No.448849

リリカルとマジカルの全力全壊  無印編 第十話 とある愉快型魔術礼装の一日

リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい? あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう? だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ

2012-07-08 08:43:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7837   閲覧ユーザー数:7538

…例えば、日はまた昇る。

 

…例えば、明けない夜はない。

 

…例えば、朝は誰にでも等しく訪れる。

 

昔の人は良い事言った。

実に真理だ。

朝は誰の上にも平等に訪れる。

もちろん高町家にも…母の桃子が作った朝食を食べる父の士郎に長男の恭也、長女の美由希…っとここまではまともだ。

古い歴史を持つ剣術を受け継いでいて、桃子以外はそれぞれが結構な使い手だが…現代の魔術師であり魔導師でもあるなのは、人語を話し魔法を使うフェレットのユーノ、魔法の補助をするデバイスのレイジングハートに…何よりルビーと比べたらまともな部類だろう。

真人間とファンタジーの比率が半々なこの面子が一堂に会している状況をまともと捉えていいのかどうかという問題はあるが、それはそれである。

ちなみに、ルビーとレイジングハートは当然物を食えはしないが、既に家族扱いなので団らんの場には必ず混ざることにしている。

『う~ん』

「どうしたのルビーちゃん?」

妙にうなって困っているのをアピールしているルビーになのはが問いかけた。

『足りない…と思うんですよ』

「何が?」

『刺激が』

…刺激=高町家の日常であり、つまるところおおむねドタバタであり、原因がルビーだったりするのはもうデフォだ。

その元凶が刺激が足らないなどと片腹痛い。

「…また何かするつもりなの?」

『なのはちゃんも魔術師として成長して、魔導師としてもがんばっています』

「うん、なのははがんばっているよ」

「そ、そうかな?」

ユーノが合いの手を入れてきた。

なのはが心なし嬉しそうだ。

「もう僕に教えられることはないのかもしれない」

『あれ?ユーノ君なのはちゃんに何か教えていましたっけ?』

「教えてるよ!!魔法の構成とか構築とか色々!!」

『えー?なのはちゃんの魔法の先生はレイジングハートだと思っていました~』

 ユーノいじりは既にルビーの日課となっている。

 最初は落ち込んでいたりしたユーノだが、何とか持ち直すというかある程度までなら耐えられる程度には順応しているらしい。

「ルビーちゃん、ユーノ君もとってもがんばっているよ」

「な、なのは…」

「ユーノ君が後ろを守ってくれるから、背中が暖かくて安心できるんだよ」

 助け舟はなのはの方からやってきた。

 ユーノは全米並みに感動の涙を流している。

「何時もありがとうね、ユーノ君」

「…そうか、僕にはまだ帰れる場所があったんだね、こんなに嬉しい事はない」

「あはは、大げさだよ~ファースト乙だね」

 あれ、なんで士郎さんと恭也さんの箸と茶碗が握りつぶされているんだろーか?

『とにかく、このあたりでマンネリを防ぐために何か新しい要素を加えるべきじゃないかと思うんですよ~新しいアイテムとか必殺技とか伊達じゃないニューなお仲間とか~』

 …また訳のわからないことを言い出したものだ。

 そんな物が都合よく現れるわけがあるまい。

『そういえば、なのはちゃんのエロカッケー衣装のお披露目がまだでしたね』

「そんなものは一生封印していて良いの!!」

『えー仕方がない。美由希さん着てみませんか?』

「断固拒否するわ!」

 以前のセーラーな自称美少女ファイターがよほど嫌だったのか…美由希が小太刀を構えて拒否してきた。

 朝食の席に真剣を持ち込んでいたらしい。

 しかもじりじりと距離をとっている…あのルビーちゃんビーム(なのは命名)が相当に堪えたらしい。

『駄目ですか…それじゃあ桃子さんは…』

「何かしら?」

『…いえ、何でもありません』

 ルビーはあっさり引き下がった。

 だって…あんな世紀末覇王のスタンドが背後に見えるような相手にお茶目は出来ないしたくない。

 

ピンポーン

 

「「「「「ん?」」」」」

 全員が来客を告げるインターフォンの電子音に反応する。

「誰だろ?」

 誰かが来る予定はなかった。

 それに今は朝食の時間だ。

 来るにしても早すぎるだろう。

「あ、なのはが出るよ」

 首を捻っていると、一番玄関に近い場所にいたなのはが名乗りを上げた。

 誰が来たにしても、直接見れば全ての疑問は解決する。

 名探偵もビックリだ。

 そんなことを思っていたら二度目のチャイム。

「はいは~い、今行くなの~」

 テテテ~と走っていく末っ子を見送る皆の目が優しい。

 なのはが玄関にたどり着くと、やはり外に誰かがいるらしく、ガラス越しに人型のシルエットが見えた。

「たのも~」

「どちらさまですか~?…え?」

 玄関を開けてたなのはが固まったのは、その先にいる人物が見ず知らずの人物だったからではない。

 寧ろ良く知っている人間だったからこそ固まった。

「おはようなのはちゃん、改めましてたのも~」

 ニコニコと、彼女は何時もの物静かさとはちょっとずれた調子でたのも~を繰り返す。

「えっと…すずかちゃん?」

 見間違えじゃないのはわかるがそれでも疑問符が付いてしまう。

 なのはを見てニコニコ笑う彼女は間違いなくすずか…なのはは確かに平穏が崩れ去る音を聞いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「弟子にしてください!!」

「「「「「なーーーー!?」」」」」

「あらあら?」

 家に上がり、家族を前にしたすずかが開口一番、放った言葉に感心している桃子を除く全員が悲鳴を上げた。

 弟子入り自体は確かに驚きの申し出だが、それだけでは悲鳴を上げたりはしない。

 士郎はすでに恭也と美由希を弟子にしているのだから、後はすずかの資質とかそういう問題である。

 しかし、すずかが頭を下げている相手は…。

『ルビーちゃんにですか?』

「僕に?」

 ルビーとユーノだったからさあ大変だ。

 つまり、すずかは魔導師か魔術師になりたいらしい。

「す、すずかちゃん落ち着いて、ユーノ君はともかく、ルビーちゃんに弟子入りなんてそんな人生投げ出すような事言っちゃ駄目だよ!」

「え?でもなのはちゃんも自分で師匠に弟子入りしたんでしょう?」

「既に師匠扱い!?それはそうなんだけど…あのときのことは時々認めたくない若さゆえの過ちだったような気がしたりしなかったり…」

 思い出すのは…魔法少女したり、漫画の特訓をそのまま実行され、しかも疑う事なくがんばったじぶんだったり・・ろくな思い出がない。

 一応、きちんと魔術師にはなれたが、わき道寄り道は当たり前で脱線しまくりだった。

「し、忍さんは何って言ってるの?」

「え?お姉ちゃんが礼装とかデバイスに興味ない?って薦めてくれたの」

「そう言えばすずかちゃんは技術者志望!!」

 ルビーやレイジングハートに興味を抱かないわけがない。

 忍など直接分解させろなどと言い出していたほどだし…やはり姉妹か。

 その為には魔法と魔術を学ばないわけにはいかないという流れなのだろう。

 …あとついでに、すずかがなのはと一緒にいられるからとかそういう|理由(したごころ)があるかどうかは突っ込まない。

 それは地雷だ。

「…忍」

 最近、恋人の新たな一面ばかり発見する恭也が項垂れているが…ごめん、フォローできるやつがいない。

「うーん、教えてあげたいのは山々なんだけど…」

 ユーノが申し訳なさそうに謝った。

 既に毒は食っている気がするので、皿まででも構わないのだが、ユーノの|デバイス(レイジングハート)はなのはに譲ってしまった。

 つまり、魔法文化のないこの世界ではすずかのためのデバイスが用意できない。

 勿論、デバイス無しで魔法を使うことは不可能ではないが、ユーノはそもそもにして教師ではない、本業は発掘家なのだ。

 基本的に、魔法のほとんどはレイジングハートの中に入力していたのを使っていたので、デバイス無しに教えられる魔法は多くない。

「念話や簡単な結界くらいでいいなら…」

「それでいいです。ユーノ君、お願い!!」

「わ、わかった」

 まあそのくらいならとユーノは了承した。

 大きな魔法は無理だが基礎くらいなら何とかなるだろう。

 自分で言っている通りに、そろそろなのはにユーノが教えられることはなくなっている事もあるし…それに問題はもう一人の師匠候補のほうだ。

『すずかちゃんが弟子二号になればなのはちゃんとあわせてプリティーで~キュアキューアですねー!!』

 まずい…|面倒な方(こっち)はユーノより乗り気だった。

 しかもとんでもない未来構想まで立ち上げている。

 

 最近、なのはがレイジングハートばっかり使っていたので寂しかったこともあるかもしれない。

 すずかが魔術師になれば、自分の出番が増えると黒い事も考えているのだろう。

 …ところでやはりすずかが黒か?

 このままでは大事な友人までがルビー色に染まってしまうと考えたら…なのはの口は勝手に動いていた。

「す、すずかちゃん!!なのはが教えるの!!」

「「「「「『え?」」」」」』

 いきなりの爆弾宣言に、すずかだけじゃなく全員が目を丸くする。

 それはつまり…なのはがすずかに魔術を教えるということか?

「…なのは、友達とはいえ人に物を教えるというのは難しいことなんだよ?」

「う…」

 父が娘を嗜めた。

 既に二人の弟子を持っているため、その言葉には説得力がある。

「そもそも、なのはもまだルビーちゃんに教えを請うている立場だろう?こう言っちゃ何だがまだまだ未熟だ。そんななのはが弟子を取るなんて…」

『いえいえ~なかなか面白いかもしれませんよ~』

「ルビーちゃん?」

 士郎の言葉に異を唱えたのは何とルビー本人だった。

『最終的にはなのはちゃんと一緒にルビーちゃんが色々教えることになると思いますが~、魔術回路構築以前の基礎ならなのはちゃんが教えても問題ないでしょう。なのはちゃんのおさらいにもなりますし~』

「う~ん、確かに一理あるか?」

 実際、恭也が美由希の修行を見ることもある。

 それが両者にとっての相乗効果を生み出すことがあると士郎も知っていた。

 基礎を教えるということは自分の能力を見直すことになるのは勿論、自信に繋がる事もある。

 ルビーの言葉を借りればいい刺激になるだろう。

『おねがいしますよ~、なのはちゃん…じゃなくてなのは先生』

「せ、先生なの?」

「宜しくね、なのは先生?」

「す、すずかちゃんまで?」

 高町なのは、8歳にして初めて弟子をとる。

 これが彼女の未来に大きな影響を与えたり与えなかったりするかもしれない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 そして昼時…ルビーは翠屋にいた。

 意外かもしれないがルビーはちゃんと仕事をしている。

 もちろん表に出るわけにはいかないので、厨房で例のテレキネシス的な何かを使った手伝いだ。

『食っちゃ寝のニート騎士王とは違うのですよ~』

 本人が聞いたら平行世界の果てだろうと|理想郷(アヴァロン)だろうと関係なく、約束された勝利の剣を持って突撃してきそうだ。

 とはいえ、こればっかりは事実であり、覆せない。

 しかも、ルビーはなのはとパスが繋がっている限り疲れ知らずなので、重宝されていたりする。

 デメリットは人を雇えないということだが、これに関してはルビーが必要以上にがんばってくれるので問題無し…経営を圧迫するのは何時だって人件費なのだ。

『…あれ?フェイトちゃん?』

「ん?どうかしたのかい?」

『近づいてる?チャ~ンス!士郎さん、すいません…少しはずしていいですか?』

 ルビーの言葉に士郎が苦笑して頷いた。

「がんばってくれているルビーちゃんに駄目なんていえないなー」

 これまた意外かもしれないが、ルビーはやるべき事はきちんとやる義理堅い性格でもあった。

 何時もの悪戯でプラマイナゼロなのだが…苦笑する士郎に許可を得たルビーは厨房の窓から飛んでゆく。

『じゃあ、ちょっとすいませ~ん』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 フェイトはジュエルシードを探して街中を歩いていた。

 実は、昼間っからふらふらしているということで何度か補導されかかっていたりする。

 見た目小学生の彼女が、一人で学校にも行かずに歩いていれば十分職質対象になるが、こればっかりはしょうがない。

 ちなみにというか、当然というか、当たり前というべきかバリアジャケットは解除して、この世界で買い揃えたシャツにスカートの服一式を着ている。

 不意打ちされるとつらいが、|あの格好(バリアジャケット)で街中を徘徊していると補導が通報にレベルアップしてしまう。

 …そんな事をつらつらと考えていたら、”それ”がフェイトの目の前に現れた。

「…何これ?」

 …それは”罠”だった。

 角を曲がった先の道のど真ん中に、何故か皿に乗ったシュークリームが、何故か脈絡もなく置いてあった。

 それだけでも変だが、何故かシュークリームの傘になるように、何故か漫画にしか出てこないようなメートル単位の大きさのザルがつっかえ棒で支えられている。

 しかも何故かザルの色が赤い。

 現状の描写に何故と5回も繰り返してしまったが、それだけ意味不明だということを解って欲しい…どういう意図があるのだろうか?

 確かに分類上は罠にあたるのだろうが、これはむしろ馬鹿にするために用意したのではあるまいか?と思う。

 しかも、つっかえ棒には縄が結ばれ、反対の端は道路の植え込みの中に繋がっていた。

 …どう見ても植え込みは小さすぎて人の隠れるスペースはない。

 だが、それがむしろフェイトの危機感を煽る。

 確かに、あの植え込みに人が隠れるスペースはないが、もっと小さなものだったらどうだろうか?

 …例えば、杖とか?

 脳裏に浮かんでくるのは先日出会ってしまったとんでもデバイス…あの大きさなら、植え込みの中にも隠れることが出来るのではないだろうか?

 無視するか…それとも魔法をあの植え込みに叩き込むかで迷う。

「…見なかったことにしよう」

 フェイトが選んだのは前者だった。

 余計なことをして蛇を出すのはごめんだし、自分から関わりになりに行くのはもっとごめんだ。

 おそらく最も建設的な結論に達した彼女の心境を言葉にするならば、「スゲーーッ爽やかな気分だぜ、新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のようによォ~~~~~~~ッ」ッとまあ女の子の心理描写としてどうかという問題はあるかもしれないが、そんな感じだった。

 即座に竜巻がおきそうな速度で180度タ-ンを決めつつ駆け出すために足に力を入れ…。

『何処に行くんですか~?』

「え?ッツキャーーー!!!」

 …振り返れば|奴(ルビー)がいる。

「キャーキャーキャー!!」

 いきなり意表を突いて、しかもそれが今会いたくないなーとか思っていた相手ならなおさらパニックになる。

 フェイトもそれは例外ではなかったらしく、しりもちをついて後ずさった。

 魔法を使うことさえ思いつかない慌てぶりだ。

 そのせいでスカートがめくれて乙女のトップシークレットがチラチラ見えている。

『眼福眼福~』

 …さて、フェイトは目の前の罠を見て真後ろにきびすを返したのを覚えているだろうか?

 ということはだ、そのまま後ろに下がっていったらどうなるかというと…。

「あ…」

『フィーッシュ!!』

 フェイトの手がザルのつっかえ棒を払ってしまった。

 当然、支えを失ったザルが落ちてきてフェイトにかぶさるわけで、それはつまり…。

『フェイトちゃん、ゲットだぜ!!』

 ザルの色が赤かったのはそういうことだったらしい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…貴女は何を考えているんですか?」

 偽モンスターボールに捕獲され、そのまま『幼女お持ち帰りィィィ!!イヤッフーーー!!』と近くの喫茶店…翠屋に連行されたフェイトは「私は今、怒っていますよ?」と…口にしてはいないが蝸牛の迷子のように不満を全身で表現していた。

 おかげで目の前にあるおいしそうなシュークリームにも手をつけようとはしない…ちなみに、罠に使われていたものだ。

『何がです?』

 そして対面の席に座っているのは…座っていなくて浮いているのはルビーだ。

「…この世界には魔法はないはずです。それなのに貴女は堂々と…」

『それなら大丈夫ですよ~人払いの結界ははっていましたから、だからフェイトちゃんがあんなに叫んでも誰も来なかったでしょう?』

「う…」

 フェイトが赤面する。

 今思い出してもちょっとどころじゃなく恥ずかしかったらしい。

 …スカートがめくれて色々見えていたし…そういう意味では人払いの結界に感謝をしなければならないだろう。

『それより、シュークリームをどうぞ~まだあったかいんですよ~焼き立てですよ~後でおいしくいただくスタッフはいないので出来れば食べて欲しいんですよ~』

 白昼堂々、拉致をやらかしておいてシュークリームを薦めてご機嫌を取ろうとする思考はやはり未知だ。

 しかもメタだ。

 明らかにフェイトには荷が重い。

 念話で相方に応援を呼んでおいたほうがいいだろう。

『あはぁ~ついでに~フェイトちゃんとゆっくりお話がしたかったんで、このお店にも結界を張らせていただきました~』

「な!?」

 言われて気が付いた。

 念話が妨害されている…声が届かないし聞こえない…何時の間に!?

 魔力の発動の兆候は感じられなかったとなると、考えられるのは最初から結界を展開されていたということだ。

『ルビーちゃんたちの結界は魔導師さんたちの結界ほど強固じゃありませんけど、逆に隠密性は上のようです』

「くっ!!」

 もっと早くに気が付くべきだった。

 人払いの結界にしたって、言われるまでフェイトはあの場に結界が張ってあったことに気が付かなかったのだ。

 フェイトの警戒心がMAXを振り切る。

 思わずポケットに手を入れ、周囲を見回して…いない?

『なのはちゃんなら今は学校ですよ~ユーノ君も付いて行っているからいません』

「っつ!!」

 心の中を読んだようなルビーの言葉に、フェイトがはっとする。

『この結界は念話の妨害くらいにしか役に立ちません。気に入らなかったら普通に外に出られますから魔法は勘弁してほしーのですよ。お店にいる人は一般の人なんですよぉ~』

 数秒間、フェイトがルビーを睨むが…諦めてポケットから手を出した。

 テーブルの上に三角形の金色の金属プレートが置かれる。

『これがフェイトちゃんのデバイスですか?お名前は?』

「…バルディッシュ」

 フェイトは素直に答えた。

 先日のようなのはごめんなのだろう。

 それくらいならば自分でばらしたほうがいいと思っているらしい。

『こんにちわ、バルディッシュ?』

『…Hello』

「何故…デバイスがマスターの手を離れて自由行動している?」

 フェイトの疑問は尤もだろう。

 通常、デバイスは主と常に共に在るものだ。

 そうでなければ意味がない。

 ルビーの圧倒的な奇行に面食らっていなければ、真っ先に聞くべきことである。

『ルビーちゃんはデバイスじゃないから問題なしです』

「デバイスじゃない?それなら貴女は何?」

『ああ、その前にちょっと待ってください』

「え?」

『ん~っと』

 フェイトの見ている前で、ルビーはきょろきょろと周囲を見回すように回転する。

 どうやら何かを探しているようだが、フェイトには何を探しているかは解らない。

 バルディッシュも同様だ。

 やがて、目的のものを見つけたのかルビーの回転が止まる。

『ジョセフ!!貴様、見ているな!?』

 何故かドドドドという効果音と共に、ルビーはそんな事をのたまった。

『…さっ、これでいいです』

「え?ええ?」

 訳がわからなかった。

 この杖の考えることは一生かかっても理解できないだろうとフェイトは思う。

『一つだけ聞かせてください。フェイトちゃんは集めたジュエルシードをなんに使うつもりなんです?』

「……」

『警戒しなくてもいいですよ。場合によってはなのはちゃんとユーノ君に手を引くように話してもいいです』

「…どういうこと?」

 交渉の第一段階はクリアーしたと、ルビーは内心でほくそ笑んだ。

 相手が黙り込んでいては文字通りお話にならない。

 ゆえに、交渉事はすべからく、相手をこちらと話す気にさせるところから始まるのだ。

『フェイトちゃんは頭がいい。ジュエルシードは危険なものだというのはご存知ですね?』

 フェイトがコクリと頷いた。

『あんなものがこの世界で野放しになっている現状は…実はと~っても危険です。ユーノ君には悪いですけどぉ~ルビーちゃんはそんなものは誰の手に落ちるのであっても、この世界から持ち出してくれるなら構わないと思っているんですよ』

 場合によっては、この世界そのものに致命的な影響を与えかねない代物…ルビーはジュエルシードをそういう風に認識している。

 ルビーにとって最重要事項はなのはとその周辺の安全の確保、その最大の懸念材料であるジュエルシードの排除は何物にも優先されるというのが魔術師としての考えだ。

 フェイトはジュエルシードを回収する…ルビーは安全を手に入れる…少しいびつかもしれないが、れっきとした等価交換だ。

『かといって、持ち出された後でこの世界に致命的な何かをされたら話にならないんですよね~』

「だから…何に使うかをはっきりさせたい?」

『|Exactly(そのとおりでございます)!!』

 ジュエルシードの秘めたエネルギーと願いをかなえるという特性は魔術師としては無視できない代物だろう。

 しかし、現状なのはにそれを制御する能力も意思もないとくれば唯の危険物だ。

 もって行くならもって行けという感じである。

「…知らない」

『…え?』

「聞いていないから…知らない」

 ルビーは戦慄した。

 フェイトはすずかの屋敷で会ったとき、なのはに対して「話しても意味がない」といっていた。

だからてっきり目的があって集めていると思っていたのだが…フェイトは集めたジュエルシードがなんに使われるのかを知らないという。

 これは…これはつまり…。

『がは!!』

「ええ!?」

『Oh!!』

 いきなり吐血(魔術で作った3D)したルビーにフェイトとバルディッシュが揃ってびびる。

 そのまま机に突っ伏したルビーがピクピク痙攣したかのようにバイブレーションを始めた。

『スゲェ…スゲェよフェイトちゃん…クーデレに加えて天然属性まで持つとは…もはやなのはちゃんを越えてるかも知れねーよ。フェイト・テスタロッサ…怖い子!!!』

 もうなんか無茶苦茶だった。

 ルビーも口調が変だし…フェイトはフェイトでルビーの変化についていけず、ついでに怖い子扱いされて怯えている。

『フフフ、ちょっと取り乱しちゃいましたよ~大丈夫ですからバルディッシュを置いてください』

「ちょっと?」

 ルビーの様子に、テーブルの上のバルディッシュを掴んで臨戦態勢に移行しようとしていたフェイトが、説得を聞いて思いとどまる…元の場所に戻そうとはしないが…きっと内心ではルビーを魔法で攻撃するか?でも一般人いるらしーしなーとか葛藤しているに違いない。

『…フェイトちゃん、つかぬ事を聞きますけど貴女の知っている人に何時も前髪を垂らして顔の半分を隠している人とかいませんよね?』

「え?母さんを知っているの?」

『月影せんせーーーーーい!!』

「きゃ!!」

 ルビーは決めた!!

 フェイトの言うお母さんに会うことがあればぜひ『時代が彼女を求めている』って言わせよう。

 …わかる人にだけわかればいいんですよ!!

 偉い人にはそれがわからんのです!!

「も、もういやーーー!!」

『あ、フェイトちゃん!?』

 フェイトは逃げ出した。

 どうやら限界だったらしい。

 魔法を発動しなかったのはさすがというしかないだろう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はあ…はあ…」

 翠屋…というよりルビーから逃げ出したフェイトは離れた場所の公園までノンストップで駆け抜けた。

 ルビーの言ったとおり、あの店に張ってあった結界は閉じ込める為の物ではなかった様だ。

 しかし…しかしである。

 白い女の子はともかく、あのルビーには勝てる気がしない。

 強いとか弱いとか…そんな物差しから外れた場所にいるような気がしてならないのだ。

「ううう…」

 だが、ジュエルシードを集める過程で会わずに済ませることは出来ないだろう。

 あれと…また会うのか?

「見つ~けた」

「ひゃ!?」

 色々内に篭って考えてたら、いつの間にか傍に誰かが立っていたことに気づけなかった。

 すわ!!またルビーか!?と思わず身構えるフェイトが見たのは、栗色の髪をストレートにした大人の女性…どこか見覚えがあるような気がするが…ちなみにバルディッシュは彼女に気づいた時点で黙っている。

「はい、これ」

「え?」

 女性が差し出したのは紙箱だった。

 目の前に出されて思わず受け取ってしまう。

「手をつけていなかったから、持ち帰れるようにしてきたの」

「え?」

 なんだろうと開けてみれば…ルビーが用意したシュークリームだ。

 そういえば、最初に道路で発見してから触ってすらいなかったと思い出す。

「で、でも私…こんなの頼んで…」

「いいのよ。おばさんのおごり、それに食べてもらわないと作った人間としては悲しい気持ちになるの」

 女性はどうやらこのシュークリームの製作者らしい。

 確かに、自分の作ったものを食べられなかったら悲しいだろう。

「その…ありがとうございます」

 フェイトは悩んだ末に受け取ることにした。

 ここで断っては、態々追いかけてきてくれた女性の気持ちが無になる。

 それに…何だかんだで甘いものに興味がある女の子なのだ。

「この辺りでは見ない子ね?何処から来たの?」

「え…っと…その…遠くからです」

 そう言うしかなかった。

 真実をこの世界の人間に語るわけには行かない。

「そう?誰かのお使い?」

「そ、その…母さんの…」

「お母さんのお使い?偉いわね~」

 女性はフェイトの頭に手を置いて撫でる。

 いきなりのことでビックリしたフェイトだが、手を振り払ったり逃れようとはしない。

 むしろ、撫でられることが気持ち良くてうっとりしているようにも見える…だから、フェイトは気づかなかったのだろう。

 自分を撫でる女性が…どんな顔をしていたのか…。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 カランと、扉に取り付けられた来客を知らせるすずが鳴る。

 しかし、今回入ってきたのは客ではなかった。

『お帰りなさい。桃子さん』

 入ってきたのは桃子、迎えたのは後片付けをしていたルビーだ。

「…ルビーちゃん、あの子がなのは以外のもう一人の魔法少女?」

『ええ、しかも彼女気づいていませんけど監視されているようですね~身を案じてということも考えられますけど~』

 最初のルビーの奇声はフェイトを見ていたサーチャーに向けてのものだった。

 フェイトは気づいていなかったようだが…誰かに見られている。

「あの子、お母さんのお使いでこの町に来たって言っていたわ」

『そうですか、フェイトちゃんのお母さんが…』

 ルビーは既に気が付いている。

 フェイトの背後に誰かがいることを…本当にジュエルシードを求めている何者かがいることを…サーチャーで見られていた事もそうだが、フェイトは会話の中で無意識に決定的な一言を漏らしていた。

 彼女は言ったのだ…自分はジュエルシードの使い道を”聞いていない”と…つまりそれはフェイト自身がジュエルシードを求めているわけではないという事…そして、桃子はフェイトが母親の使いでここに来たと聞いた…ということは、黒幕の正体はフェイトの…これは本当にフェイトの母親に是が非でも会う必要がありそうだ。

『すいません桃子さん。嫌な役を押し付けてしまって…』

 桃子に頼んだのは、この場にいる面子の中で最もフェイトに警戒されないだろうというチョイスだった。

 ルビーは問題外、見た目に加えて日頃の行いが悪すぎる。

「私のことはいいのよ。あの子をだますようだったのは心苦しかったけれど、でも…フェイトちゃんはお母さんに愛されたいのかもしれないわね…だから必死になっている。…そんな気がするわ」

『なのはちゃんも寂しそうな目をしていると言ってました。同じようなことを思うのは、やはり親子という事ですか?』

「年の功って言っても許してあげるわよ?それに母親だから…」

 桃子はフェイトが出て行った扉を見る。

 その目には複雑な感情が揺らいでいた。

「でも…私はなのはがあの子と同じ目をしていたときに気づいてあげられなかった。だから気になるのかもしれない。偽善ね…あの子を通してあのときのなのはを見ている」

『桃子さん、昔の話ですよ。なのはちゃんだって気にしていませんし、忘れているかもしれません』

「そうね…でも私は忘れちゃいけないし、感謝しているわ、ルビーちゃんがなのはの前に現れてくれたことに…ねえルビーちゃん?あの子も救ってあげられる?」

『ええ、もちろん…今度はなのはちゃんと一緒に…』

 微笑む桃子は母親の顔をしていた。

「ところでフェイトちゃんって…」

 桃子が一転して真剣な顔になる。

 ルビーも黙って次の言葉を待った。

「犬耳がすごく似合いそうな気がするんだけど?」

『ですよね~!!』

 はて?…厨房のほうで誰かがずっこけたような音がしたが気のせいだろうか?

「それで、ルビーちゃんはシュークリームの箱にこっそり何を忍ばせたのかしら?」

『あらやだ、気づかれちゃってました~?フフフ…彼女があれを最後まで見たときすごいですよ~フェイト・テスタロッサの戦闘力は数倍になります』

「ルビーちゃん?…酸素欠乏所になっていないでしょうね?」

 

ーーー体は萌えで出来ている

 

ーーーロリータクーデレ、心は天然

 

ーーー幾たびの魔女っ娘を越えて不敗。ただ一度の突っ込みもなく、ただ一度のボケもなし

 

ーーー担い手はここに萌え、癒しオーラをご馳走様

 

ーーーならば、可愛さに理由は不要ず

 

ーーーこの体は無限の萌えで出来ていた。

 

『…は、今デムパがーーー!!』

「あらあら?ルビーちゃんは常に受信状態でしょう?」

『あ、そうですね~ルビーちゃんうっかり~テヘ』

 何時ものことじゃないとにこやかに笑う桃子はやはり大物だ。

 そんな店内の会話を聞きながら、厨房でずっこけたままの士郎はフェイトの未来に不安を感じずにはいられなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夜~よ~る~夜だよ~。

 

「う~ん」

 なのはが机に向かっている。

 広げられたノートに何か熱心に書いているようだ。

 時々うなっているのは、何か難しい問題集でもしているのだろうか?

『なのはちゃんは何をしているんですか?』

「えへへ~これはね、すずかちゃんの修行計画表なの~」

 いきなり先生になることになったなのはだが、本格的に教えるのはジュエルシードの回収の後ということで話がまとまっている。

 やはり、負担が大きすぎるというのが周囲の大人たちの一致した結論だ。

 すずかも、魔術の修行には興味があるが、それで親友やユーノの負担になるのは…ということで自重してもらった。

 当面はなのはもユーノも、簡単に出来ることから教えて、それをすずかが復習する形になるだろう。

 なのはの書いている計画表というのは、ジュエルシードを回収し終えた後での話だ。

『なのはちゃんはちゃんと先を見据えているんですね~』

「にゃははは」

 目の前の厄介ごとだけじゃなく、その先のことまで既に視野に入れている。

 悪いことじゃない。

 それに、なのはが楽しそうだ。

『なのはちゃんは教師とか向いているのかもしれませんね~』

「先生か~いいかもしれないの」

『昼間は教師、夜は街を守る魔女っ娘、略して魔法先生…いっそすずかちゃんと|仮契約(パクティオー)しちゃいます?』

「ルビーちゃん…なのはにいったい何を求めているのカナカナ?」

 いかん、なのはがそろそろ猟奇的な物を纏いだした。

 鉈とか似合いそうな感じだ。

「僕が言える事じゃないけど、無理はしないでね、なのは?なのはは自分の魔法の訓練や魔術の修行があるんだから」

「わかったのユーノ君」

 ユーノがなのはを気遣う。

 楽しそうななのはに言うのは気が引けるが、ある程度周りがセーブしてやるのも友情だろう。

 ジュエルシードの回収が重要なのは変わらないし。

「所でルビーちゃん?これってルビーちゃんの?」

『え?』

 なのはがどこか見覚えのあるケースを持っている。

 開けてみると、これまた見覚えのある印字入りのDVDだ。

「《これで貴女も明日からクーデレる!!ヤミちゃん+タバサ+長門由希+αシーンダイジェストVol,2 編集Byルビー》…って何これ?」

『おや~?』

 意味不明なタイトルになのはが首を捻るが、ルビーは疑問で首を捻るどころか一回転する。

『…おや~?』

 そうしていると扉がノックされた。

 なのはが返事をして、扉を開けて入って来たのは恭也だった。

「お兄ちゃん?」

「なのは、俺の借りてきたDVD知らないか?」

「はにゃ、DVD?タイトルは?」

「《戦慄、恐怖パニックホラー・200分ノンストップ恐怖シーン詰め合わせパック》」

「にゃー!!そ、そんな怖そうなの知らないもん!!」

「あはは、そうだよな~なのはが見たら一人でトイレにいけなくなるかもしれないもんな」

「うう、お兄ちゃんが意地悪だよー」

 兄と妹の心温まる光景だが…ルビーはそれどころじゃなかった。

『おやおや~?』

 ルビーのDVDはここにあるはずがない。

 フェイトの|戦闘力(クーデレ)をアップさせるために、シュークリームの箱にそっと忍ばせておいたはずだからである。

 何故ないはずのDVDがあるのか?

 何故あるはずのDVDがないのか?

 しかも無いのはホラー物…これはつまり?

…みぎゃーーーーーーーーーーーー!!

…ぴぎゃーーーーーーーーーーーー!!

『あり?』

「どうしたのルビーちゃん?」

『今、悲鳴が聞こえませんでしたか?具体的には二人分の?』

「えう?聞こえないよ?」

「僕も聞こえなかったけど?」

「俺もだ」

『私もです。姉さん』

 なのはとユーノと恭也とレイジングハートが揃って聞こえなかったというのなら、それはルビーの空耳ケーキか、もしくは聞いてはいけない声を聞いたのかのどっちかだ。

『…気のせいでしょう』

 そうしておいたほうがいろいろな意味でいい気がする。

 4人はふーんと、それ以上気にすることはなかった。

 やがて恭也がDVD探しに部屋を出てゆく…何故かDVDは見つからない気がした。

「ところでルビーちゃんは今日は何かあった?」

『いいえ~、なのはちゃん。何時もどおりの日常でしたよ』

 そして、今日も一日が終わる。

 

 …終わるったら終わるんだ!!

 


 
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