夜。月の光が校舎を照らしだし、空には星が浮かんでいる。
気温は少し風があって涼しく、隣を歩く遊佐も心なし気分がよさそうだ。
夜間徘徊している俺たちの目的はというと、先日ゆりから頭のいい人材を確保しろ、と言われたからだ。
この死後の世界にはランダムな時間帯で、新たに現世で死んだ人間がやってくる。この間も一人鶴野という男を勧誘したのだが、残念なことに賢いとはお世辞にも言えない。というわけで新たな人材を探しているのだが。
「アオバさん、とりあえず屋上へ行きましょう。屋上からなら校内全体を見渡せます。」
遊佐は一向に新入りが現れない現状を打破しようと提案してくれたのに、俺は賛同する。
校内に入り、階段を上っていく間にも遊佐のインカムには戦線メンバーからの報告が逐一入ってくる。最も新たにこの世界に来たのを目撃したという情報は入ってこないが。
「そういえばこの間貰った銃もだが、遊佐の持ってるインカムとかはどうやって手に入れてるんだ?」
ふと遊佐の手に持つインカムに興味がわいた。
「そういったものは『ギルド』で作ってもらってます。ここでは基本的に土さえあれば大抵のものは作れるようです。なので、地下にはそういったものを量産する戦線のメンバーがいます。」
「へぇー、地下まであるのか。」
俺は感嘆の声を漏らしていた。
そんな話をしながら進むとあっという間に屋上に辿り着いた。屋上には先客はおらず、この空間はどこか物寂しいものとなっていた。
遊佐は取り出した双眼鏡で周囲を見渡している。俺はその隣で、下を見下ろしていると、
「おっ!!ゆりが新人を勧誘してるぞ。」
そこには、運動場へと続く階段の近くにある、茂みの中でライフル銃、チェイ・タック M200で何かを狙いながら新人と話し合っている。
新人は男だった。死後の世界に来たばかりなので、状況が飲み込めていないようでゆりと言い争っている。いっぽうのゆりはあまりに必死になってライフルから目を放し、立ち上がって身振り手振りを交えながら勧誘している。
これなら勧誘も成功しそうだな。
「...日向さんがこちらに向かってます。」
遊佐が呟く。それはマズイ。日向は空気が読めないのに。
そんな不安をよそに日向はやってきて、
「おぉーい、ゆりっぺ!新人勧誘の手はずはどうなってんだ?人手が足りねえ今だ、どんな汚い手を使ってでも...およ?」
やらかしやがった。
新人は立ち上がり、グラウンドに向かい始めた。
「うああああっ!! 勧誘に失敗したぁっ!!」
ゆりたちは騒いでいる。
「...アオバさん、グラウンドに天使がいます。」
なにぃぃぃぃぃ!!って天使に話しかけてる!!
新人は天使と少し話すと片手を上げてその場から去ろうとしていた。
いいぞ。そのまま何も起こらずにいてくれよ。
だがその願いもむなしく、新人は再び天使と話し始めた。
雲に閉ざされていた月が彼らを照らし出す。
新人が激昂したかと思うと天使は呟いた。
すると天使の制服の袖口から幾何学模様が伸び、デジタル表示の数字が踊り、そして白刃が現れた。
突然の出来事に新人の顔は驚きに染まり、俺を含めた日向やゆりも動けずにいた。
その時、ふと俺の右手は暖かな感触に包まれた。この温かみは遊佐のものだと気が付いたとき、強張った体が解れていくのが分かった。
「行ってください。」
俺は駈け出していた。
それと同時に新人は天使から心臓を一突きにされた。
「おいおい大丈夫かぁ?」
俺は倒れている新人に駆け寄った。そこにはゆりと日向もいた。
二人は新人そっちのけで口論している。
「また日向君のせいで勧誘が失敗したじゃないのよ。」
「すまねぇ。」
ゆりは怒っており,日向は必死に謝っていた。
「とりあえず彼を保健室に。」
ゆりの指示に従い、俺と日向で新人を保健室へ運んだ。
いつの間にか朝になっていた。
俺はいま保健室にいる。少し寝てしまったらしい。日向は先に校長室へ行っている。
校長室に向かっていると、前方から野田が歩いていた。
なぜか殺気を剥き出しにして。
「どうしたんだ?そんなにイラついて。」
俺が聞くと、
「ゆりっぺの入隊を断ったやつを殺しに行く。」
堂々と言い放つとハルバード片手に保健室に向かって行った。
あの新入りかわいそうに...。死んだな。まぁ死ねないんだけど。
校長室に戻り、TK、藤巻、松下五段と麻雀をして時間を潰す。
「国士無双だとぉ!!」
藤巻が驚きの声を上げる。
「wow! be surprised!」
TKは頭を抑えて嘆いている。
「これほどの強さならひさ子に勝てるかもしれんなぁ。」
松下五段が言った。ひさ子ってガルデモの?そういえば遊佐も麻雀には気をつけろって言ってたな。
「ひさ子ってそんなに麻雀強いのか?」
俺が藤巻たちに質問すると、
「強いなんてもんじゃねぇよ。あれは毎回、ひさ子の一人うちだぜ。」
そんなに言われると一度一緒にやってみたい。
そう思っていると突然大きな音がして、窓ガラスの割れる音が後から聞こえてきた。
どうやら罠が発動したらしい。校長室の窓からゆり、日向、高松、大山などが外を見ている。
罠にかかったのは新人のやつらしい。
「んじゃ、拾ってくるぜ。」
日向が助けに行った。
新入りが目を覚ますまでの間、あまりにも暇だったため一度寮へ帰ることにした。
昨日は学校に止まったため風呂に入れていなかったので、朝風呂をしようと思ったのだ。
今日は普通に学校の授業がある日なので一般生徒たちは寮から出払っている。
同室の大仁多も多分いないだろうと思い、ノックをせずに部屋を開けた。
「うん?あぁ、小田桐か。珍しいな、朝帰りだなんて。」
椅子を反転させ、こちらに顔を向けたのは大仁多だ。授業があるのに学校に行かなくていいのか?とか、うわ、サボり不良だな、とかいろいろと考えることはあるのだろうがそんな思考は目の前の光景でぶっ飛んで行った。
「...あなた、こんな時間に何をしているの?」
そこには『天使』がいた。戦線の敵が俺の部屋にいた。
昨夜見た白刃が脳裏に思い起こされる。
「どうして、お前が...。」
「...?」
「あれ、小田桐は生徒会長と知り合いか?」
驚愕する俺をよそに天使と大仁多は疑問符を頭に浮かべている。
「知り合いというか...その。」
「あぁ、...その格好。あなた達もあそこに入ったのね。」
全てを察したかのように天使は言う。
「まぁ、いいわ。...それで授業はどうするの?」
その問いかけに対し、俺は無言で部屋を後にした。そんな俺の様子を大仁多は苦虫を噛んだように見つめていたことを気づかなかった。
新人を校長室に連れてきて、2時間後、ゆりが戦線の名前を変えようと言い出した。
皆が思い思いに発言する。俺は戦線の名前なんてどうでもいいが。
そう思いながら売店で買った、keyポテチを食べる。薄塩味で程よい塩加減がやみつきになる。
「ねえ...、その人、もう起きてるんじゃない?」
大山の声に全員の視線が新人に集まる。
「え? ああ、気がついた?」
ゆっくりと気怠そうに瞼を開ける新人はまだ状況を飲み込めていないようだ。
「そうだ、コイツにも考えさせてあったのよ。」
ゆりがソファに寝かされている新人の顔を覗き込む。
「時間はたっぷりあったわ。 聞かせて頂きましょうか」
「何を」
明らかに怪訝な顔をする新人。そりゃそうだと思う。
「『死んでたまるか戦線』に変わる新しい部隊名よ」
「『勝手にやってろ戦線』」
「ほお、ゆりっぺに刃向かうたぁいい度胸じゃねぇか」
藤巻が新人に突っかかる。うわぁなんだか一瞬即発の雰囲気。
「何なんだよお前らは!!俺を巻き込むなよ!!俺はとっとと消えるんだ!!」
その言葉に高松が反応し、ミジンコがどうとか言っている。
そのまま戦線メンバーに畳み掛けられる新入り。
「まあまあみんな、そんな追い出すような真似はしないであげなさい。 この我が...。、あー...、今何だっけ?」
ゆりが新人を庇っている。流石はリーダーだ。
「フジツボ戦線。」
藤巻がそう言うと、ゆりの跳び蹴りがモロに藤巻に入る。がしゃーんと校長が座る椅子を巻き込みながら壁に激突した藤巻の腕はぴくぴくと痙攣している。
「元に戻す! 『死んだ世界戦線』!」
その後も新人と戦線メンバーの話し合いが続き、突然、ドアが乱暴に蹴り開けられた。
「はやまるな、ゆりっ『ドゴガッ! ガシャーン!!』」
野田が罠に引っかかり、鳥になった。
「アホだ...、自分の仕掛けた罠に嵌ってやがる...。」
「ここに無事に入るには、合い言葉場が必要なのよ。対天使用の作戦本部というワケ。ここ以外に安全に話し合える場所など無いわ。それで、どうするの?」
「少し時間をくれないか?」
「ここ以外でならどうぞ」
さすがゆりだ。新人の退路をどんどん断っていく。
しばしの沈黙の後、
「オーケーだ!!」
おぉーーー!!場がどよめく。
「合言葉は?」
「『神も仏も、天使も無し』私はゆり。この戦線のリーダーよ」
新人とゆりが握手を交わす。
ゆりが戦線メンバーを紹介していく。
「あそこにいるのがこないだ入ったばかりのアオバ君。」
「ここにいるメンバー以外にも、まだ何十人と校内に潜伏しているわ」
そこでゆりが、ふと思い出したように言った。
「そういえば貴方、名前は?」
「ああ、えと...、お、おと...、おとな、し...、音無...。」
「下の名前は?」
「...思い出せねえ...。」
記憶がないパターンか。俺と同じじゃねえか。
ゆりが音無にSSSの制服を渡していた。
また新しいやつが増えたな、そう思った。
音無が入隊した日の昼、いつものように遊佐と昼食を食べていると、
「...昼から空いていますか?」
遊佐にそう聞かれる。
「あぁ、何も予定は入ってないが。」
「そうですか。なら私と一緒に来てください。」
「別にいいけど。」
俺はそう言い、昼食のラーメンを啜った。
「...アオバさん、今から特訓開始です。」
遊佐にそう言われる。うん、特訓ね。分かるよ。これから戦闘があったら戦わないといけないし、強くなることに越したことはない。でもさ...
「何で相手がこの女好きなんだよ!!」
俺の目の前にはなぜか鶴野がいた。しかもなぜか鶴野は妙にやる気満々だ。さっきから準備体操を行っている。
「...ゆりっぺさんの命令ですので仕方ありません。ゆりっぺさんの懐に入るほどの身体能力ならアオバさんの特訓相手には良いと思います。」
遊佐が説明してくる。
「...それともアオバさんは私が鶴野さんと学園祭を一緒に回っても良いと言うのですか?」
へっ?学園祭?鶴野と回る?どういうことだ。
俺が混乱していると,遊佐の通信機に連絡が入る。
遊佐が通信機を俺に渡してきた。俺が通信に出る。
『アオバ君?聞こえる?』
「ゆりか、ゆりの特訓のせいで俺は混乱しているのだが。」
『学園祭のこと?もうすぐこの学校で学園祭があるのよ。この世界にも普通の学校行事はあるって言うわけ。もちろん普通に参加すれば消えるかもしれないけど。』
ゆりが説明してくるが、俺が聞きたいのはそこではない。
「遊佐が鶴野と学園祭を一緒に回るってどういうことだよ?」
『あぁそれ。そのままの意味よ。あなたが鶴野君に勝てなかったら遊佐は鶴野君と回るの。もちろん特訓をしなかった場合はアオバ君の不戦敗ということよ。』
『ただしあなたが勝てば、遊佐は鶴野君と回らず、アオバ君と回るわ。良かったじゃない。学園祭を寂しく過ごさなくてすんで。それじゃあね。』
「おい、待てよ。ゆり。そんなの勝手すぎるんじゃ...。」
『順応性を高めなさい。そしてあるがままを受け止めるのよ。』
「分かったよ。」
『それなら良い...。』
「だだし、変更して欲しいことがある。もし俺が勝ったら遊佐が誰と行きたいか選ばしてやってくれ。」
遊佐の意思を無視するような、遊佐を景品のように扱うのは好きじゃない。
「分かったわ。」
そう言うとゆりは通信を切ってきた。
この勝負、負けるわけにはいかねぇじゃねえか。
俺の戦闘魂に火がついた。ショットガンに弾を込め、戦闘準備をする。
「...先に相手に参ったと言わせるか気絶させれば勝ちです。では始めてください。」
遊佐が言った。
俺はショットガンを構える。対する鶴野の手にはハリセンが握られていた。
ってハリセン?それも紙でできている。ひらひらと風によって曲がっていてお世辞にも武器とは言えない。
「鶴野、俺を馬鹿にしてるのか?」
「ワイだってこんなもんは使いたくない。けどなぁゆりっぺが...。」
~回想~
「鶴野君そういえばまだ武器を渡してなかったわねぇ。はいこれ。」
そういって鶴野にハリセンを渡す。
「あの、これは...。」
「いま武器が不足してるから我慢して頂だい。壊れたらいつでも言ってね。すぐに作ってあげるから。」
「でもな、いくらワイかて紙はさすがに。」
「できるでしょ?」
にこっとゆりが笑えば、鶴野が反抗する気力はどこかへ消え去ってしまっていた。
「うわぁ...。」
かわいそうに。
「そんな目でワイを見るんやない。お前なんてこのハリセンで十分や。」
そういって一気に間合いを詰めてくる鶴野。音を立てずに距離を詰めるのは暗殺者のようだ。
何処となく椎名の動きに似ているが、彼女よりも一つ一つの動作が力強い。
「!!」
「これで終いや。なんでやねぇん!!」
鶴野の放ったハリセンによる一撃が俺の腰を直撃した。
全然痛くないが。そりゃそうだ。紙のハリセンなんだから。
俺は間合いを取り、ショットガンで狙いを定める。
「そんなもん弾き返したる。」
バン...
乾いた銃声。
ハリセンで弾こうとするが、
「うっ...。」
ハリセンを貫通し心臓を撃たれる鶴野。
まぁ紙だしね。
「...そんな...ワイの...パラ...ダイスが...。」
そう言い残し、気絶する鶴野。しかし危なかった。鶴野の武器が紙だったからよかったものの、ナイフとかだったら確実に殺されていた。
「...勝者、アオバさんです。」
遊佐がそう告げる。
「俺が勝ったから遊佐、お前は学園祭の日は自由にしていて良いぞ。誰といっても良いし、一人で過ごしたいなら過ごしても良い。」
俺はそう言って、片手を挙げて「じゃあな」と言いその場を離れようとするが、
「...待って下さい。」
そう言われ遊佐に制服の裾を掴まれる。
「...私と一緒に行くのは嫌ですか?」
無表情で言ってくる。しかしその目は真剣だ。裾がより引っ張られる。
「嫌という分けではないけど。」
「...学園祭は私と回ってください。」
まさかの展開。
「空いてるから別にいいけど。」
そういうと遊佐は裾を掴むのをやめて、
「...ありがとうございます。」
そう言った。そして校舎に入っていく遊佐。
残された俺は今のはデートの誘いだったのかどうか。頭を悩ませていた。
「どうした、小田桐、ぼぉーとして?」
不思議そうな顔で同室の大仁多が覗き込んでくる。
「...いや、何でもない。」
どうにも遊佐からの学園祭の誘いは俺の心を動揺させるには十分すぎるほどの出来事のようで、先ほどから暇になればすぐに思考の海へダイブしてしまっている。
生憎、この気持ちをNPCである大仁多に話してもどうしようもない、初戦プログラムなわけなので苦笑いを浮かべて誤魔化すしかない。
「そうか、ならいいんだが。」
腑に落ちないといった感じだが、渋々諦めてくれたようだ。プログラムという割にはやけに感情とかも精巧に作られているな、と感じていた。
「そういえばだけど、小田桐、音無ってやつはどんな感じなんだ?」
唐突に大仁多がそんなことを聞いてきた。
「う~ん、どんなんだろな。俺もあんまりあいつのことは知らないんだ。」
まだそんなに会話もしたことがないし、と付け加える。
「そうか...。」
大仁多はそれっきり喋らなくなった。
翌日、俺達は校長室に集まっている。
先ほどゆりが音無に銃を渡していた。受け取るのを躊躇っていたが持った時の重みで本物と判ると、慎重にホルスターに差し込んでいる。
ゆりは白いベレー帽を被って、
「あなたには馴れてもらうために、いつもやっている簡単な作戦に参加してもらうわ。」
そこでゆりは一旦言葉を切り、厳かに続けた。
「作戦名、『オペレーション・トルネード』。」
「ええっ!?」
「むぅ、こいつはデカいのが来たな...。」
場がどよめいた。簡単なのにデカイ?訳がわからん。
「生徒から食券を巻き上げる!!」
拳を握り締めながらゆりが言った。
「その『巻き上げる』かよ!!」
音無が突っ込む。俺もそう思うよ。
「しかもデカくねえよ!!イジメかよ!!失望したぜ,武器や頭数だけ揃えやがってよ!!」
そんな音無に危機が迫る。
「貴様、それはゆりっぺに対する侮辱発言だ!!撤回してもらおうか。」
「ワイも同感や。」
野田のハルバードが音無に向けられ、さらに鶴野のハリセンが音無の頭を狙っている。
って鶴野いたの?
「なんでだよ!!」
音無が反抗する。
すると、松下五段が言った
「我ら『フジツボ絶滅保護戦線』は、数や力で一般生徒を脅かすような真似など決してしない。」
「あれ絶滅するの!?」
大山が驚きの声をあげる。
「いつかはするだろ。」
「でも巻き上げるって言っただろうが!!」
音無が話を戻す。
「ええ、文字通り『巻き上げる』わ。いい?あなたは天使の侵攻を阻止するバリケード班。」
「作戦ポイントである食堂を取り囲むように、それぞれ指定のポジションで武装待機。」
スクリーンに、大食堂の立体図と各人員の配置が映し出された。
俺は椎名と一緒に学生寮側で武装待機か。
「細かい位置は、後で高松君と大山君に確認して。」
「岩沢さん。」
ゆりが、岩沢に声をかけた。
「今日も期待してるわ。」
「ああ。」
岩沢がどうやって陽動するのか楽しみだ。
「天使が現れたら各自発砲、それが増援要請の合図になるわ。どこかで銃声が聞こえたら、あなたも駆けつけるように。」
「作戦開始時刻は、一八三○。」
現在時刻は、十七時三十分過ぎ。
ゆりの号令が下る。
「オペレーションスタート!」
時刻は18時25分。俺と椎名は学生寮側にいる。
「なぁ、椎名。」
俺は隣にいる椎名に声をかけるが返事はない。
「天使がきたらどうすりゃいいんだ?」
「...足を狙うと良い。」
椎名がしゃべった!!いやたいして驚くことじゃないと思うんだよ。
ただいつもは「浅はかなり...。」としか言わないから驚いただけだ。
「なぁ、椎名。ここに来た人間は何かしら前世でやり残したことがあるから来たんだよな?」
「...あぁ。」
「ならさ、やっぱり俺も悔いがあったからこっちに来たってことだよな。」
「...。」
記憶のない俺にと言ってそれがどのようなものなのかは分からない。ただ、記憶を思い出すということがそういう負の側面も一緒に思い出すということだ。
ふと音楽が俺の耳に入ってきた。この間、聞いた曲だ。ガルデモだったか。
これが岩沢たちのいっていた陽動とやらなのか。これで天使は本当に来るのか?
そう思っていると突然銃声が聞こえた。
橋のほうからだ。あそこを守っているのは確か音無だったような。
椎名はいつの間にか居なくなっていた。はやっ!!
って俺も行かなきゃ、俺は急いで向かった。
「大丈夫か?」
俺が行くと戦線メンバーは天使と戦闘中だった。
俺もショットガンを取り出し戦闘に加わる。
確か足を狙うんだったな。狙いを定めて、
バン...
俺の放った弾は天使目掛けて進みそして...
「がはっ...。」
なぜか横から割り込んできた鶴野が自分から当たりに行った。
「女の子に...手出しは...させん。」
「アホだ...。」
「なにやってんだよ!!」
「浅はかなり...。」
そのまま倒れる鶴野。そんな鶴野を見ようともしない天使。
その後も銃撃戦が続く。
それでも天使は近づいてくる。
松下五段はバズーカ砲を持ち、椎名はクナイを投げる。
三本の内二本が弾かれたが、一本が天使の肩に突きたった。
その隙に松下五段がバズーカの引き金を引く。
ドカーン!!とんでもない爆音と土煙。聴覚を震わせ、視覚を奪い去る。
風が頬を撫で、そして、煙を払っていく。
徐々に薄れていく土煙の中から、天使が姿を現した。
「くそっ!!」
再び銃撃の雨。俺も何発か撃つ。
「まだかよ巻き上げは!?」
日向が苛立たしげに吐き捨てる。その顔には焦燥の色が浮かんでおり、額を汗が伝っていた。
他の戦線メンバーも同様で、じりじりと後退を余儀なくされていた。
その時だった。食堂上部の窓が全て開け放たれ、そこから何かが多数吹き出してきたのだ。
雪。そんな表現が当てはまるほど幻想的な光景がそこに広がっていた。
照明を反射してキラキラと輝くそれを手に取る。
俺の手には2枚の食券、オムライスと麻婆豆腐とかかれている。
戦線メンバーも食券を取り引換えしていく。
戦いは終わったようだ。俺も引換えしていった。
背後を振り返り、天使を見るがその無表情からは何も読み取ることはできなかった。
大食堂
俺は遊佐の右隣に座り、オムライスを食べている。
遊佐の左には岩沢が、俺の正面には関根が、関根の両隣にはひさ子と入江が座っていた。
「凄くよかったよ。」
俺はガルデモのメンバーに言った。
「ありがとう。」
岩沢が返してくる。
すると関根が、
「今度の学園祭でもゲリラライブがあると思うからそん時はゆっくり見てってよ。」
「あぁ。」
俺はそう言ってオムライスを口に含んだ。
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AngelBeats!~if~第1話の続きです。