、彼改め、クロノ・ハラオウンはいまだにゴスロリだった。

10分間、全力で脱ごうとしていたが、全部徒労に終わったのだ。

 

「しかも僕のバリアジャケットも展開出来ないないなんて一体どうなっている!?」

「ル、ルビーちゃんの魔術って割と呪い的だから・・・」

「そんなんで納得できるか!?」

「にゃーーー!!」

 

ユーノの期待を背負ったなのは・・・二発目の地雷を踏む。

 

「一体何なんだあの杖は!?」

「ほんっとうにごめんなさいー!」

 

なのはは平謝りするしかなかった。

フェイトに素直に引き渡しとけばよかったと、思い始めている。

 

『クロノ、女の子を怯えさせてどうするの?そんなところで話し込んでいないで、アースラにご案内しなさいな』

 

軽く空気が悪くなっていたところに救いの手が入る。

空間に投影されているかの様に、モニターが現れた。

映っているのは若い女性で、制服のようなデザインの服を着ている。

クロノを名前で呼んだ所から、時空管理局に関係者か?

 

「かあさ・・・いえ、艦長」

 

・・・どうやら親子だったらしい。

 

「フフフ、このくらいじゃ驚かないなの」

「そうだね、桃子さんと言う実例があるしね」

 

この世界の見た目年齢は当てにならない。

 

『そこの貴女、なのはさんと言いましたね?アースラ艦長のリンディ・ハラオウンといいます。事情を説明していただきたいの、悪いけどこちらまで来ていただけるかしら?』

「あ、はい」

 

なのはは了承した。

断る理由がない。

ユーノとレイジングハートの話からして、無体な事をする連中でもないだろう。

 

『それと、その杖?確かルビーちゃんと言っていたわね、一緒に連れてきて』

「げ!!」

 

反応したのはクロノだ。

見た目が女の子になっているので、「げ!!」と言うのはいただけない。

 

「き、危険です艦長!!」

 

クロノ必死の抗議。

気持ちはよくわかる。

 

『命令です』

 

しかし、一瞬で敗北。

項垂れるクロノに、宮仕えの悲哀を見た。

 

『いいわね、クロノ?早く帰ってくるのよ?』

「ん?」

 

違和感を感じたなのはの声が漏れた・・・はて、今リンディさんのクロノを見る目が妙に怪しかったのは気のせいだろうか?

クロノがなんだか冷や汗をかいているようにも見えるし・・・何となくだが、なのはとユーノはクロノに苦労人(どうるい)のにおいを感じ取る。

しかし、実際何かができるわけもなく、ゴスロリ少年に同情の視線を向けることしかできなかった。

 

「おかえりなさいクロノ~♪」

「は、艦長?エイミィまで?」

 

転送陣に入り、飛んだ先は転送ポットの中だった。

視界が変わったと思った瞬間、目の前に現れたのがさっきの映像で見たリンディ艦長ともう一人、彼女がクロノの言う所のエイミィさんだろう。

仮にも艦長と言うくらいだから、この場では一番偉いのだろうが、その彼女が直々に迎えにきた?

 

「っつ!?」

 

しかし、リンディの目を見た瞬間、なのははユーノを抱いて横に避けていた。

 

「うわ!!」

 

なのはの避けた場所を、リンディにタックルを食らったクロノがもみくちゃになりながら通り過ぎて行く。

 

「こ~んなにかわいくなっちゃって~」

「や、やめてくれよ母さん!!」

「ああ、やっぱりなの」

 

なのはが危険を感じたのは、リンディの目がクロノにロックオンされていたからだ。

桃子が、なのはの可愛さを愛でる時とまったく一緒だったから・・・どうやら、彼女がメインで迎えに来たのは、なのは達じゃなくて息子の方だったらしい。

 

「・・・年齢不詳なところだけでなく、妙なところでもそっくりなの」

「ところでなのはさん?」

「は、はい?」

 

聞こえないように呟いていたはずだが、聞かれたかと思ってなのはがびくっとなる。

 

「ルビーちゃんといった。あのデバイスはどこかしら?」

 

リンディの興味はルビーにも向いているようだ。

きょろきょろと周囲を見回してルビーを探している。

 

「ここです」

「え?」

 

なのはが差し出したのは、両手で抱えられる大きさの玉だった。

バスケットボールより、ふた回りくらいは大きいだろうか?

 

「この中にルビーちゃんがいます」

 

玉の正体は、バインドでこれでもかと言うほどに拘束した結果、球状になったバインドの塊だ。

さっきから、ずっと静かにしていると思っていたら、静かにしているのではなく、しゃべれないようにされていたのか?

 

「厳重ね?」

「当然です。躾はだいじなの」

「躾って・・・」

 

なのはの言う事は正論だが、これが生き物だったら呼吸も出来ないだろう。

躾という名の虐待になりかねない。

 

リンディの顔が引き攣る。

ちなみに、クロノはいまだにリンディの腕の中だ。

もはや諦めたのか、ぐったりしていて・・・きっと今日は、クロノ・ハラオウンの人生で、天中殺な日に違いない。

 

「このままじゃお話も出来ないから、バインドを解いてくれないかしら?」

「い、いいんですか?」

「艦長!?」

「この艦の艦長として許可します」

 

なのはの疑問と、クロノの抗議を無視して、リンディが許可を出した。

困ったのはなのはだが、さあさあと乗り気で促して来るリンディに折れて、バインドを解除する。

 

『バインドから生まれたルビーちゃん!!』

 

バインドで雁字搦めにされていたというのに・・・独特のルビー節は健在だった。

 

「貴女がルビーちゃんね?」

『貴女がリンディさんですね?』

 

絶賛女装中(本人未公認)を抱えた女と、トンでもふざけた人工精霊が互いを認識した。

リンディにしてみれば、被害者(クロノ)の母親である。

さぞや言いたい事も多かろう。

ルビーに対してどんな言葉をぶつけるのか、思わず見守る全員の喉がゴクリと鳴った。

 

「そもさん」

『せっぱ~』

「かわいい子には?」

『かわいい服を~。クロノ君の艶姿は?』

「勿論、360度あらゆる角度から撮影して永久保存」

「「お前もか!?」」

 

なのはとユーノがシーザー調に叫んだ。

今回、おそらく最も被害を食らうであろうクロノは口を開くも言葉が出てこないらしく、真っ赤になって口をパクパクやっている姿は金魚のようだった。

 

「貴女とは話が合いそうね?」

『こちらこそ~桃子さん、忍さんに次いで三人目ですよ~』

 

二人はしっかりと手と羽を触れ合わせる。

それを見る全員が青くなった。

なのは達はリンディの事を、クロノはルビーの事をよく知らないが、本能的にまずい感じがする。

 

「もっとたくさん話したいけど、今は先にやらなきゃならない事があるから・・・」

「そ、そうです艦長!ルビーと言ったな、お前一体・・・」

「エイミィ?」

「はい、艦長。準備は万全です」

「何?」

 

会話がどうにも噛み合っていないと気付いたクロノがエイミィを見る。

 

「・・・エイミィ?」

「何かなクロノ君?」

「それは何だ?化粧道具に見えるんだが?」

 

女性が化粧道具を持っていること自体はおかしいことではない。

子供でもなければ、学生だって常に一つ二つの化粧道具を常備しているのは女の嗜みだ。

しかし、エイミィの手にあるそれは、コンテナ一つ分ほどの量と種類があり、常備と言うには多すぎるだろう。

 

「しかも、なんで今、化粧道具を用意する必要がある?」

「それは勿論クロノ君の為」

「なっつ!?」

「そうよ。服は完璧なのに、化粧をしていないなんて片手落ちだわ」

「ちょ・・・ま・・・」

『おお~ルビーちゃんうっかりですよ~』

「余計なこと言うな杖!!」

 

クロノの反論は、エイミィ、リンディ、ルビーに封殺された。

しかも、女二人に拘束されて、わっしょいわっしょいと引きずられてゆく。

 

「楽しみね、男の子もいいけど、娘も欲しかったと思っていたの」

「艦長?クロノ君のアイシャドウは背伸びをする女の子と言う感じに紫で行こうかと」

「それ採用」

「やーめーてーくーれー!!」

 

哀れ、子牛のように連れて行かれるクロノは全米の涙を誘うだろう。

 

『おたっしゃで~頑張ってくださいね~』

 

ルビーだけが、去ってゆく三人の背にエールを送る。

リンディとエイミィが振りかえらずに片手を突きだして親指を立てて行った。

とっても頼もしい。

 

「・・・ねえユーノ君?時空管理局ってみんなあんななの?」

「え~いや、そんな色ものじゃないはずだし、執務官とか艦長とか呼ばれている人達は結構なエリート・・・「本当に?」・・・のはず」

 

どう見てもあの二人は一番上に腐の文字がつく人種だ。

だって目の中にお星さまが見えた。

無性に、エリートと言う言葉を辞書で引きたい。

 

「ところでユーノ君?」

「何?」

「私たち・・・どこに行けばいいのかな?」

「・・・・・・」

 

初めてきた場所で、しかも案内役(クロノ)はさっさとどこかに行って・・・じゃない、誘拐されて行った。

むしろ逝った?

 

つまり、なのは達は全自動で迷子である。

 

「そ、遭難した時は、下手に動かない方がいいらしいよ?」

 

その後、艦のスタッフが通りかかるまで、一匹と一人と一本はずっと待ちぼうけだった。

あの三人は戻ってきゃあしなかったのである。

 

 

「フェイト、まずいって!あいつ絶対時空管理局だ!!」

「・・・・・・」

 

ジュエルシードを回収したフェイトとアルフは、可能な限りの速度で公園から離れていた。

いきなり飛び出してきてはじき飛ばしてしまった誰かには悪いとは思うし、罪悪感で胃が痛い。

彼女達は元々時空管理局の存在を知っていたこともあって、被害者が何者なのかと言う事にすぐに気付いたのだ。

フェイトだって、自分達のやっていることが違法な事だと気が付いているからこそ、逃げるしか選択肢がなかった。

 

「もう無理だよ。連中が乗り出してきたら・・・ねえフェイト?」

 

むしろ、フェイトよりアルフの方が表面的には焦っていた。

 

「一緒に逃げよう。このままじゃフェイトまで犯罪者になっちまうよ」

 

アルフは、フェイトが望んで犯罪を犯しているわけではない事を知っている。

彼女は母親の願いを叶えたいだけなのだ。

そしてそれによって、母親に自分を見てほしいと・・・その程度のわがままが何故と売らないのかとすら思う。

 

「・・・アルフ?」

「え?」

「ジュエルシードを集めよう」

「な!?」

 

予想もしていなかった言葉にアルフがうめく。

 

「正気かいフェイト!?あの婆は確かにあんたの母親かもしれないけど・・・」

「母さんをそんな風に呼ばないで、それに私は冷静だよ?」

 

言われて、アルフは気がついた。

今のフェイトは自棄になっている感じはしない。

いつものクールなフェイトだ。

 

「ねえアルフ?今はチャンスなんだよ。時空管理局はまず最初に、事情を知るためにあの子達を事情聴取するはず」

「そりゃあ・・・まあ」

 

目の前にいる人間と、居所が知れない自分達、100%の確率でまずなのは達から事情を聞こうとするだろう。

連中は、この世界にジュエルシードが降りそそいだことは知っていても、自分達の関係までは知らないはずだから。

 

「それがどうしたって言うんだい?」

「あのルビーに話を聞いて、すんなり済むと思う?」

「それはないでしょ?」

 

絶対一悶着ある。

 

「だから、時空管理局の初動は間違いなく遅れるよ?」

 

アルフにも、フェイトの言いたい事が理解できた。

現在、なのは達は間違いなく時空管理局に拘束されているだろう。

時空管理局も、なのは達から話を聞くまでは動けないはずだ。

 

フェイトとアルフの邪魔をする連中はいない。

 

「わかったよ。なら急ごう、連中が本格的に動き出す前に、ジュエルシードを回収してしまうんだ」

「うん」

 

―――――――――――――――

 

「・・・誰も来ないね?」

「・・・うん」

『・・・

 

なのは達は、転送ポットの前で絶賛放置プレイ中・・・フェイト達の出した答えは実に正しかった。

 

 


 
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